5: ◆goOkhZhHlo:2016/02/06(土) 22:16:56.86 :T1JAYQW2o
14:00 水瀬伊織
伊織は初め、あずさを律子達のグループに合流させることを考えていた。
本人の性格が争いに向かないというのももちろんあるが、
何より視力を失った状態で自分達に付き合わせるわけにはいかない。
両目は開かなくとも、手を引いて慎重に進めば移動は可能であるはず。
だから必要な会話が終わってある程度落ち着いたら
灯台まで連れて行った方がいいと、そう考えた。
しかし今、伊織を含めたあずさ以外の三人は、
やはり移動を強いるべきではないと思いなおしていた。
少し前から、あずさの様子が変わり始めた。
それまでは落ち着いていた呼吸がいつからか、
痛みを堪えるように長く、深くなり始めた。
14:00 水瀬伊織
伊織は初め、あずさを律子達のグループに合流させることを考えていた。
本人の性格が争いに向かないというのももちろんあるが、
何より視力を失った状態で自分達に付き合わせるわけにはいかない。
両目は開かなくとも、手を引いて慎重に進めば移動は可能であるはず。
だから必要な会話が終わってある程度落ち着いたら
灯台まで連れて行った方がいいと、そう考えた。
しかし今、伊織を含めたあずさ以外の三人は、
やはり移動を強いるべきではないと思いなおしていた。
少し前から、あずさの様子が変わり始めた。
それまでは落ち着いていた呼吸がいつからか、
痛みを堪えるように長く、深くなり始めた。
6: ◆goOkhZhHlo:2016/02/06(土) 22:18:41.00 :T1JAYQW2o
それに気付いた当初伊織達は、やはり両目が痛むのかと、そう思った。
だからそう尋ねてみたのだが、
あずさは「なんともない」「大したことはない」と答え、
その時は伊織達も何も言わなかった。
ところが、それから更に時間が経った頃、
呼吸の乱れなどよりもはっきりとした、明らかな異変が生じた。
あずさの両手と顔面の皮膚が変色し始めたのだ。
伊織「あずさ……本当になんともないの?」
酸が入った両目が疼くことくらいはあるかも知れないが、
流石にこれは看過できない。
そう思った伊織は再びあずさに尋ねた。
しかし座って顔を伏せていたあずさはその言葉に顔を上げ、
あずさ「ぁ、っ……だ、大丈夫。平気よ……」
無理に作ったようにしか見えない笑顔を浮かべ、そう答えた。
それに気付いた当初伊織達は、やはり両目が痛むのかと、そう思った。
だからそう尋ねてみたのだが、
あずさは「なんともない」「大したことはない」と答え、
その時は伊織達も何も言わなかった。
ところが、それから更に時間が経った頃、
呼吸の乱れなどよりもはっきりとした、明らかな異変が生じた。
あずさの両手と顔面の皮膚が変色し始めたのだ。
伊織「あずさ……本当になんともないの?」
酸が入った両目が疼くことくらいはあるかも知れないが、
流石にこれは看過できない。
そう思った伊織は再びあずさに尋ねた。
しかし座って顔を伏せていたあずさはその言葉に顔を上げ、
あずさ「ぁ、っ……だ、大丈夫。平気よ……」
無理に作ったようにしか見えない笑顔を浮かべ、そう答えた。
7: ◆goOkhZhHlo:2016/02/06(土) 22:20:57.29 :T1JAYQW2o
だが伊織は、今度はその答えを受け入れなかった。
伊織「もし私達に心配かけないように嘘をついているのなら、やめてちょうだい……。
嘘ついて無理して、それで取り返しのつかないことになったら元も子もないのよ」
伊織のこの言葉を聞き、あずさは押し黙る。
そして少しの間を開けて、おずおずと話し始めた。
あずさ「目、だけじゃなくて……両手と顔が痛いの。少し前から、ずっと……。
なんだか、体の内側から針で刺されてるみたいに……」
やはりなんともないわけがなかった。
そしてそれはどう考えても、あずさが浴びたという薬品の影響だ。
伊織達は変色したあずさの皮膚を見、
このことを本人に伝えるべきか迷った。
しかし、
伊織「……見た目には何も変わりないけど、痛むなら横になって休んでなさい。
それで、痛みが治まるまで安静にしてるのよ。いいわね」
だが伊織は、今度はその答えを受け入れなかった。
伊織「もし私達に心配かけないように嘘をついているのなら、やめてちょうだい……。
嘘ついて無理して、それで取り返しのつかないことになったら元も子もないのよ」
伊織のこの言葉を聞き、あずさは押し黙る。
そして少しの間を開けて、おずおずと話し始めた。
あずさ「目、だけじゃなくて……両手と顔が痛いの。少し前から、ずっと……。
なんだか、体の内側から針で刺されてるみたいに……」
やはりなんともないわけがなかった。
そしてそれはどう考えても、あずさが浴びたという薬品の影響だ。
伊織達は変色したあずさの皮膚を見、
このことを本人に伝えるべきか迷った。
しかし、
伊織「……見た目には何も変わりないけど、痛むなら横になって休んでなさい。
それで、痛みが治まるまで安静にしてるのよ。いいわね」
8: ◆goOkhZhHlo:2016/02/06(土) 22:22:42.93 :T1JAYQW2o
これを聞いて雪歩と真美は理解した。
伊織は、皮膚の異変を伏せておくことに決めたのだと。
あずさが痛みを自覚しているのならそれで十分。
皮膚の異常については敢えて言う必要もない。
言ったところで事態が好転するわけでもなく、
ただあずさの不安を助長させるだけだ。
そう思っての判断だった。
そしてあずさは伊織の嘘に対し、何も言わなかった。
信じたのか、あるいは伊織の想いを察したのかは分からないが、
あずさは痛みを堪えながらもニッコリと笑った。
あずさ「ごめんなさいね、伊織ちゃん……。
それじゃあ、少し横になって休ませてもらうわね……」
伊織「えぇ、そうしなさい」
雪歩「じゃ、じゃあ私のウェア、枕にしてください! 今準備しますね!」
あずさ「ええ……ありがとう、雪歩ちゃん……」
これを聞いて雪歩と真美は理解した。
伊織は、皮膚の異変を伏せておくことに決めたのだと。
あずさが痛みを自覚しているのならそれで十分。
皮膚の異常については敢えて言う必要もない。
言ったところで事態が好転するわけでもなく、
ただあずさの不安を助長させるだけだ。
そう思っての判断だった。
そしてあずさは伊織の嘘に対し、何も言わなかった。
信じたのか、あるいは伊織の想いを察したのかは分からないが、
あずさは痛みを堪えながらもニッコリと笑った。
あずさ「ごめんなさいね、伊織ちゃん……。
それじゃあ、少し横になって休ませてもらうわね……」
伊織「えぇ、そうしなさい」
雪歩「じゃ、じゃあ私のウェア、枕にしてください! 今準備しますね!」
あずさ「ええ……ありがとう、雪歩ちゃん……」
9: ◆goOkhZhHlo:2016/02/06(土) 22:23:50.78 :T1JAYQW2o
伊織に従い、あずさは横になって次のエリア移動まで少しでも体を休めることにした。
その横で伊織達は各々不安げな表情を浮かべ、
あずさから聞かされたフッ化水素酸の説明のことを思い出していた。
数時間後に現れ始めた異変……。
あずさの説明にあった通りだ。
痛みも皮膚の変色も、説明の通りだ。
そして「これから」も説明の通りだとすれば、異変はこれだけに収まらない。
状況は更に悪化する。
痛みは増し、皮膚は変色などでは済まされない変貌を遂げる。
あの説明は確定している未来を告げていたのだと、
そんな風にすら思えてしまう。
伊織の嘘は、それに対する僅かな抵抗でもあった。
きっと説明の通りなんかにはならない。
痛みは治まるし、皮膚も元に戻る。
伊織、雪歩、真美、そしてあずさは、民家の中で祈り続けた。
だが、長く祈る時間すら彼女達には与えられなかった。
伊織に従い、あずさは横になって次のエリア移動まで少しでも体を休めることにした。
その横で伊織達は各々不安げな表情を浮かべ、
あずさから聞かされたフッ化水素酸の説明のことを思い出していた。
数時間後に現れ始めた異変……。
あずさの説明にあった通りだ。
痛みも皮膚の変色も、説明の通りだ。
そして「これから」も説明の通りだとすれば、異変はこれだけに収まらない。
状況は更に悪化する。
痛みは増し、皮膚は変色などでは済まされない変貌を遂げる。
あの説明は確定している未来を告げていたのだと、
そんな風にすら思えてしまう。
伊織の嘘は、それに対する僅かな抵抗でもあった。
きっと説明の通りなんかにはならない。
痛みは治まるし、皮膚も元に戻る。
伊織、雪歩、真美、そしてあずさは、民家の中で祈り続けた。
だが、長く祈る時間すら彼女達には与えられなかった。
10: ◆goOkhZhHlo:2016/02/06(土) 22:25:23.18 :T1JAYQW2o
伊織「っ……三人とも、ここでじっとしてて」
唐突にそう言って伊織は立ち上がる。
その視線は探知機に注がれており、雪歩と真美は事態を察した。
そして、その推察の通りだった。
伊織「346プロが二人、ここに近付いてる……。
あずさ、横になってもらったばっかりで悪いけど
一応すぐ逃げられる準備をしておきなさい」
あずさ「わ、わかったわ……。でも、伊織ちゃんは……?」
伊織「奴らを止めてくるわ。絶対にこの集落に入れさせやしないんだから」
雪歩「じゃ、じゃあ私も……!」
伊織「雪歩はここに居て、真美とあずさを守ってあげて」
伊織「っ……三人とも、ここでじっとしてて」
唐突にそう言って伊織は立ち上がる。
その視線は探知機に注がれており、雪歩と真美は事態を察した。
そして、その推察の通りだった。
伊織「346プロが二人、ここに近付いてる……。
あずさ、横になってもらったばっかりで悪いけど
一応すぐ逃げられる準備をしておきなさい」
あずさ「わ、わかったわ……。でも、伊織ちゃんは……?」
伊織「奴らを止めてくるわ。絶対にこの集落に入れさせやしないんだから」
雪歩「じゃ、じゃあ私も……!」
伊織「雪歩はここに居て、真美とあずさを守ってあげて」
11: ◆goOkhZhHlo:2016/02/06(土) 22:26:02.05 :T1JAYQW2o
伊織は雪歩の言葉を遮り、目を真っ直ぐに見てそう言った。
雪歩は初めは迷ったようだったが、数秒その視線を見つめ返した後、
覚悟を決めたように頷いた。
伊織「……手榴弾、一つ持って行くわね」
雪歩「うん……わかった」
伊織「真美、少しここで待ってなさい。大丈夫、すぐ戻ってくるから」
真美「も、戻ってくる? 絶対すぐ戻ってくる?」
伊織「ええ、約束するわ」
そうして伊織は震える真美の手を握り、
背を向けて小走りに部屋を出て行った。
伊織は雪歩の言葉を遮り、目を真っ直ぐに見てそう言った。
雪歩は初めは迷ったようだったが、数秒その視線を見つめ返した後、
覚悟を決めたように頷いた。
伊織「……手榴弾、一つ持って行くわね」
雪歩「うん……わかった」
伊織「真美、少しここで待ってなさい。大丈夫、すぐ戻ってくるから」
真美「も、戻ってくる? 絶対すぐ戻ってくる?」
伊織「ええ、約束するわ」
そうして伊織は震える真美の手を握り、
背を向けて小走りに部屋を出て行った。
12: ◆goOkhZhHlo:2016/02/06(土) 22:37:06.23 :T1JAYQW2o
外へ出て、伊織は敵が接近してくる方向を確認する。
距離はまだ少しあるが、移動が速い。
どうやら走っているようだ。
伊織も探知機を見ながら走り、そして森と集落との境目で立ち止まる。
間違いない、この方角だ。
近くにあった一番幹の太い木に身を隠し、頭を覗かせ様子を窺う。
すると、静かな森の中から気配を感じた。
そして直後、生い茂る草木の向こう側に動く影を見た。
その姿に伊織は見覚えがあった。
渋谷凛と、緒方智絵里だ。
数時間前に海岸沿いで会ったあの二人だ。
ということは、武器はナイフのみだろうか。
草木が邪魔でここからではよく見えない。
しかしだからと言って見える距離まで近付くまで待てば、
その前に向こうに気付かれるかも知れない……。
外へ出て、伊織は敵が接近してくる方向を確認する。
距離はまだ少しあるが、移動が速い。
どうやら走っているようだ。
伊織も探知機を見ながら走り、そして森と集落との境目で立ち止まる。
間違いない、この方角だ。
近くにあった一番幹の太い木に身を隠し、頭を覗かせ様子を窺う。
すると、静かな森の中から気配を感じた。
そして直後、生い茂る草木の向こう側に動く影を見た。
その姿に伊織は見覚えがあった。
渋谷凛と、緒方智絵里だ。
数時間前に海岸沿いで会ったあの二人だ。
ということは、武器はナイフのみだろうか。
草木が邪魔でここからではよく見えない。
しかしだからと言って見える距離まで近付くまで待てば、
その前に向こうに気付かれるかも知れない……。
13: ◆goOkhZhHlo:2016/02/06(土) 22:38:58.03 :T1JAYQW2o
敵二人は真っ直ぐ自分に向かって、集落に向かって、走っている。
どうする、また前と同じように音響閃光手榴弾で怯ませるか。
いや……相手はもう、「これ」が爆音と閃光を発する武器であることを知っている。
気付いた瞬間に耳と目を塞がれれば、貴重な武器を一つ無駄にしてしまうことになる。
伊織は数秒の間で懸命に思考し、その結果、音響閃光手榴弾を地面に置いた。
そして拳銃を両手でしっかりと握り締める。
もしこの時集落に負傷した仲間が居なければ、
伊織は恐らく森の中へ入っていただろう。
そして草木の陰に身を隠しつつ、凛達の横から、
あるいは後方に回り込むようにして、襲撃していただろう。
しかしそれはできない。
そうやって襲撃した場合
もし失敗すれば、恐らく凛達はのまま集落に逃げ込む。
そしてどこかの民家に身を潜めようとするかも知れない。
敵二人は真っ直ぐ自分に向かって、集落に向かって、走っている。
どうする、また前と同じように音響閃光手榴弾で怯ませるか。
いや……相手はもう、「これ」が爆音と閃光を発する武器であることを知っている。
気付いた瞬間に耳と目を塞がれれば、貴重な武器を一つ無駄にしてしまうことになる。
伊織は数秒の間で懸命に思考し、その結果、音響閃光手榴弾を地面に置いた。
そして拳銃を両手でしっかりと握り締める。
もしこの時集落に負傷した仲間が居なければ、
伊織は恐らく森の中へ入っていただろう。
そして草木の陰に身を隠しつつ、凛達の横から、
あるいは後方に回り込むようにして、襲撃していただろう。
しかしそれはできない。
そうやって襲撃した場合
もし失敗すれば、恐らく凛達はのまま集落に逃げ込む。
そしてどこかの民家に身を潜めようとするかも知れない。
14: ◆goOkhZhHlo:2016/02/06(土) 22:42:04.50 :T1JAYQW2o
そうなって、万が一あずさ達と出会ってしまったら最悪だ。
雪歩に武器を渡しているとは言え、それも音響閃光手榴弾が一つだけ。
まして今のあずさの状態を考えれば、絶対に遭遇させてはならない。
今は敵を集落に侵入させないことが最優先。
可能な限りリスクは避け、確実に侵入を防ぐべきだ。
そう考えた伊織は、ある程度二人が接近したのを確認し……
木の陰から姿を現してそれと同時に二人に向けて発砲した。
凛「ッ!?」
智絵里「きゃあっ!?」
突然前方に現れた人影と、銃声。
智絵里は思わず頭を抱えて身を屈め、凛はナイフを構えて警戒態勢を取る。
そして一瞬遅れて理解した。
765プロの水瀬伊織が、自分達に向けて発砲したことを。
そうなって、万が一あずさ達と出会ってしまったら最悪だ。
雪歩に武器を渡しているとは言え、それも音響閃光手榴弾が一つだけ。
まして今のあずさの状態を考えれば、絶対に遭遇させてはならない。
今は敵を集落に侵入させないことが最優先。
可能な限りリスクは避け、確実に侵入を防ぐべきだ。
そう考えた伊織は、ある程度二人が接近したのを確認し……
木の陰から姿を現してそれと同時に二人に向けて発砲した。
凛「ッ!?」
智絵里「きゃあっ!?」
突然前方に現れた人影と、銃声。
智絵里は思わず頭を抱えて身を屈め、凛はナイフを構えて警戒態勢を取る。
そして一瞬遅れて理解した。
765プロの水瀬伊織が、自分達に向けて発砲したことを。
15: ◆goOkhZhHlo:2016/02/06(土) 22:43:23.34 :T1JAYQW2o
また伊織は、凛達の武器が数時間前と変わっていないことを確認した。
つまり現状、圧倒的にこちらが優位だ。
しかし伊織は気を抜くことなく、銃を構えたまま叫んだ。
伊織「今すぐ武器を捨てて、後ろを向いて伏せなさい!」
伊織の怒声を聞き、智絵里はびくりと肩をすくませる。
銃口を向けられ、智絵里は完全に萎縮してしまっていた。
先ほどの発砲音もあり、伊織に従う以外の選択肢は思い浮かばなかった。
だがその隣で、凛は冷静だった。
伊織の姿と拳銃とを見て、
彼女こそが海岸沿いで自分達を襲撃した敵であると確信した。
智絵里が持っていた拳銃の形をはっきり覚えていたわけでもないし、
襲撃された時は閃光のせいで敵の姿は朧げだった。
しかしそれでも、あの時の敵が今目の前に居るのだと、凛はそう思った。
また伊織は、凛達の武器が数時間前と変わっていないことを確認した。
つまり現状、圧倒的にこちらが優位だ。
しかし伊織は気を抜くことなく、銃を構えたまま叫んだ。
伊織「今すぐ武器を捨てて、後ろを向いて伏せなさい!」
伊織の怒声を聞き、智絵里はびくりと肩をすくませる。
銃口を向けられ、智絵里は完全に萎縮してしまっていた。
先ほどの発砲音もあり、伊織に従う以外の選択肢は思い浮かばなかった。
だがその隣で、凛は冷静だった。
伊織の姿と拳銃とを見て、
彼女こそが海岸沿いで自分達を襲撃した敵であると確信した。
智絵里が持っていた拳銃の形をはっきり覚えていたわけでもないし、
襲撃された時は閃光のせいで敵の姿は朧げだった。
しかしそれでも、あの時の敵が今目の前に居るのだと、凛はそう思った。
16: ◆goOkhZhHlo:2016/02/06(土) 22:48:46.41 :T1JAYQW2o
つまり水瀬伊織は、自分達に明確な敵意を……いや、殺意を抱いている。
その伊織の指示に従い、武器を捨てて投降すればどうなるか。
結果は一つしかない。
だから凛は、絶対に指示に従ってはいけないと判断し、
そして即座に行動に移した。
隣で身を伏せ始めた智絵里の手を掴んで
向きを変えて全速力で走り出したのだ。
伊織「ッ……!」
それを見て伊織は咄嗟に引き金を引く。
走り去る二人の背に向けて連続で発砲する。
しかし伊織が弾を撃ち尽くした頃には既に、
凛と智絵里は木々の中に姿を消していた。
つまり水瀬伊織は、自分達に明確な敵意を……いや、殺意を抱いている。
その伊織の指示に従い、武器を捨てて投降すればどうなるか。
結果は一つしかない。
だから凛は、絶対に指示に従ってはいけないと判断し、
そして即座に行動に移した。
隣で身を伏せ始めた智絵里の手を掴んで
向きを変えて全速力で走り出したのだ。
伊織「ッ……!」
それを見て伊織は咄嗟に引き金を引く。
走り去る二人の背に向けて連続で発砲する。
しかし伊織が弾を撃ち尽くした頃には既に、
凛と智絵里は木々の中に姿を消していた。
17: ◆goOkhZhHlo:2016/02/06(土) 22:50:11.70 :T1JAYQW2o
凛達の消えた辺りに向けて更にカチカチと数回引き金を引いた後、
伊織は拳銃を下ろす。
「やっぱり」、というのが伊織が最初に抱いた感想だった。
こうなるだろうとは思っていた。
少しでも冷静に考えることができれば、あの状況で投降するわけがない。
それに思ったとおり、銃撃というのはそう簡単に当たるものではなかった。
そして、その感想から少し遅れて後悔がやってくる。
「失敗のリスクなど考えず、手榴弾を投げておくべきだったのではないか」
「考えてみればピンを抜かずにブラフとして使用する方法もあった」
「やはり回り込んで襲撃しておいた方が良かったかもしれない」
「武装解除など求めず、二人が静止している隙に撃ってしまえば良かった」
「もっと近付いてから姿を現せば良かった」
次から次へと、もっとああしておけばという思いが湧いてくる。
伊織はそれを振り払うように、頭を振った。
凛達の消えた辺りに向けて更にカチカチと数回引き金を引いた後、
伊織は拳銃を下ろす。
「やっぱり」、というのが伊織が最初に抱いた感想だった。
こうなるだろうとは思っていた。
少しでも冷静に考えることができれば、あの状況で投降するわけがない。
それに思ったとおり、銃撃というのはそう簡単に当たるものではなかった。
そして、その感想から少し遅れて後悔がやってくる。
「失敗のリスクなど考えず、手榴弾を投げておくべきだったのではないか」
「考えてみればピンを抜かずにブラフとして使用する方法もあった」
「やはり回り込んで襲撃しておいた方が良かったかもしれない」
「武装解除など求めず、二人が静止している隙に撃ってしまえば良かった」
「もっと近付いてから姿を現せば良かった」
次から次へと、もっとああしておけばという思いが湧いてくる。
伊織はそれを振り払うように、頭を振った。
18: ◆goOkhZhHlo:2016/02/06(土) 22:52:18.50 :T1JAYQW2o
終わったことを考えても仕方ない。
最低限の目的は達成できたのだからそれでいい。
探知機に目を下ろす。
二つの点は今もなお、集落から離れ続けている。
他にも、誰も居ない。
346プロは遠ざけられた。
それに、武器の性能と自分の射撃能力もある程度確かめられた。
今はこれで十分な成果としよう。
それより早くみんなのところへ戻ろう。
銃声を聞き、きっと不安に思っているはず。
そう言えば、弾はあと何発残っていただろうか。
数発くらいは練習でもしておいた方がいいかも知れない。
そんなことを考えながら、
伊織は仲間の待つ民家へと戻っていった。
終わったことを考えても仕方ない。
最低限の目的は達成できたのだからそれでいい。
探知機に目を下ろす。
二つの点は今もなお、集落から離れ続けている。
他にも、誰も居ない。
346プロは遠ざけられた。
それに、武器の性能と自分の射撃能力もある程度確かめられた。
今はこれで十分な成果としよう。
それより早くみんなのところへ戻ろう。
銃声を聞き、きっと不安に思っているはず。
そう言えば、弾はあと何発残っていただろうか。
数発くらいは練習でもしておいた方がいいかも知れない。
そんなことを考えながら、
伊織は仲間の待つ民家へと戻っていった。
19: ◆goOkhZhHlo:2016/02/06(土) 22:54:25.52 :T1JAYQW2o
14:40 渋谷凛
かな子「凛ちゃん、智絵里ちゃん……!」
智絵里「か……かな子ちゃんっ……!」
伊織から逃げた凛達はその後、南東の集落へと向かった。
そして今ようやく、念願叶って346プロの仲間と合流することができた。
智絵里とかな子は抱き合い、互いの無事を確かめ合う。
凛はそんな二人を尻目に、
一番近くに居た李衣菜に眉をひそめて質問した。
凛「……きらり、どうしたの?
それにさっき、向こうの方で血の跡みたいなの見たんだけど……」
14:40 渋谷凛
かな子「凛ちゃん、智絵里ちゃん……!」
智絵里「か……かな子ちゃんっ……!」
伊織から逃げた凛達はその後、南東の集落へと向かった。
そして今ようやく、念願叶って346プロの仲間と合流することができた。
智絵里とかな子は抱き合い、互いの無事を確かめ合う。
凛はそんな二人を尻目に、
一番近くに居た李衣菜に眉をひそめて質問した。
凛「……きらり、どうしたの?
それにさっき、向こうの方で血の跡みたいなの見たんだけど……」
20: ◆goOkhZhHlo:2016/02/06(土) 22:55:47.43 :T1JAYQW2o
その瞬間、場の空気が色を変えた。
智絵里と抱き合っていたかな子も、
そっと体を離して苦しそうに表情を歪める。
凛と智絵里はその空気を感じ取り、一気に全身の血液が冷えていく感覚を覚えた。
自分達が最も欲していない、最悪の返答が返って来る。
それを察した凛は、その返答を後回しにしようと質問を重ねた。
そんなことをしても無意味だが、ほぼ反射的に口が動いた。
しかし凛が口にした質問は、無意味どころか全くの逆効果しか生まなかった。
凛「そ、そうだ! あのさ、ここって卯月居ないの?
今ここに居るので全員? 誰か卯月のこと見てない?」
李衣菜「っ……そのことも含めて、全部話すよ。
でも、お願いだから……落ち着いて、聞いて」
その瞬間、場の空気が色を変えた。
智絵里と抱き合っていたかな子も、
そっと体を離して苦しそうに表情を歪める。
凛と智絵里はその空気を感じ取り、一気に全身の血液が冷えていく感覚を覚えた。
自分達が最も欲していない、最悪の返答が返って来る。
それを察した凛は、その返答を後回しにしようと質問を重ねた。
そんなことをしても無意味だが、ほぼ反射的に口が動いた。
しかし凛が口にした質問は、無意味どころか全くの逆効果しか生まなかった。
凛「そ、そうだ! あのさ、ここって卯月居ないの?
今ここに居るので全員? 誰か卯月のこと見てない?」
李衣菜「っ……そのことも含めて、全部話すよ。
でも、お願いだから……落ち着いて、聞いて」
21: ◆goOkhZhHlo:2016/02/06(土) 23:03:58.36 :T1JAYQW2o
そうして、李衣菜は話した。
かな子から聞いた話であると前置きし、
杏のこと、未央のこと、卯月のこと、全てを話した。
智絵里は両手で口元を押さえ、話を聞くうちにその両目からは涙が溢れ出した。
そんな智絵里の肩を抱き、かな子も嗚咽を堪えて静かに泣いた。
しかし凛は、だらりと両腕を下げたまま、茫然と話を聞いていた。
そして、李衣菜が話を終えて数秒の沈黙が続いた後、
凛「う……嘘でしょ? や、やめてよ、そんな……」
引きつった笑顔のような何かを顔に貼り付けてそう言った。
それは絶対に受け入れたくないという拒絶の表情。
だがその表情も、長くは続かなかった。
李衣菜「……私だって、信じたくないよ。
でも、実際に死んだのを見た子が……」
凛「やめてよッ!! 嫌だ!! そんなの聞きたくない!!」
そうして、李衣菜は話した。
かな子から聞いた話であると前置きし、
杏のこと、未央のこと、卯月のこと、全てを話した。
智絵里は両手で口元を押さえ、話を聞くうちにその両目からは涙が溢れ出した。
そんな智絵里の肩を抱き、かな子も嗚咽を堪えて静かに泣いた。
しかし凛は、だらりと両腕を下げたまま、茫然と話を聞いていた。
そして、李衣菜が話を終えて数秒の沈黙が続いた後、
凛「う……嘘でしょ? や、やめてよ、そんな……」
引きつった笑顔のような何かを顔に貼り付けてそう言った。
それは絶対に受け入れたくないという拒絶の表情。
だがその表情も、長くは続かなかった。
李衣菜「……私だって、信じたくないよ。
でも、実際に死んだのを見た子が……」
凛「やめてよッ!! 嫌だ!! そんなの聞きたくない!!」
22: ◆goOkhZhHlo:2016/02/06(土) 23:05:38.05 :T1JAYQW2o
凛は耳を塞いで李衣菜の言葉を、三人の死を拒絶した。
しかし固く閉じられた両目からは、ぼろぼろと涙が溢れ出ている。
言葉では拒否しているが、凛の心は既に認めてしまっていた。
あの時自分が見た物は、本当に卯月だったのだと。
またそれだけでなく杏と、
更にユニットのもう一人の仲間である未央まで失ってしまったのだと。
凛は嗚咽を漏らして泣き続ける。
その場に居た全員は
かける言葉が見つからずに俯いてしまう。
しかし次の瞬間、彼女達の顔は一斉に上がった。
凛が唐突に目を開けて部屋の隅に向かって駆け出し、
そして、床に置いてあった短機関銃を手に取ったのだ。
凛は耳を塞いで李衣菜の言葉を、三人の死を拒絶した。
しかし固く閉じられた両目からは、ぼろぼろと涙が溢れ出ている。
言葉では拒否しているが、凛の心は既に認めてしまっていた。
あの時自分が見た物は、本当に卯月だったのだと。
またそれだけでなく杏と、
更にユニットのもう一人の仲間である未央まで失ってしまったのだと。
凛は嗚咽を漏らして泣き続ける。
その場に居た全員は
かける言葉が見つからずに俯いてしまう。
しかし次の瞬間、彼女達の顔は一斉に上がった。
凛が唐突に目を開けて部屋の隅に向かって駆け出し、
そして、床に置いてあった短機関銃を手に取ったのだ。
23: ◆goOkhZhHlo:2016/02/06(土) 23:07:50.30 :T1JAYQW2o
李衣菜「なっ……!?」
みく「り、凛ちゃん!? 何を……!」
突然の凛の行動に、皆はただ驚きの声を上げる。
しかしそんな中、智絵里は真っ先に理解した。
さっきの、もう一つの集落に行くつもりだ。
そしてこの武器で、水瀬伊織と戦うつもりなんだ。
智絵里がその考えに至ったのと同時に、
凛は踵を返して部屋の出口へと向けて走り出す。
他の皆は意表を突かれたせいで僅かに反応が遅れた。
だが智絵里は、凛が扉に手をかける前に、
銃を持つ彼女の腕にしがみつくようにして止めた。
李衣菜「なっ……!?」
みく「り、凛ちゃん!? 何を……!」
突然の凛の行動に、皆はただ驚きの声を上げる。
しかしそんな中、智絵里は真っ先に理解した。
さっきの、もう一つの集落に行くつもりだ。
そしてこの武器で、水瀬伊織と戦うつもりなんだ。
智絵里がその考えに至ったのと同時に、
凛は踵を返して部屋の出口へと向けて走り出す。
他の皆は意表を突かれたせいで僅かに反応が遅れた。
だが智絵里は、凛が扉に手をかける前に、
銃を持つ彼女の腕にしがみつくようにして止めた。
24: ◆goOkhZhHlo:2016/02/06(土) 23:11:28.78 :T1JAYQW2o
智絵里「や、駄目……! 待って凛ちゃん……!」
凛「離して! 止めないでよ!」
必死に腕を掴み引き止める智絵里と、
怒鳴りながらそれを振り払おうとする凛。
そんな二人に、一瞬遅れて他の皆も駆け寄った。
李衣菜「ちょっと、落ち着きなって!
まさか一人で765プロのとこに行こうとしてるの!?」
凛「そうだよ! 今すぐ私が行って、
765プロの奴らを殺してやる……! 卯月達の仇を討ってやる!」
李衣菜「っ……一人で行ったって危ないだけだよ!
武器だってまともなのはその銃くらいしかないんだから!」
智絵里「や、駄目……! 待って凛ちゃん……!」
凛「離して! 止めないでよ!」
必死に腕を掴み引き止める智絵里と、
怒鳴りながらそれを振り払おうとする凛。
そんな二人に、一瞬遅れて他の皆も駆け寄った。
李衣菜「ちょっと、落ち着きなって!
まさか一人で765プロのとこに行こうとしてるの!?」
凛「そうだよ! 今すぐ私が行って、
765プロの奴らを殺してやる……! 卯月達の仇を討ってやる!」
李衣菜「っ……一人で行ったって危ないだけだよ!
武器だってまともなのはその銃くらいしかないんだから!」
25: ◆goOkhZhHlo:2016/02/06(土) 23:18:21.77 :T1JAYQW2o
凛「だったらなおさら一人で行くしかないじゃん!!
それとも武器も持たずに誰か付いてきてくれるの!? 無理でしょ!?」
凛は泣き叫びながら李衣菜に反発する。
可能な限り冷静に思考し、判断しようとする凛の姿はもはやそこには無かった。
凛「余計に誰か付いてくる方が危ないに決まってる!!
だから私が一人で……!」
しかしそんな凛の悲痛な叫びが、一瞬止まった。
智絵里に掴まれているのとは違う、もう一方の手を誰かに握られたのを感じ、
凛は反射的にそちらに顔を向けた。
手を握ったのは、かな子だった。
その目には凛と同じように涙が浮かんでいた。
そしてかな子はその潤んだ瞳で凛の目を見据え、そして強い口調で言った。
かな子「きらりちゃん、気絶してるんだよ……!
もし凛ちゃんがどこかに行ってる間に765プロの人がここに来たら……
私たち、逃げることも戦うこともできないんだよ……!」
凛「だったらなおさら一人で行くしかないじゃん!!
それとも武器も持たずに誰か付いてきてくれるの!? 無理でしょ!?」
凛は泣き叫びながら李衣菜に反発する。
可能な限り冷静に思考し、判断しようとする凛の姿はもはやそこには無かった。
凛「余計に誰か付いてくる方が危ないに決まってる!!
だから私が一人で……!」
しかしそんな凛の悲痛な叫びが、一瞬止まった。
智絵里に掴まれているのとは違う、もう一方の手を誰かに握られたのを感じ、
凛は反射的にそちらに顔を向けた。
手を握ったのは、かな子だった。
その目には凛と同じように涙が浮かんでいた。
そしてかな子はその潤んだ瞳で凛の目を見据え、そして強い口調で言った。
かな子「きらりちゃん、気絶してるんだよ……!
もし凛ちゃんがどこかに行ってる間に765プロの人がここに来たら……
私たち、逃げることも戦うこともできないんだよ……!」
26: ◆goOkhZhHlo:2016/02/06(土) 23:23:31.67 :T1JAYQW2o
助けを求めているのか、平静を失った凛を叱責しているのか、
それは恐らくかな子本人にすらはっきりとは分かっていない。
しかしこの必死な言葉を聞き、凛は息が詰まった。
そして気付いた。
自分の仲間への想いにはいつの間にか、765プロへの殺意が上塗りされていたのだと。
仲間を想うような言葉を口にしながら、頭は憎しみに支配されていた。
そうだ……仲間を守るために仲間を危険に晒しては本末転倒じゃないか。
今自分が手にしている銃は、みんなが身を守るための唯一の道具なんだ。
全員で走って逃げることができるのならまだしも、
きらりが気を失っているこんな状態では、銃は絶対に必要。
それを今自分は、奪おうとしていた。
凛は恐る恐るといった様子できらりに目を向ける。
そして数秒後、俯いて銃を手放した。
助けを求めているのか、平静を失った凛を叱責しているのか、
それは恐らくかな子本人にすらはっきりとは分かっていない。
しかしこの必死な言葉を聞き、凛は息が詰まった。
そして気付いた。
自分の仲間への想いにはいつの間にか、765プロへの殺意が上塗りされていたのだと。
仲間を想うような言葉を口にしながら、頭は憎しみに支配されていた。
そうだ……仲間を守るために仲間を危険に晒しては本末転倒じゃないか。
今自分が手にしている銃は、みんなが身を守るための唯一の道具なんだ。
全員で走って逃げることができるのならまだしも、
きらりが気を失っているこんな状態では、銃は絶対に必要。
それを今自分は、奪おうとしていた。
凛は恐る恐るといった様子できらりに目を向ける。
そして数秒後、俯いて銃を手放した。
27: ◆goOkhZhHlo:2016/02/06(土) 23:27:41.70 :T1JAYQW2o
そこでようやく智絵里とかな子は凛の両手から、そっと離れる。
凛は解放された腕を力なく下げ、俯いたまま部屋の端へと歩いて行った。
そして壁にもたれかかって腰を下ろし、
膝に顔を埋めるようにして、声を殺して泣き始めた。
またそれを見た智絵里も、
騒動により頭から追いやられていた悲しみが再びこみ上げ、
その場にヘたり込んで泣いた。
動ける者は、皆それぞれ二人の傍に寄り添い、
声を掛けることなくただ泣き止むのを待った。
そしてそんな中、李衣菜はチラときらりに目を向ける。
きらりが失神している以上、この場から下手に動くことはできない。
だが、もし目が覚めなかったら。
あるいは目が覚めてもまともに動ける精神状態になかったら。
その時は……何か、方法を考えなければならない。
もちろん純粋に心配する気持ちもあるが、
そういった事情も含めて早く目が覚めて欲しい。
李衣菜はそう強く願った。
そこでようやく智絵里とかな子は凛の両手から、そっと離れる。
凛は解放された腕を力なく下げ、俯いたまま部屋の端へと歩いて行った。
そして壁にもたれかかって腰を下ろし、
膝に顔を埋めるようにして、声を殺して泣き始めた。
またそれを見た智絵里も、
騒動により頭から追いやられていた悲しみが再びこみ上げ、
その場にヘたり込んで泣いた。
動ける者は、皆それぞれ二人の傍に寄り添い、
声を掛けることなくただ泣き止むのを待った。
そしてそんな中、李衣菜はチラときらりに目を向ける。
きらりが失神している以上、この場から下手に動くことはできない。
だが、もし目が覚めなかったら。
あるいは目が覚めてもまともに動ける精神状態になかったら。
その時は……何か、方法を考えなければならない。
もちろん純粋に心配する気持ちもあるが、
そういった事情も含めて早く目が覚めて欲しい。
李衣菜はそう強く願った。
34:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2016/02/07(日) 01:05:58.34 :A0aA4Wxp0
48: ◆goOkhZhHlo:2016/02/08(月) 22:16:29.42 :cDSZYf7co
14:40 音無小鳥
莉嘉「……あの音、何だったのかな……」
屋上に座り込み、莉嘉はふと思い出したかのように呟いた。
隣に立つ小鳥は莉嘉に目線を落とし、
小鳥「分からないけど……。でも、気にしても仕方ないわ。
それより、そろそろ準備しましょう。もうすぐ一時間よね?」
そう言って話題を変えた。
莉嘉は特に疑問に思うこともなく、短く返事をして素直に従う。
そんな莉嘉を横目で見ながら、
小鳥は少し前に聞こえた音の正体を考えた。
いや、考えるまでもなく小鳥には分かっていた。
14:40 音無小鳥
莉嘉「……あの音、何だったのかな……」
屋上に座り込み、莉嘉はふと思い出したかのように呟いた。
隣に立つ小鳥は莉嘉に目線を落とし、
小鳥「分からないけど……。でも、気にしても仕方ないわ。
それより、そろそろ準備しましょう。もうすぐ一時間よね?」
そう言って話題を変えた。
莉嘉は特に疑問に思うこともなく、短く返事をして素直に従う。
そんな莉嘉を横目で見ながら、
小鳥は少し前に聞こえた音の正体を考えた。
いや、考えるまでもなく小鳥には分かっていた。
49: ◆goOkhZhHlo:2016/02/08(月) 22:18:44.04 :cDSZYf7co
あれは間違いなく、銃声だった。
一発の後、数発連続で聞こえた。
森の中で誰かが発砲したのだ。
銃声を聞いた時、小鳥の頭に真っ先に浮かんだのはきらりと杏だった。
特にあの時……自分が卯月に向けて銃を構えた時に
遠くに立っていたきらりの姿を、小鳥は思い出した。
きらりの手には、大きめの銃が握られていた。
ではあの銃声はきらり達によるものなのか。
そうかも知れないしそうではないかも知れない。
戦いがあったのかも知れないし誰かが射撃の練習をしただけなのかも知れない。
もし戦いがあったのであれば、
莉嘉を人質として利用する時は、今なのかも知れない。
あれは間違いなく、銃声だった。
一発の後、数発連続で聞こえた。
森の中で誰かが発砲したのだ。
銃声を聞いた時、小鳥の頭に真っ先に浮かんだのはきらりと杏だった。
特にあの時……自分が卯月に向けて銃を構えた時に
遠くに立っていたきらりの姿を、小鳥は思い出した。
きらりの手には、大きめの銃が握られていた。
ではあの銃声はきらり達によるものなのか。
そうかも知れないしそうではないかも知れない。
戦いがあったのかも知れないし誰かが射撃の練習をしただけなのかも知れない。
もし戦いがあったのであれば、
莉嘉を人質として利用する時は、今なのかも知れない。
50: ◆goOkhZhHlo:2016/02/08(月) 22:26:06.05 :cDSZYf7co
だがそんな風に小鳥が迷っている間に事態は収まったようだった。
その数発分の銃声を最後に、もう何も聞こえてはこなかった。
もしあれが346プロによる銃声だったとすれば……。
そう考えてしまうが、今更どうしようもない。
今の自分にできるのは、次の異変を見逃さないことだ。
あの銃声では、765プロは誰も傷つかなかった。
そう信じて、「次」を考えることだ。
小鳥が色々と思考するうちに準備は終えた。
灯台を出てエリアを移動するため、出口の扉に手を伸ばす。
しかしその時もう一方の手が突然掴まれ、
小鳥は勢いよくそちらに顔を向けた。
莉嘉「っ……! ご、ごめんなさい」
当たり前だが、手を掴んだのは莉嘉だった。
正確には、莉嘉は小鳥と手をつなごうとしたのだ。
だがそんな風に小鳥が迷っている間に事態は収まったようだった。
その数発分の銃声を最後に、もう何も聞こえてはこなかった。
もしあれが346プロによる銃声だったとすれば……。
そう考えてしまうが、今更どうしようもない。
今の自分にできるのは、次の異変を見逃さないことだ。
あの銃声では、765プロは誰も傷つかなかった。
そう信じて、「次」を考えることだ。
小鳥が色々と思考するうちに準備は終えた。
灯台を出てエリアを移動するため、出口の扉に手を伸ばす。
しかしその時もう一方の手が突然掴まれ、
小鳥は勢いよくそちらに顔を向けた。
莉嘉「っ……! ご、ごめんなさい」
当たり前だが、手を掴んだのは莉嘉だった。
正確には、莉嘉は小鳥と手をつなごうとしたのだ。
51: ◆goOkhZhHlo:2016/02/08(月) 22:28:28.90 :cDSZYf7co
それを見て小鳥は思い出した。
エリア移動の際は手をつなぐ。
そういう決まりごとがあったんだ。
だが莉嘉は、ただ決まっているから手をつないだという風には見えなかった。
自分を頼っている、信頼している。
莉嘉の目を見て小鳥は、そのことに気付いた。
断りなく手を握り驚かせてしまったと申し訳なさそうにする莉嘉。
その少女に小鳥は、改めて手を差し伸べた。
小鳥「こちらこそごめんなさい……。
ちょっとびっくりしちゃっただけよ。気にしないで」
これを聞き、莉嘉は安心したように表情を柔らげて再び小鳥の手を握る。
いずれは人質として、恐らく殺害することになるであろう少女。
その小さな手を優しく握り、小鳥は扉を開いて歩き出した。
それを見て小鳥は思い出した。
エリア移動の際は手をつなぐ。
そういう決まりごとがあったんだ。
だが莉嘉は、ただ決まっているから手をつないだという風には見えなかった。
自分を頼っている、信頼している。
莉嘉の目を見て小鳥は、そのことに気付いた。
断りなく手を握り驚かせてしまったと申し訳なさそうにする莉嘉。
その少女に小鳥は、改めて手を差し伸べた。
小鳥「こちらこそごめんなさい……。
ちょっとびっくりしちゃっただけよ。気にしないで」
これを聞き、莉嘉は安心したように表情を柔らげて再び小鳥の手を握る。
いずれは人質として、恐らく殺害することになるであろう少女。
その小さな手を優しく握り、小鳥は扉を開いて歩き出した。
52: ◆goOkhZhHlo:2016/02/08(月) 22:33:31.58 :cDSZYf7co
15:30 秋月律子
律子「っ! みんな、止まって!」
そう言って、律子は探知機を注視し、ボタンを操作する。
一同はその律子の様子を見て、察した。
響「だ、誰か見つかったの!? 765プロ!? 346プロ!?」
律子「346プロよ。この先の集落に……八人居るわ」
八人という数に、響のみならず貴音とアナスタシアも少なからず驚きの色を浮かべた。
自分達のグループと合わせれば、
これで十一人の346プロアイドルの所在が明らかになったことになる。
急いで美波達のグループにも知らせなければ。
そう思うが早いか、律子達は足早に美波達の元へ向かった。
15:30 秋月律子
律子「っ! みんな、止まって!」
そう言って、律子は探知機を注視し、ボタンを操作する。
一同はその律子の様子を見て、察した。
響「だ、誰か見つかったの!? 765プロ!? 346プロ!?」
律子「346プロよ。この先の集落に……八人居るわ」
八人という数に、響のみならず貴音とアナスタシアも少なからず驚きの色を浮かべた。
自分達のグループと合わせれば、
これで十一人の346プロアイドルの所在が明らかになったことになる。
急いで美波達のグループにも知らせなければ。
そう思うが早いか、律子達は足早に美波達の元へ向かった。
53: ◆goOkhZhHlo:2016/02/08(月) 22:36:56.07 :cDSZYf7co
律子達は探知機を頼りに、すぐ美波達と合流した。
そして346プロのアイドルを八人発見したことを伝えると、
やはり美波達も目を丸くした。
美波「もうこんなに、集まってたんだ……」
アーニャ「驚きました……。でも、良かったです。これでたくさん仲間、増えますね?」
律子「そうね、是非増えて欲しい。
でも……この八人が仲間になってくれるかどうかは、あなた達にかかってるわ」
この言葉を聞き、美波とアナスタシアの表情は一気に緊張感を増す。
二人はゆっくりと顔を見合わせ、そして律子に視線を戻して言った。
美波「なんとか、説得してみます」
アーニャ「頑張ります……。みんな協力、してくれるように」
律子達は探知機を頼りに、すぐ美波達と合流した。
そして346プロのアイドルを八人発見したことを伝えると、
やはり美波達も目を丸くした。
美波「もうこんなに、集まってたんだ……」
アーニャ「驚きました……。でも、良かったです。これでたくさん仲間、増えますね?」
律子「そうね、是非増えて欲しい。
でも……この八人が仲間になってくれるかどうかは、あなた達にかかってるわ」
この言葉を聞き、美波とアナスタシアの表情は一気に緊張感を増す。
二人はゆっくりと顔を見合わせ、そして律子に視線を戻して言った。
美波「なんとか、説得してみます」
アーニャ「頑張ります……。みんな協力、してくれるように」
54: ◆goOkhZhHlo:2016/02/08(月) 22:39:23.05 :cDSZYf7co
春香「お、お願いします! 頑張ってください!」
響「自分達は行けないけど、応援してるぞ……!」
765プロの者達も、美波達に各々言葉をかける。
皆346プロと協力したいという思いは同じなのだ。
だが律子はそんな彼女達を特に険しい表情で見つめていた。
そして皆が声をかけ終えた後、
律子は美波達に一歩近付き、声を低くして聞いた。
律子「……考えたくないことかも知れないけど、確認させてちょうだい。
二人とも……覚悟は、できてる?」
その言葉に、アナスタシアは一瞬身を固くした後、目を伏せる。
美波はそのアナスタシアの様子を見て、そっと彼女の手を握った。
春香「お、お願いします! 頑張ってください!」
響「自分達は行けないけど、応援してるぞ……!」
765プロの者達も、美波達に各々言葉をかける。
皆346プロと協力したいという思いは同じなのだ。
だが律子はそんな彼女達を特に険しい表情で見つめていた。
そして皆が声をかけ終えた後、
律子は美波達に一歩近付き、声を低くして聞いた。
律子「……考えたくないことかも知れないけど、確認させてちょうだい。
二人とも……覚悟は、できてる?」
その言葉に、アナスタシアは一瞬身を固くした後、目を伏せる。
美波はそのアナスタシアの様子を見て、そっと彼女の手を握った。
55: ◆goOkhZhHlo:2016/02/08(月) 22:41:51.80 :cDSZYf7co
「346プロのアイドルも亜美と同じように殺されているかも知れない」
律子の言葉は、つまりそういうことだった。
その可能性については既に一度確認している。
しかしここで改めて問い直されてなお、
アナスタシアの心はしっかりと定まってはいなかった。
美波に比べて年少のアナスタシアは、
仲間の死について考えること自体への抵抗が大きかった。
律子はアナスタシアの表情を見て、
説得に向かわせるのは美波一人の方が良いかも知れないと、そう思った。
誰も死んでいないならそれでいい。
最悪なのは、346プロの誰かが殺されており、
それを直接聞いて立場を変えてしまうことだ。
もちろん簡単にはそうはならないだろうが、
346プロのアイドル達に引き止められでもすれば、
今のアナスタシアでは十分にありうるのではないか。
「346プロのアイドルも亜美と同じように殺されているかも知れない」
律子の言葉は、つまりそういうことだった。
その可能性については既に一度確認している。
しかしここで改めて問い直されてなお、
アナスタシアの心はしっかりと定まってはいなかった。
美波に比べて年少のアナスタシアは、
仲間の死について考えること自体への抵抗が大きかった。
律子はアナスタシアの表情を見て、
説得に向かわせるのは美波一人の方が良いかも知れないと、そう思った。
誰も死んでいないならそれでいい。
最悪なのは、346プロの誰かが殺されており、
それを直接聞いて立場を変えてしまうことだ。
もちろん簡単にはそうはならないだろうが、
346プロのアイドル達に引き止められでもすれば、
今のアナスタシアでは十分にありうるのではないか。
57: ◆goOkhZhHlo:2016/02/08(月) 22:47:55.99 :cDSZYf7co
そう考え律子は今一度本人に意志を問おうとした。
しかし、その質問は律子の口から出ることはなかった。
アーニャ「大丈夫、です。友達が、死んでいたら……とても、悲しいです。
でも、リツコ達は、私達と一緒に居てくれてます。
だから私も……何があっても、リツコ達と協力、します」
律子が口を開く直前にアナスタシアは顔を上げ、そう言った。
不安の色が浮かんではいたがその目を見て、
アナスタシアの意志は揺らいでいないと律子は確信した。
律子「……ありがとう、アーニャ。
それじゃあ……美波さんと二人で、お願いするわね」
その最後の確認に、二人はしっかりと頷いた。
律子はそれに頷き返す。
そして一同は、まずは南東集落の近くまで移動を始めた。
そう考え律子は今一度本人に意志を問おうとした。
しかし、その質問は律子の口から出ることはなかった。
アーニャ「大丈夫、です。友達が、死んでいたら……とても、悲しいです。
でも、リツコ達は、私達と一緒に居てくれてます。
だから私も……何があっても、リツコ達と協力、します」
律子が口を開く直前にアナスタシアは顔を上げ、そう言った。
不安の色が浮かんではいたがその目を見て、
アナスタシアの意志は揺らいでいないと律子は確信した。
律子「……ありがとう、アーニャ。
それじゃあ……美波さんと二人で、お願いするわね」
その最後の確認に、二人はしっかりと頷いた。
律子はそれに頷き返す。
そして一同は、まずは南東集落の近くまで移動を始めた。
59: ◆goOkhZhHlo:2016/02/08(月) 22:50:36.82 :cDSZYf7co
しばらく歩いた後、木々の隙間から民家が見えた辺りで律子は立ち止まる。
そして、美波とアナスタシアに探知機を見せた。
律子「彼女達は多分、集落の中心辺りに居るはずよ。
一箇所に固まってるみたい」
アーニャ「どこか……建物の中に居るのでしょうか?」
律子「そうだと思うけど、どの建物に居るかまではここからじゃ特定はできないわ。
だから、集落に入ってからは二人に自力で探してもらうことになるわね。
本当なら探知機を渡してあげられれば手っ取り早く見付けられるんだけど……」
美波「いえ、大体の位置がわかっているだけで十分です。
この近くには私達と、集落のみんなしか居ないみたいですし、
ある程度近づいたら呼びかけてみようと思います。
少しくらい大きな声を出しても、大丈夫ですよね?」
しばらく歩いた後、木々の隙間から民家が見えた辺りで律子は立ち止まる。
そして、美波とアナスタシアに探知機を見せた。
律子「彼女達は多分、集落の中心辺りに居るはずよ。
一箇所に固まってるみたい」
アーニャ「どこか……建物の中に居るのでしょうか?」
律子「そうだと思うけど、どの建物に居るかまではここからじゃ特定はできないわ。
だから、集落に入ってからは二人に自力で探してもらうことになるわね。
本当なら探知機を渡してあげられれば手っ取り早く見付けられるんだけど……」
美波「いえ、大体の位置がわかっているだけで十分です。
この近くには私達と、集落のみんなしか居ないみたいですし、
ある程度近づいたら呼びかけてみようと思います。
少しくらい大きな声を出しても、大丈夫ですよね?」
60: ◆goOkhZhHlo:2016/02/08(月) 22:52:35.32 :cDSZYf7co
律子「……そうね、大丈夫だと思う。と言うよりその方がいいわね。
それなら敵だと誤解されたりしなくて済むでしょうし」
美波「わかりました。えっと……他に何か、気を付けることはありますか?」
律子「いえ……思い付くことは全部言ったと思うわ。
みんなも、もう大丈夫よね?」
と、律子は765プロのアイドル達を振り返り、
皆もそれに対して各々頷く。
それを見て、美波とアナスタシアは心を落ち着けるように深く息を吐き、
美波「行ってきます」
そう言い残して背を向け、小走りに駆け出した。
律子「……そうね、大丈夫だと思う。と言うよりその方がいいわね。
それなら敵だと誤解されたりしなくて済むでしょうし」
美波「わかりました。えっと……他に何か、気を付けることはありますか?」
律子「いえ……思い付くことは全部言ったと思うわ。
みんなも、もう大丈夫よね?」
と、律子は765プロのアイドル達を振り返り、
皆もそれに対して各々頷く。
それを見て、美波とアナスタシアは心を落ち着けるように深く息を吐き、
美波「行ってきます」
そう言い残して背を向け、小走りに駆け出した。
61: ◆goOkhZhHlo:2016/02/08(月) 22:57:15.91 :cDSZYf7co
一同はその背を見送り、そして見えなくなった頃。
律子は探知機から目を上げて皆に向き直って言った。
律子「美波さん達が戻るまで、座って休みましょう。
休める時には少しでも休んでおかないと」
しかし、すぐには誰も腰を下ろそうとはしなかった。
恐らく今頑張ってくれている美波とアナスタシアに遠慮する気持ちがあるのだろう。
律子はその想いを察したが、やはり体は休めておいた方がいい。
そう思い再び休憩を促そうと口を開く。
だがそれと同時に貴音が動いた。
その場にゆっくりと腰を下ろし、他の皆を見上げ、
貴音「律子嬢の言う通りに致しましょう。
あの二人は確かに今、私達のために動いてくれています。
しかしだからこそ、今後彼女達を手助けするための体力を養っておくべきです」
落ち着いた声で言い聞かせるように、そう言った。
一同はその背を見送り、そして見えなくなった頃。
律子は探知機から目を上げて皆に向き直って言った。
律子「美波さん達が戻るまで、座って休みましょう。
休める時には少しでも休んでおかないと」
しかし、すぐには誰も腰を下ろそうとはしなかった。
恐らく今頑張ってくれている美波とアナスタシアに遠慮する気持ちがあるのだろう。
律子はその想いを察したが、やはり体は休めておいた方がいい。
そう思い再び休憩を促そうと口を開く。
だがそれと同時に貴音が動いた。
その場にゆっくりと腰を下ろし、他の皆を見上げ、
貴音「律子嬢の言う通りに致しましょう。
あの二人は確かに今、私達のために動いてくれています。
しかしだからこそ、今後彼女達を手助けするための体力を養っておくべきです」
落ち着いた声で言い聞かせるように、そう言った。
62: ◆goOkhZhHlo:2016/02/08(月) 22:58:39.31 :cDSZYf7co
貴音の言葉のあと、再びその場は静寂に包まれる。
そして数秒後、
千早「その通り、ですね……」
まずは千早がそう返事をしてその場に座った。
それを皮切りに、他の皆も各々適当な位置に腰を下ろし始める。
律子はそれを見て、安心したように軽く息を吐いた。
律子「……みんな、水分補給を忘れないようにね。
喉が渇いてなくても、渇く前に飲んでおくことが大切よ」
皆にそう指示し、自分も水を少し口に含む。
そうして喉を潤した後、貴音に声をかけた。
貴音の言葉のあと、再びその場は静寂に包まれる。
そして数秒後、
千早「その通り、ですね……」
まずは千早がそう返事をしてその場に座った。
それを皮切りに、他の皆も各々適当な位置に腰を下ろし始める。
律子はそれを見て、安心したように軽く息を吐いた。
律子「……みんな、水分補給を忘れないようにね。
喉が渇いてなくても、渇く前に飲んでおくことが大切よ」
皆にそう指示し、自分も水を少し口に含む。
そうして喉を潤した後、貴音に声をかけた。
63: ◆goOkhZhHlo:2016/02/08(月) 23:02:59.13 :cDSZYf7co
律子「ありがとう、貴音。助かったわ」
貴音「いえ、礼には及びません。それより……」
とここで律子は、貴音が重要な話題を
切り出そうとしていることを察して表情を改める。
そして貴音は、先程から変わらぬ真剣な表情のまま、律子に問うた。
貴音「彼女達が346プロの者を連れてくる前に、
皆に改めて確認しておかねばならないことがあると思うのです」
律子「……そうね、その通り。早めに確認しておいた方がいいわね」
律子はそう答え、視線を貴音から外す。
他の皆は当然直前のこの会話を聞いており、既に注目は集まっていた。
律子「ありがとう、貴音。助かったわ」
貴音「いえ、礼には及びません。それより……」
とここで律子は、貴音が重要な話題を
切り出そうとしていることを察して表情を改める。
そして貴音は、先程から変わらぬ真剣な表情のまま、律子に問うた。
貴音「彼女達が346プロの者を連れてくる前に、
皆に改めて確認しておかねばならないことがあると思うのです」
律子「……そうね、その通り。早めに確認しておいた方がいいわね」
律子はそう答え、視線を貴音から外す。
他の皆は当然直前のこの会話を聞いており、既に注目は集まっていた。
65: ◆goOkhZhHlo:2016/02/08(月) 23:08:04.65 :cDSZYf7co
律子はその視線を受け、そして殊更に真剣な表情を浮かべ、
律子「もう分かってると思うけど……。
今美波さん達が説得しに行ってる346プロの子達の中には、
既に765プロの誰かを傷付けてしまった子が居るかも知れない。
その子が説得に応じてここへ来た場合……
受け入れるための心の準備を、しておいて」
全員にそう念を押した。
そしてこの時、何人かの視線が一瞬揺らいだのを律子は見逃さなかった。
しかし同時に、それも仕方のないことだと感じた。
例えば、亜美を殺したという双葉杏や諸星きらりが来たとしたら、
それを許せるかどうか。
律子の言っていることはそういうことだ。
簡単に答えが出るような問題ではないことは律子も十分わかっていた。
律子はその視線を受け、そして殊更に真剣な表情を浮かべ、
律子「もう分かってると思うけど……。
今美波さん達が説得しに行ってる346プロの子達の中には、
既に765プロの誰かを傷付けてしまった子が居るかも知れない。
その子が説得に応じてここへ来た場合……
受け入れるための心の準備を、しておいて」
全員にそう念を押した。
そしてこの時、何人かの視線が一瞬揺らいだのを律子は見逃さなかった。
しかし同時に、それも仕方のないことだと感じた。
例えば、亜美を殺したという双葉杏や諸星きらりが来たとしたら、
それを許せるかどうか。
律子の言っていることはそういうことだ。
簡単に答えが出るような問題ではないことは律子も十分わかっていた。
67: ◆goOkhZhHlo:2016/02/08(月) 23:11:40.14 :cDSZYf7co
しかし律子が感じた視線の揺らぎは、本当に一瞬のものだった。
やはり完全には不安を隠しきれないようだったが、
それでもすぐに全ての瞳がしっかりと律子を見据えた。
春香「大丈夫です……。寧ろそういう人達と協力するのが一番大事だって、
ちゃんとわかってます」
千早「敵対していた人が考えを改めてくれるのなら……それが一番だもの」
響「その人達もきっと、友達を守るために必死だったんだし……。
だから自分も受け入れるぞ! そりゃあ簡単に、とはいかないかも知れないけど……」
やよい「わ、私も同じです……!
どんな人でも、一緒に協力してくれるんだったらそれが一番嬉しいですから!」
その目を見、言葉を聞き、
律子と貴音はどうやら確認は不要だったようだと
自分の中の皆に対する認識を改めた。
しかし律子が感じた視線の揺らぎは、本当に一瞬のものだった。
やはり完全には不安を隠しきれないようだったが、
それでもすぐに全ての瞳がしっかりと律子を見据えた。
春香「大丈夫です……。寧ろそういう人達と協力するのが一番大事だって、
ちゃんとわかってます」
千早「敵対していた人が考えを改めてくれるのなら……それが一番だもの」
響「その人達もきっと、友達を守るために必死だったんだし……。
だから自分も受け入れるぞ! そりゃあ簡単に、とはいかないかも知れないけど……」
やよい「わ、私も同じです……!
どんな人でも、一緒に協力してくれるんだったらそれが一番嬉しいですから!」
その目を見、言葉を聞き、
律子と貴音はどうやら確認は不要だったようだと
自分の中の皆に対する認識を改めた。
69: ◆goOkhZhHlo:2016/02/08(月) 23:19:19.88 :cDSZYf7co
仲間を殺した者も、協力する意思があるなら受け入れる。
その思いは彼女達の中で共通していた。
だがこの時、貴音、響、やよいの三人は別に思うところがあった。
それは、小鳥と卯月のことだ。
小鳥が卯月を殺したことを知ったら、美波とアナスタシアはどう思うだろうか。
仲間を殺した小鳥を受け入れてくれるだろうか。
これから美波達が連れてくるであろう346プロのアイドルはどうだろうか。
小鳥や、事実を黙っていた自分達を拒絶しはしないだろうか。
三人が抱く感情はそれぞれだったが、
三人とも上手く隠すことができた。
いずれにせよその時が来れば分かることだ。
それまでは今まで通り黙っていなければ。
ただ、もし話さなければならない時が来て、
そして受け入れられなかった場合、どうするべきか。
三人の考えは、まだまとまりきっては居なかった。
仲間を殺した者も、協力する意思があるなら受け入れる。
その思いは彼女達の中で共通していた。
だがこの時、貴音、響、やよいの三人は別に思うところがあった。
それは、小鳥と卯月のことだ。
小鳥が卯月を殺したことを知ったら、美波とアナスタシアはどう思うだろうか。
仲間を殺した小鳥を受け入れてくれるだろうか。
これから美波達が連れてくるであろう346プロのアイドルはどうだろうか。
小鳥や、事実を黙っていた自分達を拒絶しはしないだろうか。
三人が抱く感情はそれぞれだったが、
三人とも上手く隠すことができた。
いずれにせよその時が来れば分かることだ。
それまでは今まで通り黙っていなければ。
ただ、もし話さなければならない時が来て、
そして受け入れられなかった場合、どうするべきか。
三人の考えは、まだまとまりきっては居なかった。
105: ◆goOkhZhHlo:2016/02/10(水) 22:07:25.44 :C2KXluFVo
16:00 新田美波
李衣菜「……そ、それ、本当なの……?」
美波「えぇ、もちろん本当よ」
アーニャ「みんないい人達、優しい人達ばかりです……!」
美波が話した内容を聞き、
集落に居た346プロのアイドル達は全員が驚きの表情を浮かべた。
だがその驚きの中には様々な感情や想いが混ざり、その色は各々違う。
特に李衣菜を始めとする数人は、疑念の方が強いようだった。
李衣菜「いや、でも……騙されてたりとかさ。そういう可能性は……」
美波「ううん、大丈夫! だってその子達、私とアーニャちゃんの命を助けるために
すごく必死になってくれたの。それに殺すつもりならとっくに殺してるはずだし、
騙して利用しようとしてるのだとしても、
もっと安全で確実な方法があるはずでしょ?」
16:00 新田美波
李衣菜「……そ、それ、本当なの……?」
美波「えぇ、もちろん本当よ」
アーニャ「みんないい人達、優しい人達ばかりです……!」
美波が話した内容を聞き、
集落に居た346プロのアイドル達は全員が驚きの表情を浮かべた。
だがその驚きの中には様々な感情や想いが混ざり、その色は各々違う。
特に李衣菜を始めとする数人は、疑念の方が強いようだった。
李衣菜「いや、でも……騙されてたりとかさ。そういう可能性は……」
美波「ううん、大丈夫! だってその子達、私とアーニャちゃんの命を助けるために
すごく必死になってくれたの。それに殺すつもりならとっくに殺してるはずだし、
騙して利用しようとしてるのだとしても、
もっと安全で確実な方法があるはずでしょ?」
106: ◆goOkhZhHlo:2016/02/10(水) 22:10:35.72 :C2KXluFVo
美波の言葉は、その場に居た者を納得させるのに十分な説得力を持っていた。
確かに利用するつもりなら、
こうして二人を集落に送り出すのはリスクが高すぎるし、
命を救おうとしてくれたというのも本当のようだ。
またそういった理屈は抜きにしても、
765プロにも平穏を望む者が居るというのは何もおかしなことではない。
そのことは、可能性としては皆もちろん考えていた。
そしてそれが今確定したのだ。
その事実に、何人かの心は動いた。
美波達に付いて行って、みんなで協力したいと思った。
しかし誰かがその意志を口にする前に、
凛「無理だよ、協力とか」
その小さな声が、室内を一瞬で静寂で満たした。
美波の言葉は、その場に居た者を納得させるのに十分な説得力を持っていた。
確かに利用するつもりなら、
こうして二人を集落に送り出すのはリスクが高すぎるし、
命を救おうとしてくれたというのも本当のようだ。
またそういった理屈は抜きにしても、
765プロにも平穏を望む者が居るというのは何もおかしなことではない。
そのことは、可能性としては皆もちろん考えていた。
そしてそれが今確定したのだ。
その事実に、何人かの心は動いた。
美波達に付いて行って、みんなで協力したいと思った。
しかし誰かがその意志を口にする前に、
凛「無理だよ、協力とか」
その小さな声が、室内を一瞬で静寂で満たした。
108: ◆goOkhZhHlo:2016/02/10(水) 22:15:53.37 :C2KXluFVo
この瞬間、全員一斉に凛に目を向ける。
凛はその視線を浴びたまま、俯いてじっとしていた。
美波「だ……大丈夫よ、凛ちゃん。
本当に信頼できる人達だし、協力すればきっとなんとか……」
そう言って美波は精一杯の優しい笑みを向ける。
が、その笑顔も、次の凛の言葉で消え去った。
凛「だって、もう何人も殺されてるんだよ……!
そんな状況で今更協力なんて、できるわけない!!
卯月も、未央も、杏も! みんな765プロに殺されたんだ!
そんな奴らと協力しろって!? 無理だよ!! 私は絶対に嫌だ!!」
一度は鎮まった凛の感情は、ここで再び過熱した。
怒りと涙が溢れ出す。
美波とアナスタシアはその様子を見て、
また言葉を聞いて、全身の血液が一気に冷えるのを感じた。
この瞬間、全員一斉に凛に目を向ける。
凛はその視線を浴びたまま、俯いてじっとしていた。
美波「だ……大丈夫よ、凛ちゃん。
本当に信頼できる人達だし、協力すればきっとなんとか……」
そう言って美波は精一杯の優しい笑みを向ける。
が、その笑顔も、次の凛の言葉で消え去った。
凛「だって、もう何人も殺されてるんだよ……!
そんな状況で今更協力なんて、できるわけない!!
卯月も、未央も、杏も! みんな765プロに殺されたんだ!
そんな奴らと協力しろって!? 無理だよ!! 私は絶対に嫌だ!!」
一度は鎮まった凛の感情は、ここで再び過熱した。
怒りと涙が溢れ出す。
美波とアナスタシアはその様子を見て、
また言葉を聞いて、全身の血液が一気に冷えるのを感じた。
109: ◆goOkhZhHlo:2016/02/10(水) 22:18:12.47 :C2KXluFVo
覚悟はしていた。
765プロの亜美と同じように、346プロからも死者が出ているかも知れない。
そう、覚悟は決めていた。
しかしだからと言って、動揺しないわけがない。
仲間の死を知り、二人はこれ以上無いほどに心を強く締め付けられた。
美波は唇を噛み、アナスタシアの視界は滲む。
だがそれでも、二人は目を逸らさなかった。
アナスタシアは涙を零しながらも凛をしっかりと見据え、
そして美波は前に一歩踏み出した。
美波「でも、だからっ……!
そんな状況だからこそ、協力しなくちゃいけないの!!
それに765プロだって、双海亜美ちゃんが346プロに殺されてるわ!!」
覚悟はしていた。
765プロの亜美と同じように、346プロからも死者が出ているかも知れない。
そう、覚悟は決めていた。
しかしだからと言って、動揺しないわけがない。
仲間の死を知り、二人はこれ以上無いほどに心を強く締め付けられた。
美波は唇を噛み、アナスタシアの視界は滲む。
だがそれでも、二人は目を逸らさなかった。
アナスタシアは涙を零しながらも凛をしっかりと見据え、
そして美波は前に一歩踏み出した。
美波「でも、だからっ……!
そんな状況だからこそ、協力しなくちゃいけないの!!
それに765プロだって、双海亜美ちゃんが346プロに殺されてるわ!!」
110: ◆goOkhZhHlo:2016/02/10(水) 22:21:12.63 :C2KXluFVo
それを聞き、今度は凛を除く全員が息を呑む。
杏が双海亜美を撃ったという話は聞いていた。
杏は殺せたかどうか分からないと言っていたが、その答えがここで出たのだ。
しかし他の皆が程度の差はあれど驚きの色を露わにしたのに対し、
凛はまったく様子を変えることなかった。
凛「双海亜美が殺されてる!? だから何!?
だからおあいこだって、そう言いたいわけ!?」
美波「そうじゃない……! 765プロの人達は亜美ちゃんが殺されても、
私達を、346プロを恨むことはなかった!
これ以上どちら側からも犠牲者を出さないようにって、
一生懸命になってくれてる! だから私達も……!」
凛「向こうがどう思ってるとかそんなの関係ない!!
私はみんなを殺した奴らを絶対許さない!!
あの子達の仇を討たないと気が治まらない!!」
それを聞き、今度は凛を除く全員が息を呑む。
杏が双海亜美を撃ったという話は聞いていた。
杏は殺せたかどうか分からないと言っていたが、その答えがここで出たのだ。
しかし他の皆が程度の差はあれど驚きの色を露わにしたのに対し、
凛はまったく様子を変えることなかった。
凛「双海亜美が殺されてる!? だから何!?
だからおあいこだって、そう言いたいわけ!?」
美波「そうじゃない……! 765プロの人達は亜美ちゃんが殺されても、
私達を、346プロを恨むことはなかった!
これ以上どちら側からも犠牲者を出さないようにって、
一生懸命になってくれてる! だから私達も……!」
凛「向こうがどう思ってるとかそんなの関係ない!!
私はみんなを殺した奴らを絶対許さない!!
あの子達の仇を討たないと気が治まらない!!」
111: ◆goOkhZhHlo:2016/02/10(水) 22:23:10.21 :C2KXluFVo
最早双方の意見は、完全に対立していた。
このまま意見をぶつけ合っても何の意味もない。
そして李衣菜は、この二人のやり取りを見ながら
どうするべきか懸命に思考した。
美波の話を聞いた時、
初め李衣菜は協力するふりをして付いて行ってしまおうかと考えた。
そして隙をついてそこに居る765プロのアイドル達を殺してしまおうかと、そう考えた。
だがすぐにその考えは改めた。
その理由は、まず第一に感情的なもの。
美波の話が本当だとすれば、
彼女達は一度765プロのアイドルに命を救われている。
実際に命の危険があったかは別として、
少なくとも命を救おうと動いてくれた者が居る。
そのことが、李衣菜の心に躊躇を生んだ。
最早双方の意見は、完全に対立していた。
このまま意見をぶつけ合っても何の意味もない。
そして李衣菜は、この二人のやり取りを見ながら
どうするべきか懸命に思考した。
美波の話を聞いた時、
初め李衣菜は協力するふりをして付いて行ってしまおうかと考えた。
そして隙をついてそこに居る765プロのアイドル達を殺してしまおうかと、そう考えた。
だがすぐにその考えは改めた。
その理由は、まず第一に感情的なもの。
美波の話が本当だとすれば、
彼女達は一度765プロのアイドルに命を救われている。
実際に命の危険があったかは別として、
少なくとも命を救おうと動いてくれた者が居る。
そのことが、李衣菜の心に躊躇を生んだ。
112: ◆goOkhZhHlo:2016/02/10(水) 22:25:53.47 :C2KXluFVo
星井美希のような明らかな敵や、
三浦あずさのように敵かも知れない者ならまだしも、
敵意どころかこちらの身を案じてくれるような相手を自分は攻撃できるのか。
李衣菜には自信が持てなかった。
そして第二に、感情とは別の、現実的な問題も多くあった。
武器を持って行けるかどうかも分からないし、
付いて行ったところで攻撃の機会が巡って来るとも限らない。
つまり、あまりに不確定要素が多すぎた。
だから、李衣菜は決めた。
嘘をつくのはやめよう。
自分らしく正直に意見を言うべきだ、と。
李衣菜「……ごめん、美波さん。私もちょっと、一緒には行けない」
星井美希のような明らかな敵や、
三浦あずさのように敵かも知れない者ならまだしも、
敵意どころかこちらの身を案じてくれるような相手を自分は攻撃できるのか。
李衣菜には自信が持てなかった。
そして第二に、感情とは別の、現実的な問題も多くあった。
武器を持って行けるかどうかも分からないし、
付いて行ったところで攻撃の機会が巡って来るとも限らない。
つまり、あまりに不確定要素が多すぎた。
だから、李衣菜は決めた。
嘘をつくのはやめよう。
自分らしく正直に意見を言うべきだ、と。
李衣菜「……ごめん、美波さん。私もちょっと、一緒には行けない」
113: ◆goOkhZhHlo:2016/02/10(水) 22:29:58.61 :C2KXluFVo
美波「……李衣菜、ちゃん……」
李衣菜は凛の肩に手を置き、美波との間に割って入った。
そして言葉に詰まる美波に、そのまま続ける。
李衣菜「美波さん達と一緒に居る765プロの人達は、多分本当に、信用できるんだと思う。
その人達と協力してることについては別に何も言わないし、
今のところは手出しするつもりもない。
でも、協力はできない。だってもう私は……三浦あずさを襲ってる」
美波「っ……で、でも! 765プロのみんなは、
そういう子こそ仲間にするべきだって、そう言って……」
李衣菜「違うんだよ……。私はもう決めたんだ。
もしかしたら三浦あずさは戦う気がなかったのかも知れない。
でも私は、後悔してない。765プロと戦うって、決めたんだから」
美波「……李衣菜、ちゃん……」
李衣菜は凛の肩に手を置き、美波との間に割って入った。
そして言葉に詰まる美波に、そのまま続ける。
李衣菜「美波さん達と一緒に居る765プロの人達は、多分本当に、信用できるんだと思う。
その人達と協力してることについては別に何も言わないし、
今のところは手出しするつもりもない。
でも、協力はできない。だってもう私は……三浦あずさを襲ってる」
美波「っ……で、でも! 765プロのみんなは、
そういう子こそ仲間にするべきだって、そう言って……」
李衣菜「違うんだよ……。私はもう決めたんだ。
もしかしたら三浦あずさは戦う気がなかったのかも知れない。
でも私は、後悔してない。765プロと戦うって、決めたんだから」
114: ◆goOkhZhHlo:2016/02/10(水) 22:32:48.62 :C2KXluFVo
この返事を聞き美波は何か言葉を返そうと口を開いたが、
そのまま何も発することなく、唇を噛んだ。
李衣菜と凛は765プロに対して完全に敵意を抱いてしまっている。
そして、もうその意志を変えるつもりもない。
今ここで無理に灯台まで連れて行っても、事態は間違いなく悪い方にしか転がらない。
悔しさと悲しさが入り混じったような感情が美波の胸を締め付ける。
だがその痛みを堪えるように、美波は声を絞り出した。
美波「……わかったわ。でも、ここに居るみんなが、
戦いたいと思ってるわけじゃない……そう、だよね?」
そう言って美波は、李衣菜と凛の後ろに居るアイドル達を一瞥する。
そして李衣菜に視線を戻し、懇願するように言った。
美波「もうこんな状況で、対立した意見を合わせるのは無理なのかも知れない。
でもせめて、私達に賛同してくれる子は連れて行ってあげたいの……!」
この返事を聞き美波は何か言葉を返そうと口を開いたが、
そのまま何も発することなく、唇を噛んだ。
李衣菜と凛は765プロに対して完全に敵意を抱いてしまっている。
そして、もうその意志を変えるつもりもない。
今ここで無理に灯台まで連れて行っても、事態は間違いなく悪い方にしか転がらない。
悔しさと悲しさが入り混じったような感情が美波の胸を締め付ける。
だがその痛みを堪えるように、美波は声を絞り出した。
美波「……わかったわ。でも、ここに居るみんなが、
戦いたいと思ってるわけじゃない……そう、だよね?」
そう言って美波は、李衣菜と凛の後ろに居るアイドル達を一瞥する。
そして李衣菜に視線を戻し、懇願するように言った。
美波「もうこんな状況で、対立した意見を合わせるのは無理なのかも知れない。
でもせめて、私達に賛同してくれる子は連れて行ってあげたいの……!」
115: ◆goOkhZhHlo:2016/02/10(水) 22:35:35.91 :C2KXluFVo
アーニャ「わ……私も、お願いします。協力してくれる人、少しでも来て欲しいです……」
二人の言葉に、凛は黙って目を伏せ、
李衣菜は美波とアナスタシアの目を見つめ返した。
そして数秒後、
李衣菜「……そうだね。その方が、いいかも」
静かに、そう答えた。
その返事に美波達が何か言う前に李衣菜は後ろを振り向いて、
全員に向かって言った。
李衣菜「戦う子はここに残る。協力したい子は美波さん達と一緒に行く。
私はそれでいい……ううん、そうするべきだと思う。
戦いたくない子まで巻き込むのは、私もできればしたくないからさ……」
李衣菜はここで凛に目を向ける。
凛は無言のままだったが、李衣菜はそれを異論無しと受け取った。
アーニャ「わ……私も、お願いします。協力してくれる人、少しでも来て欲しいです……」
二人の言葉に、凛は黙って目を伏せ、
李衣菜は美波とアナスタシアの目を見つめ返した。
そして数秒後、
李衣菜「……そうだね。その方が、いいかも」
静かに、そう答えた。
その返事に美波達が何か言う前に李衣菜は後ろを振り向いて、
全員に向かって言った。
李衣菜「戦う子はここに残る。協力したい子は美波さん達と一緒に行く。
私はそれでいい……ううん、そうするべきだと思う。
戦いたくない子まで巻き込むのは、私もできればしたくないからさ……」
李衣菜はここで凛に目を向ける。
凛は無言のままだったが、李衣菜はそれを異論無しと受け取った。
116: ◆goOkhZhHlo:2016/02/10(水) 22:39:53.41 :C2KXluFVo
戦うか、協力するか。
李衣菜に改めて意志を問われ一同は沈黙してしまう。
だがそれも当然のこと。
この状況で即答できるようなことではないし、
仮に心が決まっていたとしても、言い出しにくい雰囲気がその場を覆っていた。
しかしその雰囲気は、みくによって取り払われた。
みく「蘭子ちゃん……全然、遠慮なんてしなくていいよ」
蘭子「え……」
みく「本当は、美波ちゃん達と一緒に行きたいんでしょ?」
李衣菜の質問を受けてから
蘭子が落ち着かない様子を見せていたことに、みくは気付いていた。
そして蘭子の性格やこれまでの様子を鑑みて本音を聞いたのだ。
戦うか、協力するか。
李衣菜に改めて意志を問われ一同は沈黙してしまう。
だがそれも当然のこと。
この状況で即答できるようなことではないし、
仮に心が決まっていたとしても、言い出しにくい雰囲気がその場を覆っていた。
しかしその雰囲気は、みくによって取り払われた。
みく「蘭子ちゃん……全然、遠慮なんてしなくていいよ」
蘭子「え……」
みく「本当は、美波ちゃん達と一緒に行きたいんでしょ?」
李衣菜の質問を受けてから
蘭子が落ち着かない様子を見せていたことに、みくは気付いていた。
そして蘭子の性格やこれまでの様子を鑑みて本音を聞いたのだ。
117: ◆goOkhZhHlo:2016/02/10(水) 22:42:02.31 :C2KXluFVo
じっと目を見つめて問いかけるみくを、
困ったような、焦ったような顔で蘭子は見つめ返す。
「本当は美波達と一緒に行ってみんなで協力したい」
みくの言葉は、紛れもなく蘭子の本音だった。
しかしそれでも蘭子は思いきれずに居る。
なぜ本音を出せないのか。
その理由に、李衣菜は思い当たる節があった。
李衣菜「もしかして……私が三浦あずさを殴ったこと、気にしてるの?」
これを聞いた瞬間、蘭子は驚いたように李衣菜に目を向ける。
その表情は、李衣菜の言葉が図星であることを示していた。
つまり蘭子は、あずさが傷付くのを黙って見ていた自分には
765プロと協力する資格など無いのではないかと、そう考えていたのだ。
じっと目を見つめて問いかけるみくを、
困ったような、焦ったような顔で蘭子は見つめ返す。
「本当は美波達と一緒に行ってみんなで協力したい」
みくの言葉は、紛れもなく蘭子の本音だった。
しかしそれでも蘭子は思いきれずに居る。
なぜ本音を出せないのか。
その理由に、李衣菜は思い当たる節があった。
李衣菜「もしかして……私が三浦あずさを殴ったこと、気にしてるの?」
これを聞いた瞬間、蘭子は驚いたように李衣菜に目を向ける。
その表情は、李衣菜の言葉が図星であることを示していた。
つまり蘭子は、あずさが傷付くのを黙って見ていた自分には
765プロと協力する資格など無いのではないかと、そう考えていたのだ。
118: ◆goOkhZhHlo:2016/02/10(水) 22:43:36.73 :C2KXluFVo
李衣菜はこの蘭子の考えを察した。
そして一瞬目を伏せて、美波とアナスタシアに詳しい説明をした。
あずさを奇襲したこと、何か危険な物質をあずさが浴びたこと、
それを蘭子とみくが見ていたこと。
全てを詳細に話した。
李衣菜の話を聞き、美波達はやはり完全に平静では居られなかった。
だが美波は努めて落ち着いた、優しい声で、蘭子に声をかけた。
美波「大丈夫……誰もそのことで蘭子ちゃんを責めたりなんかしないわ。
さっき言った通り、仮に765プロの誰かを傷付けた人が居ても
そういう人こそ説得して欲しいって、
協力関係になってもらいたいって、みんなそう言ってるんだから……」
李衣菜「それにあれは私が独断で、一人でやったことなんだし……。
見てたからって、蘭子ちゃんには何の責任もないよ」
李衣菜はこの蘭子の考えを察した。
そして一瞬目を伏せて、美波とアナスタシアに詳しい説明をした。
あずさを奇襲したこと、何か危険な物質をあずさが浴びたこと、
それを蘭子とみくが見ていたこと。
全てを詳細に話した。
李衣菜の話を聞き、美波達はやはり完全に平静では居られなかった。
だが美波は努めて落ち着いた、優しい声で、蘭子に声をかけた。
美波「大丈夫……誰もそのことで蘭子ちゃんを責めたりなんかしないわ。
さっき言った通り、仮に765プロの誰かを傷付けた人が居ても
そういう人こそ説得して欲しいって、
協力関係になってもらいたいって、みんなそう言ってるんだから……」
李衣菜「それにあれは私が独断で、一人でやったことなんだし……。
見てたからって、蘭子ちゃんには何の責任もないよ」
119: ◆goOkhZhHlo:2016/02/10(水) 22:45:07.74 :C2KXluFVo
二人の言葉を聞き、蘭子はもう一度周りを見回した。
そして自分に向けられた仲間達の視線を受け、
数秒後、囁くような声で言った。
蘭子「一緒に、行ってもいいですか……」
美波「……! ええ、大歓迎よ!」
美波は僅かに顔を明るくし、蘭子に手を差し伸べる。
蘭子はおずおずと足を踏み出し、そっと美波の手を取った。
そんな二人を少し見つめた後、李衣菜は再び他の皆に目を向ける。
李衣菜「それじゃ、他にはもう……」
「居ないか」、と李衣菜は確認を取ろうとした。
しかしそれとほぼ同時に、
みりあ「あっ……!」
慌てた様子でみりあが声を上げた。
二人の言葉を聞き、蘭子はもう一度周りを見回した。
そして自分に向けられた仲間達の視線を受け、
数秒後、囁くような声で言った。
蘭子「一緒に、行ってもいいですか……」
美波「……! ええ、大歓迎よ!」
美波は僅かに顔を明るくし、蘭子に手を差し伸べる。
蘭子はおずおずと足を踏み出し、そっと美波の手を取った。
そんな二人を少し見つめた後、李衣菜は再び他の皆に目を向ける。
李衣菜「それじゃ、他にはもう……」
「居ないか」、と李衣菜は確認を取ろうとした。
しかしそれとほぼ同時に、
みりあ「あっ……!」
慌てた様子でみりあが声を上げた。
120: ◆goOkhZhHlo:2016/02/10(水) 22:48:55.94 :C2KXluFVo
恐らく、意図したことではなく思わず声が出たのだろう。
自分に集中した視線に、みりあはバツが悪そうに目を伏せた。
だがすぐに顔を上げ、そして自分の素直な気持ちをみりあは言葉にした。
みりあ「あ、あのね。私、莉嘉ちゃんに、会いたいと思って……。
でも、きらりちゃんのことも心配だから、
私、どうしたらいいのかなって、迷っちゃって……」
李衣菜「……みりあちゃんは、765プロと戦うことについてはどう思うの?」
みりあ「私は……みんなで仲良くできたらいいなって思うよ。
でも、きらりちゃんが……」
そう言ってみりあは黙り込んでしまう。
しかし今、みりあははっきりと口にした。
「みんなで仲良くしたい」と。
つまり、765プロと戦いたくないと、そう言った。
恐らく、意図したことではなく思わず声が出たのだろう。
自分に集中した視線に、みりあはバツが悪そうに目を伏せた。
だがすぐに顔を上げ、そして自分の素直な気持ちをみりあは言葉にした。
みりあ「あ、あのね。私、莉嘉ちゃんに、会いたいと思って……。
でも、きらりちゃんのことも心配だから、
私、どうしたらいいのかなって、迷っちゃって……」
李衣菜「……みりあちゃんは、765プロと戦うことについてはどう思うの?」
みりあ「私は……みんなで仲良くできたらいいなって思うよ。
でも、きらりちゃんが……」
そう言ってみりあは黙り込んでしまう。
しかし今、みりあははっきりと口にした。
「みんなで仲良くしたい」と。
つまり、765プロと戦いたくないと、そう言った。
121: ◆goOkhZhHlo:2016/02/10(水) 22:51:35.53 :C2KXluFVo
みりあがここに残ろうとしているのは、ひとえにきらりを心配してのこと。
気を失ったきらりを灯台まで運んでいくことは出来ないと、みりあも分かっている。
運ぶのが大変だからではなく、
きらりが765プロをどう思っているかが分からないからだ。
目が覚めた時に周囲に765プロの者が大勢居たとなると、
きらりがどのような反応を示すか、予測がつかない。
だから、自分がきらりの傍に居るには「対立組」と共に居るしかない。
しかしきらりを心配する気持ちと同じくらい、
莉嘉に会いたい、みんなで協力したいという気持ちも強い。
そういった理由から、みりあは揺れていた。
だがこれを聞き、迷うみりあとは対照的に、
その場に居た者の考えは一致した。
かな子「だったら、みりあちゃんも行った方がいいよ」
みりあがここに残ろうとしているのは、ひとえにきらりを心配してのこと。
気を失ったきらりを灯台まで運んでいくことは出来ないと、みりあも分かっている。
運ぶのが大変だからではなく、
きらりが765プロをどう思っているかが分からないからだ。
目が覚めた時に周囲に765プロの者が大勢居たとなると、
きらりがどのような反応を示すか、予測がつかない。
だから、自分がきらりの傍に居るには「対立組」と共に居るしかない。
しかしきらりを心配する気持ちと同じくらい、
莉嘉に会いたい、みんなで協力したいという気持ちも強い。
そういった理由から、みりあは揺れていた。
だがこれを聞き、迷うみりあとは対照的に、
その場に居た者の考えは一致した。
かな子「だったら、みりあちゃんも行った方がいいよ」
122: ◆goOkhZhHlo:2016/02/10(水) 22:53:48.21 :C2KXluFVo
その言葉を聞いてみりあは顔を上げる。
かな子は目を丸くしているみりあに、穏やかに笑いかけた。
かな子「きらりちゃんのことは、私たちがしっかり見てるから……。
だからみりあちゃんは、莉嘉ちゃんに会いに行ってあげて。
莉嘉ちゃんもきっと、みりあちゃんに会いたがってるはずだよ」
みりあ「……かな子ちゃん……」
李衣菜「そう、だね……。それにみりあちゃん、怪我してるんでしょ?
だったらやっぱり、無茶はさせられないよ」
みりあは、かな子と李衣菜の顔を交互に見る。
そして一度下を向き、少し考えるようなそぶりを見せ、
眠っているきらりの隣へすとんと腰を下ろした。
みりあ「きらりちゃん……。私、莉嘉ちゃんのところに行ってくるね。
またみんなで一緒にお話ししたり、歌ったり、踊ったりしようね……」
その言葉を聞いてみりあは顔を上げる。
かな子は目を丸くしているみりあに、穏やかに笑いかけた。
かな子「きらりちゃんのことは、私たちがしっかり見てるから……。
だからみりあちゃんは、莉嘉ちゃんに会いに行ってあげて。
莉嘉ちゃんもきっと、みりあちゃんに会いたがってるはずだよ」
みりあ「……かな子ちゃん……」
李衣菜「そう、だね……。それにみりあちゃん、怪我してるんでしょ?
だったらやっぱり、無茶はさせられないよ」
みりあは、かな子と李衣菜の顔を交互に見る。
そして一度下を向き、少し考えるようなそぶりを見せ、
眠っているきらりの隣へすとんと腰を下ろした。
みりあ「きらりちゃん……。私、莉嘉ちゃんのところに行ってくるね。
またみんなで一緒にお話ししたり、歌ったり、踊ったりしようね……」
123: ◆goOkhZhHlo:2016/02/10(水) 22:57:18.56 :C2KXluFVo
きらりの手を握り、囁きかけるように別れの言葉を口にした。
そしてみりあは立ち上がり、
みりあ「あのね……私、みんなにも765プロの人達と仲良くして欲しいんだ。
だから、怖い765プロの人達はやっつけちゃっても……
殺しちゃったりは、しないで欲しいの……」
李衣菜や凛に向かってそう言った。
凛はみりあの幼いひたむきな眼差しを受け、思わず眉根を寄せて目を逸らしてしまう。
しかし李衣菜は、一瞬たじろぎはしたものの、
みりあの目をしっかりと見つめ返した。
李衣菜「うん……私も、それができれば一番いいと思ってる。
できるだけ殺さないようにするから、安心して」
この返事を聞き、みりあは少しだが顔を明るくする。
そして荷物を持って、美波達の元へ駆けていった。
きらりの手を握り、囁きかけるように別れの言葉を口にした。
そしてみりあは立ち上がり、
みりあ「あのね……私、みんなにも765プロの人達と仲良くして欲しいんだ。
だから、怖い765プロの人達はやっつけちゃっても……
殺しちゃったりは、しないで欲しいの……」
李衣菜や凛に向かってそう言った。
凛はみりあの幼いひたむきな眼差しを受け、思わず眉根を寄せて目を逸らしてしまう。
しかし李衣菜は、一瞬たじろぎはしたものの、
みりあの目をしっかりと見つめ返した。
李衣菜「うん……私も、それができれば一番いいと思ってる。
できるだけ殺さないようにするから、安心して」
この返事を聞き、みりあは少しだが顔を明るくする。
そして荷物を持って、美波達の元へ駆けていった。
124: ◆goOkhZhHlo:2016/02/10(水) 22:59:13.70 :C2KXluFVo
そしてそれ以降、美波達に付いて行こうと言うものは出なかった。
みくも、智絵里も、かな子も、その場にとどまることを決めた。
理由は言わなかった。
765プロからの襲撃を直に経験したことが影響しているのかも知れない。
あるいは伊織に同行した雪歩のように、凛と李衣菜の身を案じてのことかも知れない。
はっきりとした理由は分からないが、彼女達の意志は変わりそうにはない。
美波とアナスタシアはそう感じ、ここで皆に別れを告げることにした。
とその時。
蘭子が何か思い出したように声を上げて鞄を探り、
蘭子「こ、これ、持っててください……!」
自分の武器と説明書を、李衣菜に差し出した。
李衣菜は円筒状のそれを見、次いで蘭子の顔を見て、
ありがとう、と一言言って受け取った。
そしてそれ以降、美波達に付いて行こうと言うものは出なかった。
みくも、智絵里も、かな子も、その場にとどまることを決めた。
理由は言わなかった。
765プロからの襲撃を直に経験したことが影響しているのかも知れない。
あるいは伊織に同行した雪歩のように、凛と李衣菜の身を案じてのことかも知れない。
はっきりとした理由は分からないが、彼女達の意志は変わりそうにはない。
美波とアナスタシアはそう感じ、ここで皆に別れを告げることにした。
とその時。
蘭子が何か思い出したように声を上げて鞄を探り、
蘭子「こ、これ、持っててください……!」
自分の武器と説明書を、李衣菜に差し出した。
李衣菜は円筒状のそれを見、次いで蘭子の顔を見て、
ありがとう、と一言言って受け取った。
125: ◆goOkhZhHlo:2016/02/10(水) 23:00:49.39 :C2KXluFVo
美波「……それじゃあ、みんな……」
美波は扉に手をかけ、室内を振り返る。
しかし気の利いた別れの言葉など出てこない。
本当なら、全員を説得したかった。
しかしそれは叶わなかった。
これ以上意見や主張をぶつけても、ただ言い争いになってしまうだけ。
彼女達が自分達の立場を理解してくれただけでもよしとしなければ。
自分達にできることは、犠牲者が増えてしまう前に
少しでも早く別の解決策を見つけ出すこと。
美波は不安を決意で覆い隠すように心の中でそう唱え、
美波「……気を付けてね」
そう言い残し、仲間達の元を後にした。
美波「……それじゃあ、みんな……」
美波は扉に手をかけ、室内を振り返る。
しかし気の利いた別れの言葉など出てこない。
本当なら、全員を説得したかった。
しかしそれは叶わなかった。
これ以上意見や主張をぶつけても、ただ言い争いになってしまうだけ。
彼女達が自分達の立場を理解してくれただけでもよしとしなければ。
自分達にできることは、犠牲者が増えてしまう前に
少しでも早く別の解決策を見つけ出すこと。
美波は不安を決意で覆い隠すように心の中でそう唱え、
美波「……気を付けてね」
そう言い残し、仲間達の元を後にした。
126: ◆goOkhZhHlo:2016/02/10(水) 23:02:43.48 :C2KXluFVo
・
・
・
凛「……私は、殺すよ」
美波達が去った後、静まり返った室内でぽつりと凛は呟いた。
李衣菜に、あるいはその場の全員に宣言するように。
凛「李衣菜はさっきできるだけ殺さないって言ってたけど、私は殺す。
卯月を、未央を、杏を殺した奴らを許すなんて、私は絶対にできない」
李衣菜「……わかってるよ。私も同じ気持ちだから。
だからこっちに残ったんだよ。それに……」
と、李衣菜は一度言葉を区切る。
そして目を伏せ、低い声で呟くように言った。
李衣菜「協力して解決策が見つかるとも、思えないし」
・
・
・
凛「……私は、殺すよ」
美波達が去った後、静まり返った室内でぽつりと凛は呟いた。
李衣菜に、あるいはその場の全員に宣言するように。
凛「李衣菜はさっきできるだけ殺さないって言ってたけど、私は殺す。
卯月を、未央を、杏を殺した奴らを許すなんて、私は絶対にできない」
李衣菜「……わかってるよ。私も同じ気持ちだから。
だからこっちに残ったんだよ。それに……」
と、李衣菜は一度言葉を区切る。
そして目を伏せ、低い声で呟くように言った。
李衣菜「協力して解決策が見つかるとも、思えないし」
127: ◆goOkhZhHlo:2016/02/10(水) 23:05:44.00 :C2KXluFVo
その言葉を聞き、他の皆は特に驚きはしなかった。
つまり、程度の差はあれど皆同じ考えを持っていたのだ。
好戦的でない三人がここに残った理由はそれぞれ複雑ではあったが、
そのうちの一つには、
「協力すること自体に価値を見出せない」というものがあった。
初めは協力して解決策を探そうとしていた者も、
今やその考えはほぼ消え去っていた。
蘭子やみりあの気持ちを尊重し、
また危険に巻き込みたくないという思いから、
先ほどは敢えて口に出すことはなかった。
だが今の彼女達の心根には、
「生きて帰るにはゲームに勝つ以外に方法はない」
という覚悟とも一種の諦観とも取れる思いが、強く根付いていた。
その言葉を聞き、他の皆は特に驚きはしなかった。
つまり、程度の差はあれど皆同じ考えを持っていたのだ。
好戦的でない三人がここに残った理由はそれぞれ複雑ではあったが、
そのうちの一つには、
「協力すること自体に価値を見出せない」というものがあった。
初めは協力して解決策を探そうとしていた者も、
今やその考えはほぼ消え去っていた。
蘭子やみりあの気持ちを尊重し、
また危険に巻き込みたくないという思いから、
先ほどは敢えて口に出すことはなかった。
だが今の彼女達の心根には、
「生きて帰るにはゲームに勝つ以外に方法はない」
という覚悟とも一種の諦観とも取れる思いが、強く根付いていた。
128: ◆goOkhZhHlo:2016/02/10(水) 23:09:13.00 :C2KXluFVo
李衣菜の言葉の後、場は再び静まり返った。
しかし同じように、また凛がその静寂を破る。
凛「それじゃあ、灯台に居る765プロは?」
李衣菜「……殺さなきゃいけないなら、殺すよ」
みく「っ……! で、でも、その人達は……!」
李衣菜の答えに今度はみく達も反応を見せた。
だが異論を唱えようとしたみくの言葉を、
李衣菜は僅かに語気を強めた口調で遮った。
李衣菜「私だって、その人達のことは出来れば本当に殺したくない。
でも最悪の時は、やらなきゃ……私達が死ぬんだよ」
拳を握ってそう言った李衣菜に、みくは二の句が継げなくなる。
またかな子と智絵里も、黙って目を伏せた。
李衣菜の言葉の後、場は再び静まり返った。
しかし同じように、また凛がその静寂を破る。
凛「それじゃあ、灯台に居る765プロは?」
李衣菜「……殺さなきゃいけないなら、殺すよ」
みく「っ……! で、でも、その人達は……!」
李衣菜の答えに今度はみく達も反応を見せた。
だが異論を唱えようとしたみくの言葉を、
李衣菜は僅かに語気を強めた口調で遮った。
李衣菜「私だって、その人達のことは出来れば本当に殺したくない。
でも最悪の時は、やらなきゃ……私達が死ぬんだよ」
拳を握ってそう言った李衣菜に、みくは二の句が継げなくなる。
またかな子と智絵里も、黙って目を伏せた。
129: ◆goOkhZhHlo:2016/02/10(水) 23:15:09.75 :C2KXluFVo
李衣菜「……ただ、今はまだ何もできない。
少なくともきらりちゃんが目を覚ますまでは……」
そう言って李衣菜はきらりに目を向ける。
凛は一瞬だけその視線を追い、そしてすぐに李衣菜に戻した。
凛「でも、このまま起きなかったどうするの?
ゲームの終わりまでここでじっと、起きるのを待つの?」
李衣菜「……それも含めて、今からみんなで考えよう。
これから私達はどうしたらいいのか」
きらりが目を覚まさなかったらどうするか。
目を覚ましたらどうするか。
灯台に居るという765プロのアイドル達はどうするか。
敵対している765プロはどうするか。
今は動けない以上、考えるしかない。
時が来た時に、少しでも早く、少しでも適切な判断ができるように。
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李衣菜「……ただ、今はまだ何もできない。
少なくともきらりちゃんが目を覚ますまでは……」
そう言って李衣菜はきらりに目を向ける。
凛は一瞬だけその視線を追い、そしてすぐに李衣菜に戻した。
凛「でも、このまま起きなかったどうするの?
ゲームの終わりまでここでじっと、起きるのを待つの?」
李衣菜「……それも含めて、今からみんなで考えよう。
これから私達はどうしたらいいのか」
きらりが目を覚まさなかったらどうするか。
目を覚ましたらどうするか。
灯台に居るという765プロのアイドル達はどうするか。
敵対している765プロはどうするか。
今は動けない以上、考えるしかない。
時が来た時に、少しでも早く、少しでも適切な判断ができるように。