虹夏「う～ん、これそっくりそのまま言っちゃうのもアレなんだけど……」

喜多「いえ、遠慮せず教えてください！　覚悟はできてます！」

虹夏「えっとね、『最近、喜多ちゃんの様子がおかしいんです』だって」

喜多「え？　私、おかしいですか？」

虹夏「全然そうは見えないけど」

喜多「え～っ？　ど、どういうことだろう……私、ひとりちゃんに変な人だって思われてるってこと……？」

虹夏「そこがよく分かんないんだよね。たぶんぼっちちゃんが勘違いしてるだけな気がするけど……」

喜多「ひとりちゃんは他に何か言ってなかったんですか？」

虹夏「ああ、そうそう。他にもこう言ってたよ……『どんどんスキンシップが激しくなってる気がする』とか」

喜多「スキンシップ……」

虹夏「私から見たらいつもと変わらないと思うけどね。喜多ちゃんは心当たりある？」

喜多「どうだろう……二人でいる時はよく手を繋いだり抱き合ったり髪を弄ったりはしますけど……」

虹夏（……ん？）

喜多「やっぱり、ああいうのひとりちゃんはイヤだったのかしら……」

虹夏「あ、いや、別にスキンシップが嫌だとは言ってなかったし、え、ていうか二人の時ってそんなにベタベタしてるの？」

喜多「まあ、確かに言われてみればスキンシップは前より多めかもしれないです。でも先にやってきたのはひとりちゃんなんですよ？」

虹夏「ちょ、ちょっと待ってじゃあスキンシップが激しいというのは事実なわけ？」

喜多「それは……解釈次第ですよ！　でも普通、普通ですよね？　仲が良かったら手を繋ぐくらい普通じゃないですか？」

虹夏「……そりゃ、そこまで変なことじゃないけど」

喜多「ひとりちゃんの感覚が人とちょっとズレてるせいなんです、女の子はこれが普通なんですから」

虹夏「けど抱き合うっていうのは……」

喜多「普通ですよ？　リョウ先輩だって先輩によく抱き着いてるじゃないですか」

虹夏「あれは抱き着いてるというより寄っかかってるだけな気がする……」

喜多「まさかひとりちゃんがそんなに嫌がってるなんて、知らなかったです……」

虹夏「嫌がってるかどうかはさておき、二人でちゃんと話し合った方がいいかもね」

喜多「そうします……ちなみに、それ以外にも何か言ってませんでした？」

虹夏「あとは……ポッキーがどうとか、プレゼントがどうとか言ってたっけ」

喜多「……？」

虹夏「特に心当たりはない感じ？」

喜多「う～ん、なくはないんですけど……そんなにおかしかったかなあ、アレ？」

虹夏「一応聞いてみるけど、何やったの？」

喜多「最近、ひとりちゃんに電マをプレゼントしたんです」

虹夏「電マを！？」

喜多「実を言うと私も結構愛用してて」

虹夏「愛用！？」

喜多「ほら、ギターって弾いてると肩凝るじゃないですか」

虹夏「あ、そういう……うん、そうだよね。分かる分かる知ってるよ（あぶねー）」

喜多「ひとりちゃんって猫背気味だし、実際かなり肩が凝ってるみたいだったので……」

虹夏「そういう意味なら別に間違ってないけど……でも電マは微妙なラインだな～……」

喜多「私も正直ちょっと年寄りっぽいかも？　とは思ったんですよね。でも実際に使うとすごく気持ちいいんですよ？　私なんて肩だけじゃなくて色んなところに当てて使ってますし」

虹夏「ん？」

喜多「ひとりちゃんにもそんな感じでおすすめしてたんですけど、なかなか買うのは躊躇してたみたいで……」

虹夏「いやまあ、それなりに値も張るしね？」

喜多「だから私、自分が愛用してた電マをあげることにしたんです」

虹夏「喜多ちゃん愛用の電マを！？」

喜多「昨日もひとりちゃんと会った時にその話したんですよ。電マ使ってる？って聞いたらすごく恥ずかしがって何も答えてくれなかったんですけど」

虹夏（ぼっちちゃん完全に勘違いしてるやつじゃん！）

喜多「やっぱり年寄り臭くて恥ずかしいものなんですかね？　だとしたら確かにちょっと変なプレゼントだったかも」

虹夏「いやあ～……どうだろうね～……？」

喜多「もしかしたら単に使い方分からないだけなのかなって思って、その時は『今度二人で一緒に使って気持ちよくなろうね』って話したんですけど」

虹夏「なに言っちゃってんの！？」

喜多「あんまり他の人に聞こえてほしくなさそうだったから、ひとりちゃんの耳元でこっそり囁いて……」

虹夏「もうわざとやってるでしょそれ」

喜多「そっかぁ……ひとりちゃんにとってはあんまり嬉しくないプレゼントだったのかな……ちょっとショックかも」

虹夏「いやまあ、喜多ちゃんは別に悪いことはしてないんだけどね。ぼっちちゃんが勘違いしてるだけっていうか」

喜多「勘違い……って、どんな勘違いですか？」

虹夏「そ、それは私から伝えておくよ！　任せといて」

喜多「ありがとうございます。正直、ひとりちゃんが何をしたら喜んでくれるか分からなくて、少し悩んでたんですよね……勘違いで済むならよかったです」

虹夏（勘違いさせたのは完全に喜多ちゃんの方だけど……まあいっか）

喜多「あとは……ポッキーについてはたぶんアレのことだと思うけど、言い出したのひとりちゃんの方だしなぁ……」

虹夏「（……なんかイヤな予感がするけど一応聞いておこう）何かあったの？」

喜多「はい……ちょっと前にひとりちゃんの家に行ったらいきなりポッキーゲームしようって言われて」

虹夏「本当にいきなりだね！？　ていうかなんで！？」

喜多「私も知りませんよ！　でもほら、ひとりちゃんってそういうとこあるじゃないですか。脈略なく意味不明なこと言い出したり奇声上げたり……」

虹夏「ま、まあね……」

喜多「ただ、あの頃のひとりちゃんってまだ友達と遊ぶのに緊張してた時期だったんですよね」

虹夏「ああ、なるほど。謎テンションだった頃ね」

喜多「たぶん本人も、ポッキーゲームが何なのかは知らないけどとりあえず聞いたことあるパーティゲームっぽい言葉を叫んだだけみたいで」

虹夏「ぼっちちゃんなら確かにありうる」

喜多「でもひとりちゃんに恥をかかせるわけにもいかないから私、合わせてあげることにしたんです」

虹夏「……で、結局どうなったの？」

喜多「や、正直私もルールよく分かってなくて笑」

虹夏「笑、じゃないんだよ。どうなったかって聞いてんの！」

喜多「なんで先輩がキレるんですか」

虹夏「ご、ごめんなんか興奮しちゃって……」

喜多「？　……まあ、とりあえずポッキーゲームは普通にやっちゃいましたよね」

虹夏「やっちゃった！？　ど、どこまで？」

喜多「どこまで……って、キスするところまで？じゃないんですか？」

虹夏「ヒューッ！」

喜多「え、なんかノリがうざい……」

虹夏「そっかあ、二人はそういう関係だったんだねえ、うんうん」

喜多「なんで先輩が喜んでるのか分かんないですけど……でもこれってそんな変なことですかね？」

虹夏「変なことっていうか……お付き合いしているなら普通なんじゃない？」

喜多「お付き合い？　私とひとりちゃんが？　別にそういう関係じゃないと思いますけど……」

虹夏「は？」

喜多「友達同士でキスするのって普通じゃないですか？」

虹夏「なん……だと……？」

喜多「そもそも言い出したのひとりちゃんだし……それで私がおかしいって言われるのは納得いきません」

虹夏「いやいやいや、え？　喜多ちゃんって友達とよくキスしてるの？」

喜多「したことありませんよ！」

虹夏「じゃあファーストキスはぼっちちゃんだったってこと？」

喜多「ま、まあ……そういうことになりますね///」

虹夏「照れてるじゃん！　何！？　なんなの！？」

喜多「ただ、勢いでやったっていうのはあります……ひとりちゃん、本当はしたくなかったのに流されてキスしちゃっただけなのかも……」

虹夏「……ちなみにその時のぼっちちゃんの反応は？」

喜多「あんまり覚えてないですけど、ぼーっとしてたような」

虹夏「その後もべつに拒絶されたり距離置かれたわけじゃないんだよね？」

喜多「そうですね。むしろ距離が近くなったような……？」

虹夏（完全に受け入れとるやんけ！）

喜多「……ていうか、スキンシップの話に戻りますけど、最初にボディタッチしてきたのひとりちゃんの方なんですよ！」

虹夏「ほう、詳しく」

喜多「ギター弾くときの右手のフォームがちょっと違うかもって話になって、それでひとりちゃんが私の手を握ってきて……」

虹夏「それはべつに普通のことだね」

喜多「でも私の後ろから抱き着くみたいにするんですよ！」

虹夏「ギター教える時って実際そうなりがちだよね」

喜多「そこで私気付いちゃったんです……ひとりちゃんの体ってすごく柔らかいなって」

虹夏「うん？」

喜多「背中に当たるんです。あの……大きいのが」

虹夏「ああ～、たしかに」

喜多「真面目に練習してる時にああいうことされると、気が散って集中できなくて」

虹夏「それはそうかもね」

喜多「それで私……なんて言うんだろ、イライラ？　とは違うんですけど、急に居ても立っても居られなくなって、ひとりちゃんに思いっきり抱き着いたんです」

虹夏（めっちゃムラムラして襲い掛かってますやん）

喜多「そうしたら、ほどよい肉付きが服の上からでも分かるくらいで、すごく気持ちよくて……気付いたらもう無我夢中で揉みしだいてました」

虹夏「ぼっちちゃんの胸を？」

喜多「胸とかお腹とか」

虹夏「確かに気持ちよさそう」

喜多「その時は汗の匂いとかも交じってて～」

虹夏「うわえっろ」

喜多「ひとりちゃんのことそんな目で見ないでくださいぶっとばしますよ」

虹夏（いきなりキレられた！？　こわい！）

喜多「……というわけで、練習に疲れたあとはひとりちゃんに抱き着いて休むというのが慣習になってますね」

虹夏「都合の良い抱き枕ってわけだ」

喜多「もしひとりちゃんがそのことで悩んでたとしたら、私も反省します」

虹夏「ちなみになんだけど、二人はお付き合いしてるわけじゃないんだよね？」

喜多「お付き合い……はしてないですね」

虹夏「でもキスはしたし、毎日のように抱き合ったり手を繋いだりしてる、と」

喜多「一緒にお風呂も入りますよ。この前なんて……」

虹夏「あ、うん。その話はまた後で詳しく聞くとして……」

喜多「え～なんでですか～」

虹夏「あんた惚気たいだけだよね！？　完全に付き合ってるじゃん！」

喜多「付き合ってません」ｷｯﾊﾟﾘ

虹夏「ええ……じゃあもうセフレみたいなもんじゃん」

喜多「セフレってなんですか？」

虹夏「あ、ごめんなんでもない……」

虹夏「はあ……ぼっちちゃんの悩みの原因、なんとなく分かったよ」

喜多「え、全然分かんないです」

虹夏「100％喜多ちゃんのせいってこと」

喜多「ええっ、私が全部悪いんですかあ？」

虹夏「思わせぶりな態度を取って、でも肝心なところは一線引いてる感じがまさに悪女のそれだよ」

喜多「悪女！？」ｶﾞｰﾝ

虹夏「喜多ちゃんには悪いけど、ぼっちちゃんには私からはっきり伝えておくから。『喜多ちゃんに振り回されてるだけで本人に全然その気はない』って」

喜多「そんな、ち、違うんです！　振り回してるわけじゃなくて……ただもてあそんでるだけっていうか……」

虹夏「余計ヒドいよ！？」

喜多「も、もしかして私、このままひとりちゃんに嫌われちゃうんですか……？」ｳﾙｳﾙ

虹夏「うっ……」

虹夏（た、確かに、このままだと二人の仲が険悪になる可能性はある……そうすると結束バンドの活動にも支障が……どうしよう）

山田「話は聞いたよ」ﾇｯ

虹夏「うわっ！？　どっから出てきた！？」

山田「後ろの物陰で聞いてた」

虹夏「人が悪いなおまえは本当に」

喜多「リョウ先輩！　どうにかできませんか？」

山田「要は二人の関係が曖昧だからぼっちが悩んでるってことでしょ？」

虹夏「う、うん。分かりやすくて助かる」

山田「なら話は簡単だよ。関係をはっきりさせればいい」

喜多「…………というと？」

山田「おめーらさっさと付き合っちまいな、ってこと」

喜多「ええっ！？　つ、つ、つ、付き合う……！？　私とひとりちゃんが……！？　それってつまり、こ、恋人同士になるってこと……！？」

虹夏「いまさらそんな動揺する？」

山田「郁代はぼっちと付き合うの、嫌なの？」

喜多「……それは……正直に言うと、全然嫌じゃない、です……むしろ……」

虹夏「むしろ、何？」ﾆﾔﾆﾔ

喜多「～～～っ/// だ、だけど！　バンド内恋愛は禁止！　じゃないですか！　だから、私……ずっと……」

虹夏「え？ 禁止？」

喜多「えっ？」

山田「結束バンドにそんな決まりはない」

喜多「え？　そうだったんですか？」

山田「結束バンドはアイドルグループじゃない。バンドなんて女遊びしてナンボ」

虹夏「それも違うけどね！？　リーダーとしてメンバーの不純交際は認めないから！」

山田「でもぼっちと郁代ならいいんでしょ？」

虹夏「それはまあ、ね。お互い真剣なら口出しはしないよ？　ホントに」

喜多「……そっか……そうだったんだ。なーんだ、私が勝手に勘違いしてただけなんですね」

虹夏「うんうん」

喜多「ありがとうございます、先輩方。おかげで吹っ切れました。私、ひとりちゃんに告白しようと思います！」

山田「うむ。良い結果を期待しているぞ」

喜多「はい！　さっそく連絡してみます！　ありがとうございました！」ﾀﾀﾀｯ

虹夏「………行っちゃった。行動が早いねー」

山田「青いね……」ﾌｯ

虹夏「一丁前に先輩ヅラすな。……でも、あの感じだと告白成功は間違いなさそうだね」

山田「これでぼっちも深みのあるリアルな恋愛歌が書けるようになる……つまりバンドも売れる……！」

虹夏「え、まさか最初からそんなこと考えてたわけ？」

山田「ふふふ」

虹夏（適当言ってるだけだなコイツ）

おわり