2: ◆S.3OfNv5Fw:2015/08/10(月) 22:50:39.81 :rSBYzTPg0
「あのー……茄子さん?」
「あ、はい。何でしょう?」
隣で両手を合わせて何やら一生懸命念じている自分の担当アイドルに声をかける。
「さっきから、その、何か念じているみたいだけれど……何をしているのかな?」
「あ、これですか? これはですね~、Pさんのお仕事が早く終わるようにと思って念じてるんですよ~」
屈託の無い笑みを浮かべて彼女は楽しそうに言う。
ああ、この笑顔。この笑顔を見る度に、温かく、朗らかな気持ちが溢れかえる。
が、視線を前に戻せば溢れそうになった気持ちも途端に蒸発してしまう。
「そ、そうか。いや、でも、ちょっと茄子さんの強運を持ってしてもこの物理的な量はどうにもならないんじゃないかなぁ」
バインダーから溢れかえり、波打ち押し寄せて来る書類、領収書の山。
俺はそれを指差して苦笑する。
「あのー……茄子さん?」
「あ、はい。何でしょう?」
隣で両手を合わせて何やら一生懸命念じている自分の担当アイドルに声をかける。
「さっきから、その、何か念じているみたいだけれど……何をしているのかな?」
「あ、これですか? これはですね~、Pさんのお仕事が早く終わるようにと思って念じてるんですよ~」
屈託の無い笑みを浮かべて彼女は楽しそうに言う。
ああ、この笑顔。この笑顔を見る度に、温かく、朗らかな気持ちが溢れかえる。
が、視線を前に戻せば溢れそうになった気持ちも途端に蒸発してしまう。
「そ、そうか。いや、でも、ちょっと茄子さんの強運を持ってしてもこの物理的な量はどうにもならないんじゃないかなぁ」
バインダーから溢れかえり、波打ち押し寄せて来る書類、領収書の山。
俺はそれを指差して苦笑する。
3:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/08/10(月) 22:51:43.96 :rSBYzTPg0
「信じる者は救われます。だから大丈夫ですよ~」
彼女はそう言って目を閉じ、眉間に可愛らしい皺を作ってまた念じる所作をした。
愛らしいと言えばすこぶる愛らしいのだけれど、もうさすがに遅い時刻だ。
見ていたいとは思うけれど帰って貰わないといけない。
「俺と千川さんは家が近いから別にこうして残ってても不便は無いけれど、茄子さんは終電という物があるよね?
他の人達も帰っちゃったし、茄子さんも帰らないと」
「でも……」
「そうですよ茄子さん」
横で俺と同じように書類に追われていた千川が助け舟を出すように口を挟んできた。
「電車が一番安いんですから、電車を使わないと。タクシーなんて深夜はぼったくりですし、ビジホだって高いんですし。
無駄遣いをしないうちに帰らないと駄目ですよ? それにアイドルがこんな夜遅くに外にいるというのも、あまり良いイメージはありませんし」
「でも、Pさんがまだ残ってるのに……それにちひろさんも」
倹約家千川氏からの有難い御言葉にも彼女は中々首を縦に振ろうとしない。
「良いんだよ茄子さん。こういう作業は俺達の仕事だ。茄子さんのお仕事はもう終わってるよね?
だったら、ちゃんと家に帰って疲れを取らないと駄目だ。今日の営業だってハードだったんだから。ね?
疲れを取って、次の仕事にも全力で取り組めるようにするのも大人の仕事だから」
あやすように、ちゃんと理屈を通して帰らないといけない理由を話す。
俺がそういう風に説明すると、茄子さんは視線を上に泳がせ、唇をちょっと突き出して何かむーっとした表情を作った。
怒ったのかな? と思ったが、すぐに彼女はしょうがないと言わんばかりの大きな溜息をついた。
「信じる者は救われます。だから大丈夫ですよ~」
彼女はそう言って目を閉じ、眉間に可愛らしい皺を作ってまた念じる所作をした。
愛らしいと言えばすこぶる愛らしいのだけれど、もうさすがに遅い時刻だ。
見ていたいとは思うけれど帰って貰わないといけない。
「俺と千川さんは家が近いから別にこうして残ってても不便は無いけれど、茄子さんは終電という物があるよね?
他の人達も帰っちゃったし、茄子さんも帰らないと」
「でも……」
「そうですよ茄子さん」
横で俺と同じように書類に追われていた千川が助け舟を出すように口を挟んできた。
「電車が一番安いんですから、電車を使わないと。タクシーなんて深夜はぼったくりですし、ビジホだって高いんですし。
無駄遣いをしないうちに帰らないと駄目ですよ? それにアイドルがこんな夜遅くに外にいるというのも、あまり良いイメージはありませんし」
「でも、Pさんがまだ残ってるのに……それにちひろさんも」
倹約家千川氏からの有難い御言葉にも彼女は中々首を縦に振ろうとしない。
「良いんだよ茄子さん。こういう作業は俺達の仕事だ。茄子さんのお仕事はもう終わってるよね?
だったら、ちゃんと家に帰って疲れを取らないと駄目だ。今日の営業だってハードだったんだから。ね?
疲れを取って、次の仕事にも全力で取り組めるようにするのも大人の仕事だから」
あやすように、ちゃんと理屈を通して帰らないといけない理由を話す。
俺がそういう風に説明すると、茄子さんは視線を上に泳がせ、唇をちょっと突き出して何かむーっとした表情を作った。
怒ったのかな? と思ったが、すぐに彼女はしょうがないと言わんばかりの大きな溜息をついた。
4:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/08/10(月) 22:52:11.30 :rSBYzTPg0
「そうですね……あまりここに長くいるのも、かえってPさんの迷惑になるかも知れませんね。
わかりました。今は、大人のPさんの言う事を聞きましょう」
今は、という所を強調しながら眉を八の時にしながら笑って、彼女は脇に置いてあった荷物を肩にかけて立ち上がった。
「それでは……ちょっと申し訳無いですけど、私は先にあがらせて頂きます。お疲れ様でした~」
ようやく帰る決心をしてくれたようだ。
千川さんと俺、二人に申し訳なさそうに頭を軽く下げて事務所の出口へ向かい、扉を開けてまたこちらを向いて会釈をして帰って行った。
「ふぅ……やっと帰ってくれた」
「あら、あんな美人がせっかく待っててくれたのにそんな言い草アリですか?」
千川さんが書類を見つめたまま何か嫌味っぽく軽口を叩いてくる。
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「そうですね……あまりここに長くいるのも、かえってPさんの迷惑になるかも知れませんね。
わかりました。今は、大人のPさんの言う事を聞きましょう」
今は、という所を強調しながら眉を八の時にしながら笑って、彼女は脇に置いてあった荷物を肩にかけて立ち上がった。
「それでは……ちょっと申し訳無いですけど、私は先にあがらせて頂きます。お疲れ様でした~」
ようやく帰る決心をしてくれたようだ。
千川さんと俺、二人に申し訳なさそうに頭を軽く下げて事務所の出口へ向かい、扉を開けてまたこちらを向いて会釈をして帰って行った。
「ふぅ……やっと帰ってくれた」
「あら、あんな美人がせっかく待っててくれたのにそんな言い草アリですか?」
千川さんが書類を見つめたまま何か嫌味っぽく軽口を叩いてくる。