146:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2022/01/22(土) 17:15:12.76 :fpZyINMJO
「バクシンバクシンバクシーン!!!」
叫び声と共にバクシンオーがゴール板前を圧倒的大差を付けて駆け抜けた。……素晴らしい。
満足して頷く私の背中を、誰かが軽くつついた。
「さすがだねえ、天王寺君」
「塩田トレーナー」
振り向くと、眼鏡を掛けたその細身の男がニヤリと笑った。
「素晴らしい直線の末脚だったねえ。坂対策は万全だった、ということかな」
「まあ、そうですな。このコースはスピード以上にパワーが求められるので」
目の前には、中京競馬場を模した模擬コースがある。バクシンオーは2ヶ月後の高松宮記念の模擬レースに出ていたのだった。
とはいっても、これはただの模擬レースではない。
「チャンピオンズミーティング」……通称「チャンミ」。
トレーナーの査定にも関わる、重要なレースだ。
毎月1度、トレセン学園ではコースを変えた模擬レース大会が開かれる。
先月は「有馬記念」、先々月は「天皇賞秋」。実際のG1をイメージしたコースを、ウマ娘たちは走る。
賞金こそ出ないが、そこにかける彼女たちの意気込みは本番と全く変わらない。むしろ、本番以上に気合いを入れる娘もいるほどだ。
バクシンオーもその一人。「スプリント戦なら負けられません!」と並々ならぬ意気込みだった。
阪神1600の「ヴァルゴ杯」では思うような結果が出せなかった悔しさもあったのだろう。
大腿筋を中心に徹底的に鍛え上げ、直線の坂でさらに突き放す。この狙いは見事に当たった。
フフ、と塩田トレーナーが軽く笑った。
「それにしても5バ身差はそうそうお目にかかれないねえ。噂の『チートデイ』の成果かな?」
「……誰が噂を?」
「ウマ娘たちの間ではかなり知られてるよ?ファインモーションとメジロマックイーン、2人のVIPのお墨付きとあれば、信憑性は嫌でも増す。
そこにもってきて今日のバクシンオーの圧勝だ。君のやり方を学びたいというトレーナーは多くなるだろうよ」
「貴方もですか?」
「バレたか」
ペロッと塩田トレーナーが舌を出す。冗談のつもりだったが、本当だとは。
塩田トレーナーは、沖野君や柰瀬君と並ぶ、トップトレーナーの一人だ。
私と違い、ステイヤーの育成を得意とする。メジロ家のウマ娘が多く師事しており、アリーム君も彼に学んでいたはずだ。
「バクシンバクシンバクシーン!!!」
叫び声と共にバクシンオーがゴール板前を圧倒的大差を付けて駆け抜けた。……素晴らしい。
満足して頷く私の背中を、誰かが軽くつついた。
「さすがだねえ、天王寺君」
「塩田トレーナー」
振り向くと、眼鏡を掛けたその細身の男がニヤリと笑った。
「素晴らしい直線の末脚だったねえ。坂対策は万全だった、ということかな」
「まあ、そうですな。このコースはスピード以上にパワーが求められるので」
目の前には、中京競馬場を模した模擬コースがある。バクシンオーは2ヶ月後の高松宮記念の模擬レースに出ていたのだった。
とはいっても、これはただの模擬レースではない。
「チャンピオンズミーティング」……通称「チャンミ」。
トレーナーの査定にも関わる、重要なレースだ。
毎月1度、トレセン学園ではコースを変えた模擬レース大会が開かれる。
先月は「有馬記念」、先々月は「天皇賞秋」。実際のG1をイメージしたコースを、ウマ娘たちは走る。
賞金こそ出ないが、そこにかける彼女たちの意気込みは本番と全く変わらない。むしろ、本番以上に気合いを入れる娘もいるほどだ。
バクシンオーもその一人。「スプリント戦なら負けられません!」と並々ならぬ意気込みだった。
阪神1600の「ヴァルゴ杯」では思うような結果が出せなかった悔しさもあったのだろう。
大腿筋を中心に徹底的に鍛え上げ、直線の坂でさらに突き放す。この狙いは見事に当たった。
フフ、と塩田トレーナーが軽く笑った。
「それにしても5バ身差はそうそうお目にかかれないねえ。噂の『チートデイ』の成果かな?」
「……誰が噂を?」
「ウマ娘たちの間ではかなり知られてるよ?ファインモーションとメジロマックイーン、2人のVIPのお墨付きとあれば、信憑性は嫌でも増す。
そこにもってきて今日のバクシンオーの圧勝だ。君のやり方を学びたいというトレーナーは多くなるだろうよ」
「貴方もですか?」
「バレたか」
ペロッと塩田トレーナーが舌を出す。冗談のつもりだったが、本当だとは。
塩田トレーナーは、沖野君や柰瀬君と並ぶ、トップトレーナーの一人だ。
私と違い、ステイヤーの育成を得意とする。メジロ家のウマ娘が多く師事しており、アリーム君も彼に学んでいたはずだ。

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147:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2022/01/22(土) 17:33:41.50 :fpZyINMJO
「私に学ぶことがあると?」
「幾らでもあるよ。筋肉の付け方だけじゃない。ウマ娘のモチベーションをいかに高めるか。その方法論として、『チートデイ』は実に有力だ。
僕も色々ご機嫌を取ろうとはしているのだけどねえ。なかなか思うようにはいかない。
オペラオーのように聞き分けのいい娘ばかりじゃないからねえ」
はあ、と彼が溜め息をついた。いつも余裕綽々の彼にしては珍しい。
思えば彼の担当ウマ娘は、ゴールドシップやナカヤマフェスタなど一癖ある娘が多い。
今海外留学中のウマ娘2人は、さらに酷い。すぐにサボったり、レースいきなりキレて止まろうとしたり……
それもこれも、塩田トレーナーが有能だから任されているというわけだが。
「誰かでお悩みですか」
「まあ、ね。後で彼女を連れて、君のトレーナー室に行っていいかな?」
「構いませんが。誰なんです」
「メジロパーマーだよ」
意外な名前が出てきた。彼女の交友関係はゴールドシチーやダイタクヘリオスなど派手だが、彼女たちと違い授業態度は真面目な方だ。
成績は決して良くはないが、あまり塩田トレーナーの手を煩わせるタイプでもない。
「何かあったんですか?」
「ま、それは会えばすぐ分かるよ。じゃあ、また」
「私に学ぶことがあると?」
「幾らでもあるよ。筋肉の付け方だけじゃない。ウマ娘のモチベーションをいかに高めるか。その方法論として、『チートデイ』は実に有力だ。
僕も色々ご機嫌を取ろうとはしているのだけどねえ。なかなか思うようにはいかない。
オペラオーのように聞き分けのいい娘ばかりじゃないからねえ」
はあ、と彼が溜め息をついた。いつも余裕綽々の彼にしては珍しい。
思えば彼の担当ウマ娘は、ゴールドシップやナカヤマフェスタなど一癖ある娘が多い。
今海外留学中のウマ娘2人は、さらに酷い。すぐにサボったり、レースいきなりキレて止まろうとしたり……
それもこれも、塩田トレーナーが有能だから任されているというわけだが。
「誰かでお悩みですか」
「まあ、ね。後で彼女を連れて、君のトレーナー室に行っていいかな?」
「構いませんが。誰なんです」
「メジロパーマーだよ」
意外な名前が出てきた。彼女の交友関係はゴールドシチーやダイタクヘリオスなど派手だが、彼女たちと違い授業態度は真面目な方だ。
成績は決して良くはないが、あまり塩田トレーナーの手を煩わせるタイプでもない。
「何かあったんですか?」
「ま、それは会えばすぐ分かるよ。じゃあ、また」
148:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2022/01/22(土) 18:27:55.72 :fpZyINMJO
*
「失礼するよ」
「失礼……します……」
彼らが部屋に入ってくるなり、私はすぐにパーマーの異変に気付いた。
目には光がなく、明らかに意気消沈している。メンタルに異常を抱えているのは、誰の目から見てもすぐに分かった。
「どうしたんです?」
「平たく言えば、スランプだね。僕の責任でもある」
向かい合ったパーマーは、目線を私に合わせようともしない。
確かに彼女の競争成績にはムラがある。惨敗も決して少なくはない。
ただ、彼女の様子は、それだけではないように見えた。
「それだけじゃないでしょう?」
「……『バーンアウト』」
「……そういうことですか」
私は、パーマーの身に何が起こったか察した。
「ああ。この娘は、実は誰より真面目だ。マイペースに見えて、実は周囲に合わせる努力を怠らない。
負け続けていた時も、どうにかしようと必死にもがいていた。だからこそ、宝塚を勝った。
ただ、負けが込んでた時に僕に隠れて練習をしてたみたいでね……非公認の『フリースタイルレース』にも、こっそり出ていたらしいんだ」
「そして、張り詰めていた糸が、切れかかっている、と」
「……恥ずかしい話だけどね。友人たちに合わせようと、必死になっていたのもあったかもしれない。
僕が気付いて、ガス抜きをさせてあげなきゃいけなかった。ただ、何分どういう方法がいいのか……」
塩田トレーナーが、息をついた。
「パーマーはゴルシのように勝手に暴れて発散するタイプでも、フェスタのようにギャンブルでストレス解消をするタイプでもない。
考えた挙げ句、君の『チートデイ』が思い浮かんだ、というわけだ」
「食事なら、いいところは幾らでも……」
「パーマーは、高級レストランは嫌いなんだよ。庶民的な味の方がいいらしい。
庶民の味と言えばラーメンだ。元気の出る、スタミナラーメンとか知らないものだろうかな」
*
「失礼するよ」
「失礼……します……」
彼らが部屋に入ってくるなり、私はすぐにパーマーの異変に気付いた。
目には光がなく、明らかに意気消沈している。メンタルに異常を抱えているのは、誰の目から見てもすぐに分かった。
「どうしたんです?」
「平たく言えば、スランプだね。僕の責任でもある」
向かい合ったパーマーは、目線を私に合わせようともしない。
確かに彼女の競争成績にはムラがある。惨敗も決して少なくはない。
ただ、彼女の様子は、それだけではないように見えた。
「それだけじゃないでしょう?」
「……『バーンアウト』」
「……そういうことですか」
私は、パーマーの身に何が起こったか察した。
「ああ。この娘は、実は誰より真面目だ。マイペースに見えて、実は周囲に合わせる努力を怠らない。
負け続けていた時も、どうにかしようと必死にもがいていた。だからこそ、宝塚を勝った。
ただ、負けが込んでた時に僕に隠れて練習をしてたみたいでね……非公認の『フリースタイルレース』にも、こっそり出ていたらしいんだ」
「そして、張り詰めていた糸が、切れかかっている、と」
「……恥ずかしい話だけどね。友人たちに合わせようと、必死になっていたのもあったかもしれない。
僕が気付いて、ガス抜きをさせてあげなきゃいけなかった。ただ、何分どういう方法がいいのか……」
塩田トレーナーが、息をついた。
「パーマーはゴルシのように勝手に暴れて発散するタイプでも、フェスタのようにギャンブルでストレス解消をするタイプでもない。
考えた挙げ句、君の『チートデイ』が思い浮かんだ、というわけだ」
「食事なら、いいところは幾らでも……」
「パーマーは、高級レストランは嫌いなんだよ。庶民的な味の方がいいらしい。
庶民の味と言えばラーメンだ。元気の出る、スタミナラーメンとか知らないものだろうかな」
149:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2022/01/22(土) 18:30:18.37 :fpZyINMJO
頭にパッと思い浮かんだのは二郎だ。だが、あれは人を選ぶ。特に女性の場合は。
「パーマー、何か好みは」
「……逃げたくなるようなのがいい」
「それはどういう」
彼女はうつむいて、言葉を返さない。これはなかなかに重症だな。
「バックシーン!」
大声と共に、バクシンオーが入ってきた。
「トレーナーさん!!見ましたか私の走り!!まさに学級委員長にふさわしい走りだったでしょう!!」
「あ、ああ。……来客中なのだが」
「や、ややっ!!これは失礼しました!!パーマーさんではありませんか!!こんにちは!!」
「…………」
パーマーはまた返事をしない。バクシンオーのこのテンションは、彼女にあまり良くないかもしれない。
「どうしたのですか!?」
「…………」
「バクシンオー、そっとしておいてやってはくれないかね」
「むむっ、そうですか、分かりました!!辛いものでも食べて、元気出してください!!」
…………ん?
「バクシンオー、今何と言った?」
「はいっ!!元気出してくださいと言いました!!」
「その前だ。辛いもの、と言ったかな」
「はいっ!!母は私が子供のころ、かけっこで負けた日にはいつもカレーライスを作ってくれましたので!!」
……カレー……そうでなくても辛いもの……しかも比較的食べやすい……
ここにするか。
「塩田トレーナー、明日の予定は」
「いや、ないが」
「一つ、元気を出してもらえそうな店を知ってます。そこに行くとしましょうか」
頭にパッと思い浮かんだのは二郎だ。だが、あれは人を選ぶ。特に女性の場合は。
「パーマー、何か好みは」
「……逃げたくなるようなのがいい」
「それはどういう」
彼女はうつむいて、言葉を返さない。これはなかなかに重症だな。
「バックシーン!」
大声と共に、バクシンオーが入ってきた。
「トレーナーさん!!見ましたか私の走り!!まさに学級委員長にふさわしい走りだったでしょう!!」
「あ、ああ。……来客中なのだが」
「や、ややっ!!これは失礼しました!!パーマーさんではありませんか!!こんにちは!!」
「…………」
パーマーはまた返事をしない。バクシンオーのこのテンションは、彼女にあまり良くないかもしれない。
「どうしたのですか!?」
「…………」
「バクシンオー、そっとしておいてやってはくれないかね」
「むむっ、そうですか、分かりました!!辛いものでも食べて、元気出してください!!」
…………ん?
「バクシンオー、今何と言った?」
「はいっ!!元気出してくださいと言いました!!」
「その前だ。辛いもの、と言ったかな」
「はいっ!!母は私が子供のころ、かけっこで負けた日にはいつもカレーライスを作ってくれましたので!!」
……カレー……そうでなくても辛いもの……しかも比較的食べやすい……
ここにするか。
「塩田トレーナー、明日の予定は」
「いや、ないが」
「一つ、元気を出してもらえそうな店を知ってます。そこに行くとしましょうか」
150:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2022/01/22(土) 18:31:00.59 :fpZyINMJO
第4R 神田「鬼金棒」
第4R 神田「鬼金棒」
153:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2022/01/22(土) 20:30:16.15 :6Uf2v+mxO
*
「やあ、おはよう」
「…………」
塩田トレーナーとパーマーが、待ち合わせの門に現れた。パーマーの頬は、心なしかコケている。
「食事は食べたのかね?」
「……」
フルフル、とパーマーが首を振った。なるほど、これは重症だ。
*
昨日、彼らが去った後にダイタクヘリオスに会うことにした。
学園の中庭でいつもの3人でワチャワチャやっているのが見えたが、心なしかいつもの明るさがない。
「失礼、ちょっといいか」
「あ!マッチョ先生チース!!どしたんそんなガチな顔して。もっとあげみざわでいかん?」
ヘリオスがいつも通りの調子で言う。相変わらず言ってることはよく分からないが、とりあえず話を進める。
「ん、ちょっとな。パーマーのことなんだが」
一気に空気が重くなった。ヘリオスも伏し目がちになる。
「パーマー、ずっとつらたんだったけどどしたん?ぴえん超えてびえんになってたけど、なんでかわからんくて……」
「塩田トレーナーから相談を受けてね。オーバートレーニングによるバーンアウトの初期症状だろうと推測してるが」
「ばーんあうち?」
「『バーンアウト』、燃え付き症候群のことね」
リーダー格のゴールドシチーが言う。
「彼女、ああ見えて結構コンプレックス強いから。マイペースに見せて裏で人一倍努力するのよね。食事も惜しんで走り込みしたりしてるし」
「食事、食べてないのか」
「ここ数日、体調不良で休んでるって聞いて多分そうかなと。前にもそうなりかけたことはあったわ」
「昼を抜いてたりするわけだな」
「多分。さすがに塩田トレーナーの手前、そうは言ってないんだろうけど」
なるほど。栄養バランスも加味すべきということになる。やはりあの店が最も適切だろうか。
「助かる。それと、彼女は辛いのは?」
「一度罰ゲームで激辛ロシアンルーレットやったら、メチャ辛そうだったよ。そんな強くないんじゃね?」
トーセンジョーダンがネイルから顔を上げて答えた。
ふむ……いよいよあそこだろう。もう一つのオプションはここで消えた。
「ありがとう、助かった」
*
「やあ、おはよう」
「…………」
塩田トレーナーとパーマーが、待ち合わせの門に現れた。パーマーの頬は、心なしかコケている。
「食事は食べたのかね?」
「……」
フルフル、とパーマーが首を振った。なるほど、これは重症だ。
*
昨日、彼らが去った後にダイタクヘリオスに会うことにした。
学園の中庭でいつもの3人でワチャワチャやっているのが見えたが、心なしかいつもの明るさがない。
「失礼、ちょっといいか」
「あ!マッチョ先生チース!!どしたんそんなガチな顔して。もっとあげみざわでいかん?」
ヘリオスがいつも通りの調子で言う。相変わらず言ってることはよく分からないが、とりあえず話を進める。
「ん、ちょっとな。パーマーのことなんだが」
一気に空気が重くなった。ヘリオスも伏し目がちになる。
「パーマー、ずっとつらたんだったけどどしたん?ぴえん超えてびえんになってたけど、なんでかわからんくて……」
「塩田トレーナーから相談を受けてね。オーバートレーニングによるバーンアウトの初期症状だろうと推測してるが」
「ばーんあうち?」
「『バーンアウト』、燃え付き症候群のことね」
リーダー格のゴールドシチーが言う。
「彼女、ああ見えて結構コンプレックス強いから。マイペースに見せて裏で人一倍努力するのよね。食事も惜しんで走り込みしたりしてるし」
「食事、食べてないのか」
「ここ数日、体調不良で休んでるって聞いて多分そうかなと。前にもそうなりかけたことはあったわ」
「昼を抜いてたりするわけだな」
「多分。さすがに塩田トレーナーの手前、そうは言ってないんだろうけど」
なるほど。栄養バランスも加味すべきということになる。やはりあの店が最も適切だろうか。
「助かる。それと、彼女は辛いのは?」
「一度罰ゲームで激辛ロシアンルーレットやったら、メチャ辛そうだったよ。そんな強くないんじゃね?」
トーセンジョーダンがネイルから顔を上げて答えた。
ふむ……いよいよあそこだろう。もう一つのオプションはここで消えた。
「ありがとう、助かった」
154:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2022/01/22(土) 20:43:37.69 :6Uf2v+mxO
*
「こんな具合だよ。リフレッシュ休暇でも取らせてあげたいが……」
塩田トレーナーが溜め息をつくと、「大丈夫です!!」とバクシンオーが割って入った。
「トレーナーさんなら、きっと美味しい食事で元気にしてくれます!!ところで、今日はどこに行くのですか!?」
「神田だ。今日は電車と地下鉄で向かうとしよう」
塩田トレーナーが「神田かあ」と呟いた。
「久しく行ってないね。カレーでも食べに行くのかな」
「それも少し考えましたが、ちょっと違う所です」
「ああ、ラーメンか。その件では殿下がとても君を買っていたねえ。『あの方こそマイスターだよ』とかなんとか」
「ハハ、そこまで詳しいわけではないですよ」
また随分尾ひれがついているらしい。褒められるのは嫌ではないが、どうにも落ち着かなくはある。
*
「こんな具合だよ。リフレッシュ休暇でも取らせてあげたいが……」
塩田トレーナーが溜め息をつくと、「大丈夫です!!」とバクシンオーが割って入った。
「トレーナーさんなら、きっと美味しい食事で元気にしてくれます!!ところで、今日はどこに行くのですか!?」
「神田だ。今日は電車と地下鉄で向かうとしよう」
塩田トレーナーが「神田かあ」と呟いた。
「久しく行ってないね。カレーでも食べに行くのかな」
「それも少し考えましたが、ちょっと違う所です」
「ああ、ラーメンか。その件では殿下がとても君を買っていたねえ。『あの方こそマイスターだよ』とかなんとか」
「ハハ、そこまで詳しいわけではないですよ」
また随分尾ひれがついているらしい。褒められるのは嫌ではないが、どうにも落ち着かなくはある。
157:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2022/01/22(土) 22:42:22.97 :b74g9IW4O
*
神田駅から歩いて3分。目当ての店が見えた。
「今日はここです」
「『カラシビ味噌ラーメン 鬼金棒』……なるほど、辛い系のラーメンか」
ふと後ろを見ると、パーマーの表情がさらに曇っている。
「天王寺トレーナー、気持ちはありがたいんだけどさ。私、激辛はあまり」
「それはジョーダンに聞いた。そして、だからこそここにしたのだよ」
「……え?」
「まず、君が十分な栄養を採っていないことは推測した。故にある程度の野菜を採れるものがいいと判断した。
ただ、野菜がたっぷりでも二郎はいささか好き嫌いが分かれる。故にここにしたのだよ。野菜がかなり多めの店だからな。
あと、食欲増進のためには、ある程度の辛味が必要だ。カプサイシンの血行促進効果については、授業でもやった点だな。
もっとも、辛さに対する耐性には個人差がある。ここはその点、比較的食べやすい」
「そうなの?」
「まあ、食えば分かる。それでも辛いのがあまり得意でないなら、つけ麺を選ぶといい」
券売機でカラシビつけ麺を4枚購入する。行列に戻ると、塩田トレーナーが「質問なのだけど」と切り出した。
「なぜデフォルトではなくつけ麺に?確かに、こちらも看板メニューのようだが」
「麺がポイントなのですよ。こちらの方が、激辛初心者にはいい」
「というと?」
「麺が太麺でしっかりしているからです。麺自体に小麦粉の甘みがある。そして、ここのつけダレは……」
話しかけた所で店員が「4名様どうぞー」と引き戸を開けた。コロナ感染防止のこともある、説明はここまでにしておこう。
*
神田駅から歩いて3分。目当ての店が見えた。
「今日はここです」
「『カラシビ味噌ラーメン 鬼金棒』……なるほど、辛い系のラーメンか」
ふと後ろを見ると、パーマーの表情がさらに曇っている。
「天王寺トレーナー、気持ちはありがたいんだけどさ。私、激辛はあまり」
「それはジョーダンに聞いた。そして、だからこそここにしたのだよ」
「……え?」
「まず、君が十分な栄養を採っていないことは推測した。故にある程度の野菜を採れるものがいいと判断した。
ただ、野菜がたっぷりでも二郎はいささか好き嫌いが分かれる。故にここにしたのだよ。野菜がかなり多めの店だからな。
あと、食欲増進のためには、ある程度の辛味が必要だ。カプサイシンの血行促進効果については、授業でもやった点だな。
もっとも、辛さに対する耐性には個人差がある。ここはその点、比較的食べやすい」
「そうなの?」
「まあ、食えば分かる。それでも辛いのがあまり得意でないなら、つけ麺を選ぶといい」
券売機でカラシビつけ麺を4枚購入する。行列に戻ると、塩田トレーナーが「質問なのだけど」と切り出した。
「なぜデフォルトではなくつけ麺に?確かに、こちらも看板メニューのようだが」
「麺がポイントなのですよ。こちらの方が、激辛初心者にはいい」
「というと?」
「麺が太麺でしっかりしているからです。麺自体に小麦粉の甘みがある。そして、ここのつけダレは……」
話しかけた所で店員が「4名様どうぞー」と引き戸を開けた。コロナ感染防止のこともある、説明はここまでにしておこう。
158:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2022/01/22(土) 23:17:15.63 :OR5k1JPSO
店内に入ると、どこか空気が肌に刺すような気がする。バクシンオーも気付いたのか、「どうしたことですか?」と訊いてきた。
「多分、あれだろうな」
ジャーという音と共に、唐辛子の入った鍋に油が注がれる。そこでカプサイシンが揮発しているのだ。パーマーが不安そうな顔になる。
「辛そう……」
「心配は無用だ。追加料金を払って『鬼』にしなければ」
「鬼?」
「激辛党のドトウ向けだな。私もさすがに頼まないよ」
待つこと数分。カウンター越しに、大盛りの麺とつけダレが供された。
「え……つけダレって、こんなのだっけ?」
塩田トレーナーが困惑気味に言う。タレの色は赤茶色で、ネギがたっぷり散らしてある。問題は、その粘度だ。
「ポタージュ……というか、ほぼ固形?」
「それがポイントだ。さて、頂こう」
極太麺を軽く浸すと、濃厚なつけダレがそれにしっかり絡み付く。
そして一気に啜ると、小麦の甘みが味噌の旨味と混ざって口の中に広がった。
「バックシーン!!!」
隣のバクシンオーは叫ぶと、猛烈な勢いで麺を啜り始めた。私のワイシャツのボタンも、パシーンッという音と共に弾ける。
「これはっ!?」
「え、美味しい……あ、確かにちょっと辛いけど、これなら食べられるかも」
パーマーも恐る恐る食べ始めた。私は微笑みながら頷き、自分の丼に取り掛かる。
麺と味噌の異なる甘みの後に、唐辛子の刺すような辛み。そして花椒の痺れが追い掛けてくる。
それを忘れんと次なる麺に箸を伸ばす。見事なループだ。
そして、つけダレの底には……
「むっ!?モヤシ炒め!?それに、これは……」
「アッツアツだよ!え、どうして……」
「ポイントはタレの粘度だよ。これがモヤシ炒めの熱さを保っているわけだ」
それを口にすると、野菜の甘みでさらに辛さが中和される。シャキシャキの玉葱の甘さも、単調になりがちな辛さにアクセントを加えてくれる。
そして、もう一つ。
「ムムッ!?これはなんですかトレーナーさん!?」
バクシンオーが箸で細長い具を見せてきた。
「ヤングコーンだよ」
「??」
「トウモロコシの小さいヤツだな」
この甘みも、さらなる変化をつけダレに加える。実によく考えられた一品だ。
店内に入ると、どこか空気が肌に刺すような気がする。バクシンオーも気付いたのか、「どうしたことですか?」と訊いてきた。
「多分、あれだろうな」
ジャーという音と共に、唐辛子の入った鍋に油が注がれる。そこでカプサイシンが揮発しているのだ。パーマーが不安そうな顔になる。
「辛そう……」
「心配は無用だ。追加料金を払って『鬼』にしなければ」
「鬼?」
「激辛党のドトウ向けだな。私もさすがに頼まないよ」
待つこと数分。カウンター越しに、大盛りの麺とつけダレが供された。
「え……つけダレって、こんなのだっけ?」
塩田トレーナーが困惑気味に言う。タレの色は赤茶色で、ネギがたっぷり散らしてある。問題は、その粘度だ。
「ポタージュ……というか、ほぼ固形?」
「それがポイントだ。さて、頂こう」
極太麺を軽く浸すと、濃厚なつけダレがそれにしっかり絡み付く。
そして一気に啜ると、小麦の甘みが味噌の旨味と混ざって口の中に広がった。
「バックシーン!!!」
隣のバクシンオーは叫ぶと、猛烈な勢いで麺を啜り始めた。私のワイシャツのボタンも、パシーンッという音と共に弾ける。
「これはっ!?」
「え、美味しい……あ、確かにちょっと辛いけど、これなら食べられるかも」
パーマーも恐る恐る食べ始めた。私は微笑みながら頷き、自分の丼に取り掛かる。
麺と味噌の異なる甘みの後に、唐辛子の刺すような辛み。そして花椒の痺れが追い掛けてくる。
それを忘れんと次なる麺に箸を伸ばす。見事なループだ。
そして、つけダレの底には……
「むっ!?モヤシ炒め!?それに、これは……」
「アッツアツだよ!え、どうして……」
「ポイントはタレの粘度だよ。これがモヤシ炒めの熱さを保っているわけだ」
それを口にすると、野菜の甘みでさらに辛さが中和される。シャキシャキの玉葱の甘さも、単調になりがちな辛さにアクセントを加えてくれる。
そして、もう一つ。
「ムムッ!?これはなんですかトレーナーさん!?」
バクシンオーが箸で細長い具を見せてきた。
「ヤングコーンだよ」
「??」
「トウモロコシの小さいヤツだな」
この甘みも、さらなる変化をつけダレに加える。実によく考えられた一品だ。
159:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2022/01/22(土) 23:47:06.26 :OR5k1JPSO
ふとパーマーを見ると、すっかり麺を食べ終えていた。青白かった顔にも生気が戻っている。
「うん、美味しい!今度ヘリオスにも教えてあげなくっちゃ」
塩田トレーナーと目が合う。「ありがとう」とその目は語っていた。
*
「んー!美味しかったあ。何かスッキリした感じだよ」
店を出ると、パーマーがうーんと大きく伸びをした。やっと本来の彼女の調子が出てきたようだ。
「天王寺トレーナー、本当にありがとう。それにしても、君の知識には感服させられるよ。どこで身に付けたのかな?」
「……まあ、ただの趣味ですよ」
私は笑って誤魔化した。
……そう、チートデイにラーメンばかり選ぶようになったのには、一応の理由がある。
私がスキンヘッドに敢えてしているのも、「彼」の影響だ。
私は深く、青い空を見上げる。私がトレーナーを志すようになったのも、「彼」に大学時代に出会ったからに他ならない。
「彼」の名は、すっかり聞かなくなってしまった。日本のどこかでラーメン屋をやっているのか、それとも海外でトレーナーをやっているのか……
「トレーナーさん?」
バクシンオーの声で、私は我に返った。どうにも感傷的になってしまったようだ。
「何でもない。行こうか」
私は歩き始めた。
「彼」と再会する日がそう遠くないことを、この時の私はまだ知らない。
第4話 完
ふとパーマーを見ると、すっかり麺を食べ終えていた。青白かった顔にも生気が戻っている。
「うん、美味しい!今度ヘリオスにも教えてあげなくっちゃ」
塩田トレーナーと目が合う。「ありがとう」とその目は語っていた。
*
「んー!美味しかったあ。何かスッキリした感じだよ」
店を出ると、パーマーがうーんと大きく伸びをした。やっと本来の彼女の調子が出てきたようだ。
「天王寺トレーナー、本当にありがとう。それにしても、君の知識には感服させられるよ。どこで身に付けたのかな?」
「……まあ、ただの趣味ですよ」
私は笑って誤魔化した。
……そう、チートデイにラーメンばかり選ぶようになったのには、一応の理由がある。
私がスキンヘッドに敢えてしているのも、「彼」の影響だ。
私は深く、青い空を見上げる。私がトレーナーを志すようになったのも、「彼」に大学時代に出会ったからに他ならない。
「彼」の名は、すっかり聞かなくなってしまった。日本のどこかでラーメン屋をやっているのか、それとも海外でトレーナーをやっているのか……
「トレーナーさん?」
バクシンオーの声で、私は我に返った。どうにも感傷的になってしまったようだ。
「何でもない。行こうか」
私は歩き始めた。
「彼」と再会する日がそう遠くないことを、この時の私はまだ知らない。
第4話 完
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憎い
森きのこ
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