2023年09月27日 22:30 希「あの頃に戻りたい」 元スレ 全てのレス 1: ◆UFNnDwMYPk:2014/07/09(水) 11:23:47.68 :m2VNfcw20 希「ごめんエリちまったー?」 絵里「いいえ、ちょっと前にきたばっかりよ」 希「いやー、ごめんな。上司がうるさくて」 絵里「大変そうね。事務だっけ?なんだか希っぽくないわ」 希「ホントそうなんよ。いやぁ、就職先間違ったかなー」 希「店員さーん、カシスオレンジくださーい」 読む →
2023年09月23日 18:00 千早「プロデューサーが構ってくれない・・・。」 元スレ 1: ◆CdVZJLjHGg:2013/06/25(火) 20:34:15.15 :+wsHsxEAO 千早「おはようございます、プロデューサー。」 P「ああ、おはよう。」 千早「あの、昨日髪切ったんですけど…どうですか?」 P「んー、似合ってるんじゃないか?」 \ガチャッ/ 美希「ハニー、おはよーなの!」ダキツキ P「うわっ、いきなり抱きついてくんな!…おろ、美希も髪切ったのか?」 美希「そうだよ!似合ってる?」 P「おう、美希らしさが出ててとっても可愛いぞ。」 美希「もう!そんなこと言われたら、ミキ照れるの///」 P「照れおって…可愛いやつじゃのう!」ウリウリ 千早「・・・。」 読む →
2023年09月22日 18:00 鷺沢文香「匂い」 元スレ 全てのレス 2: ◆eBIiXi2191ZO:2016/10/27(木) 23:48:13.33 :GnL8+3Bpo この匂いが、好きです。 プロデューサーさんと私は、今日も古書店へと来ていました。今まで幾度となく通う店。たぶんこれからも、私たちは通っていることでしょう。 そんなひと時。 読む →
2023年09月20日 22:30 にこ「ちょっとあんた」花陽「うぅ...」 元スレ 全てのレス 1:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/07/05(土) 01:35:10.88 :IfpDZwko0 にこ「ぶつかっといて謝罪の言葉もないわけ?」 花陽「あぅ...ご、ごめんなさい!」 にこ「大体なんで陸上部が廊下で走ってんのよ、危ないじゃない」 花陽「あの...今日は雨が降ってて、グラウンドが使えなくて...」 にこ「でも廊下は走るところじゃないわ」 花陽「うぅ、でも」 にこ「走っちゃだめでしょ?」 花陽「はい...ごめんなさい...あ」 花陽「と、友達が待ってるので、し、失礼します」タタタ ポトッ にこ「あ、ちょっ、なんか落としたわよ!ちょっと!」 にこ「もう、なにこれ...お守り?」 読む →
2023年09月15日 21:00 鳳翔「終わらない恋」 元スレ 全てのレス 1:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/09/08(月) 20:38:38.30 :A6UZJi3bo 赤城「いやー加賀さん飲んでますかー!?」 加賀「赤城さん、ちょっと飲みすぎよ」 赤城「そりゃあ飲みますよ~!だって加賀さんと提督がついに結婚ですからね!」 赤城「こんなめでたい日に飲まない食べない理由がないじゃない!」ゴクゴク 加賀「だからって…二次会でもあなた相当飲んでたじゃない」 赤城「二次会は二次会、三次会は三次会ですよ~」ゴクゴク 読む →
2023年09月08日 07:00 【ゆるゆりSS】ふたりの距離 元スレ 全てのレス 1:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2023/09/07(木) 21:18:55.99 :I2AyKHWk0 大室櫻子、古谷向日葵、中学二年の冬。 二学期の期末試験を終え、まもなく冬休みを迎えるいう少しふわついた時期に、それは起こった。 教室の前方で、教師が淡々と生徒の名前を読み上げながらテストの答案用紙を返していく。受け取って歓喜する者、落ち込む者、「うあー!」と叫んで友人と笑い合う者、じっと見つめてゆっくりと席に戻る者。その反応はまさしく十人十色といったところだ。 「……大室さん」 名前を呼ばれ、ソワソワした気持ちを必死に隠しながら教師のやや後方で待機していた櫻子は、呼ばれてすぐに答案を受け取った。 おそるおそるその点数に目をやる。 「げっ」 そこには、フィクションの作品でしか見たことのないような、現実にこんな点数をとってしまうことがあるのかというほど低い点数が、無情にも書かれていた。 たった一文字の、丸。 まんまる。ゼロ。れーてん。 名前の書き間違えで採点してもらえなかったとか、そんな粗末なものですらない。ただのひとつも正答を書けなかった、本気の0点の答案。 嘘でしょ、という気持ちがある一方で、落胆と諦めを足して半分に割ったような複雑な感情……マイナスであることだけがはっきりしている、とにかく嫌な気持ちが、ずんと胃の底に沈んでいくような気がした。 あーあ。 やばい。 本当にやばい。 ついに、こんな点数を叩き出してしまった。 (うーわ……) テストを受けているときから薄々そんな気はしていた。だって問題が全然わからない。普通に授業を聞いていたら取れていたのであろう、基礎的な部分の問題すらわからない。唯一「もしかしたら合ってるかも」という淡い期待で書いた部分は、つまらないケアレスミスにより無情にもペケがつけられていた。今回は選択肢で書くタイプの回答がほとんどなかったのでヤマカンを張る余地もなかった。当たり前だが、歴代最低得点だ。 テスト中は半ばヤケになって、「もうこうなったらどれだけ低い点数がとれるか見てみたい」と開き直っていたような記憶もある。だが実際に引くほど低い点数の答案を目の前にしてみると、そんな強がりをする余裕も一瞬で掻き消えた。 これは確実に怒られる。向日葵にも、姉の撫子にも、母親にさえ怒られる。 ほかのひょうきんな女子のように、友人に見せびらかして笑い飛ばすことも今はできそうにない。こんなものを見せたら笑ってもらえずにドン引きされてしまうこと請け合いだ。櫻子はぺったんこの胸に答案用紙を押しつけ、わずかな前傾姿勢のまま自分の先にスススと戻った。 とても現実の出来事とは思いたくないほどのショック。しかし自分には確かに身に覚えがある。こんな点数しかとれないような答案用紙を提出したのは、間違いなく自分なのだから。 やや青ざめた顔でぺとんと着席した櫻子のことを、向日葵は心配そうに見つめていた。 読む →
2023年09月01日 12:00 藤原肇「手を取って連れ出して」 元スレ 全てのレス 2: ◆ULuwYLs/ds:2016/11/18(金) 17:26:03.11 :dvELRCvvo 日本に三日三晩滞在していた台風が、夏の蒸し暑さを引き連れて出ていってしまった。 真上に昇るお日様の光は暖かいのに、風は冷たくツンと頬を刺してしまい、私のそばをすぐに通り抜けてしまうから少し寂しく感じてしまう。 あれだけの雨風を打ち鳴らしながら大暴れしたせいか、赤ちゃんが泣き疲れてぐっすり寝てしまったように、空は静かで、それでいてどこまでも高く透き通っていて、手を伸ばしても簡単には届かなそう、だなんて思ってみたり。 読む →
2023年08月24日 21:00 【モバマス】奏とキスした奏が泣いた 元スレ 全てのレス 2:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/12/15(月) 02:18:04.99 :9QO9XnPb0 P「奏…」 奏「…プロデューサーさん。……ん」 プロデューサーさんと、唇を重ねた。 心が満たされる、幸せなキス。 心がいっぱいになる。 涙が漏れる。 P「奏!?」 やだ、そんなに驚いた顔しないで。ごめんなさい。 「涙、出ちゃった。……心配しないで。」 「嬉しかったの」 読む →
2023年08月19日 18:30 佐久間まゆ「あいくるしい」 元スレ 全てのレス 1: ◆Xz5sQ/W/66:2016/05/13(金) 01:14:55.25 :kgPjdO9+0 === 「その瞳に吸い込まれそうだ」と彼が言った。 それが、私の心を掴んだ口説き文句。 指が踊る、指が躍る。 彼のコーヒーにはいつも角砂糖を二つ。 甘いものは疲れた脳に良いんだと、笑いながら言っていた。 読む →
2023年08月17日 18:00 京子「都市伝説」 元スレ 全てのレス 1:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2016/01/26(火) 15:49:05.88 :mwMoBL900 いつもの学校。 いつもの教室。 いつもの授業。 いつも、いつも、いつも。 読む →
2023年07月29日 12:00 あやせ「どうしてわたしに酷い事をするんですか」 元スレ 1:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/04/25(木) 01:31:24.44 :y0F5MiPU0 あやせが好きだ CMでも流れるありふれた言葉なのに、口にするのがこんなにも難しいとは思わなかった ……また、いつもみたいに口先八丁ですか? 風に靡く髪を耳に掛ける彼女の瞳には昔のような怒りはなくて それは今まで吐いてきた俺の罪の重さが彼女をどれほど苦しめたのかを知らしめて 少しでも気を抜けばその重さに俺は押し潰されるべきのだろう 読む →
2023年07月25日 22:35 肇「最初で最後の出来事」 元スレ 全てのレス 1: ◆h.MDySkgWA:2015/11/30(月) 16:48:31.07 :AdU9VQfG0 モバマスSS 空想がちな肇ちゃんとプロデューサーとの純愛話です 書き溜めた文を分けて投稿しますので、よろしくお願いします 2: ◆h.MDySkgWA:2015/11/30(月) 16:53:20.74 :AdU9VQfG0 縁側で一人ぼんやりいる静かな夜 「起きてこないかな…?」 ぽつりと呟いても響かないなんて久しぶり。 縁側横の畳の部屋で寝ているプロデューサー 今は、大切な人。 ──さんと実家で過ごす夜も何度目かな? オフだからって──さんと一緒に実家へ来て、 当たり前のように上がって。 両親もおじいちゃんも──さんのこと、すっかり気に入ってた たまに一人でお仕事へ行くこともあるけど、気付いたら──さんが見ている 真剣な表情で見守ってくれて安心するし、何より嬉しい。 終わって声掛けたら褒めてくれて。 たまに『ぼーっとしてた』『見とれてた』 なんて言って困る事もあったけど…。 ──さんと会わないオフもあるけど、瑛梨華ちゃん悠貴ちゃんと買い物行ったりするし。 作務衣着て陶工する時はおじいちゃんがいて、釣りに行くのも一人じゃないし… 私が一人でいるのって本当に久しぶり………。 読む →
2023年07月11日 07:00 道明寺歌鈴「貴方の瞳に映る、線香花火」 元スレ 全てのレス 2: ◆u71RyimI2MeR:2017/07/02(日) 23:24:49.78 :hvwo5gpRo 弾けるような朱色と溶けるような橙色の小さな火の珠がぱちぱちと音を立てては闇に消えていきます。貴方の目に映るのは瞬いては消える儚い閃光。少し生暖かい、夏の始まりを告げるかのような微風が手に持った線香花火を揺らしてその煌めきが地面へと。 終わっちゃいましたね、と貴方に告げたら。また今度、夏の終わりにでもこうして二人で。そんなことを言ったのは私と貴方のどっちでしたか。 部屋に戻ろうと差し出された手を取って立ち上がると、いきなり吹いた強風に思わずよろめいてしまい、目の前に貴方の顔が。ドキドキと胸を高鳴らせながら、ありがとうございますと微笑むと、照れたような顔に。 この頬が熱い理由はきっと─── 読む →
2023年07月04日 21:35 モバP「トゥルーブライド」 元スレ 全てのレス 2: ◆4Bt2FH9jXc:2015/06/30(火) 19:01:56.89 :wjJBdLHP0 「……この姿、アイツにも見せてやりたいな 凛、なんていうかな?」 「あっ、あそこにいる! りーんー! 私たち、花嫁さんになったのー!」 読む →
2023年06月26日 22:30 女「中学の頃の君は」 元スレ 全てのレス 6:以下、\(^o^)/でVIPがお送りします:2014/06/07(土) 23:27:40.27 :mavtq7F70.net 女「あれ?ずいぶん早く来たと思ったのに。まさかキミが待つ側になってるとはね」 無邪気な笑顔とともに彼女は言う。その顔が中学の頃の彼女と重なり、少し鼓動が早くなる。 女「しかし本当に久しぶりだね、1年ちょっとかな?言ってくれれば予定空けたのにさあ、君が全然返事をくれないから。私ちょっと楽しみにしてたんだよ?キミに会えること。」 その声、その喋り方、仕草、全てが彼女の記憶を引き出させる。諦めきれなくて拗らせてきた思いが一気に沸き上がってくる… 読む →
2023年06月26日 19:30 曙「素直になれない」 元スレ 全てのレス 1:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/04/11(土) 21:52:11.25 :gC6OIYV/0 「…遅いわね。自分から誘っといてなに人のこと待たせてんのよ。あのクソ嚮導」 読む →
2023年06月25日 21:05 【水星の魔女】 エラン5号「ノレア、天下一品に行こう!」 ノレア「・・・・・・は?」 後編 関連SS 【水星の魔女】 エラン5号「ノレア、天下一品に行こう!」 ノレア「・・・・・・は?」 前編 【水星の魔女】 エラン5号「ノレア、天下一品に行こう!」 ノレア「・・・・・・は?」 後編 元スレ 26: ◆WLqChR3KymnV:2023/06/25(日) 19:41:38.69 :rd60AkAz0 白銀髪の店員「ありがとうございました!」 食後、会計を終えた2人は店の外に出た。 5号「いやあ、美味しかったねぇ」 ノレア「そうですね」 読む →
2023年06月23日 19:00 花陽「絵里ちゃんの笑う顔が見たい」 元スレ 全てのレス 1: ◆eyH5F3DPSk:2014/07/17(木) 23:34:45.54 :WE0Pfa1u0 絵里「……」 花陽「絵里ちゃん、どうしたの? 眠い?」 絵里「……あのね、最近寝不足なのよ。だからこう、目をこうして閉じたり開いたりしてみてるの」 花陽「夜更かししてるとか?」 絵里「ううん、してない」 花陽「じゃあ何でだろう……」 絵里「なんでかしらね」 読む →
2023年06月22日 21:00 結衣「オレンジ」 元スレ 全てのレス 1:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/05/22(木) 02:00:24.09 :sKIYCiah0 ちなつ「ゆ、ゆいせんぱい…///」 結衣「どうしたの、ちなつちゃん」 ちなつ「えっとその…きょ、今日は夕日がとてもきれいですね!///」 結衣「う…うん、そうだね///」 ちなつ「……///」 ドクン ドクン ドクン ドクン 読む →
2023年06月12日 21:00 美少女「男は………青春してる?」 元スレ 全てのレス 2:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2016/05/28(土) 18:53:36.05 :lzb+w+450 男「……何?いきなり」 美少女「ええっと青春してる?」 男「唐突に………」 読む →
2023年06月07日 07:00 ぼっち「す、好きですっ、おねえさんっ」 廣井きくり「んあ?」 元スレ 全てのレス 1:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2023/06/07(水) 00:35:11.706 :yTsosxwo0.net ある日 STARRY 廣井「お、おつかれー」 星歌「何がおつかれだよ、しね」 廣井「いや相変わらずひどいなー先輩は。はは」 虹夏「今日は一体何の用ですかー?」 廣井「あーお姉さんに似て冷たいなー?あ、えーっと、別に用があるってほどじゃないんだけど」 廣井「今日ってぼっちちゃんって、いる?」 星歌「はあ?あー、今日確かバイト入ってたはずだからそのうち来るんじゃない?」 廣井「ふーん、そっ、そっかー」 星歌「なんだおまえ?なんか今日様子おかしくないか?ひょっとしてぼっちちゃんと何かあった?」 廣井「え!?い、いや別にそんなことない…んだけど、あはは」 読む →
2023年06月06日 19:30 海未「絵里のハートを」 元スレ 全てのレス 1:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/06/04(木) 02:02:09.43 :x0a6t6Dv0 絵里「今日は天気悪いわね。夕方なのに、真夜中みたい」 部室に絵里と二人きり。滅多にないこの状況。 絵里「ね、ねぇ海未」 すぐ隣に座る彼女の、いつもより頼りない声が私の心を揺さぶります。 絵里「作詞の手伝いなんだけど、また今度に……」 そういうわけにもいきません。この機会を逃すわけには。 読む →
2023年06月03日 19:30 中川かのん「あっ……雨、だね……」 元スレ 全てのレス 2:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/09/27(土) 00:43:58.09 :NJSLtuUs0 時間は十五時、どんよりとした空からは今にも雨が降り出しそうだ。 そんななか、桂木桂馬は誰もいない廊下を歩いていた。 普段は賑やかな廊下や教室も誰一人いないと広く感じるものだ。 しかし桂馬にはそんな気持ちはなく、ただいつも通りにゲームをしながら歩いていく。 桂馬「…………」 桂馬は教室に入る。誰もいない。 当然だ。舞校はテスト期間中。 勿論その間は部活も禁止されている。 だが桂馬は残っていた、その理由は。 桂馬(……二階堂、本当に教師かあいつは……) テスト期間中にもかかわらず、小テストの採点をやらされたからである。 没収されたゲームを返してやると言われ、二つ返事で承諾したのが数時間前。 桂馬「くそ、また前みたいに腕がパンパンだ……」 桂馬は痛がる腕で自分の鞄を背負うと、教室を出る。 桂馬(……結局、有耶無耶でゲームは返してもらえないし、とんだ無駄骨だ……) 桂馬(……早く帰ろう……) 下駄箱に向かう桂馬が歩く廊下には誰もいない。 ゲームを再開した桂馬がリアルの風景を気にすることはなかった。 雨が降り出しそうな空を気にすることも……。 読む →
2023年05月28日 07:00 ヴィーネ「将来の夢」 元スレ 全てのレス 1:以下、\(^o^)/でVIPがお送りします:2017/04/23(日) 23:26:28.132 :mKAP4K320.net 皆さん、こんにちは。突然ですが昔の思い出を振り返ってみたくなる時がありませんか?例えば……部活動、修学旅行、そして、そうですね……将来の夢とか。将来の夢……ふふっ。 ……じゃあ今日は将来の夢について振り返っていくことにしましょうか。 そう、あれは……高校卒業前日にいつもの4人で集まっていた時の話でした。 ……………………………………………… 読む →
2023年05月24日 22:30 京太郎「リア充は」ハギヨシ「爆発しろ」 元スレ 全てのレス 1: ◆6ardW1rCAXVJ:2014/12/24(水) 21:15:31.57 :Kc8K2HeXo <京太郎の場合> 京太郎「の、和。麻雀部のクリスマス会の後予定あるか? もし予定が空いてたら俺に付き合ってくれ!」 和「クリスマス会の後ですか? そうですね……」ピピピ 京太郎(け、携帯で予定を確認してる! 脈ありか? 脈ありか!?) 和「……」ピッ 京太郎(……電話?) 和「あ、ゆーきですか? クリスマス予定空いてますよね? 違いますよ。クリスマス会の後です」 和「……はいはい、そうですよ。私もゆーきと一緒で独り身です。ゆーきのこと言えません。言わなきゃダメなんですかこれ。それじゃあいつものところで」ピッ 和「須賀君、ごめんなさい。クリスマスは予定が入ってました」ペッコリン 京太郎「断るにしてももう少し手加減してくれませんかね!?」 和「何のことですか?」クスクス 京太郎「これでも勇気出したんだぜ? 断るにしてもさぁ」シクシク 和「そうですね。私も普通ならこんなことしません」 京太郎「そんなに嫌だったか?」シクシク 和「いえ、むしろ気心知れてるからこそですよ」クスッ 京太郎「親しき仲にも礼儀ありって言うだろ!」 和「確かにそうですが、友達は裏切れませんのではっきり断った方がいいかなと」 読む →
2023年05月06日 22:30 女「……あの」不良女「ん?」 元スレ 全てのレス 1:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2016/06/28(火) 00:04:02.26 :+mjTHdFz0 ※百合です。嫌いな方は見ないほうがいいです。 ~校舎裏~ 女「私に……何か用ですか……」 不良女「うん、まあ」 女「あの……お金は持ってないです……」 不良女「はあ!? 誰がンなもん欲しいっつったよ!?」 女「ひっ……! ごめんなさい……」 不良女「あーいや、違うんだ。カツアゲじゃねえよ」 女「だ、だったら……?」 不良女「あー……その」 女「……」ビクビク 読む →
2023年04月26日 19:30 後輩「先輩、アメ食べます?アメ」先輩「んー……」 元スレ 全てのレス 1:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/04/13(月) 18:24:29.49 :UvksuAqSo 先輩「何味?」 後輩「ハッカです」 先輩「……他は?」 後輩「ハッカだけです」 先輩「……ぷはー」 後輩「あーっ、露骨に嫌な顔しましたねっ」 読む →
2023年04月21日 20:30 後藤ふたり(中学生)「喜多ちゃんって好きな人いるの?」喜多ちゃん「!??」 元スレ 全てのレス 1:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2023/04/16(日) 23:32:02.874 :C4OTSAcy0.net 喜多「な、なによふたりちゃん、急にそんなことっ」 ふたり「だって喜多ちゃん、こんなに可愛いのに彼氏とかさ、 話聞かないから、どうなのかなっておもって」 喜多「わたしの好きな人だなんて…、そりゃもちろん」 喜多「リョウ先輩かしらねっ、私が結束バンドにはいったのもリョウ先輩に 一目ぼれしたからだしねっ」 ふたり「へー、そうなんだ」 喜多「そう、わたしが結束バンドに入ったきっかけは、先輩の娘になる ためだったんだからっ」 ふたり「はは、喜多ちゃんおもしろーいっ」 読む →
2023年04月19日 21:00 真姫「指引っ張って」 元スレ 全てのレス 2:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/11/05(木) 17:39:39.24 :ACUUhgsS0 にこ「え?なんで?」 真姫「いいから早くして!」 これは心理テスト にこちゃんが…あの指を選んでくれますように にこ「えぇ~?どれにしようかな~?困っちゃうにこ!」 真姫「どれがいいのよ」 にこ「どれにしようかな♪天の神様の言うとおり!…親指よ!」 真姫「親指…」ガックシ にこ「何落ち込んでんのよ…あ、今日もいい?」 真姫「…もちろんよ」 親指は相談相手。 確かにこの心理テストは大正解 …少し勇気が欲しかったの 読む →
2023年04月19日 18:05 【ゆるゆり】結衣「おひるねゆにばーす」 元スレ 全てのレス 2:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/11/16(月) 20:11:15.85 :+2ng1lado 目を開けると、目の前が真っ赤だった。 ──ああ、ゲームしながら寝ちゃったのか。 まだぼんやりとした頭が、少しずつ今自分がいる状況を理解する。 少し冷えたつま先を毛布に包み直すと、じんわりと暖かくなった。 毛布からはみ出した肩も少し冷えているが、敢えてそのままにする。 読む →
2023年04月16日 15:00 ヒカリ「忙しい恋人」 元スレ 全てのレス 1:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/04/15(火) 19:47:41.72 :gf+UtEtD0 ポケモンのシロナ×ヒカリssです。 一人称がおかしかったり辻褄が合わない場合は脳内補完お願いします。 キャラが崩壊していたり何となく違っていたりするかもしれませんが、あしからず。 2:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/04/15(火) 19:50:02.02 :gf+UtEtD0 ヒカリ「ん……今何時……?」 ヒカリ「うわ、もう10時じゃん……そろそろ起きなくちゃ……」 ヒカリ「ほら、起きてください」 ヒカリ「シロナさん」 シロナ「んぅ……おはよう、ヒカ……リ……」スヤスヤ ヒカリ「また寝るのかよ……」ハァ ヒカリ(信じたくないけど、この人はシンオウリーグチャンピオン) ヒカリ(そして、私の恋人) ヒカリ「起きてください」グイグイ シロナ「あと五分だけ……」 ヒカリ「まったく……」 ヒカリ(付き合ってすぐに私の別荘で同棲を始め、四日後に三年記念日を迎える) ヒカリ(シロナさんはポケモンバトル中とは打って変わって、プライベートではいつもこんな感じだ) ヒカリ「今日は研究結果をレポートにまとめるとか言ってたじゃないですか。このまま寝たら夕方になっちゃいますよ」 シロナ「そうだけど……眠いものは眠いのよ。そもそもヒカリが昨日激しくするから……」 ヒカリ「私は明日に響くからやめようって言ったのに、シロナさんがもっとって言ってきたんじゃないですか」 シロナ「もー、細かいことはいいのよ。ヒカリも一緒に寝よ?」グイッ ヒカリ「え、ちょ、わっ」ドサッ シロナ「おやすみなさい……」ギュッ ヒカリ「……知りませんからね」ギュッ ヒカリ(一糸纏わぬシロナさんの身体は白くて柔らかくて、とても心地が良かった私は、すぐに眠りについてしまった) 読む →
2023年04月03日 12:00 友「俺さ・・・呪いのビデオ?ってやつゲットしたんさ」男「なんだそれ」 ー完全版 元スレ 全てのレス 1:以下、\(^o^)/でVIPがお送りします:2016/07/28(木) 21:54:10.847 :oEcb0Pcq0.net 友「呪いのビデオだよ、一時話題になったろ?」 男「ああ、そんなんあったな」 友「見たら死ぬってやつ」 男「あー、俺そーゆーの信じねーから」 友「信じて無いなら見てくんね?俺怖くてさ」 男「はあ?」 友「なんも無かったら写真撮って見せてくれよ、明日飯奢るから」 男「言ったな?ったく・・・」 読む →
2023年03月31日 23:10 灰原「死が2人を結ぶまで」 元スレ 全てのレス 1:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/03/25(水) 21:15:41.13 :QdW1YzZiO コナン(俺の名前は工藤新一、探偵だ) コナン(元々高校生探偵として活躍していた俺が、とある事件に関わったばかりに妙な薬を飲まされ身体が幼児化すると言う非現実的な事が起きてから随分経つ) コナン(あれから俺は仲間達と共に俺の身体を小さくした組織と闘い続けてきた。長い間) コナン(好きな女を待たせたまま......) コナン(だが、遂にその時が来た。俺達は遂に黒の組織との決着を迎える事が出来た) コナン(組織のメンバーはほぼ捕まり、ジンは運命に裁かれた) コナン(黒幕があの人だったのは、ショックだったが......) コナン(とにかく、俺達は当初の目的である黒の組織の壊滅を果たしもう1つの大きな目的......。元の身体へ戻る為に組織の本部を調べた) コナン(建物は闘いの最中爆発により壊滅状態にあったが、奇跡的に元へ戻る手掛かりとなる薬......。APTX4869のデータが発見された) コナン(断片的で完全なモノでは無かったが、そのデータを開発者である灰原に渡し、解析を待つ事となった) コナン(そして、その解析が進み完全な解毒剤が間も無く完成しそうだと灰原に告げられた) コナン(これで漸く全てが終わる。そう思っていた。しかし......) コナン(運命は、新たな試練を俺達に課す事になる......) 読む →
2023年03月20日 12:00 希「初恋かもしれん」 元スレ 全てのレス 1:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2014/03/29(土) 13:00:22.32 :wyQMN8dco 朝 穂乃果「あっ!希ちゃん!おはよー!」タタタッ 希「おっ!穂乃果ちゃん、おはようさん」 穂乃果「希ちゃん、今日もせくしーだね~」ワキワキ 希「なっ!…」 希「穂乃果ちゃんもわしわしMAXで大きくしてあげよか?」 穂乃果「ひっ…遠慮しとく!」 海未「穂乃果!急に走りださないでください!」 穂乃果「あっ、ごめーん」 海未「まったく…あら、希!おはようございます」 ことり「希ちゃん、おはよう!」 希「二人ともおはよう」 穂乃果「ラッキーガールの希ちゃんに朝から会えるなんて、今日はラッキーデイかも!」 希「へ?」 希「…//」 穂乃果「希ちゃん?」 希「な、なんでもないよ!…//」カァァ 海未「さあ、穂乃果、早く教室へ行きましょう?一時限目単語テストですよ」 海未「そのために早くきたんでしょう」 穂乃果「うはー、そうだった!それじゃあ、放課後にね!希ちゃん!」タタタッ ことり「二人ともまってよー」 希(本当…ぐいぐいくるなぁ…) 読む →
2023年03月13日 21:00 モバP「瞳の中に」 元スレ 全てのレス 2:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/12/21(土) 21:41:19.12 :3OUCa9Qso この事務所のプロデューサーになってはや半年この仕事にも慣れた。 就職活動でどこにも引っかからなかったからって焦っていたのも事実 だが、それ以上にあこがれの方が強かった。 最初は辛かったし、なんかドリンクを売りまくってくる緑の悪魔とか いたけど一定のラインを超えたらそれも慣れた。 しかし最近俺はプロデューサーとしてあるまじきことを思うことが多 くて困る。 留美「ねえ、Pくんきいてるの?」 P「・・・あ、すいません留美さん。おはようございます。」 留美「もうほかのアイドルのプロデュースが大変なのもわかるけど・・・ 働き過ぎはダメよ?」 P「すいません」 そうなのだ。俺は担当アイドルに恋をしてしまったのだ。 彼女のその短い髪、見るものを萎縮させてしまいそうな切れ目。 しかしその力強い見た目とは相反するように可愛らしい心。 俺はその全てに惹かれてしまった。 読む →
2023年03月13日 07:00 千早「真美の赤ちゃんを身ごもった」 真美「」 元スレ 全てのレス 1:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2014/03/13(木) 21:30:56.84 :GOmRZ5840 ※数年後設定で、千早22歳、真美18歳イメージです。 結構百合百合しているので、苦手な方はそっとお閉じください。 口調キャラ崩壊申し訳ありません、お許しください。 2:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2014/03/13(木) 21:32:20.98 :GOmRZ5840 千早「真美ー」 真美「今日のお酒は終了しましたー」 千早「えー」 真美「えー、って何さ。ウイスキー一本開けてまだ飲みたりないの?」 千早「まあ」 真美「飲みすぎだよ」 読む →
2023年03月12日 18:00 インデックス「あなたの眼が開くまで」 元スレ 全てのレス 2:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2014/03/09(日) 22:25:36.90 :Dar2WjyAO 私は右手をぎゅっと握る その右手は世界を救った右手 私を救った右手 だけど貴方は――動かない インデックス「――とうま、今日短髪が千羽鶴を置いたんだよ」 インデックス「短髪は涙でぐちゃぐちゃだったんだよ」 インデックス「とうまが早く起きればいいかも」 上条当麻「――」 読む →
2023年03月03日 22:30 姉「私の妹が可愛すぎる」 元スレ 全てのレス 2:以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします:2016/09/01(木) 16:30:06.59 :shOMk3iF0 姉「んふふ~」 幼馴染「……何スマフォ見つめてニヤニヤしてるのよ」 姉「ほら、今朝の妹ちゃんの寝顔写真!」 幼「うわあ……」 姉「可愛いよねぇ……」 幼「アンタのシスコンっぷりには毎日ドン引きさせられるわ……」 姉「幼ちゃんは可愛いと思わないの? こんなに可愛いんだよ? ほらほら」 幼「確かに可愛いとは思うけど……断りもなくそんなの撮ってたら、きっと怒るわよ」 姉「だってお願いなんてしてもぜったい撮らせてくれないし」 幼「当たり前でしょう。 誰だって寝顔を撮られるのなんて嫌に決まってるわ」 姉「えー……だって、可愛いじゃん……」 幼「可愛いから撮ってもいい、なんて免罪符はないわよ」 姉「幼ちゃんはいっつも正論ばっかり言う……」 幼「そのうち妹に愛想つかされるわよ?」 姉「うう……でも、今朝の妹ちゃんの寝顔は今朝にしか見られないんだよ? それなら、写真に撮っていつでも見られるようにするべきだと思う」 幼「意味が分からないし、そもそもどうしてそこまであの子の寝顔に執着してるのよ……」 姉「ほらほら! 昨日のとか、一昨日のとか! ほんっとスマフォって便利だよね! こんなに高画質!」 幼「アンタみたいなのを見てると、本当にスマートフォンってこの世に出回ってはいけなかったデバイスなんだなって思えるわ……」 読む →
2023年02月21日 22:30 絵里「100秒後の未来……?」 元スレ 全てのレス 1:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/11/01(日) 02:42:33.85 :+bNdp8ON0 希「うん。うちな、それくらいの近い未来のことなら予知できるようになったんよ」 絵里「まさか。いくら何でもそれは信じられないけど。それって、また新しい占いの話?」 希「うーん。占いとはちょっと違うかな。とにかく見えるって言うか……例えば、あそこにいる真姫ちゃん」 絵里「真姫がどうしたの?」 希「真姫ちゃんは今から100秒後に、「イミワカンナイ!」と言う」 絵里「ええ?まさかそんな……」 希「まあ見ててみ」 読む →
2023年02月17日 18:00 女「酔ってもいいんだよ?」友「は?」 関連SS 女「酔ったみたい」友「そら、そんだけ飲んだらね」 ※百合です 女「酔ってもいいんだよ?」友「は?」 元スレ 全てのレス 1:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/01/06(金) 01:54:28.65 :pP9cDdKx0 ※百合です。 苦手な方は読まない方がいいです。 ~友の部屋~ 女「だって、酔ってるように見えないんだもん。ちゃんと飲んでる?」 友「飲んでるよ。お前より酒強いんだよ」 女「ぶー、つまんない。酔いつぶれてる友ちゃん見たかったのに」 友「あぁ、だからさっきからお前ちょっとしか飲んでないんだな」 女「私飲みすぎたら、眠たくなっちゃうもん」 友「ははっ。いっつも先に寝るからな」 女「せっかく強いお酒買ってきたのに、まったく効いてない」 友「お前もそれ飲めよ。美味しいぞ」 女「えー、飲んじゃったらすぐ酔いそう」 友「だろうな」 読む →
2023年02月17日 12:00 女「酔ったみたい」友「そら、そんだけ飲んだらね」 ※百合です 関連SS 女「酔ったみたい」友「そら、そんだけ飲んだらね」 ※百合です 女「酔ってもいいんだよ?」友「は?」 元スレ 全てのレス 1:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/09/11(金) 00:15:03.85 :Tf9QoycP0 女「んー……頭ふらふらする」 友「アンタ、私の家来てからずっと飲んでるだろ」 女「いいじゃん……飲もうっていったの友ちゃんだし」 友「ふらふらになるまで飲もうって言ったんじゃねぇよ」 女「明日仕事休みだしぃ、このまま友ちゃん家泊まるから大丈夫ー……」 友「またそんなこと言いやがって。私が休みじゃなかったらどうしてたんだよ」 女「んー……それでも友ちゃんは泊めてくれるんでしょ?」 友「……ま、まぁ、そうだけどよ」 女「えへへ、やさしぃ」 読む →
2023年02月08日 07:00 リョウ「(虹夏が連れてきた子、なかなか面白そうな子だったな、後藤ひとり、か)」 元スレ 全てのレス 1:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2023/02/07(火) 22:17:12.964 :3h/OnBqy0.net リョウ「(ぼっちってあだ名がまたいい。まあ私が名付けたんだけど)」 リョウ「ギターは下手だけど、まあバンドに入ってくれるだけでもありがたいかな。 あとはボーカル探さなきゃなー」 最初はこれくらいの認識だった。それなのに… …… 虹夏「ぼっちちゃん、今日のオーディション、演奏すごかったね」 喜多「ほんとわたし、びっくりしちゃった」 ぼっち「ほ、ほんとですか、うへへ…」 リョウ「……」 リョウ「(ぼっちのギター、最初はドヘタだとおもったけど…、ソロうまいし、 いざという時、頼りになるな)」 読む →
2023年01月28日 12:00 速水奏「灰皿の上から」 元スレ 全てのレス 3: ◆aH90oA1BN6:2015/02/09(月) 23:49:27.16 :5H18FGIqo ガチャ 速水P「もどりましたーって誰もいないか」 速水奏「随分遅くなったわね」 P「そうだな、撮影押した上に渋滞とは」 奏「お疲れ様、Pさん」 P「奏こそお疲れさん」 読む →
2023年01月20日 15:30 後輩「先輩、呑みに連れてってください!」 元スレ 全てのレス 1:以下、名無しが深夜にお送りします:2017/08/06(日) 23:38:34 :meJ0QoLM 友人「お前、わかってたろ」男「なにをだよ」友人「後輩のこと」友人「お前、わかってて、フラれたろ」 読む →
2023年01月07日 21:00 SS「半透明な恋をした」 元スレ 全てのレス 1: ◆jkwYf2kqc.:2022/12/25(日) 22:50:48.56 :+0YS1G0z0 人は誰しも、思い出を抱えて生きている。 一分一秒と命を燃やし続ける限り、側頭葉には続々と長期記憶が蓄積される。その際受け取った印象が鮮烈であればあるほど、記憶は顕在意識として深く刻み込まれる。 思い出の在庫というものは、各個人によって多い少ないの差はあれども、長い道のりを征く中で一方的に増え続けていくことになる。 思い出の抱え方は人それぞれだ。 地にめり込むほどに思い出を引き摺り回す人もいれば、スノーボードみたく軽々と思い出を乗り回す人もいる。そこには正解も不正解もない。正義に明確な答えがないことと同じなのだろう。 『われわれが追い出されずにすむ唯一の楽園は思い出である。』 近世に名を上げた作家の一人であるジャン・パウルは、ある著書にこのような言葉を残した。 それはある側面では正しいことだし、もう一方の側面では酷く間違ったことだ、と僕は強く思う。 確かに、僕達は不意に立ち止まって、生き抜く中で必死にかき集めた思い出に浸り、ひと時の慰めを得ることはある。それはまさしく、誰にも干渉されず、また好きなだけ 引き籠っていられる素敵な憩いの場であると言えよう。その意味で思い出が楽園であることに疑いはないし、人が生きる上で、最後の絶対的な拠り所として思い出が君臨することにも異論はない。 だが別方向から眺めてみると、こうも考えられはしないだろうか。 もし、楽園の中に毒林檎が混ざっていたら?と。 楽園に長居すれば、人は必ず腹を空かせてしまう。これ幸いとよく熟れた林檎をもぎ取り、大きな口で瑞々しいそれを齧る。その瞬間、楽園で味わうはずのない苦痛の味が舌先に広がり、 辛抱堪らず顔を歪めてしまう。こんなものは食えたものじゃないと吐き出さずにはいられない。だがそれでは腹の虫は収まらない。そいつを宥めるために仕方なく、僕らはそこを発って食料を探しに行くことになる。 畢竟、他でもない自らが己を追いやる羽目になるのだ。 他の誰かに邪魔されることはないが、楽園であったはずの空間から逃げ出すのは自分自身である。それでも楽園で過ごした束の間の安楽は忘れられない。痛い目を見ると解ったうえで、僕らはまたそこに戻ってきてしまう。 要するに、思い出というものは酷く不合理な両面的存在だということだ。 もちろん、その霧の如く不確かで掴みようのないものをどのように捉えるかはその人次第だ。あくまでも僕はこう考えると言うだけの話だ。 2: ◆jkwYf2kqc.:2022/12/25(日) 22:58:23.65 :+0YS1G0z0 この世界に生を授かって二十年と少し、僕も多くの例に漏れず、山のように思い出を連れ歩いていた。ふと足を止め、振り返りその一つ一つを眺めてみる。 しかし、その大部分は一度も思い起こされることのなかった記憶たちだ。彼らは最早脳の検索が上手く行かないほどに重く埃を被っていた。 そんな腐るほどある灰被りの思い出の中に、一つ、宝石のようにきれいに磨き上げられた思い出が目に映る。改めて手に取ってみると、それは異様なほどに光り輝いていた。ともすれば限界以上に丁寧に磨き上げたせいか、もう元の輪郭が捉えられないようにも見えた。 しかしそれは、この思い出だけが何度となく楽園として機能したゆるぎない間接証拠とも言える。結局のところ、記憶に難色を示す僕もまた、所詮は立派な思い出廃人の一人だった。その果てに待ち受ける結末は必ずこの胸奥を切り裂くことになる。だのに性懲りもなく刹那的な快楽に身を浸してしまう。僕はそういう人間なのだ。 少し、集中力が切れてしまっただろうか。ジャン・パウル作 『目に見えぬ会話』の一節を読み終えると、僕は何気なく窓枠の向こうへ目をやった。 真昼の衛星都市は右から左へと早々に流れていく。僕は何を見るでもなく、茫然とその街並みを眺めていた。列車は単調な律動で上下に揺れている。揺動に合わせて、風鈴が軽やかに音を響かせる。 その穏やかなメトロノームが、自然な流れで僕を遠くの日々へ運びゆく。先程拾い上げた思い出が忘れられず、僕はまた輝きの中を覗き込もうとするのだ。 楽園の誘惑に抗えないことは重々承知していた。大人しく手元の古い書物を閉ざすと、僕は回送列車みたいに頭を空っぽにして、かつての回想に身を投じた。 今から僕が逃げ込む一生の楽園は、十一歳から十二歳までの約一年間だ。 始まりは、湿っぽい夏のある日だった。 3: ◆jkwYf2kqc.:2022/12/25(日) 23:04:46.67 :+0YS1G0z0 ♦♦♦ 名も知れぬ雑草を踏みしめ、左手でひび割れた樹皮を力強く掴む。片脚で力いっぱい踏ん張り、やっとのことで急勾配を登り切る。大きく息を吐き出す。それからすぐ空気を吸い込み、足りない酸素を補う。額から零れる汗が目に入らぬよう袖で拭った。 苦労して登り詰めた上り坂の先には、しかし特別な景色が広がっているわけではない。これまでと変わらない雑多な緑が生え広がっているだけであった。それでも、労力を掛けた分だけ見える世界は美しく見える。眼前に広がる光景を独り占めしようとするも、視界の端には先客が一人、僕の姿を認めていた。 一足早くゴールに到達した褐色の少年に向けて、僕は牽制するように軽く睨みを利かせた。 「今日も俺の勝ちだな」自慢げな面持ちで彼は言った。 「…うるさいな、日向」「たったの三秒差じゃないか。そんなので僕に勝った気でいるのか」僕は言い訳がましく言葉を返した。 日向、と呼ばれた色黒の少年は、僕が幼少期から仲良くやって来ている友達の一人だった。僕よりも頭一つ分背が高くて、肩幅も大きい。子供ながら体格に優れた奴だった。勉強はてんで駄目だったが、そんなものは当時の僕らに必要とされているものではなかった。 「なんだよ、負け惜しみか?」僕の意図を読み取ったらしい日向は、今度は憎たらしい笑顔で言った。 図星を突かれた僕も僕で、何か言ってやらないと気が済まなくなる。だが口を動かそうとした直前になって、今度は隣から二つ分の声が聞こえてきた。 「こっちからしたら、二人共充分速いんだけどな」「明日はお前が勝つんじゃねーの?」 遅れて到着した二人が、息を切らしながらそう言ってくれる。その言葉に一旦の納得を覚えた僕は、くだらない口論を切り上げることにした。この四人の面子で障害物競走の真似事をするのが、最近僕らの間で流行っている遊びだった。 草木は四方八方無秩序に生い茂り、厚い緑に遮られた陽光は不規則な形で大地を照らしている。樹木は蟻たちの移動路になっていて、蝉は至る所から音波攻撃を仕掛けていた。一度この状況を体験すれば、街に戻った時には音の失われた世界に突入したかに思えてしまうものだ。 4: ◆jkwYf2kqc.:2022/12/25(日) 23:10:06.38 :+0YS1G0z0 「じゃ、そろそろ戻ろうぜ」 飽きるほどの緑と土色の世界を眺め終えると、日向が肩を回しながら言った。僕ら三人もそれに同調し、今度は木々を足場として活用しながら急傾斜を下っていった。 来たときは汚れ一つなかった衣類は土で台無しになって、或いは枝に引っ掛けて破れてしまったりと、帰る頃には大目玉な状態と化していた。でもそれはいつものことだから、母さんも何も言わずにいてくれるだろう。 噂に聞くと、都会の子供たちは公園やテーマパークなんて場所でよく遊ぶらしい。一方、時代に取り残されつつある山間部の田舎町に生まれた子供にとって、男女隔たりのない一番の遊び場は山だった。 山には川があって、花が咲いて、木の実が落ちて、生き物が溢れている。その大自然の一つ一つが天然の遊び道具で、性別問わずあらゆる子供たちを魅了しているのだ。かくいう僕も同様に、山の虜になっている少年だったというわけだ。 平坦な地形の場所まで戻って来ると、そのまま真っ直ぐ進めば森の出口はすぐそこだった。森と田舎の境目で三人と解散すると、僕は家に帰ることなく、皆に悟られないよう気配を消してもう一度森の方へと向かった。 動機は至って単純だ。次の山登り対決で一等賞を取る為の特訓をしてやろうと思ったわけだ。いつも日向にはあと一歩及ばないのだから、明日こそはあいつを負かしてやりたかったのだ。 5: ◆jkwYf2kqc.:2022/12/25(日) 23:14:44.16 :+0YS1G0z0 そんな子供らしい対抗心を燃やしながら、早く移動することだけを念頭に僕は奥へ奥へと森を突き進んでいった。毎日のように入り浸っている森林なのだから、多少の土地勘は持っている、などと過信したのが間違いだった。 もう練習は充分か、と思って後ろを振り返ると、そこはどうにも見覚えのない場所だった。右へ左へと首を振っても、何か記憶に残っている目印が見える訳でもない。目に映るのは、足元に草木が茂り、疎らに雑木が立ち並んでいる光景だけであった。おろおろと変わり映えのない周囲を見回しているうちに、段々とどちらが北で東なのかも分からなくなり始める。そうして方向感覚が失われ、辿って来た道のりさえあやふやになったところで、ようやく背筋には一滴の冷や汗が流れ落ちた。 ──山で迷子になったのだ。 幼いながらもそれを認識するには充分過ぎる要素が揃っていた。こうなってくると、山地という場所の持つ意味合いが一転する。身体を伝う嫌な汗と同じように、心の淵からじわじわと何か畏れのような感情が浮かび上がってくる。 右へ行こうか左へ行こうか。その場で立ち往生している間にも日は傾き、緑の地面の上で小さな影法師が縦に伸びていった。迷っても仕方がない、と適当に一歩足を進めた時には、見上げる木々の隙間から薄い橙の色が伺えた。 もう日没までに時間がないと思った。山は上空が林冠で覆われているせいで日照時間が短くなりがちで、実際外はまだ夕方初めであることに、当時の僕が気が付けるはずもなかった。 一人で山を下りるとなると、途端に途方もない孤独感が襲い来る。誰かが傍に居てくれると心地良く感じる森林は、打って変わって凍てつくような空気を醸し出していた。身体中を外側からも内側からも押さえつけられている気分で、日向の鼻につくような笑顔も今は恋しかった。 6: ◆jkwYf2kqc.:2022/12/25(日) 23:17:03.91 :+0YS1G0z0 心細い時に限って、蝉しぐれはやけにうるさく聞こえる。しかしその鳴き声は僕を勇気づけることはなく、寧ろ僕こそが世界の異物であると言わんばかりに、彼らは執拗に人間を責め立てていた。 その爆音が心身の圧迫に拍車をかけた。森の出口を目指す足取りは急激に速まる。心臓は大きく乱れ打ち、呼吸が浅くなっていく。しかしいつまで経っても木々の終わりが見える様子もない。言い表せない恐怖に心が屈し、喉から堪え切れない悲鳴が飛び出す寸前のことだった。 そこは、一際大きな古木の聳え立っている場所だった。いつもならその偉大な姿を見上げる余裕があったろうが、僕は無視してそこを通り抜けようとした。 ちょうど大樹から三歩ほど進んだところで、背後から何か物音が聞こえた。 音の大きさからして、小動物や虫が飛び出したわけではなかった。明らかに大自然の規則から外れた音色を、己の聴覚が鋭く捉えたのだ。 たったそれだけのことで蒸れた体温が一つ分下がり、僕の身体は金縛りにあったように強張った。足が杭に打ち付けられたように動かない。その間にも動悸は尋常じゃない速度で激しさを増していく。是が非でもこの場から逃げ出すべく、頭の中では緊急サイレンの唸り声が響き渡った。 とうとう過度に力の伝わった両足が震え、身体は一目散に前へと飛び出そうとした。だが相反するように、背後の謎を確かめるべく頭はそちらに振り返ろうとした。結果、僕は左脚を前に踏み出したまま顔を背後に向けるという、なんとも中途半端な体勢で音の正体を突き止めようとした。 眼球が捉えたのは、全身が黒に染まり切った細長い人型の『何か』だった。 7: ◆jkwYf2kqc.:2022/12/25(日) 23:20:42.38 :+0YS1G0z0 思考は遠くへ放り投げられた。僕は愕然としたままに地面に映ったそれを凝視していた。 数秒その状態が続くと、ゆっくりと黒のシルエットがこちらに向かって動き出した。思い出したように顔を上向け、しかし僕はまた固まった。認識した光景が、にわかに信じ難いものだったから。 そこに居たのは、僕と歳が変わらないであろう少女であった。 ベージュっぽくもあり白っぽくもあり、いわゆるアイボリーカラーの薄っぺらいワンピースをその少女は身に付けていた。サンダルか草履か、日焼けを知らないように真っ白な肌は素足にまで露出している。肩に掛かるか掛からないかの長さの黒髪は日差しを飲み込むかの如く光沢のある艶やかさを誇っており、つぶらな瞳は大きく丸々としていて、僕は思わず吸い込まれるように両目を見つめてしまった。まるで彼女が世界の中心であるかと言わんばかりだった。 少女の影が細長く見えたのは、橙色に輝く斜陽のせいばかりではない。背は僕と同じかそれより低いぐらいだが、その柔らかなラインを描く体つきには女性特有の華奢さが秘められていた。その整った小顔にしろ流れる睫毛にしろ、彼女はまさしく、黄金比の体現者であった。 いま目の前にいる彼女は、一言で言い表すのならば、可憐な少女であった。 しかし同時に、僕は彼女にある種の違和感を覚えていた。それはまるで地底で星空を眺めるように、薄暗い路地裏で深窓の令嬢と出会うように、この少女には山という空間がまるで似合っていなかったからだ。 色素が抜け落ちたみたいに透き通った肌をしている清純な少女は、とてもじゃないが森林に入り浸り山を駆け回るような人間には思えなかった。場違いで奇妙で、何処か歯車が一つ分ズレているようで、しかしその全てが彼女のために存在しているような、言わば必然的なシンクロニシティがその場に演出されていた。 8: ◆jkwYf2kqc.:2022/12/25(日) 23:25:25.56 :+0YS1G0z0 たっぷり数秒の間、僕は黙りこくって少女に視線を送り続けていたわけだが、対して少女もまた、ただでさえ丸っこい目をより一層丸めてこちらを眺め続けていた。 先に沈黙を破ったのは少女の方であった。ほんのりと桃色に染まった薄い唇が柔らかい動きを見せた。 「どうして君は、こんな場所に居るの?」 周囲にひしめくアブラゼミの鳴き声が、力んだ弓で演奏される擦弦楽器であるとするのならば、こちらは微風に揺られた風鈴の奏でる淡い響きであったとでも言えばよいのだろうか。細く、柔らかく、小さな声量であったが、その声には雑音にかき消されない芯のある張りが感じられた。 それが単なる音の調べである以上に、少女から発せられた言葉であったということを認識するまでにやや間を必要とした。ようやく脳髄に彼女の言葉を反響させた頃に、僕は反射的に答えていた。 「なんでって、山で遊んでたからだよ」 僕は涼しい顔でうそぶいた。山で迷った、などと正直に答えるのは恥ずかしかったのだ。そんなことは知らずに、僕の答えを聞いた少女はその言葉を咀嚼するように瞳を閉ざし、次いで目を細めた。 「そっかぁ。君にとってこの場所は遊び場なんだ」 9: ◆jkwYf2kqc.:2022/12/25(日) 23:28:44.41 :+0YS1G0z0 「そっちだって、その口だろ?」と今度は僕が何気なく問い掛けた。 「んー、どうだろうね?」少女はのらりくらりと質問をかわした。彼女は人差し指を立てながら続けざまに言った。 「ね、このあたりから山を下りる近道、君は知ってたりする?」 「いや、知らないな」 今一番欲している情報の手がかりをつかんだ僕は、しかしそれを悟られないよう努めて冷静に言い返した。だがどういう訳だろう。僕が彼女から視線を逸らしているうちに、辺りには鈴を転がすような笑声が木霊した。 「じゃあ、折角だし教えてあげる」「このまま真っすぐ進んで行ったら、森の切れ目が見えてくるはずだよ」くすくすと上品な笑い声を抑えた彼女はあちらに手を向けた。 彼女が指差す方角を忘れぬよう目に焼き付け、「ありがとう。助かった」と僕は短く言葉を返した。少女は間を置くことなく「どーいたしまして」と上機嫌に言った。 脱出経路を確保した今、僕はとにかく山を下りることしか考えていなかった。これ以上得も言われぬ不安感に苛まれるのはごめんだった。電柱でも軽トラでもなんでもいいから、何か人の軌跡を見て些細な安堵を得たかった。 10: ◆jkwYf2kqc.:2022/12/25(日) 23:32:18.03 :+0YS1G0z0 助言を皮切りに、僕は彼女に背を向けた。そして草地を一歩踏み出したその時だった。 「あっ」 後方六メートルあたりから、先程の良く澄んだ声が響いた。後ろ髪を引かれるように振り返ると、少女は恐る恐るといった様子で尋ねてきた。 「えっと、君は山でよく遊ぶんだよね?」 僕がその言葉にすぐ首肯すると、「じゃあ、明日もこの場所に来てくれるの?」と彼女は興味深そうにまた尋ねた。 しかし、今度は二つ返事とはいかなかった。闇雲に山を駆け巡った挙句辿り着いたこの場所に、明日もやって来れるのかと問われると、無責任な約束は出来なかった。 「どうかな。それは分からないけど…」 それ故、僕は曖昧な返事をした。途端、少女の表情が僅かに曇ったのを僕は見逃さなかった。なるほど、彼女は山で一緒に遊んでくれる友達がいないのか。だからこんなところに一人でいるんだ。と勝手に納得した僕は「そっちも来るのか?」と試しに尋ね返した。 少女は気恥ずかしそうな笑みを浮かべた。「うん、そんな感じ。だから良かったら、明日も会えないかなー、って」 頬を掻く彼女を眺め、同情心六割、恩返し二割と善意一割、そして残りの一割を合算した結果、僕は浅いため息を吐き出した。 「分かった、約束するよ」 11: ◆jkwYf2kqc.:2022/12/25(日) 23:36:23.11 :+0YS1G0z0 了承を受けた少女は、太陽が雲の切れ目から覗いたみたいに表情を輝かせた。その単純な様子を前に、僕は思わず相好を崩していた。緊迫していた神経が僅かに緩み、残りの道中を恐れる微かな気持ちは何処かへ吹き飛んでしまった。「本当!?楽しみにしてるね!じゃ、また明日!」彼女は僕に向けて無邪気に手を振る。同じように手を振り返し、僕は彼女の指差した先を歩いた。 緩やかな山道を下っていくと、やがて森の端が伺えた。その先には懐かしい灰色のアスファルトが垣間見え、それを目にした瞬間、我慢ならなかった僕は飛ぶようにように出口に駆けて行った。 茂った植物を身体ごと突き抜けると、なだらかなカーブの坂道が僕を待ち受けていた。車体で何度も擦られたガードレールは傷だらけになっており、くすんだカーブミラーが西日を反射していた。 やっとのことで人間様がのさばる世界に戻って来たのだ。見慣れた人工物を拝むや否や、身体は一気に脱力した。思わずその場で膝をつきそうになったが、僕はそれを堪えてゆっくりと坂道を下り始めた。 折角山から抜け出せたのに、そこはまた見知らぬ土地だった、などと言うことは起きまい。そのまま道に沿って慣れ親しんだ農道を通り抜けると、僕はまもなく帰路へと着いた。 12: ◆jkwYf2kqc.:2022/12/25(日) 23:41:46.49 :+0YS1G0z0 暗く閉ざした瞼の向こうで、眩い朝日が差し込んでいる気がした。眠っているとも起きているともつかない、不明瞭ないつもの寝覚めだ。身体に先立って意識だけが覚醒の手順を辿り始める。身体がそれに追いつくように何度か寝返りを繰り返した。ようやく神経系が起床を把握したところで、僕はゆっくりと寝床で目覚めた。 薄い掛布団を払い除け、蒸れた両足で藺草を踏む。窓に向かって身体をほぐしながら、ぼうっと外の世界の様子を確かめる。 照りつける白い太陽、眼下に広がる青い畑、遠い蝉の声。今日も今日とて、世界は青空に覆われている。 それらを形式的に認識すると、僕は目を擦りながら洗面所に向かった。ぬるい水で顔を濡らし、程よい爽やかさを感じる。床鳴りが激しい階段を降りると、風に運ばれた香ばしさが胃袋を刺激した。 「おはよう。ちゃっちゃと食べちゃって」 匂いに惹かれて居間に辿り着くと、こちらに気が付いた母さんが僕に挨拶を投げ掛けた。もう化粧は完璧に済ませているようで、今は朝の準備に追われているようだ。 一方急ぐ必要のない僕は同じような言葉を返し、食卓にて合掌。天気予報を横目に朝食を食べ進めていくと、徐々に頭が糖分を取り込んでいった。 13: ◆jkwYf2kqc.:2022/12/25(日) 23:46:00.27 :+0YS1G0z0 ふと昨日のことを思い出した。というのは、今日はあの少女と遊ぶ約束を交わしたことだ。と同時に、その約束に一つの重大な欠点を発見する。僕は彼女と待ち合わせる時間を決め忘れていたのだ。 一見なんともなさそうに思えることだが、これは深刻な問題だ。いつもの面子で集まるのならば身内での不文律が通用する一方で、昨日であったばかりの少女とはそうもいくまい。メモに残すなどの成文律が必要とまでは言わないが、何かしらの口約束はしておくべきだったろう。幸い集合場所は判明しているが、遊ぶ時間が分からなければ、それだけですれ違いの生じる恐れがあるのだ。 とは言ったものの、では昨日と同じ時間に向かったとして、あれでは日暮れ前で遊ぶ時間が皆無であることは簡単に想像のつくことだ。となると、朝ご飯を食べたらすぐに向かうべきだろうか?いや普通に考えて、お昼頃からなのだろうか? 「食欲ないの?」 形式的な確認の声掛けが、僕を思考の海から釣り上げた。どうやらすっかり箸が止まっていたらしい。時間のない母さんに急かされ、僕は慌てて汁ものを飲み干した。 14: ◆jkwYf2kqc.:2022/12/25(日) 23:50:36.68 :+0YS1G0z0 連日晴天が続いており、お天道さまは今日も遮蔽物のない田圃道をこれでもかと照らし出している。数歩足を進めるごとに、路肩の小さな茂みから蛙が飛び退いた。干乾びないよう水田に逃げ込んだ彼らは、残念ながらそこに安息を見出すことはできない。白鷺にとって格好の獲物になることだろう。 あれから少し経った今、僕は昨日辿った細い農道をたどたどしく逆行していた。当然その理由は、彼女との約束を守る為だった。 色々と考えた結果、お昼過ぎというのが一番無難ではないかという結論に落ち着いた。もちろん、遊ぶ時間を示し合わせることを忘れた以上、彼女との約束をなかったことにしてしまうという選択肢もあるにはあった。日向達との遊びであれば、そうする可能性も大いにあり得ただろう。 だが、昨日の独りぼっちな少女の様子を見た身としては、そういう訳にもいかなかった。ようやく一緒に遊べる人が見つかったというのに、期待のその人にまで無視されるなんてことがあれば、いくらなんでもあの少女が可哀想ではないか。誰かを傷付けると解っている上でその行動を選べるほどに、僕は温かくない人間ではないのだ。 15: ◆jkwYf2kqc.:2022/12/25(日) 23:54:12.14 :+0YS1G0z0 森の入り口に辿り着いた頃には、シャツはびっしりと汗を吸っていた。太陽熱を直に受ける頭は暑くて敵わない。帽子でも持ってこれば良かった、と思いつつも僕は木陰の多い山に忍び込んだ。 自然のさざめきに包まれながら、妙に覚え易かった山道を登っていく。案外迷うことなく突き進んでいくと、目印の大樹が伺えた。昨日の見間違えだったというわけではないらしい。それは周囲の木々と比べても一段と背が高く、両手を広げても到底抱えられないような太さの幹を持った巨木だった。 しかし、そこに肝心の少女の姿は見えなかった。場所を間違えたとは思えないし、大方彼女は来なかったという結果なのだろう。少しも残念でなかったと言えば噓になるが、その事実に特段何を思うこともなく、僕は踵を返そうとした。 「あっ、来てくれたんだ」 何処からともなく澄んだ声が聞こえてきたかと思ったら、大樹の裏から小さな影が飛び出した。昨日と同じ白いワンピースを身に着けた彼女は手振りを交えながら挨拶すると、昨日と変わらない様子でこちらに笑い掛けてくれた。彼女も今し方来たところなのか、或いは過剰な灼熱から逃れるために古木の日陰で休んでいたのかもしれない。 16: ◆jkwYf2kqc.:2022/12/25(日) 23:58:56.40 :+0YS1G0z0 「こっちだよ」と手招きされた僕は、彼女と同じように木陰の恩恵に預かった。少女は僕のすぐ隣で幹に背を預け、当たり障りのない会話を切り出した。 「随分早かったね~」 「…まぁ、遊ぶ時間がなくなったらあれだしさ」 その旧友に喋り掛けるような軽い調子を前に、僕は少々言葉に詰まってしまった。目の焦点をあちらこちらに動かしながら、頭を掻いて言葉を返す羽目になった。 何も自慢できるようなことではないが、僕には特別仲の良い女の子はいない。普段行動を共にしている日向達が女子の大グループと対立しているものだから、当然のように僕も彼女らと親身にする機会がないのだ。 だから客観的なことを言えるわけではないし、これは僕の気にし過ぎなのかもしれない。しかしそれを加味しても彼女は物理的にも精神的にも距離が近いと言うか、だがまぁ、一緒に遊ぶ約束をした手前もう友達みたいなものなのかもしれない。 適当な所でそれを割り切った、若しくは自己解決したことにした僕は、そこからは目の前の彼女が日向達であるように振舞った。 「そんじゃ、今から何して遊ぶんだ?」 第一声とは打って変わって、僕が少女の目を見てハキハキと問い掛けた。対して彼女は入れ替わるように視線を下向け、「ん~…ん~…」と悩ましそうな唸り声を上げた。それを十数秒続けた後になって、彼女はようやくこちらに目を向けた。 17: ◆jkwYf2kqc.:2022/12/26(月) 00:02:46.17 :R2psYaIn0 「君はいつも、何して遊んでるの?」 もしかしたら、彼女もこういう場所で男の子と遊ぶのは初めてなのかもしれないな。質問返しをされた僕は少女に一種の共感を得つつも、何気ない日々の記憶を辿った。 「僕、か。そうだな…僕は普段、虫を捕まえに行ったり、何気なく山の中を巡ったり…後は、最近だと山登りの勝負とか──」 「それ!それにしようよ!」 日向達との下らない時間を言葉にしていると、突如として彼女が大きな声をあげた。僕はびっくりして口を閉ざした。僅かな沈黙が訪れると、少女はそれがさも不思議でならなそうに首を傾げた。 「虫取り?」 恐らく、少女はこちらの言葉を待っている。それに気が付いた僕がそう訊ねると、彼女は小さく首を横に振った。女子は虫が苦手な子も多い。そんな固定観念に僕は落ち着いた。 「…山巡り?」 二度目の問い掛けに対して、彼女はまたも首を横に振った。十中八九で彼女がここで頷き、これから適当に散策することになるだろうと思っていた僕は当てが外れたことに驚いた。 「……山登り対決?」 「うん!競争しよーよ!」 よもや有り得ないだろうと思っていた第三の選択肢を、僕は半信半疑でゆっくりと訊ねた。彼女は清々しいまでの笑顔で首肯した。 まず己の耳を疑った。次いで言語を解釈した脳内を隈なく検査した。そのどちらもに異常が無いことを確かめた上で、最後に少女へと疑心を向けた。疑念の視線をぶつけられた彼女は、何故だか申し訳なさそうな表情を作った。 「…えっと、もしかして、嫌だったりする?」 「いや、嫌な訳じゃない。ただ…その、勝負にならないんじゃないかなー、って」 僕が歯切れの悪い様子で言葉を返すと、少女は心外そうに頬を膨らませた。 遊びの方針を打ち立てた僕らは、適当な斜面を探すために集合地点を出発した。彼女はこの辺りについて詳しいようで、すぐに手ごろな登り坂を見つけ出せた。実際には無いのだろうが四十五度ぐらいありそうな急斜面では、木々がそれに逆らうよう真っすぐ天へと伸びていた。 18: ◆jkwYf2kqc.:2022/12/26(月) 00:07:07.19 :R2psYaIn0 「じゃあ、ここのてっぺんまで先に着いた方が勝ちだからね?まぁ、私は負けないだろうけど」 実力を下に見られたのが余程腹立たしかったのだろう。さっきから少々ご機嫌斜めな彼女は隠すことなくこちらに敵視をぶつけ、威勢よく言った。 その言葉に軽く頷き返すと、僕はすぐに勝負のコースへと視線を移した。あの木々を支えにして、そこの岩を取っ掛かりにしようか。といった具合にレースを勝ち抜くためのルートを模索し終えた僕は、準備完了の意を示した。少女も作戦を練り終えたのか、ゴールに視線を固定させながら大きく言った。 「よーいどん!」 せめてカウントダウンぐらい取ってくれ。心の中でそんな悪態をつきながらも、僕はゴール目掛けて勢いよく駆け出した。目星を付けておいた岩を蹴り上げ、左手で太い枝を掴む。似たような動きを何度か続けたところで、目標地点までは後どれくらいだろうか、と僕は視線を上向けた。 今度は自分の目を疑った。何せ、ついさっきまで隣に居たはずの彼女が既に二歩も三歩も僕の先を行っていたのだから。余りの驚愕に足はそれ以上動かず、僕は彼女の動きに釘付けとなった。 一体、あのか細い身体の何処にそんな力が隠されていたのだろうか。彼女は流れるように木々を掴み、平地を走るのと変わらない調子で斜面をトップスピードで駆け続けていた。 圧巻であった。もしや彼女の背中には翅が生えているのかと錯覚するぐらいに、その動きはこの上なく洗礼されていた。その華麗なる舞踊に目を奪われている内に、彼女は瞬く間にゴールへと辿り着いてしまった。 井の中の蛙大海を知らず。当時の僕がそんな言葉を知っている訳もなかったが、知識ではなく実体験としてそれを思い知ることになった。田圃で王者を気取っていた蛙が、大空からやって来た鳥たちに悠々と喰われてしまったみたいだった。 彼女と比べると随分遅れてゴールに到着した僕は、その急こう配に息絶え絶えだった。一方彼女はと言えば息を切らした様子もない。一から十まで彼女の独壇場であったことを痛感し、天狗の鼻をへし折られた僕は何も言えなかった。対する彼女は勝ち誇った笑顔で、こちらに勝利のvサインを見せつけてくれた。 19: ◆jkwYf2kqc.:2022/12/26(月) 00:11:21.91 :R2psYaIn0 如何にもわざとらしい様子で煽り文句を頂戴されたわけだが、こうにまでも完膚なきまで打ちのめされては、いつものように負け惜しみをすることさえ憚れた。嫌味のない素直な拍手を送ってやると、彼女は満足そうに頷いてくれた。 山登りで急上昇した心拍数を整えている間、僕はいつもの如く呆然と周囲を俯瞰した。草が伸びて木々が生え渡り、それを蔦植物が覆い隠している。林冠で遮られた太陽光がまばらに差し込み、幾つもの透明なカーテンを作り出している。耳を澄ませば小鳥の羽ばたく音色が反復していて、そのどれもがいつもと変わらない森中であった。 だけど、いつもと一点違っていることがある。普段は聞こえないはずの柔らかな声が、すぐ隣から僕の耳奥を擽るのだ。 「ね。君はさ、この植物が何か分かる?」 透き通った音色と共に、彼女はすぐ足元を指差した。そちらに視線を向けるも、そこに何か目ぼしい草木が見えることはなかった。僕が目配せで疑問を呈示すると、彼女は身を屈めてその植物に触れた。 「ほら、よく見てよ。君も見覚えあるんじゃない?」 20: ◆jkwYf2kqc.:2022/12/26(月) 00:14:19.93 :R2psYaIn0 彼女が優しく撫でた植物は、大きな丸い葉が特徴的な、だがどこにでもありそうな背の低い野草であった。それも凛々しく一本咲き誇っている特別なものという訳でもなく、向こうの方にまで群生しているもののうちの一つだ。 再び少女へと視線を向けてみると、彼女は今にもため息を吐き出しそうな表情を作った。「蕗だよ、蕗。ほら、蕗の薹とか聞いたことない?」 ようやく聞き覚えのある名前を耳にした僕は、謎の植物の正体に得心した。「あぁ、フキノトウだったのか。でも、全然見た目が違うんだな」 確かに、フキノトウは頻繁に食卓に並んでいる気がするが、目の前の野草は僕の見知った姿とは似ても似つかなかったわけだ。こちらの疑問の本質を見抜いたのか、彼女は意気揚々とその口を動かした。 「だって、蕗の薹は春の野草だからね。蕗は今みたいな暑い時期に採れるんだよ?あっ、蕗の薹って言うのは、蕾の部分を食べるんだけどさ、蕗は葉っぱの部分も食べられるから、言ってしまえばこの子は二度美味しい山菜で──」 それからも少女は間欠泉のように止めどなく蕗の魅力を語り続けた。僕は適当な相槌を打ちながら彼女の話に耳を傾けていた。それはいつまでも聞いていられそうな語り口だったけれど、ある時、「あっ」と彼女は小さな声をあげた。 21: ◆jkwYf2kqc.:2022/12/26(月) 00:16:39.24 :R2psYaIn0 僕と少女の目と目が合う。途端に饒舌であった彼女の口先は固く結ばれ、やがて茹蛸みたいに顔を一色に染めあげた。その分かりやすい様子に僕が笑い声を洩らすと、彼女はしどろもどろに取り乱した。 「ご、ごめんね。わたし、ちょっと夢中になっちゃって…退屈だったよね」少女は取り返しのつかない失態を犯したように目を伏せ、つっかえながらそう言った。 「そんなことない。聞いていて面白かったし、為になった」そんな卑屈が過ぎるとも取れる彼女の言動に、僕は反射的に返事をしていた。 「…ほんと?」彼女は逸らしていた視線を上向け、慎重に訊ねた。「あぁ、嘘じゃない。もっと聞きたいぐらいだ」僕が何の迷いもなくそう答えると、彼女はほっと笑みを零した。 それ以降、登った急斜面を下って元の集合場所に戻るまでに、彼女は森のあちこちを指差しては次から次へとその手の豆知識を披露してくれた。そのあれやこれやについて、僕は子守唄を聞くように拝聴し続けた。 大樹の傍まで戻って来ると、今度の彼女は年季の入った樹木の枝先を指し示した。そこでは、樹皮の茶色に混じって青い蝉が鳴き声を響かせていた。 22: ◆jkwYf2kqc.:2022/12/26(月) 00:19:14.87 :R2psYaIn0 「この鳴き声はどの蝉だと思う?」 そいつは蝉の中でも一際高い音を奏で、消え入るような締め括り方をする。そして鳴き始めるのは、大体空が赤く染まり出した時だ。そこまで判断材料が揃っていれば、間違うことなど有り得なかった。 「ひぐらしだろ?」 「おー、正解。意外だったなぁ」 「虫のことには自信があるんだ」 彼女は心底驚いたような表情で、大袈裟に胸を張る僕を眺めていた。もしかせずとも、僕は今日初めて自信満々になれたんじゃないだろうか。山のことに関しては知識でもフィジカルでも敵わなかったけど、昆虫についてまでそういう訳にはいかないぞ、と僕は意気込んでいたというのに、彼女はにやりとした笑みを浮かべて忘れず言ってくれるのだ。 「植物に関してはてんで駄目だったけどね~」 「そっちが物知りすぎるんだよ」 流れるように言葉を返し、僕らは示し合わせたみたいに小さな笑い声を洩らした。僕は他人事のように、彼女とのやり取りにもだいぶ慣れてきたことを実感した。 これなら大丈夫そうだ、と彼女に対する過度な気遣いを止めたところで、不意に気が付いた。今日一日、何かが欠けているような気がしてならなかったが、ようやくその謎が解けたのだ。 23: ◆jkwYf2kqc.:2022/12/26(月) 00:21:32.60 :R2psYaIn0 一度それを意識し始めると、縫い針に糸の通らないようなもどかしさが身体中を撫でた。時間的にもそろそろお別れだろうし、タイミング的にもここしかないのではないだろうか。あとになって訊ねたりしたら、それこそおかしいのではないだろうか。だがなんにせよ、早く訊ねておかなければ。 不思議な強迫観念に駆られた僕が「なぁ」と会話の切り出すと、彼女はこちらに目を向けてくれた。一日一緒に遊んだ上で、今更こんなことを聞くのも奇妙な話だとは思ったが、僕はこう言ったのだ。 「あのさ…君の名前って、なんなんだ?」 思い返せば、僕は彼女の名前を知らないまま今日一日を共に過ごしたわけだ。適当な代名詞で会話を成立させていたが、これからもそれを続けるわけにはいかないだろう。何か理由があるわけではなかったが、僕は僅かに手汗を滲ませ、割れ物に触れるような慎重さで彼女の名を訊ねた。 すると名無しの少女は、ほんの少しばかり身を強張らせた。それはよくよく考えてみると不自然ではあったが、通常であれば気にも止めないような間の置き方とも言えた。だから当時の僕はそれを気にすることはなかったのだと思う。彼女の一足遅れた沈黙は僅か一瞬のことで、すぐに無邪気な笑顔が戻ってきた。 24: ◆jkwYf2kqc.:2022/12/26(月) 00:24:06.10 :R2psYaIn0 「んー、なんだと思う?当ててみてよ」 「え?」 唐突な無茶ぶりに、僕は思わず頓狂な声をあげた。現実的に考えて、なんのヒントもなしに名前を正確に言い当てるなんてことは不可能だと思えた。 「冗談だろう?」と僕が苦笑いを浮かべるも、彼女は微笑んだままこちらの答えを待つのみだった。そこから、彼女が自発的に名乗り出るつもりは微塵もないことが良く伺えた。無理だ無理だとは思いつつも、最終的には、僕は彼女の名前を推測することに決めた。 数分か数秒か、彼女とのささやかな交友期間を振り返ると、頭の中には驚くほど流暢に答えが浮かび上がっていた。導き出した言葉は一切つっかえることなく喉奥を通り抜け、だが言葉と化す前にもう一度吟味の機会を得るべく、一旦腹の中に納まった。 反復するように脳内でその名前を呟き、それを目の前の彼女に重ね合わせる。その行為を繰り返せば繰り返すほど、やっぱり彼女にはこの名前が似合うと思えたし、何より一度思い浮かんでしまえば、もうそうであるとしか考えられなかった。大袈裟に言ってしまえば、良く晴れた夜空には必ず星々が煌めくように、その名前こそが世界の理であると、彼女のあるべき姿を証明するに違いないと、僕は疑いなく信じられたのだ。 気づかぬうちに、口の端から彼女の名前が零れ落ちていた。 25: ◆jkwYf2kqc.:2022/12/26(月) 00:27:04.76 :R2psYaIn0 「…鈴音…」 その独りごちるような小さな呟きは、蝉しぐれに掻き消されてしまっただろうか。伏し目を上げて少女の方を見やると、彼女は瞳を閉ざし、胸に両手を当てていた。そして口元を緩く綻ばせ、やがてゆっくりと瞼を開いた。 「鈴音…うん、良い名前だね。じゃあ、今日から私は鈴音だよ」 答えの当否には全く触れることなく、彼女は良く分からないことを宣った。一日中振り回され続けている僕は、また振り落とされないよう必死に空間にしがみ付きながら彼女に言葉を返した。 「今日から?」僕の疑問を受け取った彼女は大きく頷きながら言った。 「そそ。せっかく君がくれた名前なんだから──って、もう君じゃ駄目だよね。ほら、君も名前教えてよ」彼女は催促するように僕の目を見据えた。偽名でも使おうか、なんてことが一瞬脳裏に過ったが、結局僕は彼女の要望通りに自らの名を告げた。 26: ◆jkwYf2kqc.:2022/12/26(月) 00:29:06.04 :R2psYaIn0 「…千風…だ」 まるで記憶喪失者のように、僕は覚束ない調子で名乗りを上げていた。何故かはわからないが、これまで何度となく自己紹介を繰り返してきたはずなのに、この時ばかりは妙に自分の名前に自信を持てなかったのだ。 不安そうな僕に気が付いたのか否か、「君も良い名前なんだね」と彼女は優しく言葉を返してくれた。その時、僕は不思議と心が温かくなったのを覚えている。その柔らかな声は、往々にしてある心にもないお世辞ではなく、彼女が心から僕の名前を褒めてくれているような気にさせてくれたのだ。 「千風くん、千風くん」と彼女が発音の抑揚を確かめるように数度僕の名前を繰り返している間、僕は先程の言葉の意味について吟味していた。彼女に名前を呟かれる度に背中がこそばゆくて上手く頭が回らなかったが、恐らく、彼女の言い草からして本当の名前はまた別にあるのだろう。要するに、彼女はあだ名みたいなものとして「鈴音」という名前を受け入れただろうと、僕はそんな結論に至った。 だが何はともあれ、この時初めて少女は鈴音になって、僕は千風になったのだ。 27: ◆jkwYf2kqc.:2022/12/26(月) 00:34:46.33 :R2psYaIn0 「そろそろ良い時間かなぁ」 彼女は不意と呟き、徐に顔を上向けた。その先に僕もまたゆっくりと視線を移した。木々の隙間から伺えるはずであった青色は、いつの間にか塗装屋の手に掛かっていたらしい。知らぬ間に見事なまでの赤黄色へと塗り替えられていた。その中で一匹黒いカラスが、一日の終わりを告げて回るように空を旋回していた。 一日の初めと終わりを直接繋ぎ合わせたみたいに、今日という日は瞬く間に過ぎ去っていった。もう日照時間が終わってしまうのが名残惜しいぐらいだった。 日が沈むと言うことは、当然僕らにもお別れの時間がやって来るわけだ。まだまだ遊び足りなそうに空を眺める鈴音を見ていると、夕陽をもう一度東側に引っ張ってやりたくなった。何か言葉で示し合わせたわけではないが、僕らはお別れの準備をしていた。大樹を境に僕は向こうへ、そして彼女はあちらへと足を向けた。 「それじゃあ、またね、千風くん」 「ああ、またな、鈴音」 28: ◆jkwYf2kqc.:2022/12/26(月) 00:39:35.85 :R2psYaIn0 そうして確かめるようにお互いの名前を呼び合うと、やがて僕らは離れ離れになった。緩やかな下り坂を辿り、森の切れ目に辿り着いたところで、僕は突発的に二つのことに気が付いた。 気づいたことの一つ目は、また詳細な待ち合わせをし忘れたことだった。しまったと森の方に首を向けたが、僕がもう一度山に向かうことはなかった。なるようになると思ったのだ。実際、今日の僕らは問題なかったわけだから。 そしてもう一つは、僕は彼女の名前を知りたくなったその時から、『また』が確実に訪れるものだと無条件に信じていたことだった。何気なく発見した事実に疑問を提唱してみるも、山のことを知り尽くした鈴音に感心した。だからまた一緒に遊んでみたくなった、程度のことしか思い浮かばなかった。いや実際、当時は本当にそうとしか思っていなかったのだと思う。 とは言え、その時の僕にはそんなことに目を向けるだけの余力はなかった。今はただ彼女の名を忘れぬよう、あぜ道の先に見える大きな斜陽を目指しながら、何度も何度も脳内で君の名を唱え続けていたのだから。 このようにして僕らの一日目は終わりを迎え、続く日々が幕を開けた。 29: ◆jkwYf2kqc.:2022/12/27(火) 19:47:14.95 :ik+D4jwf0 ♦♦♦ それからというもの、陽が頂点に昇り世界が明るく照らし出されると、僕らは毎日のように山中で落ち合った。 鈴音は生ける辞書のように新鮮な知識を溜め込んでいて、度々飛び出してくる智恵はそのどれもが刺激的だった。昨日よりも今日、今日よりも明日と、僕は鈴音から生の情報を味わうと、日を追うごとに彼女と遊ぶことが楽しみになっていった。自室の窓際にてるてる坊主を垂らして、明日も晴れますようにと健気にお祈りするぐらいだった。 だからこそ、瞼の裏を刺激する目覚めの日差しが弱く、加えて一定間隔で屋根を激しく叩く音が聞こえてきた時には酷く気分が落ち込んだ。先ほどほぼ毎日と言ったのは、例えば雨の日なんかは流石に山には入れないからだ。 これが小雨程度であれば、遊び時間の午後までに止む可能性もあり得るだろう。だが傘が押しつぶされそうな程の土砂降りとなると、それも無理な話だった。 その日の雨模様は、まるで遥か天空から何者かにバケツをひっくり返されているかのように勢いに凄味があった。アスファルトの上は曇天を映し出す鏡みたいに雨水で覆われており、歩く度に道路に跳ねた雨粒が足首を襲った。靴下が雨水にやられるのが先か、それとも僕が屋内に逃げ込めるのが先か、なんて馬鹿らしいことを考えているうちに、僕は目的地まで辿り着いた。 30: ◆jkwYf2kqc.:2022/12/27(火) 19:57:52.30 :ik+D4jwf0 そこでは平屋式の建物が僕を待ち構えていた。横幅は一軒家のニ、三倍以上は裕にあるだろう。何枚もの窓が敷き詰められているのが特徴的で、それは自然採光を意識した結果なのだと思う。もっとも、今日はその目論見も全く機能していないのだが。 重い引き戸を潜り抜けると、館内は薄暗い電灯で照らし出されていた。子供にとってはちょっとした大空間であるその場には、かび臭いのような、それでいて落ち着く香りが漂っている。 豪雨で一層湿っぽかった空気は、空調設備によって快適に保たれていた。辺りを見渡すと利用客がちらほらと伺える。僕も同じように慣れた調子で縦列に並ぶ幾つもの本棚を通り抜けていった。 奥まで行って左に曲がると、そこにお目当ての本棚があった。うちの一つである分厚いその本を両手で抱えると、一目散に休憩スペースへ向かう。こちらはまだ誰も居ないようで、僕は気兼ねなく椅子を一つ占領し、大きな冊子を途中から捲り始めた。空気の流れる音と本を捲る音だけが周囲を湛えていた。もし静けさに音があるとすれば、この空間のことを意味するのだと僕は思う。 31: ◆jkwYf2kqc.:2022/12/27(火) 20:04:53.70 :ik+D4jwf0 かなり集中していたらしい。知識を詰め込む作業に限界を感じて、僕は一度本から目を逸らした。凝り固まった筋肉を解すように、大きく伸びをして前方を向いた。 そこで気が付いた。僕の前の席に一人の女性が腰掛けていることに。 年は二十代辺りだろうか。その黒縁眼鏡をかけた女性は、肩甲骨まで長く伸びた髪をダークブラウンに染めており、黒いエプロンの上に首から「斎藤」と刻まれたネームプレートを垂らしていた。 周りを見ても、相変わらず休憩スペースは閑散としている。そんな中この人は、何故わざわざ僕の目の前に腰掛けたのだろうか。と自意識過剰とも言える不思議さを覚えるのは、ある意味当然のことだった。 何せ彼女の目的は読書ではないらしく、その証拠に手元には本の一冊もない。彼女は僕の持ってきた本へと視線を移し、次いで僕の顔をまじまじと眺めた。 32: ◆jkwYf2kqc.:2022/12/27(火) 20:11:00.24 :ik+D4jwf0 「少年、最近よく図書館に来てるね」 よもや話し掛けられるとは思っていなかった。少し低めの声がこちらに飛んできて、僕は大きく瞬きをした。それを目配せだと思ったのか、彼女は続けて唇を動かした。 「溜め込んだ宿題に追われて、自由研究の題材でも探しに来たの?」 そんなことはない。宿題には計画的に取り組んで、今や全ての課題が終わっているのだ。彼女の言葉を否定するように僕は首を横に振った。僕の答えを聞いたお姉さんは、如何にも怪訝そうな表情を作った。 「だったらどうして?そんなに日に焼けた少年は座って本を読むよりも、外で元気に駆けまわる方が似合ってると思うんだけど」 「そりゃそうですよ。でも、こんな土砂降りの中で駆け回るなんて蛙ぐらいですから」 彼女の問い掛けに対して、僕は窓を濡らす雨粒を眺めながらようやく言葉で応えた。 堅苦しい丁寧語を使うのが嫌だったわけではない。高学年となった今、目上の人には敬語を使うことが習慣化していた。だから発声するのを躊躇った理由は、ひとえにここが図書館という沈黙空間であるから他ならない。 しかしお姉さんはそんなことお構いなしに、「確かに、人間様にとっては大雨は嫌なものよね」と感心したように頷いた。 33: ◆jkwYf2kqc.:2022/12/27(火) 20:13:49.55 :ik+D4jwf0 「ここ、私語厳禁なんじゃないんですか?」 そろそろ手元の本に集中し直したかった。だから僕は痛いところを突いてやったわけだ。 図書館がお喋りをする場所ではないことは周知の事実なのだから、これを機にお姉さんも押し黙ざるを得なかった。という未来を予想していたのだが、現実には彼女はすました顔で言い返してきた。 「あたしはここの司書さんだよ。だから別にいいの」 卑怯な手を使われた気分だった。ネームプレートを誇示するように見せつけてくる彼女に軽い睨みを利かせてみるも、向こうは素知らぬ顔で話をやめようとはしない。「それよりも」と話題を転換してくる。 「少年みたいな子がよく図書館に来るなんてさ、やっぱりちょっと疑問なのよね」 「はぁ」 先程から固定観念が強過ぎはしないだろうか。僕はため息交じりの相槌を打った。 まぁ確かに、彼女の言い分には一理ある。以前の僕が図書館に寄り付くような人間じゃなかったことだけは間違いない。やはり僕みたいな褐色少年が姿勢正しく本を読んでいる姿など、場違いという言葉がこれ以上になく似合ってしまうのだろう。 お姉さんは僕の読みかけていた本の端を指で叩きながら言葉を続けた。 34: ◆jkwYf2kqc.:2022/12/27(火) 20:17:03.23 :ik+D4jwf0 「毎度毎度その植物図鑑読んでるみたいだし…あれかな?女の子にお花をプレゼントしようとしてるのかな?」 「違います」 脊髄反射であるかのように僕はその言葉を一刀両断した。お姉さんは何とも言えない笑顔を浮かべながら、「ほぉ~」と良く分からない感嘆を表した。 僕が図書館を訪れ、植物図鑑を読み漁っている理由。また、そもそも僕が図書館に足を運ぶようになった訳。この二つが不可分である事には疑いがなく、その全てに鈴音の存在が関連付けられていることにも異議はない。 平たく言えば、鈴音があんまり山に詳しいものだから、僕は少しでも彼女の知識に追いつきたいと思ったが故なのだ。与えられるだけではなく、偶には鈴音に知見を誇ってみたかった。そして願わくば僕がいつもそうするように、僕は彼女に感心されてみたかった。そんな小さな競争心と羨望を望む感情こそが、僕を似合わない場所へと導いているものの正体であった。 お姉さんがにんまり表情を浮かべている間、僕はそんな風に自らの行動を再確認していた。彼女はようやく表情を戻すと、徐に席から立ち上がった。何処かへ移動する素振りを見せると、手招きで僕を誘導する。それに大人しく着いて行くと、お姉さんは書架から一冊の本を抜き取った。 35: ◆jkwYf2kqc.:2022/12/27(火) 20:20:41.17 :ik+D4jwf0 「図鑑は借りられないけどさ、こういう本だったら貸し出しもしてるんだよ?」 彼女が差し出した書物を、僕は受け取り数ページ眺めた。さしずめ、それは植物に関する情報が詰まった簡易版辞典のようなものであった。お姉さんの紹介してくれた書物は僕に多大な衝撃をもたらしていた。 目から鱗が落ちた。図鑑以外にも各種植物の詳細が記載されている書物があることなど、僕は今日まで知る由もなかったのだ。本を借りることなく図書館で図鑑を読み耽っていたのは、図鑑が貸し出し対象から外れていたせいだ。この本を借りることができれば、毎朝家から図書館までを歩く手間が省けることになる。夏の怠い暑さに加え、移動手段に乏しかった当時の僕にとっては、その一冊が画期的な発明と同一視されていた。 僕がこの手の本を大変お気に召したことに気が付いたのだろう。お姉さんは続けて似たような書籍を数冊紹介してくれた。僕は彼女に促されるままに受付カウンターに向かい、貸し出しの手続きを済ませてもらった。 初対面で浮上したお姉さんを鬱陶しく思う気持ちは、既に何処かへ拡散していた。心のほくほくした僕が純粋な気持ちでお礼を述べると、彼女はふと目的を思い出したように言った。 「いやいや、女の子にお近づきになろうとしている少年を見過ごすことなんてねぇー。とてもあたしには出来ないかな?」 その性懲りもない様子に一転して呆れを抱いた僕は、その言葉を無視して出口へと進んだ。それなのに「少年、頑張ってね!」とお姉さんは威勢の良い声を背中に飛ばしてきた。 何を勘違いしているのだろうか。僕は浅く息を吐き出し、図書館を後にした。 36: ◆jkwYf2kqc.:2022/12/27(火) 22:02:50.52 :ik+D4jwf0 ♦♦♦ 扉を押し開け外へ繰り出すと、蒸し暑い世界が妙に明るく輝いていることに気が付いた。何気なく光の差す方へ眼をやると、厚い雲の隙間から太陽が姿を見せていた。 どうやらバケツの水はすっからかんになってしまったようだ。てっきり午後も降雨に見舞われると思っていた僕は、空っぽなはずの貯金箱から一枚の硬貨を見つけたみたいに、予想外の雨上がりに喜びを隠せなかった。 雨が止めば山に向かえる。あそこに行けば鈴音が待っている。また彼女から色々を教えてもらえる。 箇条書きのように嬉しいことばかりが脳裏に列挙され、その時が待ち遠しくなった僕は居ても経ってもいられなくなった。 当時の僕の心模様の起伏は、その日の急な天気と似たようなものだったのだろう。秒読みで逸る心に身体が置いていかれないよう、僕はアスファルトに反射する家々の屋根を勢いよく踏みつけながら自宅へと急行した。借りてきた本を玄関前に放置する。居間にいるであろう母さんに向けて「行ってきます」を叫んでから、僕はその足で外に飛び出した。 何度か道を曲がりくねり、水位の上がった田んぼを両脇にあぜ道を駆け抜けた。そのままの勢いで森に突入し、そこからは感覚で山道を辿る。少しばかり斜面を登ると、相も変わらぬ巨大な威容を目が捉えた。 すっかり僕らのシンボルツリーになってしまったその樹木に近寄ろうとすると、やっぱり小さな姿が飛び出してくれる。君の姿を捉えた僕は思わず頬を緩ませた。彼女は変わらない笑顔で僕を迎えてくれた。 37: ◆jkwYf2kqc.:2022/12/27(火) 22:11:54.87 :ik+D4jwf0 「晴れて良かったね~」と鈴音は空の遠くを眺めながら言った。僕も軽く頷き、彼女の傍へ向かう。そこからはここ一、二週間の流れだ。 まずは直射日光を避けるために大樹の陰に隠れ、僕も鈴音も他愛もない話に花を咲かせた。とは言ったが、基本的には僕が話題を振りかけ、鈴音が相槌を打つという形だ。たとえば、今朝の大雨が凄かったとか、青かった稲が黄金に輝き始めてたとか、そんな世間話だ。 だがその合間合間に、地上に降る雨は実は三十分も前の雨粒なんだとか、浮塵子と呼ばれる小虫が稲を食い荒らしてしまうのだとか、鈴音は話の中で付け加えるように説明してくれるのだ。そこには凡そ僕と同じ年代とは思えないような彼女の博識が見え隠れしているから、僕にとってそれは雑談以上の意味を有していた。 満足いくまで話に花を咲かせると、僕らは徐に立ち上がった。 「千風くん。今日はさ、山の中を色々見て回ろーよ!」 鈴音はそう告げると、大樹の裏へと弾む足取りで向かって行った。この辺は彼女の庭であることをこれまでの日々の中でよく知っていた僕は、導かれるようにその後を追った。 地表にまで露出した大きな根に躓かないよう気を付けながら、僕らは大樹から少しばかり離れていく。今までにこちらの方面へ向かったことがなく、奥に進むほど緑の層は厚くなった。森の創り出す独特な昼間の暗がりの中では、地面と木々の茶色がよく映えていた。森はさながら樹海みたいな深さであったが、そこに陰気な雰囲気は感じられなかった。それどころか却って心が穏やかになるような極相林だとさえ感じた。 38: ◆jkwYf2kqc.:2022/12/27(火) 22:15:33.82 :ik+D4jwf0 そこからもう数メートル歩みを進めれば、周囲にはいつもの巨木に負けず劣らずの樹木が幾つも横に大きく倒れていた。まるで行く手を阻んでいるような倒木を、鈴音はいともたやすく飛び越えてしまう。あとに続く僕は苔むした樹皮に手を掛け、なんとかそこを乗り越えた。 あれほど大きな樹木たちが役目を終えたからなのだろう。転倒した木々の越えたその向こう側には、輪っかみたいにポッカリと穴の開いた広場が生成されていた。いわゆるギャップと呼ばれる空間だ。 大空に浮かぶ太陽がちょうどその輪の真ん中に入っていて、溢れんばかりの白日がその場に注ぎ込まれていた。辺りを囲む森の薄暗さも相俟って、そこに形成された円柱状の光の障壁は見事なまでのものだった。 その中心には、背丈が一・五メートル程度の若木が一本、凛々しく輝いていた。何か理由があった訳ではないが、先へ先へと移動する素振りを見せていた鈴音の後を追うことを忘れ、僕は立ち止まりその若木を長らく見つめていた。それに気が付いた君はこちらに振り返った。 39: ◆jkwYf2kqc.:2022/12/27(火) 22:18:04.36 :ik+D4jwf0 「そんなに気になるの?」 「あぁ、綺麗だなって思ってさ」 思ったままの言葉を返すと、君は何度か瞬きをしてから呑気に答えた。 「まだまだ成長途中だからね。いずれはこの山の主になるんだよ~」 「それは楽しみだ」 いつかこの小さな木があの大樹を上回るのだと思うと、なんだか大きな自然の循環を感じ取れた気がした。若木を囲む光のベールにゆっくり近づくと、僕は弾かれることなく温かな光に包まれた。本当にこの山の主になれるのかどうかは置いておいて、頑張れよ、という意味を込めて若木を優しく一撫でしてやった。それを見た彼女はくすぐったそうに笑っていた。 「そう言えばあの若木、どんな樹種だったんだ?」あれから少し歩いた先で、僕は不意にそう訊ねた。「内緒だよ~。千風くんが当ててみたらいいんじゃないかな?」前方を歩く鈴音は足を止めることなく、お得意ののらりくらりとした濁し方で流してしまった。 彼女に言われた通りに脳内検索を掛けてみるも、まだまだ知識の薄い僕では全く見当がつかなかった。そういう訳で、今日も鈴音が要所要所で立ち止まっては自然の素晴らしさを伝えてくれて、僕もまたこれまでと変わらず、彼女の詠う終わりのない叡知を聴講していた。 そうしてあれやこれやとしていると、あっという間に夕暮れが訪れてしまった。鈴音と過ごしている時間は本当に一瞬のように思える。冗談抜きの話で、何者かが時計の針を回していたりはしないだろうか。 40: ◆jkwYf2kqc.:2022/12/27(火) 22:21:55.05 :ik+D4jwf0 「早くしないと日が暮れちゃうよ」 「あぁ、ごめんごめん」 足音が途絶えたことに気が付いたのだろう。後ろを振り返った彼女は、動きを止めていた僕をそう急かした。日没後に山地に取り残されるなんて事態はご遠慮願いたい。沈む太陽の速度に負けないよう、僕らはいつもの場所へと足を進めていった。その最中、今度は鈴音が立ち止まった。 再びこちらを向いた彼女は、黙って僕を手招きした。僕が隣にまでやって来ると、彼女は小さな指を茂みへと向けた。 「今日最後の問題だよ。あの花が何か分かるかな?」 鈴音の指差した方向には、茂みに隠れて黄色い花が数輪咲き誇っていた。葉っぱの形は大葉のようで、中心にあるイガグリみたいな黄緑色の球体は五つの花弁に囲まれている。 本来であれば、その程度の情報量では到底その植物を特定できるわけがなかった。だが幸いかな。僕はその姿を見たその時から、花の正体にある程度の見当が付いていた。たまたま今日読んでいた図鑑の右下の方に、これとそっくりの写真が貼られていたからだ。万が一にも間違う気がしなかった僕は、間を置くことなく言ってやった。 「ダイコンソウだろ?」 41: ◆jkwYf2kqc.:2022/12/27(火) 22:24:29.53 :ik+D4jwf0 多分僕は、この上なく得意満面答えたのだと思う。だってそうだろう?これまで鈴音には数々の知識を授けてもらって、対して僕は彼女に何を教えてやれたというのか。これは日々の努力が実ったというよりは運の力が勝ったようなものだが、それでもようやく彼女の領域に片脚踏み込めた気がして、僕は鼻を高くしていたのだ。 誇らしげな僕を暫く見つめていた鈴音は、とうとう耐えられないといった様子で大きく吹き出した。それにやや遅れて、僕は今の自分がどれほどに幼稚であるかを思い知った。顔面が大火事になった。彼女はその様子を見てまたお腹を抱えていた。あんまり馬鹿にされて僕が拗ねてしまう前に、鈴音は笑い声を抑え、気を取り直したように言った。 「正解だよ、これは大根草。この時期になったら綺麗な花を咲かせてくれるんだ」彼女は大根草の青い葉をそっと撫でると、今度は優し気な笑顔でこちらに向き直った。 「大根草の花言葉はね、将来有望なんだよ。今の千風くんにピッタリなんじゃない?」 鈴音がにこにことこちらを見やった時、「なんのことだよ」と僕は白を切ろうとした。「大根草に気が付くなんて…千風くん。さては私に隠れて色々勉強してるんでしょ~?」やはり彼女は僕の嘘をすぐに見破った。 42: ◆jkwYf2kqc.:2022/12/27(火) 22:27:08.01 :ik+D4jwf0 「…まぁね」 誤魔化し切れなくなった僕は、左下に視点を置きながら渋々それを認めることにした。それを肯定してしまうことで、彼女にちっぽけな対抗心を燃やしているとか、本当は少し認めてもらいたいと思ってるとか、そういった色んな感情が透けてしまうことが堪らなく恥ずかしかった。 すると鈴音はなんの前触れもなく、真正面から一歩こちらに身体を寄せてきた。ふわりと甘い香りが鼻を擽る。至近距離で見るその宇宙のように深い黒をした瞳に吸い込まれているうちに、僕の頭にはそっと温かい感触が乗せられた。 「えらいえらい。これからもしっかり勉強するんだよ~」 彼女は目を細めながら、少し背伸びをして僕の髪をわしゃわしゃと優しく撫でていた。 一瞬の硬直、そして退避。自身の身に起こった事象を把握するや否や、僕は条件反射的に後退りしていた。心臓が異常なほどに締め付けられていることに気が付く。身体中からは尋常ではない量の汗が流れ落ちていた。 こんなにも恐ろしい思いをしたのは初めてだった。あれ以上その場に長居しては、身体中が何かに呑み込まれてしまうような気さえしたのだ。 僕が後ろに下がったことで、鈴音の手は僕が居た場所に取り残された。余韻のように動いている手のひらが、寂しそうに宙を彷徨っていた。 43: ◆jkwYf2kqc.:2022/12/27(火) 22:29:06.37 :ik+D4jwf0 「何するんだよ」親以外の誰かに頭を撫でられるなど、僕の予想だにするところではなかった。未知が故に動揺を隠せないまま僕は目を泳がせた。 「なにって、ちゃんと頑張ったんだからご褒美だよ?」視界の端でしっかりと捉えられている鈴音はあくまでも平常運転で、まるで小動物を愛でるかのような調子でそう言ってのけた。 「別に、そういうのはいいから」脳内を襲った混乱状態も徐々に落ち着いてきたところで、僕は早口で伝えておいた。 「そう?じゃあやめとこーかな」君は僕の気持ちが余り分かっていないようだった。 「そろそろ行こっか」と彼女は何気なく前方を向き直る。その横顔には小さな笑みが浮かんでいたが、僕は頭上に残った君の手のひらの妙なもどかしさにばかり気を取られてしまって、そんなことには全く気が付けなかった。 やがて元の場所に辿り着くと、僕らは手を振り「またね」を交わした。そうして君との一日が終わって、僕は夕陽を見失わないうちに山を出るのだ。 いま思い返せば、「また」が具体的にいつを指すのかなんて、僕らはたったの一度しか約束を交わさなかった。 雨なき日中にあの大樹の傍で。その不文律が既に僕らの間で完成しているのだと、僕はそう信じてやまなかったのだろう。出会った時からそうであったからこそ、僕らには以心伝心に似た何かがあるのではないだろうかと、そんな風にさえ思っていたのかもしれない。 だが結果から言えば、当然の如くそんなわけがなかった。以心伝心であるのならば、僕は鈴音のことはなんでも分かっていられたはずなのだから。訪れる結末を捻じ曲げることは出来ずとも、その過程をより良いものに出来ただろうから。 45: ◆jkwYf2kqc.:2022/12/27(火) 23:03:59.67 :ik+D4jwf0 ♦♦♦ 毎朝目覚まし時計を設定していると、人は段々とその騒がしい音に拒絶感を覚えるようになる。そのせいなのか、いつからか不協和音が鳴り響く前にふと目を覚ますようになる人は多い。そう言う僕も、ここ数年はそんな調子の毎日が続いている。 僕はそれが、正確な体内時計によってもたらされる良い現象だとばかり思っていた。しかし、実際はその真逆であることを知ったのはごく最近だ。なんでもそれは過緊張と呼ばれるストレスの一種らしく、放っておくとまず精神が、そして次第に肉体が不健康になるらしい。過緊張に陥らないようにするには、睡眠前のリラックスが重要なのだとか。まるで流し見た記事の受け売りだが、気を付けるに越したことはないだろう。 最も、当時の僕に目覚まし機能を使う必要はなかった。仮に寝坊したとしても母さんが叩き起こしてくれるし、あの鬱陶しい雑音以外にも寝覚めに繋がるものが多数あったのだ。 喉奥に感じた干ばつと、肌を覆う湿った熱気。それが自然の目覚ましとなって、意識が覚醒する。眠気の抜けない身体に鞭打って瞼をこじ開けると、まずは窓枠の中に浮かぶお日様を目視した。 天気良好であることを確認すると、早速朝の支度に取り掛かる。生温い水で顔を洗い、朝ご飯を食べて寝間着から着替える。そこまで終わると、残りの準備を慌ただしく済ませて玄関を開けた。 46: ◆jkwYf2kqc.:2022/12/27(火) 23:13:00.77 :ik+D4jwf0 そのまま僕は外の世界を歩き回り始めた訳だが、向かう先はいつもの場所ではなかった。数十メートルほどの等間隔で、家々の白い瓦塀と小さな雑木林が繰り返される。ときおり、刈り取られた雑草の積み上げられた空き地を通り抜けたりもした。 漬物石が入っているのかと思うぐらいにずっしりとした鞄を背負い、古いアスファルト上をひたすら歩き続ける。被る黄色い帽子に汗が滲み始めたところで、この町で一番の建造物に出くわした。 縦横何メートルという具体的な大きさを図ったことはないが、その気になればこの街の住民のほとんどがここに収まるのではないだろうか。雨風に晒され、白というよりは灰色と化した外壁は三階部分まで続いており、のっぺりとした屋根は青銅色をしている。左のだだっ広い砂地へ目をやれば、そこには申し訳程度の遊具が点在していた。 改めて正面に向き直ると、門の前では教師が数人、活力のある挨拶を飛ばしていた。キャッチボールを受け取った児童たちは元気よく挨拶を返している。僕もまたその中に紛れ込んで校門を潜り、下駄箱で靴を履き替えると、真っすぐ自らの教室に向かった。要するに、僕は学校に来たわけだ。 47: ◆jkwYf2kqc.:2022/12/27(火) 23:16:35.48 :ik+D4jwf0 つい一週間ほど前、長きに渡った長期休暇には終止符が打たれてしまった。世界は未だ異常な高温で包まれているし、蝉たちが鳴り止んだわけでもない。それでも季節に一つの節目がやって来たことは明らかで、今や陽が沈むと秋虫が騒ぎ立て始めている。そうなると当然、名目上猛暑の危険性ゆえに与えられるお休みも打ち切りということだ。 そんなこんなで二学期の日常に吞まれつつある僕は、以来山に向かうことはめっきり減った、という訳ではない。僕は学校が終わればいつもの場所に飛んで行ったし、やっぱり鈴音も僕より一足先に大樹の傍で待っていてくれた。これまでと比べると遊ぶ時間が限られてはいたが、僕らは相変わらず山中で落ち合っていた。 学校に通うようになって一つ疑問に思ったのが、ここでは彼女の姿形が一切見えないことだった。あんまり露骨に探すのもみっともない気がした。だからそれとなく学校内を見渡しているだけだが、どの学年にも鈴音らしき人物は見当たらなかった。 まぁ恐らく、彼女は隣町のお嬢様学校にでも通っているのだろう。実際、この辺りに住んでいる子供たちには少なからずそういう奴らもいた。それに、こんな辺鄙の学校ではあれ程の知識を手にすることは不可能に近い話だとも思えた。 49: ◆jkwYf2kqc.:2022/12/27(火) 23:20:14.30 :ik+D4jwf0 教室に到着して程なくすると、まずは担任の主導する朝学活が始まった。それが終わると退屈な一時間目の国語が始まって、次は図工の時間で…という風にして、学校での一日が過ぎ去っていく。 しかし僕が真面目に授業に取り組んでいるのかと言われると、それは体裁だけのことだ。ノートと教科書を開いて鉛筆を握っているが、頭の中は放課後のことにしか意識が向いていなかった。 給食を食べ終えると昼休みが訪れた。僕は当たり前のように鞄から図書館で借りてきた本を一冊取り出して、自然に関する造詣を深めようとした。 「千風。今日こそサッカーしに行こうぜ!」 すんでのところで横槍が入って、僕は声の主を見やった。夏休み中遊び回っていたのだろう。僕と同じかそれ以上に日に焼けている日向が、いつものメンバーを代表して声を掛けてくれていた。 しかし僕はと言えば、変わらぬ一点張りだ。 「ごめん。今日は本読みたいから、また今度な」 昨日まではこれで引き下がっていたのだが、今日の日向はまだ諦めないらしい。彼は眉を寄せて言った。 「お前、そういう奴じゃなかっただろ?」 「読書も悪くないもんだって気づいたんだよ」 合気道のような受け流しで言葉を返すと、ぞろぞろと彼の後に続いた数人の友人が顔を顰めた。 「夏休みの時も全然遊びに来なかったしさ、最近付き合い悪いんじゃねーの?」 そう言われてしまっては、こちらとしても立つ瀬がなかった。確かに僕は夏休み中、日向達をほったらかしにして鈴音との時間を過ごしていたのだから。 少しばかり居心地の良くない雰囲気を感じ取った。返す言葉を失った僕は、今日ぐらいはみんなとサッカーするか、と状況を好転させるために席から立ち上がろうとした。 だがそのタイミングで、電撃的に一つ良い考えが思い浮かんだ。僕は席から立ち上がる前に、日向達にこう言ったのだ。 51: ◆zUsZnsynWVoO:2022/12/27(火) 23:48:59.74 :ik+D4jwf0 「なぁ、良かったら今日の放課後、久しぶりに山で遊ばないか?」 僕からの突然の提案に、日向達は怪訝そうな表情を浮かべていた。しかし最後には「分かった。じゃあ放課後な」と返事をした。それを機に僕が手元の本を開ける仕草を取ってやると、彼らはため息をついて校庭へ向かって行った。彼らを横目に見送った僕は今日の放課後がますます楽しみになりながら、本の内容に集中し始めたのだ。 この時の僕が思い付いたアイデアが、僕自身の交友関係の安寧という点において大変優れたものであったことは間違いなかったのだと思う。 ただ、一つだけ見落としがあった。それは、自分にとって良い考えというものは、その大抵が他人にとっては都合の悪いものだということだろう。 52: ◆zUsZnsynWVoO:2022/12/28(水) 00:02:04.77 :FBcg8E2q0 ♦♦♦ 六つ目の授業が終わり、事務的な帰りの会が切り上げられると、ちょうど開放のチャイムが学校中を包み込んだ。学生のオアシスたる放課後に辿り着いた皆は、伸び伸びとした様子で下校を始めている。僕はその中で一際早く正門を潜り抜け、荷物を置きに家へと向かった。 そのまま勢いで日向達との集合地点に向かったものだから、僕は一番乗りに集合場所の空き地に到着していた。遅れて彼らもやって来て、僕は勇み足を向けて彼らを先導した。 「山ってそっちじゃないだろ?」と日向は僕を引き留めたが、「いや、こっちにもっといい場所があるんだ」と僕は彼の制止に構わず歩みを進めていった。 そう、僕が思い付いた良案というのは、鈴音と日向達を友達にしてしまおう、というものだった。 というのも、彼女と彼らが仲良くなってくれた暁には、僕は日向達との時間も大切にできるし、鈴音は僕以外の山で遊べる友達を作れるわけだし、日向達も鈴音という新たな仲間を見つけられることになるわけだ。一石二鳥どころか三鳥ではないか。 このアイデアにはなんの欠点も見当たらないし、無理矢理にでもつっかえるところを捻り出すとすると、僕と鈴音だけの時間が失われてしまうことだろうか。 しかしそれも、僕にとっては些末な問題でしかなかった。寧ろこのまま友人に彼女のことを知らせずに、僕と鈴音だけの関係を維持することの方が問題だとすら思えた。 考えてもみてくれ。鈴音の培った見聞は僕以外の人間にも披露すべきものでしかないだろう?それを僕一人が取って隠してしまうことなど、どうして許されようか。 つまりは僕は鈴音と過ごす日々の中で、彼女に対して友愛を抱いたことはもちろんだが、そこには敬愛のような感情さえ芽生えていた。その結果として、彼女が日向達にどのような心象を抱こうとも一向に構わなかったわけだ。 53: ◆zUsZnsynWVoO:2022/12/28(水) 00:06:04.16 :FBcg8E2q0 「実はさ、夏休みに仲良くなった子がいるんだ」 不思議といつもより長く思える距離を進みながら、僕は日向達に鈴音のことを語り始めた。植物とか昆虫とか、山の知識に関しては右に出る者がいないのだとか、なんと自分よりも素早く斜面を登れるのだとか、僕は彼女の魅力を自分のことのように自慢げに話していたのだと思う。 やっとのことで緩やかな坂道の頂上に辿り着くと、前方にはシンボルツリーが聳え立っていた。普段通り僕は大樹の元へ歩み寄ろうとして、ふと違和感を覚えた。 「…鈴音?」 妙な引っ掛かりの原因を突き止めるよう、僕は試しに彼女の名を呟いた。 すると、僕の掛け声に気が付いた鈴音が、いつも通りに樹の裏側から笑顔で姿を見せてくれた。という普段の流れが生じない。 この場には物静かなそよ風が吹き通しているのみで、首を振って辺りを見回してみても、白いワンピースに身を包んだ彼女の華奢な姿は影も形もなかった。 その事実を前に、僕はなんとなく釈然としなかった理由を発見した。居ない。鈴音がいないのだ。 初めての事態に若干の焦りを募らせつつも、「おい、鈴音。何処に居るんだよ?」と僕はまるでそこにいるはずの誰かに手を伸ばすようにして何度か声掛けをしてみた。 しかし、僕の呼び声に彼女が反応することはなかった。 54: ◆zUsZnsynWVoO:2022/12/28(水) 00:08:19.53 :FBcg8E2q0 「…おかしいな。ごめん、みんな──」 まぁ、鈴音だってここに来れない日もあるか。今日は少し都合が悪かったか。そうやって彼女の不在に納得しようとしていたその時、誰かがぽつりと呟いた。 「なんだよ。鈴音ちゃんなんていねーじゃねーか」 「いや、今日はまだ来てないって言うか──」 余程鈴音に会えることを期待していたのか、少々棘生えた言葉が空気を裂いた。僕は今日はタイミングが悪かったことを説明しようとするも、便乗するようにまた誰かが言った。 「千風。鈴音ちゃんに振られたんじゃねーの?」 「はぁ?ちが──」 斜め上の方向から小馬鹿にするような言葉が飛んできて、僕は慌てて弁解を図ろうとした。だが重ねるように、次から次へと幾つもの嘲笑の混じった声が響き渡った。 「あーあ、可哀想になぁ」 「女の尻なんか追い掛けて、ダセーの」 「そもそも鈴音ちゃんの話だって嘘なんじゃないのか?俺はそんな子学校でも見たことないしさぁー?」 「そうかもな。本の読み過ぎで頭おかしくなったんだろうなぁー」 そこでようやく理解した。その尖った言葉のどれもが、間違いなく僕に向けられた誹りであることを。 最近一緒に遊べていないことが、日向達よりも読書を優先したことがそんなに気に喰わなかったのだろうか。それからも彼らは僕を散々に冷やかし、気の済むまでせせら笑った後に、勝手にその場を去って行った。 55: ◆zUsZnsynWVoO:2022/12/28(水) 00:13:25.37 :FBcg8E2q0 取り残された僕は曰く言い難い表情で突っ立っていた。彼らの放った誹謗中傷の一つ一つを頭の中で噛み砕いては、沸々とした感情を煮やしていたのだ。 今日はこれ以上この場に居ても意味がない。取り敢えず家に帰るか。 不愉快が積もり積もって目に映るもの全てが厭わしく思えてしまう前に、僕はその場から踵を返そうとした。 だが、神経質になっていた僕の耳は、不自然に小石の転がる僅かな音を聞き逃さなかった。 反射的に振り返れば、大樹の裏からこっそりと顔を出している鈴音と視線が合った。数秒その状態が続くと、彼女は気まずそうに表にやって来た。 「…居たのか?」 その数秒間、僕は頭で何を考えていただろうか。短く、いつもより少し低い声で、僕は慎重に尋ねた。少し間があって、鈴音は「…うん」と小さく頷いた。 「…居たなら、なんで出てきてくれなかったんだよ」 あの時ここに居たことを肯定されてしまえば、僕はそう聞かずにはいられなかった。 彼女の返すであろう言葉を幾通りも推測した。例えそれが納得できないものであったとしても出来るだけ穏便でいられるよう、ある程度の耐性を整えたうえで僕は鈴音の答えを待った。 しかし彼女が取った行動は、僕の準備を大きく上回るものであった。鈴音はいつも通りにへらと笑い、何事もなかったかのようにその口を動かそうとしたのだ。 「今日はさ、あっちの方に行ってみよっか──」 「なんでって聞いてんだよ!!」 56: ◆zUsZnsynWVoO:2022/12/28(水) 00:16:16.04 :FBcg8E2q0 怒鳴りつけるように暴力的な声が、僕自身を中心として周囲に波紋した。 彼女のふざけた表情を見た瞬間、目の前が真っ赤に染まったような気がしたのだ。 僕が猛る感情のままに叫んでやると、鈴音は突然の大声に怯えたように身体を固くさせた。 皆がいる前で鈴音が出てきてくれなかったこと。僕の呼び掛けを無視したこと。そして何よりも、こっちの気持ちも考えずにへらへらと笑ったこと。 その何から何までが不快でならなかった。鈴音の常套手段であるお茶濁しが、この瞬間には悪手でしかなかった。 せめて真っ当な理由を説明してくれれば、僕も怒りを腹に沈めようと思っていた。でも鈴音はそれを誤魔化そうとした。それはまさしく火に油を注ぐようで、僕の中で煮えたぎる狂った炎を増々駆り立てた。 怒気に吞まれて視野が急激に狭まっていた僕は、もう鈴音が日向達と結託して僕を陥れようとしたのだとか、そんな飛躍の過ぎる狭窄にまで陥ってしまっていた。 急所を突かれたからだろう。静寂が辺りを切り裂く中で、鈴音は何も言えず仕舞いであった。僕は燃え上がる怒りのままに、続けて言葉で殴りつけた。 57: ◆zUsZnsynWVoO:2022/12/28(水) 00:18:11.51 :FBcg8E2q0 「どうして理由を教えてくれないんだよ!!あれか?僕が笑い者にされてる姿を見て楽しかったのか!?」 「ち、ちがっ──」 「あぁ、それはそれは面白かったんだろうなぁ!?こっちは酷い目に遭ったって言うのにな!!」 僕が吐き捨てるように罵倒の言葉を繰り返そうとも、彼女はやはり口を結び続けていた。 いや、実際の鈴音は必死になって何か言葉を探していたのだと思う。でも憤怒に囚われ暴走機関となった僕に掛けるべき言葉を見つけられず、ひたすらに困り果てていただけなのだろう。 一度燃え上がった炎はそう簡単には鎮火しない。これが良くないことだということは心の何処かでは分かっていた。それでも心と頭が一致せず、頭の片隅で急ブレーキを踏みこもうとも、僕は怒りの燃料となる薪を燃やし尽くすことでしか平静を取り戻すという手段以外が選べなかった。 「僕がどんな気持ちなったかも想像出来なかったのか!?」「この人でなし!!」 そうして、僕が更なる罵詈雑言を放った瞬間だった。あれほどの激昂が瞬く間に冷めてしまったのは。 58: ◆zUsZnsynWVoO:2022/12/28(水) 00:21:30.68 :FBcg8E2q0 これまで一切微動だにしなかった鈴音が、突如として大きく瞳孔を震わせた。 途端、心には僕の燃やした炎がちっぽけに思えるほどの大滝が降り注いだ。 何か不味いことを言ってしまった。鈴音の反応を見て直感的にその事実に辿り着いた僕は、半ば強制的に冷静さを取り戻していた。さっきまではあれほど饒舌に啖呵を切っていたというのに、今度はまるっきり言葉を失ってしまった。 小さな瓶に淀んだ空気を詰め込んだみたいに、居心地の悪い雰囲気がその場を支配していた。 時の流れが嫌に遅く感じる。何かに衝撃を受けている鈴音から目が離せない。 僕を見ているようで何処か別の場所を見ていた彼女はとうとう我に返った。僕の視線が向けられていることに気が付くと、いつも通りの笑顔を浮かべようとして、でもその笑みは何処かぎこちなかった。 胸に杭を打ち込まれたようであった。哀愁漂う笑顔を前にして、僕は息が詰まるほどに苦しくて仕方がなかった。 鈴音は悲しそうに笑いながら、「ごめんね」と小さく呟いた。 その時僕が返すべき言葉は何千通りとあったはずなのに、僕は口を動かすどころか、喉を震わすことさえ叶わなかった。 そんな僕を一瞥した彼女は、逃げ去るように向こうへ駆けてしまった。 今度こそ一人その場に取り残された僕は、茫然自失のままに直立し続けた。 肌を撫でた秋風が、孤独の冷たさを際立たせていた。 59: ◆zUsZnsynWVoO:2022/12/29(木) 19:37:11.46 :SXxF06Gi0 ♦♦♦ 七日に二度訪れる休日。安息日一歩手前であるその週末は、風の強い日であった。 青い空に浮かぶうろこ雲は左から右へと忙しく流れ去っていく。太陽だけがその位置取りを変えることなく、薄雲をすり抜けて輝きを放っていた。 それは絵に描いたような気持ちの良い秋晴れだ。 しかし、それとは真逆の気怠げなリズムが、アスファルトを物憂げに鳴らしている。一歩進む度にため息が聞こえてきそうなほどに、その足取りは異常に重々しかった。まるで彼の周りだけが酷く重力の影響を受けているようだ。 その少年こそが、今の僕だ。 こんなにも良く晴れた日だというのに、僕は山に向かっていない。その事実が頭に圧し掛かり、一層憂鬱な気分を味わわされる。頭上に見える太陽を恨めしく思いながら、僕は本来辿っていたであろう目的地とは別の方へと向かっていた。 鈴音と遊ばなくなって、一体どれぐらいの日々が過ぎただろうか。 少なくとも、ここ一カ月近くは彼女の姿を見ていない気がする。 鈴音と会わないうちに世界は随分と涼しくなって、山はあちこちで赤黄色へと模様替えをしていた。 60: ◆zUsZnsynWVoO:2022/12/29(木) 19:40:16.52 :SXxF06Gi0 季節に合わせて姿を変えていく遠くの山々を眺めていると、「秋になったらさ、紅葉狩りなんかもしよーね!」とその時が待ち遠しそうに話してくれた鈴音を、そして「あぁ、楽しみだな」と軽く頷いた僕を思い出してしまう。約束破りな自分が嫌いになりそうだ。 だがその美しい記憶を塗り潰すように、次いで苦しげに笑ったあの日の鈴音の姿が脳裏に蘇る。 とっくに胸の中心にまで食い込んでいた杭は、今日も背中から飛び出す勢いで何度も打ち付けられた。 胃に詰まった苦い空気を無理矢理吐き出し、僕は胸を穿つ痛みを堪えた。 その記憶こそが、何から何まで自分が悪かったことをいつ何時でも思い知らせてくれる。今度こそ僕は自分が大嫌いになる。 思い出すのは三週間ほど前、鈴音を傷付けたあの日のことだ。 日向達に取るに足らないプライドを踏みにじられ、下らない苛立ちを覚えた僕は、あろうことか彼女に八つ当たりしてしまった。その瞬間に燃え上がった怒りのエネルギーは確かにすさまじかったが、この手の感情というものは長続きはしない。 鈴音が走り去ったその時には、既に僅かながら燻る火種にも冷水を掛けられていたし、家に帰って一晩寝てしまえば、翌日にはすっかり別の感情だけが胸を覆い隠していた。 怒りの次に訪れる感情など、後悔以外の何物でもないだろう。 翌日からの僕はと言えば、あの日の選択全てを恨み、やり直したいと願い、だがその場で足踏みを続けていた。 だからこそ、こうして鈴音と会わない日々が続いて、今も山に向かおうとしない僕がここに居るのだ。 61: ◆zUsZnsynWVoO:2022/12/29(木) 19:43:35.87 :SXxF06Gi0 そして今日もまた、僕は彼女の元に行けなかった。今度こそ隠さずため息を吐き出してから、僕は図書館に入ろうとした。 「少年、最近元気ないねー」 ドアノブに手を掛けたところで、見知った声が僕を引き留めた。入り口から離れて後ろを振り返り、一応その姿を確認してから返事をした。 「…斎藤さん。こんにちは」 これから勤務時間なのだろう。まだ首元からネームプレートを垂らしているわけではなかったが、ここ数カ月の付き合いで声の主があのお節介が過ぎる司書さんであることはすぐに分かった。 斎藤さんは「こんにちはー」と適当な挨拶を返すと、こちらが本題であると言わんばかりに身を乗り出した。 「で、どうして少年はそんなに落ち込んでるのかな?しかもここ数週間も」 「別に、落ち込んでなんかないですよ」 僕の顔を覗き込むようにして尋ねる彼女に対して、僕は適当な言葉でやり過ごすという選択肢を選んだ。 斎藤さんは呆れた様子で首を振った。 「ほらほら、すぐそうやって君は誤魔化すよねー。お姉さんに話してみなさいよ。自分で抱えてたって解決しないものは、誰かに話すのが一番なんだから。あ、これ経験則ね」 「…」 62: ◆zUsZnsynWVoO:2022/12/29(木) 19:46:06.96 :SXxF06Gi0 自分の悪癖を見抜かれて、尚且つそれらしいことを年上の人に言われてしまえば、話してみる価値があるように思えた。 実際のところ、僕一人で色々考えた結果が、約一カ月も鈴音に会えていないという事実なのだから。 僕は恥も外聞もかなぐり捨てて、極力言葉を選びながらあの日のことを簡潔に説明した。 そのなんとも情けない話に耳を傾けたお姉さんは、一通り僕が話し終えると言った。 「ふ~ん…なるほど…。つまり少年は、その子と仲直りしたいってこと?」 縦に首を小さく振ると、彼女はケロッとした様子で答えを出した。 「だったら早いとこ『ごめんなさい』って言えばいいだけじゃん」 「…それが出来たら苦労しないんですよ」 その一見近道に見える答えを前に、僕は落胆しながら言葉を返した。その失望は果たして彼女の案に向けられた物なのか、それとも僕自身に向けられた物なのかは火を見るより明らかである。 そうだ。僕だってとっくに気が付いているのだ。彼是一カ月も悩んでいることなんていうものは、実は簡単に解決出来るものだということぐらい。 斎藤さんの言う通り、僕が今すぐに山に向かって、それでもし鈴音が居てくれたらその場で全力で謝って、また仲良くして欲しいと言えばそれで済む話なのだ。 でも僕にとってそれはいばらの道であった。 もし鈴音が僕を赦してくれなかったら?もう絶交だと言われたら?そもそも、二度とあそこに来てくれなかったら? その諸々の不確定要素に一度目を向けてしまうと、臆病な僕はその行動を選べなかった。 63: ◆zUsZnsynWVoO:2022/12/29(木) 19:50:20.22 :SXxF06Gi0 「やらない後悔よりやる後悔。謝られて嫌な気分する人なんていない。さ、レッツアポロジャイズ!」 僕の重い腰を無理矢理押し上げるようにして、斎藤さんは軽い調子で僕を鼓舞しようとしてくれた。 だがいつまで経っても思い迷って椅子から退こうとしない僕を前にして、彼女は珍しく真剣な表情を作った。 「…あのさ、その子に嫌なことしちゃって、それで会えなくなっても、少年はこうやって植物のこと知ろうとしてるわけでしょ?ってことはさ、少なくとも少年は、まだその子と仲良くしたいって思ってるんだよね?」 お姉さんに核心を突かれて、僕ははっと気が付かされた。 彼女が言ったことは、何もかもがその通りであった。鈴音を傷付けて一緒に遊べなくなった今、それでも僕がなんとなく図書館に足を運び、自然に関する知識を追い求め続けた理由なんて、それ以外に有り得ないではないか。 僕が素直に頷くと、お姉さんは諭すように続けた。 「じゃあ、やっぱり早く仲直りした方が良いよ。ここで頑張んなきゃ一生このままだよ?少年はそれで良いの?」 もう二度と鈴音とは遊べない。僕は彼女と笑い合うことが出来ない。 そんな光景がふと脳裏に浮かび上がった。一瞬の沈黙の後に、僕はお姉さんに決意表明をした。 「…分かりました。ちゃんと謝りに行きます」 64: ◆zUsZnsynWVoO:2022/12/29(木) 19:53:25.55 :SXxF06Gi0 「えらい!良くぞそう言った少年!折角ならさ、お花屋さんで手向けの花用意してあげれば?植物好きの子なら絶対喜んでくれると思うよ!」 親指を立てて叱咤激励してくれるお姉さんの良さげな案を採用することにした僕は、すぐさま下準備を始めることに決めた。 思い立ったが吉日というやつだ。本を借りるのはまたの機会にすることにして、まずは自宅へと舞い戻ろうと思った。 僕が駆け足でその場を去ろうとすると、「頑張りなさいよ、少年」と斎藤さんは手を振ってくれた。 振り返った僕は元気よくお礼の言葉を述べ、急いで踵を返した。 この一カ月の間、僕の心身を蝕んでいた暗澹は、爽やかな秋空に吸い込まれていった。 65: ◆zUsZnsynWVoO:2022/12/29(木) 21:24:31.70 :SXxF06Gi0 間もなく家に帰ってきた僕は、手を洗うこともなく二階の自室へ駆け込み、机の上にあった銀の缶を迷うことなくひっくり返した。 その小さな貯金箱に入っていたなけなしのお小遣いを握り締めると、その足で花屋へと急行した。そこで仲直りに相応しい花を一つ購入した。 心も身体も、今すぐに鈴音の元へと駆けていくつもりだった。 しかし、その頃にはもう世界は赤焼けに包まれていた。 今日は時間がないことを悟った僕は、明日こそは、と意気込みながら帰路を辿った。気持ちの逸る自分を落ち着けられず、その夜は上手く寝付けなかった。 翌日、僕が重い瞼を擦って目を覚ますと、まずは肌寒さが皮膚を襲った。その時点で、限りなく嫌な予感がしていた。続いて耳が痛くなるほどの轟音を聞き取り、僕は寝床から飛び起きた。 慌てて身を乗り出した窓の外には、深い曇天に包まれた街並みが広がっていた。 幾層にも重なった暗雲からは大粒の雨が激しく降り注ぐばかりでなく、ごうごうとおどろしい音を立てながら横風を吹き荒れさせている。外に見える木々が暗がりの中で横に揺られたと思ったら、自宅が軋み音を立てて悲鳴を上げた。 66: ◆zUsZnsynWVoO:2022/12/29(木) 21:29:09.09 :SXxF06Gi0 これは山に向かえるような日ではない。鈴音に謝りに行くのはまた明日にしようか。 最悪の気象状況を前に、僕はすぐさま合理的な判断を下した。 が、そこでふと立ち止まる。僕は脳裏に過らせてしまったのだ。 この一カ月もの間、心の中で何かしらの言い訳を重ねてはごめんなさいが出来なかったような愚者が行動を先送りにしたのならば、果たしてそれは実現されるのだろうか、と。 自分のことは自分が一番解っている。答えは自明の理であった。 明日の僕に託すことを数十回と繰り返してきたのが今日の僕だ。こうしてまた都合の良い理由に縋り付いていては、きっと明日の僕は今日の僕になって、また実現不能な明日の僕を思い描くのだろう。 僕はいつまでこんなことを続けるつもりなんだ。もうそんなことを繰り返している暇はないぞ。せっかく花も買ったんだ。花弁が落ちないうちに渡した方が、鈴音がもう一度屈託のない笑顔を零してくれる可能性だって高くなるに決まっている。だから今日に行け。今すぐ山に向かえ。 言い聞かせるように自分を駆り立てた僕は、直ちに朝の準備に取り掛かった。 もし母さんが家に居たなら、強風と大雨の中外へ繰り出そうとする僕を引き留めたことだろう。 だが運が良かったのか悪かったのか、今日の母さんは朝早くから仕事に出ていた。 作り置きのおにぎりで朝食を済ませ、手早く合羽を身に付け仲直りの印を携えると、僕は意を決して玄関を出た。 67: ◆zUsZnsynWVoO:2022/12/29(木) 21:35:23.54 :SXxF06Gi0 正面から吹き乱れるあからしま風が、合羽に覆われている頭をいとも簡単に露出させた。 風に呷られ身体を浮かされないよう、姿勢を低くして一歩ずつ足を進める。単なる住宅路を歩いているだけだというのに、自転車で向かい風に突っ込む以上に体力を消耗させられた。 豪雨に身体を晒しながら田圃のあぜ道に辿り着くも、ここに来るまでに傘どころか人一人として見ることはなかった。 どんよりと暗い空も相俟って、さながらゴーストタウンにやって来たかのようだった。 用水路の水流が荒くうねっている横を突き進んでいくと、やっとのことで森の入り口が伺えた。薄暗い木々の住処に立ち入れば、気休め程度には雨風がましになった。 それでも時間が経過するごとに暴風が狂風に、豪雨が一段と凄まじく大地を叩き付け、僕は徐々に疲労を蓄積させていった。 季節のせいもあって冷雨が身体を打ち付けていたことや、風に吹き飛ばされないよう木々の枝にしがみ付いたりしたことも影響していたのだとは思う。 髪はシャワーを浴びたようにびしょ濡れになって、身体はもう芯まで冷え切っていた。加えて指先の感覚が分からなくなり始めた。 68: ◆zUsZnsynWVoO:2022/12/29(木) 21:37:25.47 :SXxF06Gi0 軽く息を切らしながら、僕は現在地点を確かめるよう周囲を見渡す。 目的のシンボルツリーに向かうには、ここからどう動けば良いのかを再確認したわけだ。 しかし、僕はその場から一歩も足を動かすことができなかった。 最近この辺を歩いていなかったからだろう。季節が転じて森の様子も変化したのか、僕にはここが何処なのかいまいち判然としなかった。 だがこの場で立ち止まり続ける訳にもいかない。身体を動かすことをやめてしまえば、気温と雨風にやられた身体が震えてしまう。 僕は感覚に頼って前進を再開した。 糸のように細かい雨が周囲に霧を作り出していた。日光の代わりに雨粒が注ぎ込まれる薄暗い木々の密集地帯は、一転して僕に陰鬱な印象を与えた。 69: ◆zUsZnsynWVoO:2022/12/29(木) 21:41:23.19 :SXxF06Gi0 こんな状況で山に迷い込んだというのに、不思議と恐怖心は芽生えなかった。 今の僕には目指す場所と目的があるからこそ、余計なことに頭を使わなくて良かったからなのかもしれない。いや寧ろ、今さら後ろを振り返っても深い森を出られる気がしなくて、無理にでも他のことから目を逸らしていたとも言えるだろう。 一旦孤独と恐怖を認識してしまえば、もう正常な判断を下せる気がしなかったのだ。 とは言え、引き返すという道を選べなかった時点で、まともな思考が出来ていたどうかは怪しいものだろうが。 絶え間なく降り落ちる雨水は、次第に合羽の隙間から内側へと染み込んでいった。 靴の中までもが冷水で浸食され、身体から熱量という熱量が奪われていく。徐々に震え出した身体は、やがて小刻みに揺れ始めた。雨に打たれて身体が重くなり、唇が色を失いつつあった。 それでも前へ前へと突き進み続け、だがシンボルツリーの蜃気楼さえ浮かんでこない。 見覚えのある山道を歩いているはずなのに、暴雨の世界では映るもの何もかもが違って見えた。 激しい雨水に穿たれた斜面には、所々で古い石段のようなものが露出していた。 嵐で幹を傾かせている木々の中で、頑強にも真っすぐ伸び続ける大樹が一本視界の端で捉えられた。ようやく着いたのかと思って右手に視線を移すと、それは途中でポッキリと折れてしまっている禿げた木の円柱だった。 70: ◆zUsZnsynWVoO:2022/12/29(木) 21:46:37.14 :SXxF06Gi0 感覚的にはもう目の前に大樹が見えるはずなのに、一向にその姿は伺えない。いつまで経っても同じ場所を歩き続けているような気がしてならなかったが、僕は低回するように右往左往するしかなかった。 そうこうしているうちに暗雲の立ち込める空は一層の悪天候に見舞われた。 ときおり鼓膜を破壊するような白の嘶きが不気味に辺りを照らすようになり、雨音の中には帰れ帰れと世界が僕を拒む声が聞こえた気がした。 だとしても、僕は撤退の二文字を選ぶことは出来なかった。最早何かに導かれるようにして、ひたすらに突き進み続けることを選択した。 下風に足元を掬われないよう大地を踏みしめる。森の遥か先に視点を固定させ、シンボルツリーを探し求め続ける。少しずつ少しずつ、だが確実に一歩前進を繰り返す。 霧のような豪雨で視界不良の中、僕は懸命に視線を左右へと動かし、遠くを眺めていた。 結論から言えば、それがいけなかったのだろう。 一際強い逆風が吹き込み、僕は押し返されないよう両足で踏ん張った。幾ばくか風が弱くなったところで、右足を大きく前に出した。それから右足に力を込めて、今度は左足を蹴り上げるように前へ持ってくる。 その幾度も繰り返した作業に不意の異変が生じた。 71: ◆zUsZnsynWVoO:2022/12/29(木) 21:52:37.73 :SXxF06Gi0 どれだけ右足に重心を寄せても、どういう訳か大地の感覚が掴めなかった。 おかしいな、と何気なく視線を下に向けたところで、目には衝撃的な光景が飛び込んできた。 僕の右足は宙に浮かんでいた。大地が続くと思われていたその場所には、地滑りが起きたような空間が広がっていたのだ。 全身の毛穴という毛穴が広がるように、背筋にはゾッと悪寒が走った。あっと気が付き身体を引っ込めようとするも、もう全てが手遅れだった。既に身体は前のめりになってしまっていた。 死に物狂いで崖上へと手を伸ばす。微かに片指が崖先に届いた。 が、その程度で全体重を支えられる訳もなく崖先の突起から左手が剥がれ落ちた。重苦しい重力は僕を掴んで離さなかった。 今度こそ宙に投げ出されて、僕は元居た場所を見上げる形で仰向けになった。 頭の中は真っ白だった。情けない悲鳴を上げることすらできずに、僕は崖地から身を投げる嵌めになったのだ。 受け身を取ることもままならない。自分の身に起きたことを脳が上手く処理できなくて、僕は身を藻掻かせることさえ忘れていた。 放心状態で自由落下に身を任せていると、突然、背中を突き破るような衝撃が身体中を貫いた。それは金属バットで脛を叩き割られたように凄まじい威力だった。 視界が暗転と明転をせわしなく繰り返す。そのまま二転、三転と跳ねるように崖地とぶつかり合いながら、やがて僕は投げ捨てられたように崖下に倒れ込んだ。 72: ◆zUsZnsynWVoO:2022/12/29(木) 21:56:38.86 :SXxF06Gi0 長い間、辺りは静まり返っていた。 僕はうつ伏せの状態で地にへたり込み、体中の機能が停止したかのように肉体はピクリとも動かなかった。音という音を掻き消すような大雨に打ちのめされ、身体は増々冷えていった。 そのせいか、興奮状態で麻痺していた感覚も元に戻り始め、段々と身体の至る所に鈍い衝撃や鋭い激痛が襲い来た。 掛け値無しに、それは顔面が渦を巻いて歪むほどに酷い苦しみだった。言葉にならない呻き声が喉奥から漏れ出し、余りの辛さに無意識に身を捩れば、それが無理に動かした身体の痛みを増長させた。僕は悪循環の中で獣のような呻き声を上げていた。 だけど、その状態がしばらく続いてしまうと、次第に身体に起こった異常事態がどうでも良くなっていった。 熱を帯びた傷口に死神の吐息が纏わりつく。呼吸が遠のくように深くなっていく。なんだか身体がやけに軽いというか、まるで空に浮かんでいるような心地良い気分だとさえ思えた。 73: ◆zUsZnsynWVoO:2022/12/29(木) 21:59:33.92 :SXxF06Gi0 ぼんやりと霞む視界の先には、薄暗い緑が映え広がっていた。突然片目が鮮やかな赤に覆われて、でもそれを拭う力さえ僕は振り絞れなかった。 朦朧とする身体に反して、意識は異常なほどに鋭敏であった。 だから、今の僕の身体に何が起きて、これがどういう状況なのかはなんとなく理解出来てしまった。 まぁ、誰かを傷付けるような人間にはお似合いの末路だろう、と僕はこの理不尽を不思議と受け入れてしまう。 色々とやり残したことはあるけれど、一番に思い浮かぶのはやっぱり、鈴音と仲直り出来ず仕舞いになってしまうことだろうか。でもこの結果は因果応報なのだから、致し方がないことだ。それに、あれから一カ月も経ったのだから、きっと鈴音は僕のことなんて忘れて日常に戻っていることだろう。 このまま誰も居ない場所で、雨粒と共に大地に染み込んでしまえばいい。 僕は投げやりな気持ちで自ら全身の力を抜き、自然な流れで重い瞼をゆっくりと閉ざした。 読む →
2023年01月06日 18:00 島村卯月「シンデレラも魔法使いもいない日」 元スレ 全てのレス 1:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2016/03/03(木) 21:52:37.82 :tKpRVqc80 卒業証書を受け取り私は生徒は誰もいない学校を歩く クラスメイトも、同級生も、下級生も誰もいない静かな学校 この学校にもう通うことはない、この制服を着ることもない 「ちょっと寂しいな…」 高校生の島村卯月は今日で終わる この日が来ることはわかりきっていたのだけれど 素直に受け入れられないものだと私は思った 読む →
2022年12月29日 22:30 女の子「あ、しってますか、こうするとあったかいんですよ」ムギュウ 元スレ 全てのレス 1:以下、\(^o^)/でVIPがお送りします:2015/10/07(水) 02:39:26.921 :BKFrIcu10.net 同級生の女の子「…」スタスタ 女の子「ふふ、どうですか」 同級生「…」スタスタ 女の子「…ね、よく、ないですか」 同級生「…」スタスタ 女の子「……ごめん、なさい」ハナレル 同級生「なんであやまんの。無視したのわたしじゃん」 女の子「……えっと」 同級生「あんたさ、どうしていつもわたしにくっついてくんの」 女の子「……迷惑、ですよね」 同級生「いいからさ、理由をおしえてよ、わたしは態度で嫌って伝えてたけどわからないみたいだからちゃんというよ、しつこい、やめて」 女の子「……うぅ……ごめん……なさい……っ……」 同級生「あやまんないでいいから、許す、だから理由を言って」 女の子「ぐすっ…………す、すきだからです、よ、あなたの、ことが」 同級生「そう、わかった。じゃあ今後はやめてね」 読む →
2022年12月27日 19:30 宮本「フラレデリカ」 元スレ 全てのレス 2: ◆5Zs67o7uls:2017/01/22(日) 00:43:04.88 :GS6pCF9a0 夜の街を歩く。 街の雑踏はとうに途絶え、昼間の喧騒はともかく、絢爛と闇夜に輝く楼閣は一時を過ぎるや途端に姿を消した。 かつて輝いた楼閣は墓碑銘のごとくただ立ちそびえるのみである。 夜の街には無機質な額縁に収まった空が広がる。 だがしかし星々は己の輝きを誇ることはない。 夜の街に星は流れない。 読む →
2022年12月26日 12:00 優花里「西住殿が逸見殿と付き合い始めました」 元スレ 全てのレス 4:以下、名無しに変わりましてSS速報VIPがお送りします:2016/04/26(火) 16:35:04.01 :gdnsl3HrO みほ「ねえ、優花里さん。相談したいことかあって…二人きりでお話、いいかな?」 そう西住殿から切り出されたのはもう一ヶ月も前のことでした。西住殿からこんな話を切り出されることも早々ない事で、私はただ事ではないのかもしれないと思いつつも、頼られてるのかもしれないという淡い期待を持ちつつ西住殿の寮へお邪魔したのです。 みほ「ごめんね、優花里さん。戦車道で疲れてるのに付いてきてもらって…」 優花里「いえ!西住殿のためなら不肖、秋山優花里!いつでもお助けする次第であります!」 みほ「うん、ありがとう…ねえ優花里さん」 優花里「はい?なんでしょう?」 みほ「同性愛ってどう思う?」 読む →
2022年12月19日 15:30 輿水幸子「うまくいかないもの、ですね」 元スレ 全てのレス 1: ◆MhRo2YnWE.V/:2016/09/27(火) 01:18:16.90 :/I9Sf5H+0 「ご結婚おめでとうございます」 「ありがとう」 ボクは輿水幸子。アイドルです。 このちょっと冴えない男の人は、ボクの担当プロデューサー。 そして、彼は明日、結婚します。 読む →