2018年11月24日 21:30 一ノ瀬志希「一ノ瀬志希という偽薬」 関連SS 志希「Happy Birth」 一ノ瀬志希「一ノ瀬志希という偽薬」 一ノ瀬志希「キミという特効薬」 元スレ 2:◆ukgSfceGys:2018/11/24(土)18:06:12 :pRI 【第1問】 この湯気の出てる珈琲を飲み干せ。 ただしこの珈琲は志希が淹れたものとする。 3:◆ukgSfceGys:2018/11/24(土)18:06:35 :pRI ==========──キミとあたしの日々は、それはそれは刺激的な日々だった。でもそれは決して壮大な物語だったわけではなく、平和で小さな楽しみが沢山続いてく物語だった────キミの些細な言動がとても愛おしい。こんな日々がずっと続けばいいのに──========== 読む →
2018年11月02日 21:00 魔法少女ハヤミン第2話!「2人目の魔法少女?マジカルミナミン!」 関連SS 魔法少女ハヤミン第1話!「初めての変身★魔法少女ハヤミン!」 魔法少女ハヤミン第2話!「2人目の魔法少女?マジカルミナミン!」 元スレ 全てのレス 2:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2018/11/02(金) 18:28:25.11 :fDT/+qYx0 ーーーーーーーーーーーー キ-ンコ-ンカ-ンコ-ン 担任「はい、今回はここまで。気をつけて帰れよー」 ワイワイガヤガヤ 女子A「速水さん、もしよかったらこれから私達と喫茶店行かない?」 女子B「美味しいケーキのお店見つけたの」 奏「ごめんなさい、私は早く帰らないといけないから」 女子B「そっか……」 女子A「じゃあまた今度行こうね!」 奏「ええ。それじゃ」スタスタ 女子B「またダメだったね……」 女子A「うん、私たちもいこっか」 奏(私が魔法少女になって2週間が経った)スタスタ フレデリカ「ねえねえ!」 奏(周囲に魔法少女だとバレることはなく、時々現れるバクシーを倒しているだけで特に変わらない日常を過ごしている)スタスタ 読む →
2018年10月27日 21:00 志希「ありすちゃんが」文香「作詞でお悩み」桃華「ですの」 元スレ 全てのレス 1: ◆FreegeF7ndth:2018/10/27(土) 19:24:05.75 :1EFzBOMso ●まえがき 登場人物 橘ありす 櫻井桃華 鷺沢文香 一ノ瀬志希 ※画像多め注意 2: ◆FreegeF7ndth:2018/10/27(土) 19:24:54.98 :1EFzBOMso ●01 ありす「うーん、むぅうう……文香さんといえば……」 桃華「あら、ありすさん。ごきげんよう」 ありす「うーん、むむむ……」 桃華「お勉強ですか? ノートを前に唸ったりして」 ありす「むむぅ……あ、桃華さん、そういうわけでは……」 桃華「ですよね。白紙のノートを広げたきり、ですもの」 ありす「はい……うーん、むむむ……」 桃華「…………」 志希「ありすちゃんが?」 文香「作詞でお悩みなのですか?」 桃華「はい。そうですの……」 桃華「先日、番組の企画で、私たちアイドルが自分の歌う曲を作詞してみよう、 というコーナーがありましたの。それで、ありすさんは……」 桃華「……この有様で、司会の方からさんざんいじられてしまい、 以来それを気にしているようなのです。 得意科目が国語なだけに、詩的センスがないと思われるのは心外なのでしょうね」 志希「確かに、論文『っぽい』文章と、詞『っぽい』文章は、明らかに違うけど……」 桃華「そこで、お二人に、ありすさんの力になっていただきたいと……。 ありすさん、何を話しかけても上の空で、困っておりますの」 志希「いいの? あたし、論文なら散々書いたことがあるけど、 作詞はしたことないよ?」 文香「私も、詞や詩は読む専門で、韻律学はもとより、 自分で作詞した経験すらありませんが……」 桃華「志希さんは、こう見えてロマンチストなところと、語学力を頼りにしたく存じます」 志希「ねぇ、『こう見えて』は、余計じゃないかなぁ」 桃華「文香さんは、文学に対する造詣と、何より……」 文香「何より……?」 桃華「ありすさんは、文香さんをとても尊敬しておりますので、 文香さんのお話ならちゃんと聞くのでは、と」 志希「おーい、ちょっとー? ま、面白そうだから付き合うよ!」 文香「それなら私も……志希さんだけでは、不安なので……」 志希「おーい、ふみふみちゃーん!?」 読む →
2018年10月15日 07:00 モバP「塩ノ瀬埼奏リカ?」 元スレ 1:◆Dm8ArSIo3MOQ:2018/10/15(月)03:01:49 :9x4 晶葉「うむ、混ざってしまった」P(以降P表…それはもういい!)「名前からしてLiPPSの面々が?」晶葉「ああ、そうだ」P「5人全員?」晶葉「5体合身だな」P「いや普通この手の話ってせいぜい別々のアイドル2人が混ざっちゃうくらいだろ?何だ5人て戦隊ロボか」晶葉「ハッハッハッ。LiPPSがミックスしてリミックスと言ったところか」P「率直に聞くけど何しくさった」ギュニーッ晶葉「いふぁいいふぁい!ひゃべふ!ひまふゃふぁひゃべふ!!」晶葉「痛つつ……、事の始まりは暇潰しに作っていた生体融合装置の起動テストをしていた時だ」P「暇潰しでオーバーテクノロジー生まれとる」晶葉「心配するな。24時間立てば元に分離するから問題は無い」P「一度融合したものが時間経過で元通りって融合させるよりハイテクノロジーだろ」晶葉「凄いだろ!最高だろ!天才だろ!」P「その才能を世のため人のために使ってくれよ…んで、その合体個性ボンバーズは?」晶葉「ああ、あそこのカプセルの中だ。今出すぞ」ポチッウィーンP「ワイリーステージの8大ボス戦みたいなカプセルが出て来た」晶葉「よし、開けるぞ」プシュー塩ノ瀬埼奏リカ「…」P「本当だ。程良く5人の面影がある」塩ノ瀬埼奏リカ「…っ」パチッP「あ、目ぇ開いた」塩ノ瀬埼奏リカ「お腹すいたにゃーん」グゥゥP「ほぼ志希と周子じゃねーか」晶葉「仕方ないだろ。混ざった1つ1つが凄まじくアクが強いんだ」 読む →
2018年09月17日 15:00 志希「すっごい……♪ こんなにキミの匂いが……!」 関連SS 志希「じゃ〜ん♪ 野性解放フレグランス〜♪」 志希「すっごい……♪ こんなにキミの匂いが……!」 元スレ 全てのレス 1: ◆R4LxbbyKhE:2016/06/18(土) 20:23:39.22 :HT9o2pPa0 【モバマスSS R-18】です ※注意事項 ・志希とそのプロデューサーがイチャラブなことする、地の文あり ・上記のうち一つでもダメな人はブラウザバックを ------------------------------ プロデューサー達に充てがわれた社員寮。その内の一室に目をつけた一ノ瀬志希は、再び扉に鼻を近づけ、漂う匂いに恍惚の表情を 浮かべていた。 志希「にゃっはあああ……! あぁ、キミの濃い匂いが扉越しに……! これでもしも中に入ったりなんかしたらあたし……!」 志希(でも、中に入ってプロデューサーの様子を見ないといけないし……仕方ないよね……♪) 本来であればアイドルに知らされることがないはずの担当プロデューサーの住居を突き止めることが出来たのも、この匂いを 辿ってこれたからであり、今自分の嗅覚を強化している香水を多量に浴びているプロデューサーがどうなっているかを 想像するだけで、香水の影響を受けた志希は静かに昂ぶっていく。 しかり、香水である。志希が作成した野性解放フレグランスというそれは、作った志希本人の想定以上に強力な効果を 持っていることが実験で判明しており、最初に実験台としたプロデューサーのことが心配になった彼女はこうして居場所を 突き止め、様子を見に来たというわけである。 志希(……最初に香水をかけた時はなんともない風だったのは……我慢してたのかなー……?) 最初の想定でも人をやめるほどの凶暴な野性が目覚めるはずだった量を遥かに超えた香水を浴びせられて、尚平然としている姿を 見せた自分のプロデューサーの行動に疑問を抱きつつ、志希は部屋に入るために玄関に備え付けられたインターホンを押す。 志希「……あれ?」 だが何度押しても中からの反応はなく、インターホンが壊れているのかと首を傾げる志希。しかしボタンを押して音が鳴っている 以上は正常に稼働しているはずであり、応答がないのは中にいるプロデューサーが反応しようとしないからなのか、それとも。 読む →
2018年09月16日 18:00 志希「じゃ〜ん♪ 野性解放フレグランス〜♪」 関連SS 志希「じゃ〜ん♪ 野性解放フレグランス〜♪」 志希「すっごい……♪ こんなにキミの匂いが……!」 元スレ 1: ◆R4LxbbyKhE:2016/06/18(土) 19:33:17.93 :cHBACs0n0 【モバマスSS】です ————エレベーター内 志希「むふふー、どうでしょすごいでしょー! まだ試作段階だから量は少ないけどねー」プシュープシュープシュー 志希P「またあなたはそんな変なものを……毎回言っていると思いますが、騒ぎを起こしたら怒られるのは自分なんですよ」 志希「細かいことは気にしないきにしなーい♪ これ、キミや李衣菜ちゃん達と北海道に行った時に閃いた奴なんだ」プシュープシュープシュー 志希P「あぁ、そういえば野性的な匂いを抽出すればどうのと言っていましたね……できたんですか!?」 志希「にゃは、流石に全部抽出するのは無理だったから、いくつかの成分の作成や細かい調整はあたしのほうでやったよー」プシュープシュープシュー 志希P「だとしても凄まじいことです。相変わらずそういうこと得意ですね志希さんは……それで」 志希「なになに?」プシュープシュープシュー 志希P「さっきからなにを?」 志希「よくぞ聞いてくれました! 実はね、この香水使った回数によって解放される野性の強さが変化するようにあたしは作ったの」プシュープシュープシュー 志希P「はぁ」 志希「それで予想だと6回以上香水ふりかけちゃうと、もう人間やめちゃうレベルの凶暴な野性が現れるはずなんだけど、どうかにゃ〜?」 志希P「……」 ドクンッ 志希P「…………いえ? とくになにも」 志希「あれっ!? おっかしいなー、試しに自分に1回ふりかけてみた時はすぐに効果が現れたのに……ホントになにもないの〜?」ジトーッ 2: ◆R4LxbbyKhE:2016/06/18(土) 19:33:39.61 :cHBACs0n0 ※一ノ瀬志希 読む →
2018年08月17日 22:00 二宮飛鳥「ヒジュラ」 元スレ 全てのレス 1: ◆VvysKS2FVo:2018/08/17(金) 20:33:37.95 :6R6maFYv0 父に手を引かれて、記憶の中の少女は都会の夜を歩いている。それがいつだったのか、それが何処だったのかすらわからない。 ひとつだけ確かなのは、その手を離すだけで生きていけなくなるほどボクは幼いということ。 排ガスの匂い、ネオンサイン、壁の落書き、すれ違う人々──そのどれもが恐ろしく、そこに留まればいつかこの存在は融け出してそれらと混ざり合うだろう。 それはどうしようもなく残酷で、醜悪で、キュッと父の手を握りなおした。 街は融け合っている。そいつらは誰も認め合わないのに、いつもひとつになってボクを脅かしていた。 読む →
2018年08月08日 19:00 【モバマス】幸子(プロデューサーのプロポーズ!) 元スレ 全てのレス 1: ◆0M6Vl56tJ6:2018/08/08(水) 11:34:09.72 :GOVJwLXAO 幸子「あっ、プロデューサーさ……」 幸子「ん?」 P「ふぅー」 幸子(プロデューサーさん?)壁|д´)チラッ 幸子(誰もいないレッスンルームで何を……) 読む →
2018年07月29日 15:35 一ノ瀬志希「隅田川夏恋歌」 元スレ 全てのレス 2: ◆ukgSfceGys:2018/07/29(日) 11:17:03.48 :SMy+o0J20 ──あたしは昔から変な子だったんだよね 王子様より博士の方がドキドキしたし、リボンより試験管の方がワクワクするような子だった。 そんな変な子だったからフツウの子がやるようなことを色々すっ飛ばしてきたんだよね。 例えば義務教育とか学校行事とか青春とか 例えば花見とかキャンプとか雪合戦とか 例えば大好きな人と行く花火大会とか そんな志希ちゃんだからこそ、今月末に隅田川で開催される花火大会の事なんて頭の片隅にすら残ってなかった。 散々メディアでも宣伝されてたけど、あんなのフツウの人たちがやる最たるものだと思ったからね。 フツウの子がやるようなことを、フツウじゃない子がやるなんて似合わない。 だからそんなの頭の中から追い出してた。 そう、当日キミに誘われるまでは── 読む →
2018年07月26日 09:15 志希「キミはアタシを一体何だと思ってるのさ」 元スレ 全てのレス 1: ◆Dm8ArSIo3MOQ:2018/07/26(木) 01:23:00.26 :Wibv0Sqk0 モバP(以降P表記。そかそか)「……暑ぃ」ムクッ P「あ゛~…エアコン切れた途端目が覚める暑さって何だよコンチクショウ。だからと言って付けっぱなしにするのもなぁ…」 芳乃「すやぁ…」 P「芳乃は爆睡してるけど」 P「…しゃーない。扇風機付けよ」ポチッ P「今日も仕事なんだしさっさと寝たいんだけどなぁ…」 P「……」 P「駄目だ扇風機じゃこの暑さに歯が立たん」 P「キンキンに冷えた麦茶でも飲んで保冷剤タオルに包んで首の下に敷いて寝るとしよう」 P「…だから一旦離してくれないか芳乃さんやい」 芳乃「やー、でしてぇ…」グー P「寝てるんだよな?」グイグイッ 芳乃「寝ておりましてぇ…」スピィ P「会話が成立してるけど寝てるんだよな?くっ…!すごいちからだ!」グイグイッ 芳乃「むにゃぁ…」 P「…」 P「……」 P「諦めてグラブルでもしてるか」ダンチョーチャン! ---------- P「てな感じが最近続いておりまして」 ちひろ「アホですか」 ちひろ「まったく…目の下にクマ作ってるから一体何があったのかと表面上心配してみてあげたらコレですよ」 P「灼熱焦熱の国埼玉の生まれなんで暑いのは苦手なんですよ」 ちひろ「その割に冬は冬でモコモコに着込んで震えてますよね」 P「何かスヤッと安眠できる方法ってありませんかね」 ちひろ「薬物の類は抜きにしてですか?」 P「真っ先にそんな発想かよ怖ぇよ」 読む →
2018年07月22日 07:00 【モバマス】裕子「神谷先輩っ! 一ノ瀬先輩っ!」 元スレ 全てのレス 1:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2018/07/22(日) 01:21:47.25 :i3gnxdHp0 ※浮かんだものを書きなぐったため短編です。 奈緒「どうしたんだよ急に」 裕子「いえっ! 私、二人から見たら後輩じゃないですかっ!」 志希「確かにそうだねー、あたしは3年生だしー」 奈緒「2年、だな。あたしも」 裕子「そして私は1年生ですっ! サイキック新入生ですっ!」 奈緒「だから先輩って呼んだのか?」 裕子「そうです! なんかこう……ビビっときまして」 志希「ユッコちゃんの直感は結構攻め攻めだからにゃー、で、呼んで何したいの?」 奈緒「後輩ぶってもなんもあげないからなー?」 裕子「し………何も考えてませんでしたっ!」 奈緒「ノープランだったのかよ……それなら、だなぁ……」 奈緒「堀、焼きそばパン買ってこいよ」 読む →
2018年07月07日 16:00 一ノ瀬志希「今、まゆちゃんにキスしたら」 元スレ 全てのレス 2: ◆FreegeF7ndth:2018/07/07(土) 09:42:07.54 :YKwXScl5o ● ――飛んで行っちゃいたいの 君のところに ――波打ち際 飛び跳ねながら まゆちゃんの声は、守ってあげたくなるぐらいか細いウィスパー。 それに、あたしの一癖二癖ありそうなと評されるイタズラげなパートが重なる。 ――夢の先まで あっためちゃえ HotなSummer Days あたしたちのデビュー曲のサビが、トラブルで照明の落ちた番組スタジオに、アカペラで響く。 歌いながら、背中合わせのまゆちゃんに赤いサイリュームを渡した。 まゆちゃんがそれを握ったのが、指先で分かる。 あたしたちは真っ暗な中、閃光で文字列を描いた。 “Going My Way” それはあたしたちのプロデューサーが、あたしとまゆちゃんに呆れ半分本気半分で与えたユニット名だった。 一生懸命活動している人は、微妙なホルモンバランスのせいか、独特なイイ匂いがするんだ。 ……なんて言ったら、あたしは詐欺師かと思われるかもしれないね。 でもしょうがない。実際そうなんだから。精密なガスクロさえ気軽に使えればな~。 少なくともあたしの鼻はそれを感じ取れるんだよ。 そういう意味で、プロデューサーとまゆちゃんは、あたしの興味を強烈にそそった。 二人ともナニかに取り憑かれた匂いをビンビンさせてて、 そんなに熱中できるものならあたしも――って思って、街中で収録しているのに割り込んで二人に声をかけた。 そしたらまゆちゃんはアイドルで、いつの間にかあたしもアイドルになって、 まゆちゃんとデュオユニットを組むことになった。 聞けばまゆちゃんも読者モデルだったのを辞めて、 プロデューサーの元に強引に駆け込んでアイドル候補生になったらしい。 強引なあたしたちだから、“Going My Way”ってユニット名になっちゃった。ダジャレか。 あたしたちの人間関係は、あまり良好とは言えなかった。 あたしは気が向いたときしかレッスンできない。 これでプロデューサーをたくさんヤキモキさせ、まゆちゃんはそれにヤキモチを焼いた。 プロデューサーといえば、まゆちゃんに向かって、 『俺ばっかり見てないでファンや、志希や、トレーナーさんのほうを見ろ』とどつく。 まゆちゃんは露骨に不満そうな顔をする。 「プロデューサーとアイドルって恋愛しちゃいけないの?」ってあたしが聞くと、 プロデューサーは「アイドルは恋愛禁止だぞ」と当たり前のようにいう。 あたしはフムフムとうなり、まゆちゃんはプクーっと膨れる――あ、可愛い。 読む →
2018年07月05日 21:30 一ノ瀬志希「-459.67 °F」 元スレ 全てのレス 2: ◆u2ReYOnfZaUs:2018/07/05(木) 18:13:56.93 :8O0RAJc50 一ノ瀬志希は、すんすんと鼻を動かした。不本意に招かれた、女性芸能人の別荘。 ひとの匂いがしない。わざとらしいローズの芳香剤が鼻につく。 話は続いている。聞くに堪えない、退屈な話。 自分は男性経験が豊富なの。だから尊敬してね。 それだけの話を3時間も引き延ばして続けている。 いっそ、「私のことを敬え!」と直接言ってくれた方がまだ、志希はその生々しさに興味を持つことが可能である はやくおうちにかえりたーい。志希がそう思っていたとき、話が振られた。 「志希ちゃんは、“あっち”でどれくらい経験したの?」 「フラスコと鉄ペンで二股かけてたよ〜」 おもしろーい、という周りの声。その言葉には言葉自体の意味は数パーセントもないだろう。 ただの脊髄反射のようなもの。 つまんなーい。志希は頭の中で、連想ゲームを始める。 ひまわり、カクバクダン、ゴジラ、マリリン・モンロー、チュパチャップス、杏ちゅわーん。 読む →
2018年06月26日 06:30 フレデリカ「神対応の握手会」 元スレ 全てのレス 1: ◆99skM4/jE2:2018/06/25(月) 23:32:48.96 :6Kdy3GRe0 志希「ねーねーフレちゃーん♪」 フレデリカ「どしたの志希ちゃーん?」 志希「握手会あるでしょ?」 フレデリカ「あるねあるねー♪」 志希「フレちゃん握手会で神対応って噂じゃん?」 フレデリカ「フレちゃん女神だからねー♪」 志希「私も神対応したーい♪」 フレデリカ「ふっふっふ……ではフレちゃん流の神対応の秘密を教えてあげよー♪」 志希「わぁい!」 周子(あたしも明日握手会やし聞いとこ) 読む →
2018年06月16日 15:00 【モバマス】志希「催眠術~」ありす「絶対に屈しません!」 元スレ 全てのレス 1:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2018/06/16(土) 02:59:39.09 :LTSIraNf0 ※キャラ崩壊注意 志希「あーりすちゃん♪」 ありす「橘です。なんですか志希さん」 志希「ありすちゃんに催眠術をかけちゃおっかなーって」チャリン ありす「五円玉と糸……はぁ。馬鹿馬鹿しいですね。そんな子供騙しですらないものに、かかるわけないじゃないですか」 志希「ほうほう……このギフテッド志希ちゃんが術者だというのに強気だねぇ。それじゃあ──」スッ びくっ ありす「な、なんですか! 薬は卑怯ですよ!」 志希「にゃははは。薬じゃないよー」 ありす「? 白い封筒……?」 志希「もしありすちゃんが催眠にかかったらこの封筒の中に書いてあることを実行してもらうからね~」ニヤニヤ ありす「そ、そんな脅しは通用しません! じゃあ、私が催眠にかからなかったら志希さんがその中身を実行してくださいね!」 志希「いいよ。どうせかかるし」 読む →
2018年06月13日 19:35 夕美「Pさんは元A◯男優」 元スレ 全てのレス 2:以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします:2018/02/23(金) 21:53:21.11 :gQuRoHMI0 お願いです…ッ!あと半年、いえっ3ヶ月ください…ッ!そうすれば残りのお金を返せ… ダメだ。期限の延長は却下だっていう話だろ! すまない、父ちゃんが大怪我をしたばかりに… オイ坊主、もう高卒だったな…お前にチャンスを与えるぜ。明日ウチの事務所に来い 3:以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします:2018/02/23(金) 21:53:54.54 :gQuRoHMI0 ……… …説明は以上だ。まぁ、5作品ほど主演を頼んだから借金返済、それどころかお釣りも出るぜ。…最後に確認だが本当にやるか? ……はい、お願いします! 4:以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします:2018/02/23(金) 21:54:23.54 :gQuRoHMI0 ピンと来た!君、アイドルプロダクションのプロデューサーをやってみないか? オジサン…アンタしつこいね…だったら俺の過去を聞いてもそんなこと言えるのか?俺は… ……なるほど。それではこういうのはどうだい? 5:以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします:2018/02/23(金) 21:55:21.15 :gQuRoHMI0 突如身体に強い揺れを感じ、深い眠りに落ちていたPは戻りたくない現実へと引き戻された。 P「…仮眠のつもりだったが、熟睡してしまったな…」 夕美「やっと目覚めたっ。Pさん、ちょっと起きて!事務所の雰囲気がおかしいの!」 P「夕美か…それで雰囲気がおかしいと言うのは?」 仮眠室のベッドから気だるい身体を起こし、揺れの正体に状況を聞くP、満開の花のような笑顔が似合う彼女の表情は不安と恐怖が入り混じっていた。 読む →
2018年05月31日 06:00 【モバマス】誕生日前の土曜日のこと【一ノ瀬志希 誕生日記念】 元スレ 全てのレス 2: ◆fqdv0pHyL.:2018/05/31(木) 03:43:17.31 :rnkN7UQx0 あたしがまず気づいたのは、体に大きな布が掛かっていることだった。昨日は、というか今朝は午前3時過ぎまで実験を繰り返してそのままソファーで寝たはずだから、毛布だとかはかぶっていなかったはずだった。誰かがかぶせてくれたのかなと、違和感をぬぐえずに布を外そうとして気づいた。 あたしの手が、人の形ではなく猫の手の形をしていることに。 志希「!!!!」 読む →
2018年05月30日 23:50 気分屋・志希ちゃん営業中! 元スレ 全てのレス 1: ◆FreegeF7ndth:2018/05/30(水) 22:47:44.91 :RzONtuTRo ※主要登場アイドル 一ノ瀬志希 ダイマ注意 短めです 2: ◆FreegeF7ndth:2018/05/30(水) 22:48:27.59 :RzONtuTRo ●01 モバPはルーム内のうえきちゃんに、ショッキングピンクと緋色ののぼり旗が貼り付けられているのを見た。 そこには『気分屋・一ノ瀬志希』と記されていた。 志希「いい気分を売る! それが気分屋だよ!」 モバP「いや気分屋ってそういう意味じゃねぇから!?」 志希「でもさぁ、お疲れのプロデューサーは、いーい気分に浸りたくない? 気分屋の志希ちゃんがご提供するよ? あたしのアロマでリラックスしながら……」 フレデリカ「う~ん……めるしーぼくー……」 志希「なんと、フレちゃんと添い寝できます!」 モバP「お前がするんじゃないのかよ!?」 モバP「ああ、でもフレデリカいい匂いだな……。 普段はフンフンフフーンなんて軽い調子だけど、こうして傍で見ると……おおおぉ」 フレデリカ「すーっ……すーっ……」 モバP「ちょ、ちょっとぐらいバレないよな……?」 志希「あーっ! プロデューサーったらあたしのフレちゃんにおさわりした! おさわり禁物だよ! ほらーオトシマエをつけなさい!」 モバP「美人局じゃねぇか!?」 読む →
2018年05月30日 08:00 【モバマスSS】愛を知らない一ノ瀬志希と彼らの巡礼の旅 元スレ 全てのレス 1: ◆TDtVvkz8pSL3:2018/05/30(水) 01:21:57.09 :dFhLHRCO0 『……人はそれを、愛と呼ぶのだと思いますよ』 ※このSSには一ノ瀬母死亡説、キャラの濃いプロデューサー、独自解釈、過去捏造が含まれます。ご留意ください。 読む →
2018年05月30日 07:00 志希「Happy Birth」 関連SS 志希「Happy Birth」 一ノ瀬志希「一ノ瀬志希という偽薬」 一ノ瀬志希「キミという特効薬」 元スレ 全てのレス 2:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2018/05/30(水) 00:12:22.76 :eZKs16d50 ◆◇◆ 『♪~ハッピー・バースディ・トゥ・ユー』 『♪~ハッピー・バースディ・トゥ・ユー』 『♪~ハッピー・バースディ・ディア・志希』 『♪~ハッピー・バースディ・トゥ・ユー』 『志希、誕生日おめでとう』 しき「ありがとうダディー!しき、うれしいよ!」 『それは良かった。さ、ケーキでも食べようか』 しき「けーき?」 『あ、もしかして初めてか。誕生日はね、ケーキというお菓子でお祝いするんだ。こんな風にね』 しき「わぁ……でっかい!それにとってもあまそう!これ、たべていいの?」 『もちろん、今日は特別な日だからね』 しき「わーい!うれしー!」 『志希』 しき「ん?なにー?」 『改めて、誕生日おめでとう』 読む →
2018年04月15日 21:00 ちひろ「物忘れの激しいプロデューサーさん」 元スレ 全てのレス 2:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2018/04/15(日) 20:11:45.81 :ViBu+7vg0 モバP(以下P)「あ~…参ったなぁ」 ちひろ「あらPさん、どうしたんです?」 P「ああちひろさん、お疲れ様です」 ちひろ「はいお疲れ様です♪それで、どうかしましたか?」 P「いや、最近トシのせいかド忘れ…と言うんですかね?固有名詞がなかなか出てこなくなってて…」 ちひろ「トシって…Pさんまだ全然そんな年じゃないでしょう?」 P「そうなんですけどねぇ…」 読む →
2018年04月01日 09:40 アナスタシア&一ノ瀬志希「はるのうた」 関連SS こひなたぬき シリーズ:目次 元スレ 全てのレス 2: ◆DAC.3Z2hLk:2018/03/23(金) 00:48:33.69 :afcOeBV+0 あるところに、女の子がいました。 女の子は、冬が嫌いでした。 冬は雪の季節です。雪を降らす雲は空を覆って、月も星もすっかり隠してしまいます。 満天に輝く無限の星々が、永遠のように遠くなってしまいそうで、切ないのです。 とりわけ、その雪を降らせるのは自分自身だということが、とてもとても悲しいのです。 女の子の名前は、アナスタシア・スネグーラチカ・マロースといいました。 読む →
2018年03月22日 18:00 【モバマスSS】一ノ瀬志希「アイドル絵描き歌?」 元スレ 1:◆FreegeF7ndth:2018/03/21(水)19:43:06 :Oyt ※登場キャラ一ノ瀬志希、モバP※参考資料『人体のデッサン技法』ジャック・ハム著(建帛社)※使用ソフト 3DS新絵心教室 GIMP※画像多め注意 2:◆Freege5emM:2018/03/21(水)19:43:41 :Oyt ●01 【絵が描けないPの絵描き歌】モバP「総選挙用に『俺は絵心ないし……』って人にも、手軽にアイドルを描いてもらおうと思ったんだ」志希「へぇ、志希ちゃんのお絵描き歌もあるの?」モバP「ああ、作ってるところだ」志希「プロデューサーが作ってるの!? プロデューサーが絵を描いてるところ、見たコトないけど」モバP「まともに描いたこと、実はないんだ」志希「えっ」モバP「まぁ、絵心なしの俺に描けたら、みんな描けるだろうし」志希(絵を描けない人が絵描き歌を考えるって、大丈夫なのかなぁ……) 読む →
2018年03月02日 06:30 志希「雨が降った後は晴れ」 元スレ 全てのレス 2:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2018/03/02(金) 00:56:51.28 :GBN2kIVc0 ザァァァァ 猫「んにゃー」 志希「…キミも独り?」 猫「なー」 志希「同じだね。…いや、あたしはふたりになるから違うか」 猫「なー…」 志希「あたしはねー♪迎えに来てくれる誰かさんを待ってるんだ♪」 猫「みー?」 志希「ふふっ、心配ないよ。祈ってあげる、キミも素敵な飼い主に出会えるように」 猫「んなーお?」 志希「大丈夫。あたしは素敵な飼い主に出会えたから」 猫「んなー…」スリスリ 志希「あぁダメダメ。アタシはもう飼われてる側だからキミの事は飼えないんだ…ゴメンね」 猫「みー…」スリスリ 志希「雨の日に寄り添って…ふふっ、これはロマンチックじゃないね」 読む →
2018年02月25日 21:30 二宮飛鳥「タクシーイチノセ?」 関連SS 橘ありす 宮本フレデリカ コメディ シリーズ:目次 元スレ 全てのレス 1: ◆5AkoLefT7E:2018/02/25(日) 20:32:07.39 :JHqm7hW90 橘ありす「タクシーフレデリカ?」 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1455548596/ こちらのスピンオフコメディになっています。 2: ◆5AkoLefT7E:2018/02/25(日) 20:32:38.93 :JHqm7hW90 ~事務所~ 二宮飛鳥「ふぅ……」 飛鳥(静かだ……) 飛鳥(聞こえるのはボクが本を捲る音だけ……)ペラッ 飛鳥(まあ、多少の騒音には慣れたものだけれど……こういう静寂も、久しく忘れていたようだね……) 飛鳥「願わくば、この平穏が永く--」 一ノ瀬志希「お、読書中かな〜? 何の本? やっぱり哲学とか? ダメだよ〜、そういうのは原文から見なきゃ微妙なニュアンスとか」ヒョコッ 飛鳥「はぁ……」パタン 志希「ありゃ、閉じちゃうの?」 飛鳥「続行が不可能だと悟ったからね」 志希「ふ〜ん? ま、でもそれは正解かもね〜」 飛鳥「……どういう意味だい?」 志希「さあさあ! 寄ってらっしゃい見てらっしゃい! タクシーイチノセの開業だ!」 飛鳥「そうか。ボクは上がらせてもらうよ」トコトコ 志希「そうは問屋がオントロジー!!!」ガシィ 飛鳥「うわ!? は、離せ……力強っ!?」 読む →
2018年02月21日 06:30 志希「Noisy World」 関連SS まゆ「Dear my moon」 志希「Noisy World」 元スレ 全てのレス 1: ◆0PxB4V7kSI:2018/02/20(火) 21:44:35.04 :tAFv2fL/0 ※前作 まゆ「Dear my moon」と同じ世界線の話。 https://ex14.vip2ch.com/i/read/news4ssnip/1504796118/ ※オリ設定多く含む 2: ◆0PxB4V7kSI:2018/02/20(火) 21:50:16.39 :tAFv2fL/0 正直にホンネを話すならば。あたしは両親が大好きだった。もう二度と会うことはないだろうなんて冷たく言い放ちながら、心の隅っこでは復縁して笑い会える日々を望んでいた。 控えめながらも優しく愛情を注いでくれたママが好きだった。 そして、ダッドも……大好きだった。とてもとても、素晴らしい一人の科学者の姿が目に焼き付いていた。 いつかあの人の隣に立つ。あの人に認められるような科学者になる。そう思ったから目指した。頑張った。スポ根とは相性が悪いあたしだけど、あたしなりに努力したのだ。 なんやかんやてんやわんや、紆余曲折を経て辿り着いた。そして────対立した。 なんてことはない。あたし達は"出来すぎた"。だからこそ、両者はどちらも正しくしかし、全く真逆の解を弾き出したのだ。科学者にとっては致命的な結果だ。 最後まで折れることなく、二人は自分の理論を展開し合った。 決して交わり合うことができない二分化は決定的な物となり、決別した。 けれども正真正銘あたし達の溝はそれだけだった。それだけだった、筈なのに───── あんな破滅を迎えるなんて、思っていなかったんだ。 『……志希。アイドルごっこは、もう済んだか』 読む →
2018年02月04日 07:00 志希「黙ってあたしと踊って」 元スレ 全てのレス 1:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2018/02/04(日) 01:18:40.09 :QEXgAndx0 モバP(以下P)「ふぅ、終わった~」 ちひろ「お疲れ様ですプロデューサーさん」 P「ちひろさん、お疲れ様です」 ちひろ「相変わらずプロデューサーさんは書類整理が早くて羨ましいですよ。私なんてまだ半分…」 P「いやいやちひろさんも早いですって、それにしても今日は一段と多かったような」 ちひろ「新年を迎えましたからね、お仕事てんこ盛りですよ」 P「嬉しいことですけど新年早々忙しいのもアレですね」 ちひろ「まあ良いことじゃないですか。あ、そういえばプロデューサーさん今日って…」 P「はい?」 ちひろ「ほら飛鳥ちゃんの」 P「ああ、そういえば今日でしたね」 ちひろ「まさか忘れてたんじゃ…」 P「ないないそれだけはないですって、ちゃんと準備してますよ」 ちひろ「ならいいんですけど、他のみんなも色々準備しているみたいですよ?」 読む →
2018年01月12日 18:00 【デレマスSS】一ノ瀬志希「駆け落ち」 元スレ 全てのレス 1:poyariri:2018/01/12(金) 10:20:44.56 :bC6pzUi7O 若干のキャラ崩壊あるかもしれないです 一応ちひろが唐揚げにレモンをかける話と安部菜々さんが海外ロケに行く話を書いた者です、いつも駄文すいません 志希「ほとんど駆け落ちだよね、これ」 モバP「そういうことになるのかもな」 読む →
2018年01月10日 00:30 一ノ瀬志希「犯人はこの中に」 元スレ 全てのレス 2:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2018/01/08(月) 23:44:18.87 :AXzlbdiOO 窓から差し込む朝日に後頭部を焼かれて僕は目を覚ました。デクスに突っ伏していたためだろう、唾液が鼻腔に入り込んで嫌な臭いがする。 腕時計を横目で覗くと、今は朝6時を少し過ぎた辺り。 まだもう少し寝ていられる。早朝にスケジュールが入っているアイドルはいなかった。開催までひと月を切ったニューイヤーライブに向けての調整のためだ。低迷していたアイドル部門の事業がやっと軌道に乗って、彼女たちに無理をさせずに済むだけの余裕が生まれた。これは僕らプロデューサーが今年してきた仕事の最大の成果と言って良い。それと引き換えに、自分を含めたスタッフの負担は随分と増加したけれど。 読む →
2018年01月09日 00:30 【モバマス?】一ノ瀬志希?「志希ちゃん、失踪したくなっちゃったなー」 元スレ 全てのレス 1: ◆Z5wk4/jklI:2018/01/08(月) 21:18:58.68 :MruIbyxGO おせじにもあまり気持ちの良い話ではないのでご了承ください。 2: ◆Z5wk4/jklI:2018/01/08(月) 21:19:48.14 :MruIbyxGO <1> 横断歩道の向こうのビルの大型液晶には、いまをときめくアイドルが演じるCMが映し出されていた。 人気アイドルユニット、レイジー・レイジーの一ノ瀬志希。宮本フレデリカ。 どちらも、私にとって憧れのアイドル。 私なんかよりもずっとずっと高い、手の届かないようなところにいて、きらきら輝いている。 私はどうにもならない気持ちが胸の中に渦巻いているのをどうにもできずに、そのまま呑み下す。 口を結んで、私は、今日もアルバイトに向かう。 「あ、ちょっと、そこのひと!」 背後から声をかけられて、そちらを振り向く。スーツ姿の男性がこちらに手を振っていた。 「私……ですか?」 不覚にも返事をしてしまった。これでキャッチセールスの類だったりすると、断るのは少し面倒になる。 「はい。ああ、すいません、私、こういうものでして……」 スーツ姿の男性は、私に名刺を差し出してきた。 そこに書かれた文字を見て、思わず胸が高鳴る。 「プロデューサー……さん、ですか……?」 書かれていたのは、芸能プロダクションの名前。それも、この国で最高峰の。 「ちょっと、お話、できませんか? アイドルに興味とか、ありませんか?」 「あ……」私は苦笑いする。「私……今、一応、アイドル……なんです」 読む →
2017年12月23日 07:10 LiPPS「MEGALOUNIT」 後編 関連SS LiPPS「MEGALOUNIT」 前編 LiPPS「MEGALOUNIT」 後編 元スレ 408:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/19(火) 21:15:55.52 :Ae62FiCR0 【8】 (■) 「――何か、用でしょうか」 呼び止められたその人は、ウェーブがかった黒髪を揺らしながら振り返った。 訝しがる訳でも、プロデューサーのトゲのある声に対して怒る訳でも無い。 ただ無表情なのは、そう努めているに過ぎないことが、私から見てもよく分かった。 「――俺が聞きたいこと、何だか分かるよな」 プロデューサーは、厳しい表情をさらに険しくさせている。 感情を抑えきれていない。 「僕に、ですか」 「そうだ。言いたいことだってたくさんある」 彼は鼻を鳴らした。ため息だった。無表情は変わらない。 いや――少し、寂しそう? 「奇遇ですね。僕もあなたに言いたいことがあるんです」 409:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/19(火) 21:17:31.53 :Ae62FiCR0 「俺に?」 「えぇ。立ち話もなんですし、場所を変えましょう」 そういうと、彼はタクシー乗り場へと向かった。 「一度、事務所に戻りましょうか。その方がたぶん、話が捗るかと」 言われるがまま、私達は先ほど来た道を引き返すように、タクシーで移動した。 私とプロデューサーは後部座席に。 チーフは、助手席に座る。 事務所に着くまでの間、車内は終始無言だった。 プロデューサーは、腕を組んでジッと窓の外を睨んでいる。 ピリピリした雰囲気を醸し出している彼は、ボンヤリしている普段のそれとは明らかに異質だ。 チーフは、どんな心境なのか――ここからでは表情も読み取れない。 シートにもたれ、ただまっすぐ進行方向に顔を向けたまま、微動だにしない。 何か、二人の間にあったのかしら。 410:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/19(火) 21:20:26.52 :Ae62FiCR0 「ふぅ。さて――」 事務所に着く頃には、車軸を流すような大雨になっていた。 本棟1階のラウンジに3人席を見つけ、そこに腰を下ろしたところで、ようやくチーフは一声を発した。 「何からお話しましょう。いや――そもそも僕に用があったのは、あなた方でしたね」 「まず、単刀直入に聞くが、一ノ瀬さんと何があった? というより」 運ばれてきたコーヒーに手もつけず、プロデューサーは身を乗り出した。 「一体何をした。何を彼女に吹き込んだ」 「吹き込んだというのは、誤解です」 「誤解?」 ゆっくりと、コーヒーを一口啜ってから、チーフはかぶりを振った。 「志希ちゃんと僕はお互いに利害が一致していた。協力関係を結んでいただけです。 人の心を理解すべく、たまたまアイドルの世界を覗いてみたいという彼女に、その機会を提供する代わりに協力を仰いだんです」 そう言って、彼は私の方をチラッと見た。 「奏ちゃんにも、聞かせて良い内容なのかどうか、ちょっと僕には自信が無いんですが」 411:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/19(火) 21:23:42.36 :Ae62FiCR0 「いいえ、最後まで聞かせてもらうわ」 ここまで来て、事の顛末を私だけ知り得ないなんて許されない。 何より、私の仲間――LIPPSのメンバーに関することなら、なおさら聞かせてもらう他は無いもの。 「あなたは、それで良いんですか?」 彼がプロデューサーに尋ねる。 プロデューサーは、ようやくコーヒーにミルクを入れながら、答えた。 「彼女に聞かせられないような内容なら、そもそもこんな人目に付く所で話さなきゃいい」 「分かりました」 チーフは、一つ息を吐いて、少し俯いたまま語り出した。 「個人的に、僕がすごく嫌だなと思っていたのは、いわゆる業界の裏側でした。 アイドル業界なんて、結局は予定調和ばかりで、お偉方のお気に入りがいれば、その子ばかりが重用されていく。 もちろん、そういう側面が全てとは言いませんが、その余波でチャンスを得られずに涙を呑む子達があまりに多いんです」 「あんたが以前担当していた城ヶ崎さんは、そうではなかったはずだが」 プロデューサーが質すと、彼も首肯した。 「もちろんです。美嘉ちゃんは僕が手塩にかけて育てた子ですが、それ以上に彼女には才能も、向上心もあった。 一方で、美嘉ちゃんはそれこそ、事務所の都合でキャラ付けされ、ゴリ押しで売り出されたようなものでした。 それでも、彼女は全てを理解して、腐らず、弱音も吐かず、一途にコツコツと実力と実績を積んで来たんです」 412:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/19(火) 21:26:43.46 :Ae62FiCR0 「美嘉が――」 私は、一瞬言葉を失った。 あの子がゴリ押しで、というのも含め、そのような泥臭い時期もあったのかと、今更思い知らされた。 「ゴリ押しされずとも美嘉ちゃんは十分評価されるはずなのに、不自然な売り出し方になったのが僕には悔しくてならない。 何より、彼女のプロデュースに事務所の力が不当に働いたということは、一方で、誰か犠牲になった子がいたはずでした」 美嘉が売り出された一方で、表舞台に立てなかった子がいるという事かしら? 一体、誰が――。 「島村さんかな」 プロデューサーの一言に、私はハッとした。えっ――!? 「経歴的に考えると、だが」 「そうです」 チーフは頷き、テーブルの上で手を組んだ。 「実は本来、卯月ちゃんは僕が担当するはずでした。 資料を見ると、随分長い間候補生のままで、そろそろ担当が付いても良い頃合いでしたが」 「城ヶ崎さんの担当になるよう言われたからか」 小さく頷きながら、プロデューサーはため息を一つ吐く。 「それだけあんたは上から認められていたってことだ」 「からかわないでください」 413:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/19(火) 21:29:37.03 :Ae62FiCR0 「彼女達は知っています。自分が大人達の勝手な都合に振り回されていることを。 僕達プロデューサーが考えている以上に、彼女達は賢く鋭い。 本当は、僕達に不満の一つでもぶつけてもらえたらどんなに楽だろう」 気づくと、彼はテーブルの上に置いた拳を握っている。 「美嘉ちゃんも卯月ちゃんも、不満は言いませんでした。しょうがない事だと、笑って僕を励ましてくれさえしました。 でも、その健気に微笑む彼女達を見て、僕がどれだけ自分を惨めに思ったか。 “売る子と売らない子”の二極化を意図的に作り上げた上層部を、どれだけ許せなくなっていったことか」 「話を急くようで悪いが、俺はあんたの愚痴を聞きに来たんじゃない」 小さくかぶりを振り、プロデューサーはコーヒーを一口啜った。 「俺の質問に答えてくれ。あんたは一ノ瀬さんに何をした」 「簡単に言うと、高垣楓を潰すのに一役買ってくれと、そう持ちかけました」 ボソッと零したチーフの一言に、私だけでなく、プロデューサーも固まる。 「当初は、ですけどね」 414:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/19(火) 21:32:33.90 :Ae62FiCR0 「どういう意味だ」 「ご存じの通り、この事務所は今や高垣楓に頼りきっている。 彼女の起用を前提としたプロジェクトが未だにいくつもあるんです。 それを絵に描いた餅で終わらせてしまったら、多方面の業界で信用が落ちるどころか、下手すりゃ廃業する末端企業まである」 馬鹿馬鹿しいとでも言いたげに、彼は鼻で笑った。 「泳がせ続けないと死んでしまうんです。346だけでなく、業界そのものが」 ――何だか大きな話になって、据わりが悪くなってきたわね。 本当に私が聞いて良かった話なのか、確かにチーフが気にした理由も分かる。 「業界そのものが死ぬってのは言い過ぎじゃないか?」 「それくらい馬鹿げた実態があるという事です。先ほど僕が言った二極化の最たる例ですね」 「ヤバい事になると知りながら、高垣楓を潰すというのは、矛盾を感じるが――それは置いといて、どう潰そうと?」 プロデューサーに問われ、彼は改めて背を伸ばした。 「サマーフェスで、彼女に勝たせようとしました」 「LIPPSに?」 「いえ、高垣楓に、です」 「――持ち上げて落とす、ということか」 「そうです。フェスに勝った彼女の周りには、きな臭い蠅共がウジャウジャ沸いて出ますから」 だんだん、言葉遣いも刺々しくなってきたかしら。 415:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/19(火) 21:37:48.09 :Ae62FiCR0 「その黒々しい“意見交換会”の現場を内部告発して、業界の裏側を暴くということか」 「えぇ」 ただ――チーフに協力を依頼された志希は、サマーフェスで何をしようとしていたの? あの時は、志希がおふざけでメンバーに提案した、アカペラ用にアレンジした振付で、私達は勝てたようなものだった。 「音源を蹴飛ばす役は、卯月ちゃんが買って出てくれました。 心根の優しい彼女に本当に出来るのか心配でしたが、上手くやってくれました。けれどね」 そう――卯月のアレは、ワザとだったのね。この人に仕組まれて。 「あのステージは想定外でした。志希ちゃんの、いえ、LIPPSのあのパフォーマンスは、僕の予定に無かった。 結果として、僕らの計画は大幅に軌道修正しなくてはならなくなりましたが」 音源が飛んだことも含め、当日フェスの裏側で起きたことが、もし予め彼の計画にあって、それを志希も承知していたのなら――。 志希は私達を負けさせるどころか、敢えて勝たせようとしたことになる。 彼の計画への、反抗としか思えない。 「誓って言いますが、僕はLIPPSもニュージェネも悪いようにする気はありませんでした。 志希ちゃんには、悲劇のヒロインを演じてもらいたかったんです。 ステージの上で本気で戸惑い、泣き出す姿などを見せれば、同情するファンもいるでしょう」 416:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/19(火) 21:42:06.87 :Ae62FiCR0 「真正面から高垣楓と戦って負けたのではなく、不慮の事故のために負けた――ということにしたかったのか」 プロデューサーは、なぜかフフッと笑った。 「言い訳や予防線は、使い所さえ間違えなければ、その身を守る盾になります。 あなたも良くご存じのはずでは?」 彼にそう聞かれたプロデューサーは、どことなく不適な笑みを浮かべているように見える。 「でも」 二人が私に顔を向ける。気づくと、私は控えめに右手を挙げていた。 「どうぞ、奏ちゃん」 「楓さんを持ち上げて潰すことが、どうして美嘉や卯月のためになるの?」 「だよなぁ」 プロデューサーも腕を組みながら頷いている。 「楓さんだけじゃない。346プロが後ろ暗いことをしていると知られたら、所属するアイドル皆が後ろ指をさされるわ。 当然、プロデューサーや社員さん達だってそうでしょう?」 「実は、新しい事務所を立ち上げようという話がありましてね」 チーフは握り拳を解き、両手をテーブルの上で組みながら、プロデューサーと私の顔を交互に見た。 「賛同するアイドルや社員達は、皆その事務所に移籍するよう手配するつもりなんですよ」 417:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/19(火) 21:47:23.35 :Ae62FiCR0 「――クーデターってことか?」 腕を組みながらプロデューサーが問うと、彼は手を振った。 「いや、そんな大それたものでは。 ただ、一方的にゼロクリアだけして、影響のある人達に何もフォローしないというのは筋が違いますからね。 もちろん、LIPPSやニュージェネの子達も、新しい事務所へ匿うつもりでした」 ――彼は、気づいていないのかしら? 346プロを糾弾し存在を揺るがせた上で、一部の人間を誘って新しく事務所を立ち上げる。 「むしろLIPPSは、新事務所での旗印を担ってもらおうと思っていたんです。 だから、僕も有望な人材のスカウトに走った――そうして出会ったのが、フレデリカちゃんと志希ちゃんです。 志希ちゃんには、あなたと偶然を装い出会うように仕向けたものでした」 それは、彼が先ほど自分で憎いと言っていた、一部の勝手な都合で多くの人を振り回すこと、まさにそのものだということを。 「新しい会社が第二の346プロになる可能性は?」 知らずテーブルの下で拳を握っていた私が声を荒げるより先に、プロデューサーが腕を組みながら彼に問い質した。 「業界の不正を暴くとかもっともらしく言っているが、俺にはそれを建前に346を潰して、自分達が取って代わろうとしているようにしか見えないがな」 418:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/19(火) 21:52:06.40 :Ae62FiCR0 「ぼ、僕は――」 チーフは、今日初めて動揺した。 「僕は、美嘉ちゃんや卯月ちゃんに、償いをしたかったんです。 新しく整えた環境で、もう一度しっかりとプロデュースしてあげたかった」 「本末転倒だよ。大体、新しい事務所に転身したとしても、経歴を調べれば“後ろ暗い346プロ”にいたのは誰にだって分かる」 「それがあるから早期に立ち上げて移籍させて、実績を積ませる必要があったんです!」 訴えるような目で、彼はプロデューサーの顔を食い入るように見つめる。 「甘い汁を吸いたいとか、そんなつもりは無いんです決して。 僕は、努力するアイドル達が真っ当に評価される環境を作りたかったんです。それがプロデューサーの本分でしょう?」 ――改めて、目を見ると何となく分かる。 どうやら彼は、本当に美嘉や卯月が――アイドルが好きなのだ。 「プロデューサーの本分は、どんな環境にあってもアイドルを真っ当に育てることじゃないか? 環境を作り変えるのはお偉方の仕事であって、俺達下っ端は環境に応じた仕事をするだけだと俺は思っている」 一口啜ってカップを置き、プロデューサーは彼の目を見てニヤリと笑った。 「結局、あんたも担当に惚れ込んじゃったってことか。なぁ、アリさん?」 419:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/19(火) 22:02:08.56 :Ae62FiCR0 「惚れますよ、そりゃ」 アリさんと呼ばれた彼は、恥じることも、悪びれる様子も見せず、毅然とプロデューサーを見返している。 「彼女達のためになるなら、どんなことだってしたいんです。 身を取り巻く環境を変える努力をしないのは、怠慢ですよ」 「耳が痛いね」 表情を崩さず、プロデューサーは冷め切ったコーヒーをもう一度手に取ろうとして、止まった。 「さっき、LIPPSやニュージェネを匿うつもり“だった”と言ったな。今は違うのか?」 ――急にチーフが口ごもる。 「おい、アリさん」 「LIPPSは、売れすぎてしまったんです」 420:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/19(火) 22:04:15.29 :Ae62FiCR0 「売れすぎた?」 それの何がいけないというの? 私は、彼の次の言葉を待った。 「現時点で言えば、LIPPSは高垣楓を脅かすほどに、急激に成長を遂げてきています。 メインステージに立っている者を潰すことが、僕らの計画でした。 そして、世間の関心事は変わりつつある」 「まさか――高垣楓ではなく、LIPPSを潰すつもりか。346の不正の象徴として?」 「――――」 チーフは、無念そうに俯き、肩を震わせている。 たぶん、演技ではない。美嘉を擁するLIPPSが標的になるのは、彼にとって決して本意ではないのだ。 「どういう不正をしたとして、おたくらはLIPPSを潰そうと?」 プロデューサーは、平静を装っているが、内心は決して穏やかでは無いはずだ。 私だって、誰かに後ろ指を指されるようなことをしたつもりなんて無い。 彼は、重い口を開いた。 「淫行をした、ということに――僕と、美嘉ちゃんとで」 421:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/19(火) 22:17:11.71 :Ae62FiCR0 「何だと――!」 「僕だって嫌なんですよこんなの! でも、一番信憑性があると、上が一方的に決めたんです。 それだけは勘弁して欲しいとお願いしたのですが、聞いてもらえなくて――!」 テーブルの端を両手で掴み、体を前に乗り出させ、彼は泣きそうな顔で懇願する。 「あの日美嘉ちゃんに会ったのも、真実を告げて、一刻も早くLIPPSを抜けさせなくてはという思いからでした。 でも、あんな真剣に考えている彼女を目の当りにしたら、LIPPSとしての美嘉ちゃんを、僕自身諦めきれなくて――。 だから、あなたに相談したかったんです」 「自分で撒いた種だろうが」 「今回立ち上げる新事務所の代表は、奥多摩支社の支社長です」 そう彼が言った瞬間、プロデューサーが固まった。 「この計画の首謀者は、あなたのかつての上司です。 親交のあったあなたからも、どうか彼を説得してほしいんです」 プロデューサーは、固まったまま動かない。 この人の経歴は未だによく知らないけれど、相当な動揺を受けている様子から、たぶんその上司を信頼していたのだと思う。 「――なぜ、あの人が」 やっと絞り出されたその声は、先ほど怒気に満ちた同じ人のそれとは思えなかった。 「ご存じの通り、ウチのかつての事業部長ですし、業界のコネも相当ありますからね。 パイプを繋ぎ直して鞍替えすることができるのは、彼くらいしか出来ません」 「誰が吹き込んだんだ。俺には、あの人が自分からそんなことをするとは思えない」 「いえ、彼は乗り気でした。もっとも、その話を持ちかけたのは187プロですけどね」 422:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/19(火) 22:20:04.58 :Ae62FiCR0 「馬鹿な」 プロデューサーはテーブルをドンッと叩いた。驚いた同じフロアの何人かがこちらを見る。 「それは346の転覆を謀る187プロの計略だ。まんまと乗せられているんだ」 「もしそうであるなら、それをそのまま彼に説得してほしいんです。どうかお願いします」 彼が頭を下げるより先に、プロデューサーは席を立った。 「支社長の予定は分かるのか?」 「今日、本社に来ているはずです。役員会議がありますから」 「事務所棟の上の方の会議室のどれかだな」 足早にそこへ向かおうとするプロデューサーを、私は呼び止めた。 「――速水さんは、事務室で待っていてくれるかな。雨が止んだら、帰っても構わないから」 精一杯、私に優しく声を掛けるプロデューサーの態度が、無性に腹立たしい。 「ここまで来て、仲間外れにするつもりなの? 私はLIPPSのリーダーなのよ」 423:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/19(火) 22:25:21.46 :Ae62FiCR0 「――すまない」 「お、アリさん達じゃないスか」 声がした方を振り向くと、男の人が二人、並んで立っている。 この人達は、プロデューサーの同僚の人達だったわね。 大きくて柄の悪い方がヤァさんで、小さくて貧乏くじ引いてそうな人がチビさん。 「何か、あったんですか?」 私達のただならぬ雰囲気を察してか、チビさんが心配そうに言葉を重ねた。 プロデューサーが控えめに手を振る。 「あぁ、いや――何でもないよ」 「いやいや絶対何でもなくは無いでしょ。どっか人殺しに行きそうな顔ッスよ」 「そういう顔見たことあるんですか、ヤァさん」 「うっせェなチビ太」 「まぁアレですよ、その――ほら、業務改善。最近、よく言われてるでしょう? ちょっと、こういう仕事の仕方はいかがでしょうか、って、お偉いさんに直談判してみましょうかって」 見かねたアリさん――チーフが、はぐらかそうとフォローを入れる。 しかし、それを聞いたヤァさんは、俄然鼻息が荒くなりだした。 424:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/19(火) 22:27:32.44 :Ae62FiCR0 「おっ? マジッスかイイッスねー! オレもクソ上司に言いたい事山ほどあるんスよ!」 「いや、本当大丈夫だって。俺とチーフだけで話に行きたいんだ」 「何だよツレねェじゃないッスか! イイッスよ行きましょ、場所どこ? あっち?」 「いや、ヤァさん、あの、ヤァさんが行くとまとまる話もまとまら――」 「うるっせぇんだよチビ太黙ってろテメェは」 「な、何で俺だけ」 「おっ、誰かと思えば奏ちゃんじゃねェか。相変わらずエロェ~なオイ」 ふと私の存在に気づいたヤァさんが、私の頭をガシガシと乱暴に撫でた。 プロデューサーよりも遙かに、私に対する距離感が近い。 何がおかしいのか豪快に笑っている。セクハラで訴えても勝てると思うのだけど。 「ごめんね奏ちゃん。この人、悪気は無いはずだから、気を悪くしないであげてね」 「えぇ、あの、大丈夫です」 チビさんがそっとフォローを入れてくれる間に、気づくとプロデューサーはスタスタとその場を離れていた。 アリさんが黙ってそれに続き、「あ、おいっ!」とヤァさんと、チビさんもそれを追いかける。 もちろん、私もだ。 425:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/19(火) 22:29:56.64 :Ae62FiCR0 本当の事情は何なのか、とチビさんに聞かれたので、エレベーターの中で私は説明した。 プロデューサーとアリさんが一瞬、私に振り向いたけれど、諦めたように視線を直す。 どのみち、こうなってしまったら隠す方がナンセンスだもの。 さっきまでおちゃらけていたヤァさんまでも、急に押し黙り、顔を強張らせた。 エレベーターが到着すると、開いた先に、男の人が一人立っていた。 「おや」 入れ違い様、その人はプロデューサーの姿を認めるとニヤリと笑った。 濃い紫の、ダブルのスーツ。 黄土色の革靴。 オールバックにさせた髪は薄めで、細いフレームの眼鏡と、細い顎。 「――――」 プロデューサーの表情を見て、直感した。 この人が――187プロの人ね。 426:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/19(火) 22:31:27.81 :Ae62FiCR0 「お久しぶりです。どうも、以前どこかでお会いしましたよね?」 並びの悪い歯をニカッと見せて握手を求めてきた。 そんな彼を、プロデューサーは露骨に無視して足早に去る。 「あれ、ちょっとぉ? ツレねぇなぁ?」 後ろから声がするけれど、肩を揺らして歩くプロデューサーは止まらない。 背中越しに、明らかにそれと分かる怒気が伝わってくる。 ただならぬ敵意を醸し出す彼に、私をはじめ、他の皆も気安く声を掛けられずにいた。 その勢いのまま乱暴に、目に付いた会議室を手当たり次第に、プロデューサーはノックし扉を開けていく。 もう少し丁寧に、とチビさんが進言しようとした所で、ちょうど目的の人物がいる部屋を見つけた。 「? おぉ、誰かと思えば。元気でやっているかね?」 427:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/19(火) 22:32:41.36 :Ae62FiCR0 恰幅の良い、白髪のオールバックで、やや小麦色の肌をした茶色いスーツの老人は、プロデューサーに気づくとにこやかに手を挙げた。 「ご無沙汰しております」 「ハハハ、この間ウチに来てくれたばかりじゃないか」 丁寧に頭を下げるプロデューサーに対し、彼は穏やかな笑みを返す。 随分と、雰囲気の良い人。 この人が、さっきアリさんが言っていた、LIPPS潰しの首謀者――? 「ん――?」 そのアリさんの姿を認め、少し体が止まる。 やがて、もう一度にこやかに、しかしどこか納得したように笑った。 「フフ、なるほどな」 428:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/19(火) 22:34:34.26 :Ae62FiCR0 「支社長、折り入ってお願いがあります」 神妙な面持ちで切り出したアリさんの次の言葉を待たずに、支社長は鋭く言い放った。 「どこまで話した?」 「――大体の事は」 「そうか」 頷いて、彼は私達の顔を代わる代わる見つめる。 「まるで、私を悪者か何かに見るような目だねぇ」 「悪者じゃなけりゃなん――」 「ヤァさん、マジで黙った方がいいですたぶん」 喧嘩腰のヤァさんを、チビさんが本気で制した。 429:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/19(火) 22:39:43.00 :Ae62FiCR0 「念のため聞くが、私にお願いしたい事とは?」 ポケットに手を突っ込み、机におざなりに腰掛けながら、支社長はアリさんの顔を覗き込むように見た。 「先日、申し上げた事です。LIPPSを陥れる事を、どうか考え直していただけないでしょうか」 「腐った環境を変えたいと言ったのは、キミではなかったかね?」 深々と頭を下げるアリさんを一笑に付す。 「それとも、自分が割を食うのは嫌だから降りるか?」 「私は、アイドル達のためを思って」 「高垣楓が標的だった時には日和らなかった癖に、良く言う。それとも、彼女はアイドルではないと?」 「で、ですから、彼女も何らかの形で救えればと」 「ハッハッハッハ!」 豪快に高笑いをする支社長に、アリさんの表情が凍るのが見て取れた。 「子供かねキミは。 信用を売り物にするこの業界で、一度ミソが付いたアイドルを再利用する手段がどこにあるというのだ」 430:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/19(火) 22:42:41.35 :Ae62FiCR0 「し、支社長は、アイドルのためを思っていたのでは――」 「思っているさ。大事なビジネスの種になるのならな」 鼻を鳴らし、足を組み替えながら支社長は続ける。 「業界を刷新するという発想は、実に興味深い。 何事にも旬はある。かの高垣楓にしたって同じ事だ。これ以上マンネリ化が進めば、我が社の自浄作用も失われる。 新しい事務所を立ち上げ、346に代わる存在として台頭する事は、引いては古くなった業界の血を改める事にもなるだろう」 「そのためにヒドい目に遭う子達が出てくんのはいいンスか?」 たまらずヤァさんが身を乗り出した。今にも殴りかかりそうだ。 「もちろん、彼女達には悪い事だとは思っている――あぁ、そこのキミもLIPPSだったか」 ハハハ、と私を見て彼は笑った。一切の熱も湿り気も感じられない笑いだった。 「だが困った事に、我が社は大きな会社でね。無策のまま対抗馬となるだけでは、巨象に挑む蟻にすらなれんだろう。 攻略するには、その足元を揺るがす爆弾が必要だ。信用を失墜させる、スキャンダルという名の爆弾がね」 431:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/19(火) 22:45:36.00 :Ae62FiCR0 「LIPPSの子達はどうなるんですか?」 アリさんが食い下がる。 「当初の計画では、高垣楓の周りの大人達が良からぬ企みをしていた、というものでした。 つまり、彼女自身に非は無い。振り回された側の人間として、同情を得られる可能性もあったでしょう。 ですが、今回の計画は、LIPPS自体が悪者になってしまいます。印象があまりにも悪すぎます!」 「じゃあ無理矢理キミが強姦した事にでもすれば良い」 「なっ――」 「そうすれば、城ヶ崎美嘉はめでたく被害者だ」 「は、速水さん、待って落ち着いて!」 コレが落ち着いて聞いていられるとでも思うの!? どこまでアイドルを、いいえ、女をバカにすれば気が済むのか――!! チビさんが私を引き留めるその横を、鬼の形相をしたヤァさんがヌッと歩み出る。 しまった、とチビさんが小さく呻いたけれど、もう遅いわね。 「支社長」 432:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/19(火) 22:48:34.22 :Ae62FiCR0 やや後ろから聞こえた声に、皆が振り返る。 いつの間にか、プロデューサーは私達の後方に立っていた。 というより、私達が彼を置いて、知らず身を乗り出していた、と言う方が正しいのでしょうね。 「何かね?」 「それ、私がやったって事に、なりませんか?」 「は?」 皆の顔が点になる。 一方でプロデューサーは、真顔で支社長の顔を真っ直ぐ見つめていた。 「いや、強姦とかそういうのではなくて、何かしら――例えば賄賂とか、私が勝手に不正をした事にして。 ほら、一応彼女達の担当プロデューサーですし、それなりに話題性もあるでしょう」 「なかなか面白い意見だね。LIPPSの皆にも、火の粉は直接降りかからないし、と?」 「私も会社辞められますし」 433:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/19(火) 22:51:05.46 :Ae62FiCR0 「や、辞められるって――!」 アリさんがプロデューサーの前に歩み出た。 「ちょっと待ってください。それはあまりに無責任じゃ――」 「引継書はちゃんと作るから、LIPPSはあんたが引き継いでくれ。新しい事務所でも、どこでもいいから。 城ヶ崎さんのプロデュースもできるし、Win-Winでしょ」 オイオイオイ、とヤァさんも穏やかならない表情で彼の肩を掴む。 チビさんは、私とプロデューサーの顔を交互に見て明らかに困惑していた。 あの口ぶりから察するに、どうやら前々から辞めたかったようね。 辞める――あの人が、私達のプロデュースを? 「魅力的な提案だが、それには及ばんよ」 えっ、とプロデューサーが小さく声を漏らした。 支社長は机から腰を上げ、ニヤリと下品な笑みを浮かべている。 434:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/19(火) 23:00:34.63 :Ae62FiCR0 「一ノ瀬志希、という子がいたね。彼女が今、どこにいるか知っているかね?」 思わぬ人物の名前が出て、私達の表情が固まる。 特に、プロデューサーと、おそらく私の顔も、相当に緊張が走った。 「とある出版社の門戸を叩こうとしているようだ。 城ヶ崎美嘉ではなく、自分が346のプロデューサーと淫らな行為を行ったのだと。 そう話を作り変え、これによるLIPPS潰し、346潰しが計画されていたのだと、告発しようとしているらしい」 「何ですって――」 アリさんの顔が青ざめた。 「今回のLIPPS潰しを企てた者達を、自らの芸能生活と引き替えに陥れるつもりなのだろう」 やれやれ、とでも言いたげに彼は顔をしかめ、B級洋画さながら、大袈裟に両手を挙げて肩をすくめた。 「だが、私とて黙って見過ごすほど間抜けではない。既に手は打ってある。 彼女の告発をきっかけに、LIPPS及びその関係者は淫行集団として報道される事になるだろう。 私には何も火の粉はかかってこない。全て、彼女自身が彼女の大好きなLIPPSを陥れる事になるのだ」 435:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/19(火) 23:06:52.09 :Ae62FiCR0 「か――彼女の大好きな、って――?」 息が苦しい。視界が歪む。 やっとの思いで、私の口から言葉と呼べるものが発せられた。 この男が何を言っているのか、よく分からない。 それくらい、この男は酷い。 でも、それ以上に気になるのは、志希がLIPPSを、大好きと――? 「彼女はね、以前私と、そこの彼に言った事があったんだよ。 もっと彼女達と一緒にいたい、そのために出来る事があるなら何でもしたい、とね。 よほど楽しかったのだろう。海の向こうの研究生活より、愛憎渦巻くこの業界と、その中で切磋琢磨する仲間達との日々が」 芝居がかった動作で、支社長は目頭を押さえた。 「泣かせるねぇ。自分が悪者になり、悪い大人達を道連れにする事で、彼女は大好きなLIPPSを守ろうとしたのだろうに。 結局は、彼女も子供なのだ。我々の立ち回りを理解しきれぬまま、手の平で踊らされる事しかできんという訳だな。 だが、良い勉強にはなったろう。まともな心を持てない化け物が、一丁前に“お友達”を望むべきではないとな。ハッハッハッ――!!」 436:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/19(火) 23:07:53.76 :Ae62FiCR0 突然、鈍い音が鳴り、遅れて支社長の体が後方にもんどり打って倒れた。 外は気が狂ったかのような豪雨で、時折雷も鳴っている。 その音かと、最初は聞き間違えた。 けれど、違った。 稲光のように私達の間をすり抜け、支社長に飛びかかったのは、プロデューサーだ。 437:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/19(火) 23:14:55.54 :Ae62FiCR0 呻き声を上げながら、支社長は顔を右手で押さえ、その場でうずくまっている。 「この野郎――ふざけるな、この野郎、お前」 うわ言のように、プロデューサーは小さい声で、しかし、随分と荒い息を繰り返している。 「あの子、まだ――まだ18だぞ。お前、そんな子に、お前はっ、そんな覚悟をさせたって事がなぁっ」 アリさんがプロデューサーの肩を掴み、引き留めようとする。 しかし、プロデューサーは乱暴にそれを振り払い、うずくまったままの男に歩み寄る。 「恥を知れ。ふざけやがって、俺達のようなっ。俺や、お前のような、腐った大人のせいで!」 どんどん声が大きくなってくる。 チビさんが彼の腰の辺りを両腕で抱きかかえ、体づくで引き留めようとするが、止まらない。 「なんて道義の無い――くそぉ、ふざけんな」 普段の彼からは考えられないほど、その言動は無骨で、一切の飾り気も気遣いも、余裕も無かった。 「ふざけるなよ。俺達が、彼女を追い詰めたんだっ! 分かってんのか!! ふざけんなっ!! くそっふざけやがって! ちきしょう、離せ、ちきしょう、ふざけるなぁ!!!」 ククク――と、うずくまったままの支社長から、小さく笑い声が聞こえた。 438:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/19(火) 23:17:38.34 :Ae62FiCR0 「とんだお笑い草だな?」 ゆっくりと立ち上がり、支社長がプロデューサーに向き直る。 口が切れているらしく、血が少し出ていた。 「上司を殴って、キミはめでたく会社をクビになる。 LIPPSも、“暴力プロデューサー”のせいで一躍脚光を浴びる。 我々はそれを契機にLIPPS潰し、引いては346潰しにかかる事ができる」 ハッハッハッハッハッ!! ――と、豪快な高笑いが会議室に響き渡る。 「何とも愉快な話だ! 私の望んでいた事がアッサリと訪れた。 そしてもちろん、キミにとってもな。良かったじゃあないか、めでたく会社を辞められるなぁ!?」 プロデューサーは、ギリギリと音が聞こえてきそうなくらい、歯を食いしばっている。 口の端からは涎が出ていた。体裁など、まるで気にも掛けていなかった。 「し、支社長――あなたという人は」 アリさんが、呆然と立ち尽くす。 チビさんも、プロデューサーの体を掴んだまま、笑い続ける男を青い顔で見上げていた。 そんな――こんな事って――。 「持ってろ」 439:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/19(火) 23:19:38.33 :Ae62FiCR0 「えっ?」 ふと、私の手元に眼鏡が――いや、正確に言えばサングラスだ。 掛けていたそれを、乱暴に私に預けるのは、ヤァさんしかいなかった。 「おい」 大笑いする支社長の前に歩み出たヤァさんは、彼の頭を上から引っ掴んだ。 「えっ」 次の瞬間。 ヤァさんは、自身の頭を大きく後ろに振りかぶり、思いきり支社長の額目がけて叩きつけた。 440:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/19(火) 23:22:03.43 :Ae62FiCR0 「グッ、ウアァァ――!!?」 支社長は額を両手で押さえ、蹈鞴を踏みながら二、三歩後ずさり、堪らずしゃがみ込んだ。 ヤァさんも、痛そうに頭を押さえている。 少しして、ヤァさんが立ち直って姿勢を正すと、まだ立ち上がれないでいる彼に向けて言い放つ。 「アンタに暴力働いたこの人をクビにするっつーんならよォ。オレもクビにしてくれや。 ただよォ、ただでクビになる訳にはいかねェからよォー。暴力しとかねぇとなぁ?」 笑いながら、ヤァさんは支社長の髪を掴んで無理矢理持ち上げた。 「つーかオレも怪我しちゃったから、オレもアンタに頭突きされたっつーコトでいいんスかね? そうなると、アンタもクビか? 怪我させちゃったもんな、オレによォ? どうでもいいけどな」 言い終わらないうちに、もう一度後ろに振りかぶり、先ほどよりも強く頭突きをお見舞いする。 「アガァッ――!!」 441:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/19(火) 23:24:35.70 :Ae62FiCR0 「うぅ、我ながらキクぜぇ」 今度はヤァさんも蹈鞴を踏んだ。 まるで農作業の間に休憩でもするかのように、天を仰ぎ、額を片手で押さえている。 支社長は、ヒィヒィと痛みとも恐怖ともつかないような声を発しながら、小猿のように身を縮こませた。 「痛ぇか? 彼女達はもっと痛いぜ?」 ヤァさんが、再度歩み寄る。 「や、止めろ――」 誰も、止める人がいない。 恐怖からなのか、呆然としているのか――それとも私達が、それを心の奥底で是としているのか。 なぜ、この人はこんなにも慣れているの? 単純に、怖い。 チラッと後ろから見えた彼の顔は、どちらによるそれかは分からないけれど、血まみれだった。 意気揚々と、まるでパンチングゲームに興じるかのように、ヤァさんは先ほどと同様に支社長の髪を引っ張り上げた。 「い、痛いっ! 止めてくれぇ!」 「おう、立て。次は頭蓋骨行くぞコラ」 442:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/19(火) 23:28:00.91 :Ae62FiCR0 「ごめん、ヤァさん。ストップ」 いつの間にか、プロデューサーは私達の後ろに回っていた。 振り返ると、どうやら普段通りに落ち着いた様子のプロデューサーと、もう一人――。 「随分と、物騒なミーティングですね? 奥多摩支社長」 この女性、何度か見たことがある。 夏頃に新しく来たという、アイドル事業部の統括常務だ。 「み、美城常務――!」 ボーッと常務を見つめるヤァさんの隙を突いてその手をふりほどき、支社長は常務に走り寄った。 「そ、そうなんです助けてください! あの男がいきなり私に乱暴を働いた次第でして!」 「私が物騒と言っているのは、奥多摩支社長」 血まみれの顔で、必死に助けを求めようと頭を下げる彼を、常務は上から冷徹に見下ろしている。 「ここでの話の内容。そして、ここで行われていた会合のことです」 443:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/19(火) 23:31:25.43 :Ae62FiCR0 えっ――と支社長の口から蚊のように小さい声が漏れ出る。 「私の留守中を狙って熱心に外部の人間を招き、この会議室で良からぬ相談事を行っていたようだな?」 そして、常務の口調からは、年上の部下に対する丁寧さが消えた。 「そ、それは、誤解です! ヤツらが私に脅迫まがいの事をして、この事務所を潰そうと――!」 そう支社長が反論したのを最後まで聞かないまま、常務は黙って手近にあった机に手を掛けた。 おもむろに机の裏側に手を伸ばし、戻した彼女の手には何かが握られている。 ゆっくりとそれを開くと、手の中から出てきたのは、小さな機械だった。 「ま――まさか」 支社長の顔が見る見るうちに青ざめる。 「情報は何よりも重要なものだ。取り分け、信用を売り物とする我々の業界ではな」 鼻を鳴らし、腰に手を当てて常務は淡々と話を続ける。 「私の部屋と同じ階で繰り広げられる不穏な動きを、私が悟らないとでも思ったか。 もっとも、事務所の外で密会が行われようと、草の者がとうに知らせていただろう」 444:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/19(火) 23:33:45.62 :Ae62FiCR0 「草の者、って」 小さく突っ込んだのはチビさんだ。私も、どこの時代劇だと突っ込みたくもなる。 だが、常務は真顔だった。意外と、この業界では普通――なのかしら。 「わ、私は――」 消え入りそうな声で支社長が何かを取り繕うとした時、常務の携帯が鳴った。 スッと取り出して一瞥すると、彼女は支社長を見て、次に私達の顔を見た。 「一ノ瀬志希について、その者から今し方連絡があった。 ここからそう遠くない公園で、見つかったそうだ」 「志希が――!」 私の胸が、カァッと熱くなる。 どうやら、彼女が事に及ぶ前に保護することができたらしい。良かった。本当に――! 「さて」 一息ついて、常務は次に、ヤァさんと、プロデューサーの顔を交互に見た。 「君達は、見たところかすり傷とは言えない怪我をしているようだが、何があった?」 445:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/19(火) 23:37:51.53 :Ae62FiCR0 ヤァさんは、額から流れた血で顔中が真っ赤だ。 一方で、プロデューサーは――よく見ると、右手の甲が血で滲んでいた。 「あぁ、これッスか?」 ヒヒッ、と笑いながらヤァさんは手で血を拭う。 「支社長サンと俺らでプロレスごっこしてたら、ちょっと盛り上がっちゃったんス。ねっ?」 そう言って、ヤァさんがプロデューサーにウインクをしてみせると、彼も頷いた。 「名前は思い出せませんが、ウォーズマンの、ぐるぐる回る必殺技の真似をして」 「ぶははっ!」 真顔でプロデューサーがくだらないウソを語ったのを見て、チビさんが堪らず笑い、慌てて口をつぐんだ。 「ば、馬鹿な事を言うな! 常務、この期に及んで反省の色を見せず、こんなふざけた態度を取るヤツらなど即刻――!」 フッ――と、常務の口角が僅かに上がった、ように見えた。 「じょ、常務――?」 446:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/19(火) 23:40:02.18 :Ae62FiCR0 「次からは気をつけるように」 呆れたように言い捨てた常務に、ヤァさんは「ウッス」と雑に会釈した。 「じょ、常務!? 馬鹿な――!!」 「あなたを解雇します。支社長。 堂々と背信行為を行う者の面倒を見れるほど、346プロは寛大ではない」 「ひ、そ、そんな! 後生です、どうか、どうか今一度お考えを!!」 慌てて膝を折り、両手を床に付ける男を一瞥すらせず、常務は指をパチンと鳴らした。 すると――。 ドアがガチャリと開き、入ってきたのは数人の黒服の男達。 ――どう見てもカタギとは思えない、屈強で強面の人ばかり。 え、ひょっとしてヤクザかしら――? 「な、何だこの男達は!? 離せ、離せっ――えっ」 「お静かに願います」 最初こそ必死に抵抗していたが、黒服の襟に付いていた金縁のバッジを見て、支社長の顔が引きつった。 447:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/19(火) 23:41:57.36 :Ae62FiCR0 「む、村上――う、うわぁ!?」 そのままズルズルと支社長を引きずり、男達は部屋の外に退場していく。 最後の男が律儀に深々と頭を下げ、丁寧にドアを閉めて去って行った。 ――突然の出来事に、私達の誰もが、そのドアに視線を固定し、呆然と立ち尽くしている。 ヤァさんだけ、ゲラゲラと腹を抱えているけれど。 「じょ、常務――今の人達は、一体何なのでしょうか」 アリさんが、おそるおそる尋ねた。 「知りたいか?」 「い、いえ――」 私も、今のは知ってはいけないような気がするわ。 「君達二名も、お咎め無しとはいかない」 ヤァさんの笑いがピタッと止まった。 「一週間、謹慎処分とする。良いな?」 448:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/19(火) 23:44:07.03 :Ae62FiCR0 「え、そんだけ? やった、ざっス」 ヤァさんに倣うように、プロデューサーも黙ってお辞儀をしてみせる。 「わ、私も、処分していただけませんか?」 震えながら、それでも勇気を出して切り出したのは、アリさんだった。 「私も、支社長と一緒に、計画に参加していました。 彼らは、そのために今回その身を削ってくれたのです。 私だけが、何も痛みを負わない訳にはいきません。どうか、お願いします」 「チーフ」 深々と頭を下げるアリさんに、声を掛けたのは常務ではなく、プロデューサーだった。 あえてチーフと呼んだのは、常務の手前だからかしら? 「チーフには、LIPPSの面倒を見てもらいたいんです。 負い目を感じているというのなら、プロデュースという形で彼女達に返してやってほしい。 でなければ、彼女達の世話をする大人がいなくなる」 そう言って、プロデューサーは常務に向き直った。 「常務、お願いします。そういう訳で、チーフは見逃していただけないでしょうか?」 449:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/19(火) 23:45:46.20 :Ae62FiCR0 常務は大きくため息を吐き、プロデューサーを睨み付ける。 「私には、君が体よく厄介事を回避したがっているようにしか見えないがな」 「ハハハ」 プロデューサーは何も答えず、バツが悪そうに頭を掻いた。 どうやら、常務とプロデューサーはいつの間にか、そこそこに気心が知れている仲のようだ。 常務はそのまま、踵を返して出口の方へと向かった。 しかし、ドアを開けようと伸ばした手をふと止め、思い出したように私達の方へ振り返る。 「――新事務所立ち上げの話が事実上ご破算となれば、今後はおそらく187プロが何かしら妨害工作をしてくるだろう。 あらゆる点で気を配っておきなさい。『アイドル・アメイジング』本番まで」 そう言い残し、常務は部屋を出ていった。 450:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/19(火) 23:48:19.74 :Ae62FiCR0 「妨害工作、ねぇ?」 ヤァさんが首に手を当て、ゴキゴキと乱暴に関節を鳴らす。 「めんどっちぃよなぁ。ホント、ダセェ事しかしねェ、あの事務所」 未だに顔が血まみれなのを見るに見かねて、私はポケットからハンカチを取り出し、彼に差し出した。 「ん、おっ? 悪ぃな、っておいこんなキレーなもん使えねェよ。ティッシュある?」 ヤァさんは、私のハンカチを笑いながら断った。 「ヤァさん、ティッシュならどうぞ」 「おぉ、チビ太気が利くじゃねぇか、お前俺のカノジョか?」 「ち、違いますよ!」 「マジになってんじゃねーよひっぱたくぞ」 「さっきのアレを見たら笑えないっすよ」 ゲラゲラと笑いながらティッシュで顔を拭くヤァさんに、チビさんはいくらか距離を置いている。 「さて――――なんか、疲れましたね」 アリさんが、両手を腰に当て、大きくため息を吐きながら項垂れた。 「すみませんでした――本当に」 451:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/19(火) 23:52:01.67 :Ae62FiCR0 「いや、うん――しかし、本当に疲れたな」 プロデューサーは、いつの間にか携帯を弄っている。 「速水さん。何か着信残ってる?」 「えっ」 慌てて私も携帯を取り出した。そう言えば、皆はどうしているだろう――。 ――――。 「――何も、無いわね」 「そうか」 携帯をしまい、プロデューサーは窓の外を見やった。 相変わらず、外は大嵐だ。 先ほどの騒ぎで気づかなかったけれど、大粒の雨が絶えず窓ガラスを割らんとばかりに叩きつけられ、時折雷の轟音が遠くに聞こえてくる。 「どうすっかな」 考える素振りをしながら、プロデューサーはいそいそと財布を取り出し、中からお札を一枚引き抜いた。 452:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/19(火) 23:54:35.50 :Ae62FiCR0 「付き合わせてすまなかった。今日はもう遅いし、外もこんなだから、タクシー呼ぶよ」 そう言って、プロデューサーは一万円札を私に差し出した。 「あの、タクシーなら事務所と契約してる会社をそこから呼べますけど」 チビさんがこそっと横からプロデューサーに進言すると、「あそっか」と彼は頭を掻いた。 「あなた――この期に及んで、またそうやって――!」 あくまでも、私に対する接し方を変えようとしない彼に、また怒りがこみ上げてくる。 「あぁ――自分の事を仲間外れにするなとか、そういう話? そうは言っても、本当に遅くなっちゃったし、帰らせないと君の親御さんが」 「そういうのもあるけれど、そうじゃなくて!」 「あなた――私達のプロデューサーを、辞めるつもりなの?」 アリさんも、黙ってプロデューサーの次の言葉を待っている。 当人は、鼻でため息をつき、視線をもう一度外に逸らした。 大方、私を言いくるめるための言葉を選んでいるのだろう。 「そんなに私達が、鬱陶しい?」 453:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/19(火) 23:58:00.07 :Ae62FiCR0 「片や大事な仕事はすっぽかす」 外を見やったまま、プロデューサーは思い出したようにポツリと呟いた。 「片やメンバーの頬をひっぱたき、片や遅刻の常習犯。何かにつけて噛み付いてくる、君のような子もいる。 実害の少なさから、強いてまだマシと言えるのは塩見さんくらい。極めつけは今回のこの騒ぎだ」 私に向き直り、プロデューサーは肩をすくめた。 「これ以上振り回されるのは、正直ウンザリでな。 その手綱を上手く操るのがプロデューサーの本分だろうが、俺には君達は荷が重すぎる」 「無責任な事、言わないでよ」 気づくと、私はプロデューサーの腕を両手で掴んでいた。 「私には、私達には――!」 ――過去の事を思い出し、思わずキュッと口をつぐんでしまう。 そんな私の様子を見て、プロデューサーも、どこか悲しげに首を傾げた。 「あなたが必要なのよ――あの時の事、謝るわ。 だから、こんな中途半端な所で、私達を置き去りにしないで」 謝るから、などと――よくもそんな勝手な事が言えたものだと、自分が恥ずかしくなり、俯いてしまう。 454:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/19(火) 23:59:54.90 :Ae62FiCR0 「いや、いいんだ。速水さん」 プロデューサーが少し屈んで、私の両肩に手を乗せた。 顔を上げると、今まで接してきた中で、一番優しい彼の姿がそこにあった。 「君には謝る必要が無いどころか、俺の方こそ君を苦しめた。今まで、すまなかったな」 「そんな事――」 「いいんだ。速水さんとの話がきっかけだった訳じゃない」 肩から手を離し、屈んだ姿勢を起こすと、プロデューサーは室内に置いてある電話台へ向かい歩き出した。 会議室内には、ゲストを早急に案内するため、契約しているタクシー会社の番号を記した電話帳が掛かっている。 「元々、自分からやりたいと思って飛び込んだ業界でもないしな。良い機会だよ」 受話器を取り、淡々とボタンを押していく。 やがてそこに掛かったらしい電話に向かい、事務的な依頼と応対を終えると、十数秒ほどで彼は受話器を置いた。 「あと5分くらいしたらエントランスに来るから」 「お願い、これだけ教えてもらえる?」 私は、これ以上この人の事を理解できていないままでいるのが、我慢ならなかった。 455:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/20(水) 00:02:16.50 :m6szqZZ10 「あなたは、どうしてプロデューサーになったの?」 「――後はアリさん、LIPPSをよろしく頼む」 彼は私の質問には答えず、それだけ言い捨てると、逃げるように出口の方へ向かう。 「待ってよ!」 そのままプロデューサーは、ドアの向こうに消えて行った。 なぜ、あの人は私達と向き合おうとしないのだろう。 思えば今日、駅でアリさんを捕まえる直前、あの人が言った言葉――。 確か、本当は私達のステージを台無しにしようとした、と。 それがもし本当なら――あなたは、本当に私達の事が、嫌いなの? 「あの人――どんな過去があったんですか?」 部屋にいる人達に、聞いてみた。 だけど――答えてくれる大人は、誰もいなかった。 外の豪雨は、未だ収まる気配を見せない。 まるで私を脅すように、稲光が絶えず瞬いては、世界が割れるほどの轟音が空っぽの胸の中で暴れ回る。 456:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/20(水) 00:04:16.65 :m6szqZZ10 【9】 (♪) シキちゃーん! シキちゃーん! 457:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/20(水) 00:07:54.21 :m6szqZZ10 (♡) 「――フレちゃん」 振り返ると、案の定いつもと変わらない満面の笑みの彼女がそこにいた。 携帯を握りしめていない方の手を思い切り挙げて、人目も気にせず大きく振りながら近づいてくる。 「ひさしぶりー元気してた? 一日ぶり? ん、何持ってんのソレ?」 フレちゃんは、アタシの手の中にあったミカンを興味津々そうに上から、横から、下からも見つめる。 この子はいつもそうだ。どんなにくだらない事でも大事件にしなければ気が済まない。 「んー、これー? にゃはは、何のヘンテツも無いオーゥレンジだよー♪」 「ワァオ♪ チョー奇遇じゃないシキちゃん? アタシもほら、この通りでっかいミーカンをボンボヤーだよー!」 そう言うと、フレちゃんは手提げのバッグからサッと、タネも仕掛けも無いと嘯く手品のように得意げに取り出してみせた。 「どうしたのそれ? 買ったの?」 「それよりシキちゃん、外すんごい雨だよ? 何て言うんだっけこういうの、ゴリラ雷雨?」 458:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/20(水) 00:09:51.10 :m6szqZZ10 アタシの問いなど歯牙にもかけず、フレちゃんは外をチラッと見たので、アタシも一応それに倣う。 途端、ピカッと空が光り、それを照らしたでっかい白熱電球がそのまま落っこちてきたような凄まじい轟音が鳴り響いた。 「うひゃあっ、ホントに雷鳴っちゃった! おヘソ隠しておヘソ! あ、でもだいじょーぶ♪ なぜならフレちゃん服着てるから。しかもヘソ出しじゃないんだなーコレが☆ シキちゃんはどう? ゴリラにおヘソ取られてない?」 今日もフレちゃん、飛ばしてるなー。 元々彼女は、アタシが言うのもなんだけど、頭のネジがどこか飛んでいて、予想もしない角度から話題を提供してくれる。 それが彼女の魅力であり、退屈を忌避してきたアタシにとって快い時間を絶えず提供してくれる人。 でも――。 今のアタシには、フレちゃんの存在は鬱陶しい事この上ない。 なぜなら、アタシにはやるべき事があるからだ。 そして、フレちゃんにはそれを知って欲しくないし、決して知られてはならない。 459:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/20(水) 00:14:27.20 :m6szqZZ10 フレちゃんのくだらなくて楽しいフリには答えず、アタシは踵を返して駅の改札に向かおうとする。 「お待ちください、一ノ瀬さん」 振り返ると、フレちゃんはおかしいくらい真顔になって、慎ましくその場に立っている。 「一ノ瀬さん、貴女は――とても、大いなる事を、されようとしているのではありませんか?」 おフザケなのに、言い得て妙な台詞だ。Hmmm……乗っかってあげよう。 「はい、そうなのです――私の大事な人を守るため、この一ノ瀬、巨悪を討って参ります」 「やはり、そうなのですね――それでは、これをお持ちください」 そう言って、フレちゃんは手に持っていたビニール傘を厳かに差し出した。 「宮本さん。これは――?」 「これは、ビ・ニールの傘。 予言者フジ・リーナの神託に従い、この宮本が、先ほどコンビニで、500円で買ったものです」 460:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/20(水) 00:16:31.00 :m6szqZZ10 「まぁ――そのような、貴重な傘を、この私に?」 「はい。ですが――この傘を扱うには、ある条件が必要となります」 「それは、一体何でしょう?」 「私を、貴女の旅に、一緒にお供させてほしいのです」 「――ありがたいお申し出ですが、危険な旅になります。お連れすることはできませんわ」 「そうなると、私は、自分の傘が無くなってしまうのです」 「まぁ、それは難儀なこと。ですが、コンビニで買えばよろしいのでは?」 「この宮本、今月がそこそこにピンチなのです」 「私が、買って差し上げますわ。そこのコンビニまで、一緒に参りましょう」 「ホント!? やったー!」 「おーい、フレちゃん素になってるー♪」 やはり、いつものフレちゃんだ。彼女のペースで振り回されるのは心地が良い。 ただ――何故だろう。普段通りのはずなのに、今日のフレちゃんには、どこか違和感が拭えない。 今のアタシが、正気ではないから? それとも、昨日の今日で、フレちゃんもアタシに気を遣っているからだろうか。 ――――。 読む →
2017年12月23日 06:30 LiPPS「MEGALOUNIT」 前編 関連SS LiPPS「MEGALOUNIT」 前編 LiPPS「MEGALOUNIT」 後編 元スレ 1:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/16(土) 09:42:59.85 :sXivYPE/0 雷は好き? あるいは、他のもっと、怖いもの。 化け物とか、怪物とか――あるいは天才とか。 自分の理解が及ばないものに、しばしば人はレッテルという秩序を与える。 潜在的な恐怖から、目をそらすために。 呼ばれた方は、どう思っているだろう? 深淵を覗くとき、深淵もまたこちらを覗いているという。 じゃあ、怪物なるものは普段、どんな事を考えているのか? そんな怪物達を観察した記録の一端。 2:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/16(土) 09:46:27.00 :sXivYPE/0 【1】 (◇) 京都から東京までは、のぞみで大体2時間半。 ――ん~~っ、修学旅行以来や! ビルたっか。人めっちゃおるし、皆歩くのはやっ。 おっといけない、今日からあたしは東京都民。ちゃんと標準語で話さないとね。 新幹線の中で既に半分以上減っちゃった実家のお団子を頬張り、一人ぶらぶら~っと。 やっぱすごいなー東京は。こんな機会でも無いと来れないよねー。 まぁ~――あんまり喜ばしい理由で来たワケじゃないんだけどさ? 3:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/16(土) 09:48:58.83 :sXivYPE/0 早い話、実家から追い出されたんだよね、あたし。 ヨソの人は知らんでしょうけど、京都って結構メンドーな所でして。 洛中と洛外、ってのがあってさ? 要するに御所の近くに長く住んでる人ほど偉いっていう、見えざるカーストっていうんかな、あるの。 ウチの実家は、御所の裏手で代々和菓子屋やってて、まーそういう意味では由緒あってすごい。 問題は、それをうるさく言う人達がいるってこと。 もうホント、アホやんな? しょーもなっ! 若い人で今時そんなん気にする人おらんよ。 って言いたいけど、そういう慣習を大事にするお堅い家のコなんかは、あたしに媚びったり、嫌み言ったりするのも、案外無いワケではなくって。 両親やばあちゃんなんかは、気にしなくていいよって言ってくれるんだけどさ。何かねー? 4:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/16(土) 09:51:10.51 :sXivYPE/0 伝統ある和菓子屋の娘だと思われるのがイヤで、ずっとだらしなく生きてきた。 京都人に目つけられるの、何かと面倒でさ。 そんで高校卒業して進学も就職もせんとダラーってしてたら、この体たらく。 ニート食わすために店やっとらんえー、だって。アハハハ、だよね―♪ 大人しく家事手伝いしとけば良かったかなぁ。 ガチャンッ! 「――?」 何か落とした? あたしじゃないと思うんだけど――。 5:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/16(土) 09:53:06.78 :sXivYPE/0 振り返ると、地面にはボロボロに禿げたケータイ――えらい年季の入ったガラケーやな。 そして――。 たぶん落とし主であろう、気づく様子も無くプラプラと歩いていく金髪のお姉さん。 ――あ、男の人が親切にケータイ拾って声を掛けた。 っておぉ、ガイジンさんやん! キレーなお姉さんやなー。しかもめっちゃ話しかけてる。 何語か分からないけど、男の人タジタジやな。アハハ、かわいそうに。 怖いとこやねー、東京は。あたしも気をつけんと。 ――おっ、このマンションか。うわぁ、ゴッツいなー。 「すいませぇーん! こちら、塩見周子さんのお宅でお間違えないでしょうかー!?」 「へっ? あ、はいー!」 ちょうど良いタイミングで、引っ越し屋さんも来てくれはった。 6:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/16(土) 09:54:43.32 :sXivYPE/0 「ん、こんなもんか」 初めての一人暮らしにしちゃ、結構リッパな部屋になったかなー。 備え付けの家具も、思ってたよりずっと上等。 まったく、高卒の一人暮らしでこんなリッパなマンションいらんて。 相変わらず見栄っ張りやな。 まぁいっか。 おもむろにベッドの上にボフッ! とな。 「――おっほっほっほ♪」 なんか一人暮らしっぽいかも~♪ ばたばた~♪ 「――――あっ」 そういや、お隣さんへの挨拶、どうしよう? 7:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/16(土) 09:57:48.86 :sXivYPE/0 「あっち着いたら隣の人への挨拶くらいちゃんとおし。アンタどうせ色んな人のお世話になるやろ」 そう言われて母さんからもらったお団子は、もう残り少なくなっていた。 そもそも、食べかけのものを「はいどーぞ」ってのも失礼な話だけどさ。 まぁいっか、食べちゃえ。今日のお昼ご飯コレでいーや。 今時、こういうマンションとかは、挨拶を逆に迷惑がる人もいるっていうし。 ていうかマンスリーだし、いいでしょ。 と思いつつ、ケータイ弄ってダラダラ引きこもってた、東京都民初日の夜――。 夜ご飯のこと、考えてなかった。 「――うぅ、お腹すいたーん」 8:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/16(土) 09:59:39.10 :sXivYPE/0 品揃えはあっちとそんな変わらないけど、そこは東京さすが。 歩いて5分と経たずエンカウントする程度には、コンビニの数が多いよね。 「んっふっふ~♪」 ちょっと買いすぎたかな? まぁ、記念すべき初日だし、ちょっとくらい奮発したっていいっしょ。 えぇと、ここを曲がって――お、あそこにお弁当屋さんある。 よしよし、シューコちゃん的にはポイント高いよーこういうの。 明日の夜ご飯はアレにしよう、なんて考えながら、まだ見慣れない新居の階段を上った時。 「――ふにゃあ~~あ」 猫――もとい、お隣さんがいた。 9:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/16(土) 10:02:27.73 :sXivYPE/0 この辺の高校生かな? ウェーブのかかった長髪で、だらしなく学校の制服と思わしき上着を着崩した女の子。 後ろのあたしに気づく様子も無く、彼女はブラブラの袖で眠そうな目をこすりながら、 自分の部屋に入っていった。 その横顔にくりんと瞬く目を見て、あたしは「まつげ長いなー」とか思ったり。 でも、こんな時間までほっつき歩くなんて、東京のコは遊んでんなー。怖いなー。 ん? ひょっとして現役生じゃなくて――そういう、夜のおシゴト的な? わーお。 それとも、実家から大層な仕送りもらってるお嬢様JKかな? あたしが言うのもなんだけど、こんなリッパなマンションにねぇ――。 ま、どうでもいいか。 10:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/16(土) 10:04:12.26 :sXivYPE/0 さて、無事に新生活をスタートさせたシューコちゃんでありました、が――。 課せられた、ミッションがあったんだよね。みっしょん。 実家から提示された仕送り期間は三ヶ月。 それまでにあたしは、この東京で、食い扶持を探さないといけないのだ。 んー困った。何しよ? 大人しくバイトする? ――いや~、メンドっちぃのは苦手だなー。 養ってくれる人を探す? ――う~ん、そう都合の良い出会いがあるかなぁ。 思い切って、ユーチューバーとか? あー無理無理、パス。 ていうかちょっと待って。仕事って三ヶ月そこらで見つかるもん? 賃貸契約もキッチリ三ヶ月。 なるほど、そういやここマンスリーか、だから短期――いや無理だって母さん。 どうすれば経済的に自立した生活を送れるか――そんな事に頭を悩ませている時だった。 あの人に、声をかけられたのは。 11:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/16(土) 10:08:33.98 :sXivYPE/0 「あ、あの~――アイドルって、どうかな?」 三日目くらいかな。 東京名物“東京ばな奈”を片手に、将来について考えるフリをしながら駅前を歩いてた時。 「――はぁ?」 めんどくさそーな勧誘が現れた。 これ、ひょっとしてアレかな。宗教の勧誘やな。 「どう、って――いや、ちょっとあたしそういうのキョーミ無いんで」 面倒なのは嫌い。地元でイヤほど味わってきた。 「あ、待って。ごめんよ、名刺だけでもいいからさ」 「――?」 手渡された名刺をチラッと見る。 なんや、今時の新興宗教ってこんなスタイル――。 いや、違う。芸能事務所――346プロダクション? 「高垣楓とか、城ヶ崎美嘉とか、知らない?」 あたしでも知ってるような、すっごい有名なコがたくさん所属してる所らしい。 事務所名、初めて知った。 まさか、あたしをスカウトしたいって話? ――そう聞くと、スーツの人は頷いた。 12:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/16(土) 10:11:40.76 :sXivYPE/0 どうせやること無くてヒマだし、誘われるがまま近くの喫茶店へ。 奢りでいいって言うから、本当に遠慮無く注文しちゃったけど大丈夫かな? 「東京には、一人で来たのかい?」 二つ目のケーキに手をつけようとした時、唐突にその人は切り出した。 何であたしが東京モンやないって分かったのかを聞くと、その人は笑いながら――。 「駅ビルを物珍しげに眺めながら東京ばな奈を頬張る東京人を、俺は見たこと無くてさ」 完全にお上りさんやん、あたし。こんな初対面の人にも見透かされるワケだ。 「ウチは新しいアイドルの卵を随時探していてね。 君みたいな可愛い子に入ってもらえると、非常にありがたいのだけど」 あたしが可愛い? ――ふ~ん? 「そうは言っても、あたしより可愛いコなんていくらでもいますよね? 何であたしに声をかけたんですか?」 ちょっとカンジ悪い質問だったかな? でも、実際そうだし。 その人は困ったようにハハハと笑い、うーん、と頭をポリポリ掻きながら、こう言った。 「ティンと来たから」 「はぁ?」 馬鹿にしとるん? って思った。 13:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/16(土) 10:13:09.36 :sXivYPE/0 有名な芸能事務所らしいし、こういう人のインスピレーションは確かなのかも知れない。 でも、あまりに適当すぎない? あたしが言えた話じゃないけどさ。 ひょっとしたら、適当な業界人を騙るナンパヤローかも。 あー、ソレやきっと。 「ごちそうさまでした。ケーキ、もういいです」 「あぁ、あの、ちょっとさ、待ってくれ」 席を立って、足早に店を出ようとした時だった。 「もし、ご実家から仕送りをもらって生活しているのなら、ウチには寮もある。 三食宿付きだ。費用もある程度まで会社が面倒を見る」 「――ホント?」 14:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/16(土) 10:16:12.54 :sXivYPE/0 席に座り直したあたしを相手に、彼は話を続ける。 「もちろん、いつまでも無償という訳ではないよ。 三ヶ月程度、体験コースというものがあって、そこに候補生として入会すればの話だ」 「三ヶ月までだったら寮の家賃はタダ?」 「入会費はあるけどね。その期間の後は、仕事をもらえるだけの実力をつけて、自身の稼ぎで寮費を賄ってもらう」 三ヶ月――ちょうど、三ヶ月。 これを逃す手は無いな。 「でも、あたしもう三ヶ月だけ契約しちゃってるマンションがあるんですよねー」 「あぁ、そうなんだ。それじゃあ、候補生として入寮するならその後って事になるかな」 「うんうん。で、提案なんですけど――」 「寮に入らない代わりに、今住んでるマンションの家賃、三ヶ月分肩代わりしてくんない?」 15:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/16(土) 10:19:18.43 :sXivYPE/0 「――は?」 男の人の目が点になる。 別にあたしは守銭奴であるつもりも、食い意地張ってるつもりも無いんよ? でも、今のあたしにとって、食い扶持は喉から手が出るほどほしいもの。 呆気に取られてるこの人だって、わざわざスカウトしに声をかけてきたくらいだ。 ただのナンパヤローじゃないなら、あたしを手に入れたいなら、それなりに譲歩してくるはず。 「う~ん――じゃあ、いいかな別に」 「えぇっ!?」 「お金の話は、経理に了解取らないと何とも言えないけど、たぶんそこまでは無理だと思う」 引き下がるんかい! 「担当外の事が絡んじゃうと、無責任な回答はできなくてね」 「あたしを魅力的だと思って声かけたんじゃないの!?」 「というより、「寮費を払うからアイドルをやれ」ではなく、「アイドルをやる気がある子には寮費を払うよ」という規定だからね」 「知らんわ! さっきのあんた、割と「寮費を払うからやれ」の方やったやん!」 散々な言い合いになっちゃったけど、結局は寮費分だけ今の家賃を肩代わりしてくれる事になった。 その人が経理って人と電話で相談して、親の同意書とか、マンションの契約書とか色々持って来いって。 今にして思えば、サイテーな勧誘のされ方だったよね、実際。 16:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/16(土) 10:21:17.81 :sXivYPE/0 で、書類を揃えようと週末日帰りで実家に帰って、父さんとも相談して――。 「あ、アイドルってお前――」 「ふふ~ん。大手の事務所にスカウトされたんだよー、あたし♪」 「ユーチューバーとかじゃないんよな?」 「ち、違うよ!」 でもまぁ、似たようなもん――いや、それより結構思い切ってるかも。 さすがに驚かれたけど、そこは可愛い愛娘を東京に単身追い出すような両親だ。 あたしがあっちで何をしようと、結局は反対も賛成もしないというスタンスのようである。 「あぁ~周子ちゃんテレビでお歌うたうのかい? すごいねぇ~カワイイものねぇ~」 ばあちゃん、話すか食べるかどっちかにしなよ。口から餡子こぼれてるよ。 ティッシュで口元を拭いてあげてると、母さんがばあちゃんにお茶を持ってきた。 「良かったわねぇ~お義母さん、長生きする理由ができて。周子がテレビに出るまで死ねんねぇ?」 うっさいわボケ。ったくこの人――。 ま、いーや。理解ある親で助かるわ。 17:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/16(土) 10:27:54.01 :sXivYPE/0 契約当日、事務所の前であたしを待っていたのは、勧誘してきた人――プロデューサーさんって人と、隣にはもう一人。 それはもう、めっちゃくちゃキレーな女の子が。 「ほ、ほえぇ――」 青みがかったショートめの黒髪に、パッチリだけど憂いを滲ませたようなお目々。エローい唇。 ほんで、スレンダーながら色っぽく制服を着こなすボデー。スラリと伸びた手足。 何より、映画女優かってくらい大人びた、ふわっふわした立ち居振る舞い。 プロデューサーさんと少し会話をした後、その子はすれ違いざま、あたしにフッと微笑みかけ、去って行った。 「彼女は都内の実家から通ってるんだ。たまたまレッスン終わりに鉢合わせてな」 さらに驚くことに、まだアイドルじゃなくてその手前、候補生らしい。 初めてあった子でこのレベル――うーむ、さすが東京。全然高校生に見えん。 こういうダイヤの原石が、プロの手で磨かれて、売れていくワケか。 まっ! ほどほどでいーんだけどね。あたしの場合。 自分で言うのもアレだけど、運動神経はそんなに悪い方じゃないし、カラオケの点数もまぁまぁ。 食いっぱぐれない程度にお仕事してお金もらって、自立した生活ができればそれで良し。 と、思っていたんだけど――。 18:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/16(土) 10:29:25.80 :sXivYPE/0 「はい、塩見さん。今のところもう一度やってみましょう」 えぇ、今のあかんかった!? あたしだけ前に立たされて繰り返し発声練習。 喉からではなくお腹から出せって言われても、声って普通喉から出るもんやないの? ボーカルレッスンだけでなく、ダンスレッスンもフツーにハード。 聞いてないよーこんなの! 「グダグダ言うな、足が止まってるぞ塩見! 1、2、3、4、1、2――!」 うえぇぇぇっ! こっちの先生怖いよー! 家に帰る頃には体中バッキバキ。 いやぁ~――結構厳しいねー、現実ってのは。 当のプロデューサーさんは、あたしのレッスンを見に来たのは最初の1、2回だけで、後は全然来てない。 何考えてんだろ、もう。 19:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/16(土) 10:31:38.49 :sXivYPE/0 でも、あの人の事を悪く言ってばかりはできない。 何せ346プロは、期間限定とはいえ、東京でのあたしの生活をほぼ全面的にサポートしてくれている。 このまま三ヶ月間、あたしにご飯を食べさせるだけというのは、事務所にとっては詐欺みたいなもんだ。 ちゃんと売れっ子になるのも、そうなれるよう頑張るのも、一応あたしの仕事なんだろう。 それくらいはあたしにも分かる。 頑張るフリ、くらいはしとかないとアレかなーって。 そこでふと疑問に思う。 あたしは生活経費をもらう代わりにレッスンを頑張るワケだけど、そうじゃない子らは? 実家から通ってる東京の子らは、何のために346プロにおって、レッスンを頑張っとんのやろ。 あの日、事務所の前で会った、あのめっちゃキレーなコ――速水奏ちゃん。 レッスンの休憩中、彼女に聞いてみる事にした。 最近なんだかよく一緒になるなー。しっかし――ホントにこのコ、女子高生? 20:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/16(土) 10:33:12.72 :sXivYPE/0 「一言で言えば、トップアイドルになるためね」 速水奏ちゃんは、あたしの質問にサラッとそう答えた。 へぇー、そうなんだ。 こんな大人っぽいコでも、可愛い服着てぷりぷりしたいーなんて夢を見るんかなー。 腕組みしながら頷いていると、速水奏ちゃんは右の握り拳を口元に添えて、フフッて笑った。 仕草がいちいち女優だ、このコ。 「こんな回答でも、塩見さんは納得してくれるのね」 「シューコでいいよ。え、どういう意味?」 あたしは、速水奏ちゃんの含み笑いの意味がよく分からなかった。 「なら、私の事も奏って呼んで」 そう一言、断りを入れた上で、奏ちゃんは手を戻した。 「ここの人達は皆、トップアイドルを夢見て来るものなのよ。 なぜトップアイドルを目指すのかを、周子が私に聞くまでもなく納得してくれたのが、何だかおかしくて」 21:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/16(土) 10:34:29.90 :sXivYPE/0 「あぁ~――ってキミ、おざなりな回答してるんやん!」 奏ちゃんはまた手を口元に添えた。 「ごめんなさい。悪気は無かったのだけれど」 「悪気は無いで済まされたら警察いらんよ?」 「ほんじゃさ、聞いてもいい?」 「何かしら」 「何で奏ちゃんは、トップアイドルになりたいの?」 「さぁ、なぜかしらね」 「馬鹿にしてんの!?」 忍ぶような、優美な笑いを絶やさない奏ちゃん。 小馬鹿にされてるけど、不思議と悪い気はしない。 あたしも結構楽しいし。 ひとしきり、お腹の中の空気を全部吐き出した所で、今度は奏ちゃんが聞いてきた。 「なぜ、周子はこの事務所に入ったの?」 22:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/16(土) 10:36:29.34 :sXivYPE/0 「大した理由は無いよ? プロデューサーさんに、「生活の面倒見てやるからアイドルやらん?」って言われたから」 休憩中なのに、変に体力使って喉が乾いちゃった。 ペットボトルを取って、ぐいっと一飲みして息をついていると――。 奏ちゃんは、あたしの顔をマジマジと覗いていた。 「えっ、何?」 「悪く言う気は無いのだけれど――そんな理由で?」 「うん、そうだけど」 奏ちゃんにとっては、アイドルになりたいでもなく、ただ仕事としてアイドルをやろうとしてるあたしの事が珍しいみたい。 そういうモンかなぁ? まぁ、他の子らからしたら、不思議なんかもなぁ。 あたしとしては、何とかして自立しなくちゃって気持ちがまずあるもんで。 「実家でヌクヌクしたかったのに追い出されてさー。困っちゃうよね、ホント」 23:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/16(土) 10:39:56.86 :sXivYPE/0 「意外だったわ」 奏ちゃんは、口をぽかんと開けてあたしの話、ていうか愚痴? を聞いてくれてた。 「周子は歌もダンスも、入りたての子とは思えないくらいすごく上手だから、もっと高い意識でアイドルを目指していたのだとばかり思ってた」 今度はあたしがぽかんとする番。 「あたしが、上手?」 「トレーナーの人達は皆、口を揃えてあなたの話ばかり」 「悪口じゃなくて?」 「どう育て上げるか、いつデビューさせるべきなのかを――どうやら、競争になりそうね、私達」 左手で横髪をサラッと掻き上げ、奏ちゃんはフッと笑った。 ホントに綺麗で、一瞬ドキッとした。 あ、いや、変な意味じゃ全然なくて。 24:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/16(土) 10:41:27.84 :sXivYPE/0 「きっとお互い、理解し得ない事情を抱えているのかしら」 「そうかもねー」 こっちが理解したくても、そっちが話してないやん。別にいいけどさ? 「あなたが抱えている事情に、私から言える事は何も無いし、言う筋合いも無いでしょうけれど」 ただ、ちょーっと、イヤかな、って思ったのは――。 「こっちも本気でアイドルを志している以上、あなたみたいな人に負けたくはないわね」 なんか――ヘンな風に対抗意識燃やされたこと、かな。 25:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/16(土) 10:43:14.68 :sXivYPE/0 「あ、うん」 気のない返事を返し、その後のレッスンは再開された。 奏ちゃんは、さっきよりも動きにキレが増している。 元々クールなコなんだろうけど、レッスン室の大鏡に映る彼女の顔は真剣そのものだった。 負けたくないって――え、どういうこと? まるであたしの動機が不純だとでも思われているようで、面白くない。 あたしだって、一応本気なんだけどなー。 そりゃあ、アイドルとやらをまだよく分かってないけど、何せこっちは生活かけてんだもの。 東京の裕福なご家庭は、トップアイドルとゆー愛娘の夢に付き合う余裕があるんでしょうな。 夢だけで飯が食えるなんて、良いご身分ですなぁ? 「――ふ~ん」 理解できないし、したくもないかな。このコとは。 ていうか勝ち負けでもないし? そこそこでいーのよ、あたしは。奏ちゃんはお一人でどーぞ頑張って。 26:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/16(土) 10:45:54.24 :sXivYPE/0 でも、うーん――。 ダンスにしろボーカルにしろ、レッスンは奏ちゃんと二人きりの日ばかりだった。 前までは週に一度も無かったのに、最近はほぼ毎回だ。 いくら何でもおかしい。そう思ってプロデューサーさんに問いただすと、なんてことは無い。 あの人が、あたしと奏ちゃんの担当プロデューサーだから、という事だった。 曰く、彼は新人ではないけど、新しく東京の方にやってきたプロデューサーであり、ここに来て自らスカウトした子が、あたし。 奏ちゃんは、前任のプロデューサーさんから引き継がれた子、との事だった。 「ほんじゃさ、あたし達をえーと、ユニット? ――として組ませる可能性もあるってこと?」 27:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/16(土) 10:47:18.31 :sXivYPE/0 そう聞くと、プロデューサーさんはパソコンをカタカタさせていた手をピタッと止めて、 「なるほど」 だって。 わーっ! いらん事言ったーあたしー! 「えっ? 良いじゃないか。お互い高いレベルで張り合っていると、トレーナーさんからは聞いてるぞ」 「やだー! お願いプロデューサーさん、あのコとは一緒に組ませんといて! 絶対ソリ合わんもん!」 ボンヤリと生返事で答えるプロデューサーさん。 もう、本当に大丈夫かなこの人。 最初のお仕事の話がやってきたのは、それから二週間ほど経った頃。 あの城ヶ崎美嘉ちゃんの、地方の営業に、バックダンサーとして共演する事になったのである。 ――奏ちゃんと。 28:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/16(土) 10:49:10.65 :sXivYPE/0 まぁ、奏ちゃんはいいや。もうしょうがない。 それより城ヶ崎美嘉ちゃんである。 何でも、美嘉ちゃんの担当プロデューサーからあたし達のプロデューサーさんに打診があったのだとか。 JKからすごい人気を集めるあのカリスマギャルと、一緒に仕事をする事になるなんて! こんな簡単に!? といっても、あたしはそこまでめっちゃ追っかけてるワケでは無くて、好きか嫌いかで言ったら、まぁ好きかなーぐらい。 あ、でもポージングとかはカラオケで結構友達とマネしてたなー。ギャルピースの仕方とか。 で、今日はそのカリスマギャルとの初顔合わせ。 30:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/16(土) 10:51:10.97 :sXivYPE/0 「――――っ」 や、やっぱオーラあるな~。 そういやこの子も高校生なんよね。当たり前か。 奏ちゃんはどうか知らないけど、あたしは結構緊張しちゃってて。 でもそんなあたしに城ヶ崎美嘉ちゃんは――。 「アハハ、そんな構えなくっていいよっ★ 同じ事務所のメンバーなんだし、あまりヘンに思わないで、ね?」 派手な外見に似合わず、現場のスタッフさん達への挨拶や気配りも丁寧――。 そんなの、よくある事務所の作り話で、イメージ戦略なんだろうなって正直思ってた。 でも、美嘉ちゃんはミーティングの時も、レッスンの時も、すごくあたし達に気を遣って、イベントの経緯とか、ダンスのコツとか丁寧に教えてくれたんだよね。 「それに、アタシのことは美嘉って、フツーに下の名前で呼んでよ。 同い年くらいなんだし、アタシも下の名前で呼びたいしさっ★」 経験による余裕からか、彼女の性格かは分からないけど――良い子だな、って思った。 31:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/16(土) 10:53:00.13 :sXivYPE/0 で、今回のは要するに、美嘉ちゃんの地元で定期的にやってるファン感謝イベント的なものみたい。 商店街になってるアーケードの一角で集まるお客さんは、美嘉ちゃんの友達とか、近所のおじさんとか、ファンになる前から美嘉ちゃんを良く知る人達ばかり。 「だから、失敗なんて考えないでいいんだー。もし失敗しても笑って許してくれる人達ばかりだし」 レッスン前の準備体操中、腕を伸ばしながら美嘉ちゃんは白い歯を見せてニカッと笑ってみせる。 ただ、美嘉ちゃんのダンスはさすがだねー。キレッキレのばりんばりん。 それにさ、アドバイスも上手いんよ。美嘉ちゃん。 ターンの仕方、メリハリの付け方、ポーズのキメ方。あと何だっけ、色々。 こう言っちゃ悪いけど、トレーナーさんよりも受け入れやすいかなー。 同じアイドル目線、ってのもあるかもだけど。 美嘉ちゃんのおかげで、しばらくは楽しくやれそう。ありがたいねー。 32:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/16(土) 10:54:54.14 :sXivYPE/0 「フフフンフンフンフーン♪」 奏ちゃんとの帰り道、つい『TOKIMEKIエスカレート』の鼻歌がついて出る。 今度のイベントで歌う、美嘉ちゃんの持ち歌だ。 「楽しそうね、周子」 「まぁねー、案外カンジの良い子だったしさ。奏ちゃんもそう思うでしょ?」 奏ちゃんに対しても、美嘉ちゃんは好意的だったし。 「もちろん。でも――私は、もっと気を引き締めなきゃって、思った」 真顔のまま答える奏ちゃん。かぁー、ストイック~。 「奏ちゃーん、あのさぁ、もうちょっと楽しもう? 美嘉ちゃんだってすごいイイ雰囲気出してくれてたじゃん」 「周子はいいわね。その鈍感さが羨ましいわ」 33:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/16(土) 10:57:02.43 :sXivYPE/0 「――ん、何、どういう意味?」 何でこのコ、あたしに突っかかってくるんかな。 「気がつかなかった? 美嘉があなたに対して、焦燥感を抱いていた事に」 「へ?」 奏ちゃんの言っている意味が、まるで分からない。 美嘉ちゃんが、あたしに焦りを感じてるってこと? 何でよ。 「私が周子を気に食わないのは、きっとそこね。 本気でもないのに、私はおろか、美嘉ともあなたは張り合えているのだから」 34:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/16(土) 10:59:34.13 :sXivYPE/0 奏ちゃんは、目線だけあたしの方に向けて、フッと笑った。 「あなたの才能は、言うなればきっと、この事務所で努力している人皆の敵。 だから、凡人代表として、私はあなたに負ける訳にはいかないのよ。美嘉はなおさらかしら」 「――ごめん、言ってる意味分かんない」 「言葉通りの意味よ。 知りたいなら、明日のレッスン終わった後、ちょっと時間をおいてレッスン室を覗いてみるといいわ」 「えっ?」 交差点に出た。 駅はこの大通りを左に行った先。あたしの家は、それとは逆方向だ。 「ライバルに送る塩は、これで十分でしょう? それじゃあ、また明日」 奏ちゃんの背中を、あたしはモヤーッとした気持ちで見送ることしかできなかった。 35:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/16(土) 11:01:42.19 :sXivYPE/0 「そうそう! そこ、バチッて止めるとカッコイイよー★ 奏ちゃんもイケてるーっ!」 トレーナーさんが鞭なら、美嘉ちゃんは飴だね。 「塩見っ、ちゃんと指先まで神経走らせろ! 拍数通り体を動かすのなんてサルでも出来るぞ!」 まるで人格否定かってくらいキビシイ言葉をトレーナーさんがぶつけたら、 「周子ちゃん、そこは腰でノーサツしちゃお? ――そうそう! ちょっと言っただけなのにすぐ出来ちゃうんだねー周子ちゃん!」 すかさず美嘉ちゃんが気を配ってくれる。 まぁ、あの――しょっちゅう励まされてる自分が情けなくもあるけど、正直助かるよね。 奏ちゃんは、そんな飴と鞭に意を介す様子も見せない、相変わらずのポーカーフェイスっぷり。 本気――ふーん、本気ねぇ? ったく、あたしかて本気だってーの! 何や、好き勝手言って、おもんないな! 「くっ、こんにゃろ――!」 よっしゃ、どうだ、どうだっ! これでも不真面目かこのーっ!! 「あ、アハハ★ あの――周子ちゃん拍数、バラバラかな?」 37:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/16(土) 11:04:45.33 :sXivYPE/0 「――何笑てるん?」 「いいえ、別に」 レッスン終わり、シャワー室から出るなり、奏ちゃんは私を見てまーた笑いよった。 「すいませんねぇ、つい“キアイ”が入っちゃって! 何せ“ホンキ”だもんで!」 「ムキになる、って言わないかしら? ああいうの」 また笑う。まったく――。 ――ふーん、身長はあたしとそう変わらんくせに、出るとこ出てんなぁ。 あたしが男子なら、今のあんた見て鼻血出とるやろなぁ? ほぉ~? 「何かしら?」 「べっつにぃ~? 羨ましいわ~、グラマーなボデー」 「――――ッ」 急にサッとシャツで体を隠し、プイッて顔を背ける奏ちゃん。 えっ――あ、そういうのあまり良くなかった? 「ご、ごめんね?」 「いいえ――ところで、美嘉は今何しているか、分かる?」 「なんか、トレーナーさんと相談したい事があるって言ってなかった?」 「レッスン室、そっと覗きに行ってみなさい。きっと驚くと思うわ」 ――昨日も言ってたな。何があるっていうんだろう。 38:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/16(土) 11:05:57.61 :sXivYPE/0 「――――!」 奏ちゃんの言う通り、レッスン室の扉をそぉっと開けてみた。 ――あたしは、言葉を失った。 「はぁ、はぁ――ぐっ!」 あたし達とレッスンしてた時以上に、すごく険しい表情で一人自主練する美嘉ちゃんがいた。 「1、2、3、4――! く、ふっ――!!」 「――――」 そっと閉じる。 とても声をかけられるような雰囲気ではなかった。 39:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/16(土) 11:07:24.70 :sXivYPE/0 「――――」 何が、あそこまで美嘉ちゃんを駆り立てるんだろう。 あたしからすれば、地位も名声も彼女は十分に得ている。 この間もファッション誌の表紙を飾ってたし、渋谷にもでっかい広告がずーっと貼られてるのを見てる。 彼女へのお仕事は、きっとこれからも問題なく入ってくる。安泰そのものだ。 なのに――たかだか地方の小さいイベントに、何でそこまで? ふと顔を上げると、右手の前方に喫煙スペースがある。 プロデューサーさんは、あたしと目が合うと手を上げ、のそのそとそこから出てきた。 40:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/16(土) 11:11:05.29 :sXivYPE/0 「タバコ、吸うんだね」 「前職の影響でな」 「前職?」 プロデューサーさんは自販機にお金を入れ、けだるそうにボタンを二つ押した。 「4、5年目くらいかな。転職してこの会社に来て――どうでもいいか」 あたしは、未だにこの人の事をよく分かっていない。 いや、よく考えたら、奏ちゃんと美嘉ちゃんの事も。 「トレーナーさんから聞いてるぞ。こってり絞られてるんだってな」 ジュースをあたしに手渡すと、プロデューサーさんは缶コーヒーをパコッと開けた。 あたしの隣に腰を下ろし、何となく笑いながら。 「そのたんびに、美嘉ちゃんが褒めてくれるんよ」 「それも聞いた。いい子だよなーあの子、よくあの人も俺達に仕事くれたもんだ」 あの人っていうのは、美嘉ちゃんの担当プロデューサーかな? 正直、この人にあまり良い印象は抱いていない。 それでも、ちょっと聞いてみたいなって思った。 「ねぇ、プロデューサーさん――あたし、頑張れてるかな?」 41:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/16(土) 11:12:55.52 :sXivYPE/0 「トレーナーさんからは、よく頑張ってるって聞いてるよ」 「そうじゃなくて、プロデューサーさんはどう思ってるのか聞いてんの」 あたしが詰め寄ると、プロデューサーさんは困ったような顔をしてポリポリと頭を掻いた。 「んー――レッスンの事はトレーナーさんに任せているからなぁ。 彼女の評価がそうなら、俺もそうだろうと言う他は無いんだよね」 「――あ、そう」 のれんに腕押しとはこの事か。あたしもそれ以上聞く気が失せちゃう。 「何でそんな事を気にするんだ?」 逆に聞かれてしまったので、あたしはプロデューサーさんに、ここ最近の事を話した。 「――ふーん、なるほど。確かに速水さん、あぁ見えて内心熱血してそうだもんな」 プロデューサーさんは、あたし達のことをさん付けで呼ぶ。 何か違和感あるわー。 「あたしの事はシューコって呼んでよ」 「ん? うーん、まぁ追々ね」 スカウトしてきたのはそっちのくせに、妙に距離感を保とうとするんだよねー。 「塩見さんは、今のままで全然良いと思うよ」 42:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/16(土) 11:17:10.65 :sXivYPE/0 「えっ?」 缶コーヒーをクッと傾け、天井を見上げながらホッと息をつくプロデューサーさん。 「俺も、同僚のプロデューサーさん達の仕事を見てると、何だかなーって思う時があってさ」 「ウチの会社、でかいだろ? だから、全部分業制なんだよ。 中小零細なら、レッスンから営業、仕事の調整まで全部やらされるんだろうけど、こういうトコだと兵隊の数にモノを言わせて、業務が細分化されるのさ」 プロデューサーさんは、面倒くさそうに手を振ってみせた。 「でもさぁ、今俺がいるチームの同僚さん達って皆、全部やろうとするんだよ。 レッスンの様子を直接見に行ってダメ出しもするし、営業も自分で回ってさ」 「プロデューサーさんとは全然違うんだね」 「あぁ。一件一件、クソ真面目に――俺、そういうの本当は良くないと思うんだよな」 「え、何で?」 やる気があって良いんじゃない、って思うけど? プロデューサーさんとは違ってさ。 「責任の境界線を明らかにするべき、って話さ。 トレーナーさんの仕事に首を突っ込むのは、トレーナーさんへの冒涜にもなりかねない」 プロデューサーさんは肩をすくめる。 「それに、余計なマネをして消耗して、本来果たすべき業務が疎かになったら本末転倒だろ?」 「分かんないか」 「手を抜きたい、って言ってるようにしか聞こえなーい」 「だよなぁ」 バツが悪そうに、プロデューサーさんはハハッと笑った。 43:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/16(土) 11:19:21.20 :sXivYPE/0 「まぁ、気を悪くしないでくれ。 俺の仕事は、担当アイドルの育成計画に関する企画立案と、仕事量やスケジュール管理、あと対外調整。 当たり前だが、自分の仕事はちゃんとやるさ」 よっこいしょ、とプロデューサーさんはベンチから腰を上げ、手を差し出した。 「ジュース、もう飲んだか?」 「ありがとう」 空になったコップを、あたしはプロデューサーさんに手渡す。 「つまり塩見さんも、塩見さんの仕事をすれば良いってこと。 城ヶ崎さんのバックダンサーをするなら、そのためのレッスンを淡々とこなせばいい」 「――だよねー♪」 何だか、ちょっと心が軽くなった。 ふーん。プロデューサーさん、結構気が合うやん? ガコン、とゴミ箱に捨てながら、思い出したようにプロデューサーさんは続ける。 「もちろん、速水さんや城ヶ崎さんの事を悪く言うつもりも無いぞ。 二人とも、先を見据えて技術を高めたいとか、そういう意識がたぶんあるんだろう」 「まして美嘉ちゃんはメインだし?」 「あぁ、そうだな」 44:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/16(土) 11:21:57.98 :sXivYPE/0 「でも、あたしまでそれに付き合う必要は無い、って事でいいんだよね?」 「そういう事だ。所詮仕事なんだし、いいんだよ適当で」 「アハハハ! プロデューサーさん、担当アイドルにそーいうの言っちゃっていいん?」 「怒られそうだから、他の人には内緒な。おっ――やべ、ミーティングの時間だ」 壁に掛けられた時計は、もう19時を回っている。 「こんな時間にミーティングをやるってのも非効率っつーか、前時代的だよなぁ。 大手のくせに――じゃあ、塩見さんもあんま夜更かしするなよ」 「ありがとー、プロデューサーさん♪」 プロデューサーさんは後ろ手に手を振りながら、いそいそとロビーの方へと歩いて行った。 だよねー、あたしは適当でいいんだよねー♪ 「私は、あの人を信用する気になれないわね」 帰り道、さっそくこの事を話したら、奏ちゃんは明らかに不愉快そうな顔をした。 あ――そういや内緒にするんだった。まいっか。 45:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/16(土) 11:24:36.29 :sXivYPE/0 「塩見っ」 「は、はいっ!?」 トレーナーさんは、腕組みをしながらジッとこちらを睨んでいる。 「――良くなっている。あとは、もう少し体を大きく使えるようになりなさい」 お、怒られるかと思った――。 プロデューサーさんと話をした翌日、少し気を抜いてレッスンしてたから。 「あ、えと、ありがとうございます」 「良い感じに力みが抜けている。何かあったのか?」 「んーいや、ちょっとですねー、アハハ」 手を抜けってプロデューサーさんに言われたなんて、さすがに言えないよね。 美嘉ちゃんは、両手を腰に乗せてどこか満足げに鼻を慣らした。 「周子ちゃん、いつも以上にリラックスしてるね。本番も近づいてきてるのに」 「まー、あたしは所詮バックダンサーだしー、って思ったらさ?」 「アハハッ★ ちょっとー、力は抜いても手は抜かないでよね?」 「ほーい、まっかせてーシューコちゃん自分の仕事はやるからさー」 奏ちゃんが顎に手を当てながら、すごく真剣な顔でこっちを見ている。 あたしをライバル視なんてしなくていいんだよ。奏ちゃんも美嘉ちゃんも。 あたしはあたしのやり方でやる。自分にとって無理なくやんのが一番でしょ。 46:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/16(土) 11:25:13.44 :sXivYPE/0 別にお仕事をナメていたワケじゃないよ。決して。 さすがにそこまであたしも自意識過剰じゃないし。 ただ――想定外だったよね、実際。 47:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/16(土) 11:27:32.04 :sXivYPE/0 イベント当日、あたしと奏ちゃんは一度事務所に集合して、プロデューサーさんの車に相乗りする。 美嘉ちゃんは地元なので、現地集合ということだった。 現地へ向かう車内、ふと隣に目をやると、脚を組み、頬杖をついて窓の外を眺める奏ちゃん。 珍しくアンニュイやん? 女優なのは変わらんけど。 「緊張してる?」 何も会話しないのもアレなので、当たり障りの無い話題を振ってみる。 「いいえ――楽しみよ」 奏ちゃんは、あたしにニコッと微笑んでみせた。 本心なのか強がりなのか、よく分からない。うーんポーカーフェイス。 「周子の方こそ、今日は――少し、覚悟した方が良いんじゃないかしら」 「覚悟?」 気合とか、そういうんじゃなくて、“覚悟”? 「何が起きるか、分からないものね。本番当日というのは」 「あぁ、うん」 ――――?? 48:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/16(土) 11:29:17.81 :sXivYPE/0 事件は正しく現場で起きた。 「城ヶ崎さんが来ていない?」 プロデューサーさんが聞くと、既に到着していた美嘉ちゃんの担当さんは気まずそうに呻いた。 「何でも、妹の莉嘉ちゃんが体調を崩したみたいでして。 親御さんがどちらも仕事で手が離せず、彼女が病院に連れて行っているんです」 「――そ、そうですかぁ」 い、いやいやプロデューサーさん! そうですかぁじゃなくない!? そりゃあ妹さんは心配だろうけど、どうすんのコレ。 ていうか、普通こういうのって事前にプロデューサーさんとかに知らせるもんじゃないん? あたし達にも連絡来てない。ちょいちょい――! イベント開始まで、もう1時間を切ってる。 「私達だけでやりましょう」 49:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/16(土) 11:31:01.92 :sXivYPE/0 「へっ――」 な、何言ってんの奏ちゃん? 「幸いにも、私達の出番はイベントの中でも最後の方。 たとえ付け焼き刃でも、『TOKIMEKIエスカレート』をモノに出来る時間はまだあるわ」 「そうですか? それはありがたい!」 急に顔がほころぶ美嘉ちゃんの担当さん。いや、いやいやいやっ! 「無理だって奏ちゃん! 確かに休憩中、お遊びで美嘉ちゃんの振り付けはマネしてたけど、ぶっつけでできっこないやん! ていうか今日のお客さん、あたし達じゃなくて美嘉ちゃんを見に来てんだよ?」 「だよなぁ」 「だよなぁじゃなくて! プロデューサーさんも何とか言おう!?」 このポンコツプロデューサー! 「珍しく弱腰ね、周子?」 「んん?」 奏ちゃんが、いつものようにフフッと笑ってみせる。 「与えられた役割を果たす――いつからか、あなたがしきりに言うようになった言葉よ。 あなたに出来ないというのなら、私一人でもやるわ」 50:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/16(土) 11:33:19.38 :sXivYPE/0 「聞いてた話と違うもん。約束が違うでしょうよ」 「じゃあ、周子は今日何もしないでこのまま帰るのね?」 「そ、そう言いたいワケじゃ――」 プロデューサーさんが、手を振りながら私達の間に入る。 「現場はナマモノだ。流動的に色々な事が起きるのはしょうがないし、今回は塩見さん達の責任じゃない。 何かあったら俺が主催者側に頭下げるし、その後の君達へのフォローもちゃんとするよ」 「アイドルの第一印象を左右する初舞台って、すっごく重要だと思うんですけど?」 「そこも含めて、俺がフォローするさ。できる限りね」 今日のプロデューサーさん、ヤケに押しが強いな。 「だからやれって?」 「ううん、帰っても構わない。どのみち俺が謝る事になるけど」 「も、もちろん僕も謝ります」 美嘉ちゃんの担当さんも、プロデューサーさんに加勢する。 これもう、遠回しに「いいからやれ」って囲ってるようなもんやん。 うぅ~~ん――! 「――はいはい。もうどうなっても知らないからね?」 とうとうあたしの心が折れた瞬間、奏ちゃんは意味ありげに彼と目配せをした。 ――気がした。 51:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/16(土) 11:38:54.43 :sXivYPE/0 あーあ、何でこんな事になっちゃったんだか。 まぁ、今度美嘉ちゃんに会ったら文句言ったろ。 あたしのせいじゃない。 よっしゃ、そう思ったら何か開き直ってきた――ダメな意味でだけどね、たぶん! 「ポジションは、私が左で良いわね?」 「どっちでもいーよ」 あたし達の出番は、イベント開始から大体30~40分後くらい。 地元出身の女性お笑い芸人さん――『川越マジカルティンカーリップス』つったっけ? その人達が場を暖めてくれた後、登場する事になってる。 長いコンビ名は人の頭に残らないから良くない、って何かで見たけどなぁ。 ってそんなんどうでもええわ! ギリギリまで練習しないと――あーマジカルほしいよー。時間が止まる系のマジカルー。 52:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/16(土) 11:41:14.74 :sXivYPE/0 んで、そのマジカルなんちゃらさん達は盛大に滑ってた。 そりゃあ、昼間っからこんな所でおムネがどうだのアッチの口だの、下ネタ連発されたら――ねぇ? あはは、ひどいなー。何がシリコンメガ盛りやねん。 奏ちゃん俯いちゃってるし。 「緊張してる?」 「えぇ、そうね」 これもたぶん、ポーカーフェイス。 奏ちゃん、ホントはウブやもんなー♪ 「何よ」 「んーや、奏ちゃん肝が据わってるから頼りになるわぁ」 「何だか嫌みっぽいわね」 「してるわよ――本当に、こんな緊張するものなんだって、思う」 冷え冷えの会場を、舞台袖から真っ直ぐに見つめる奏ちゃん。 よく見ると、膝が震えている。 「そうなんだ」 何だか悪い事、言っちゃったかな? 「じゃあ、あたしと同じだね。あたしもずっと、膝の震えが止まらないんだ」 53:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/16(土) 11:43:26.36 :sXivYPE/0 「そう」 「ま、こんな状況だし、成功しろってのが無理じゃない? 見てよアレ」 「ふふ――それもそうね」 マジカルさん達がでっかい重荷をあたし達に背負わせ、ステージから捌けていく。 「さて、それじゃーあたし達も一滑り、行ってきますか」 こうなりゃ野となれ山となれ、ってね! 「まさか、初ステージがこんな事になるなんて、思いもしなかったわ」 奏ちゃんが、憑きものが取れた笑いを浮かべたので、あたしも釣られて笑う。 プロデューサーさんがあたし達にサインを送る。 何その「あーあ、終わったな」って、夢も希望も無い顔! ちゃんと骨は拾ってよね! 司会者さんから何ともヒドい、向かい風たっぷりのコールを受け、あたし達は最悪のステージに飛び出した! 54:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/16(土) 11:45:19.09 :sXivYPE/0 「えー、どうもありがとうございました。 それではですね、え~お次はいよいよ皆さんお待ちかね――あ」 「す、すいません。あの~、城ヶ崎美嘉ちゃん。 美嘉ちゃんがですね、え~、あの~、ちょっと今日急遽、え~、来れなく、なっちゃったそうですね。 すみません、体調不良とのことで、え~」 「なのでですね、あの~、美嘉ちゃんの代わりに、じゃないですね。 代わりには失礼ですね。アハハ、あの~――」 「美嘉ちゃんと同じ346プロのアイドルさんである、このお二人にお越しいただいております。 ご紹介しましょう、城ヶ崎――」 「あっ? じゃない、何だこれ――えー失礼、リッ、プス? リップスさん、で良かったですかね?」 「リップスのお二人です、どうぞー!」 55:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/16(土) 11:47:05.82 :sXivYPE/0 【2】 (■) 初めてにしては上出来だ、なんていうのは、出来を評価する言葉として最低だ。 とあるアニメ映画の監督が、何かのドキュメンタリーで言った言葉。 自分の息子が作った映画の試写会を途中で抜けだし、カメラの前でぼやいたのを覚えている。 でも――。 自画自賛になるかも知れないけれど、私達のあのステージは、初めてにしてはかなり上出来だったんだと思う。 56:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/16(土) 11:48:58.55 :sXivYPE/0 なぜ、私達二人が『リップス』と、司会者からアナウンスされたのか? その理由は、会場に大きく手書きで掲示されたイベントの次第にあった。 書いた人が悪筆だったのもあって、芸人さん達のコンビ名のうち、後ろの『リップス』だけが、二段目に表記されていた。 そして、美嘉の不在により、私達のユニット名『城ヶ崎美嘉 with かなしゅー』が、『かなしゅー』すら残らず丸々二重線で消されたのだそう。 結果、私達の欄にやや食い込む形となっていた『リップス』を、司会者さんが私達のユニット名と勘違いし、そのままコールした。 愚者が揃えば事故になる、とはよく言ったものね。 ただ、考案者である周子には悪いけれど、私としては『かなしゅー』よりは好きかしら? 可愛いけれど、子どもっぽいもの。 さて、そうして舞台に上がった『リップス』の初ステージは――。 大方の予想を裏切り、非常な盛り上がりをもって、無事に幕を下ろした。 57:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/16(土) 11:50:49.63 :sXivYPE/0 「すごいな二人とも、良くやったぞ」 舞台袖、プロデューサーがいつになく驚いた様子で私達を出迎える。 「まさか、こんなに喜んでもらえるとは思わなかったわね」 努めて私は平静を装い、まずはプロデューサーと、次に周子の顔を見た。 「ふぅー! まぁ、曲に助けられたってカンジ? 有名だし、アップテンポでアゲやすいもんねー♪」 いつも飄々としているけれど、周子は冷静に物事の本質を見抜く力を持っている。 確かに、その通りね。おそらく今回の成功は、私達の力だけによるものではない。 「いやいや、そんな事は無いですよ。お二人の練習の成果です」 「まーそれと後は、美嘉ちゃんがドタキャンしてくれたおかげですかねー♪」 不測の事態が起きても、なんだかんだで器用に立ち回る。 私には、とてもできない。 私は、塩見周子に嫉妬している。 「お疲れー! すごかったよ二人とも、初めてのステージなんてウソでしょ!?」 58:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/16(土) 11:51:40.40 :sXivYPE/0 予定通り、美嘉が裏手からコッソリ入ってきた。 「えっ、え――美嘉ちゃん!?」 周子が信じられないといった様子で美嘉を見つめ、固まってしまう。 「アハハ、ごめんね? 後で謝るから、ちょっとアタシもお客さん達に挨拶してこなくちゃ★」 美嘉がステージに飛び出していくと、会場からはさらに大きな歓声が聞こえてきた。 「ちょ、えっ、ちょっ――何、えっ、どういう事?」 そろそろネタ晴らしをしなくちゃ。 さすがにこれ以上、周子を混乱させてしまうのは忍びないし、私は謝らなければならない。 「ごめんなさい、周子。実は――全部、私が仕組んだ事だったのよ」 「は?」 59:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/16(土) 11:54:34.31 :sXivYPE/0 きっかけは、プロデューサーとの話を機に、周子の意識が明らかに変わったのを確認した時だった。 与えられた役割に徹するというのは、確かに正解の一つかも知れない。 でもそれは、主体性や向上心を放棄する事に他ならず、アイドルを目指す者への愚弄ですらある。 私は、そう考える。 何より私を穏やかならぬ心にさせたのは、周子は高い水準であらゆる事をこなせてしまう点にあった。 いい加減な姿勢であるにも関わらず、だ。 負けたくなかった、でも――。 何より、それだけの才能を持っていながら、それを最大限発揮させないのは凡人への冒涜だわ。 発揮させないまま、凡人のままで終わってしまう事も。 ギャフンと言わせれば、周子の心にも火を付ける事が出来るだろうか? でも、私には――。 ――今度のイベントは、失敗したっていい。 あの時の、美嘉の言葉が思い出される。 あえて失敗、してみるのはどうだろう。 そう考えたのは、きっと愚かだったのでしょうね。 60:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/16(土) 11:57:25.89 :sXivYPE/0 「つまり」 周子が呆れたように深いため息を吐く。 「あたしを痛い目に遭わせようと、プロデューサーさん達ともグルになって仕組んだって事?」 「そうよ。あなた一人だけが恥を掻けば良いと思ったの。 私は、自主的にボーカルも、メインパートの振り付けも練習していたから」 「お、おいおい」 プロデューサーが何かフォローしようとするのを、私が目で制止する。 周子の才能を眠らせないため、などというのはただの飾りに過ぎない。 私は、周子を見返してやりたかっただけ。 次の瞬間、繰り出されるであろう周子からの罵倒を、私は待った。 「なーるほど。キツいジョークやね~、動機はお子ちゃまなのに」 「えっ?」 61:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/16(土) 12:01:47.50 :sXivYPE/0 周子はケラケラと笑った。 「でもま、そんなお子ちゃまみたいなドッキリのおかげで、いつも以上の踊りができたってのもあるかな?」 「随分、好意的に捉えてくれるのね」 「ううん、全然? 今度はあたしが、どんなドッキリを奏ちゃんにかましてやろうか楽しみやなーって」 意地の悪そうに周子が笑った時、美嘉がステージから戻ってきた。 「いやー会場がすっごく熱くてビックリ! あ、それでね、周子ちゃんあの――」 「あ、いーよいーよ美嘉ちゃん。さっき奏ちゃんから聞いたから」 「そうなんだ」 ポリポリと頭を掻く美嘉。 「あの、さ――ごめんね? 何も言わなくて」 「いいったら。それに、言ったらドッキリの意味無いやんな?」 美嘉が謝る事は無い。 美嘉もプロデューサー達も、私のくだらない提案に応じただけなのだから。 「あーあ、一仕事終えたらお腹すいちゃったなー。プロデューサーさん、あたし達に何かおごってよ」 「えぇ、そうだなぁ。せっかくの川越だし、どっか長屋の方の和菓子屋にでも行くか?」 「おっ? 和菓子屋の京娘を捕まえといてそれ行っちゃうー?」 本当に謝らなければならないはずの私が、周子に謝るタイミングを逸してしまっていた。 62:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/16(土) 12:03:50.40 :sXivYPE/0 城ヶ崎美嘉に比肩する大型新人ユニット、現る。 私達が出演したイベントの噂は、SNSを中心に若年層の間で瞬く間に広がっていった。 後で知ったのだけど、一部の観客が当日の様子を撮影し、動画サイトに無断でアップロードしたのだ。 当然、騒ぎに気づいた346プロ側の要請により一度は削除されるものの、様々な人の手ですぐにコピーが投稿される。 非公式と知らず、美嘉が自身のツイッターアカウントで紹介した動画リンクも、非常な加速度でリツイートされた。 「怒られたんちゃう? そちらさんのプロデューサーに」 あれだけ遠い存在と思っていた彼女と私達は、こうして度々一緒にお茶をする程度には親密になれた。 事務所の中庭にあるオープンカフェで、周子はニヤニヤしながら美嘉に尋ねる。 やはり、非公式動画を宣伝したのは、事務所的にもまずかったようだ。 「まぁ、あの動画が相当宣伝になった事も事実だし、もう上の人達も黙認してるっぽいけどね」 バツが悪そうに頬を掻く美嘉。 まだ美嘉には及ばないけれど、私と周子も、あの日以降目に見えてお仕事が増えた。 彼女のイベントに応援で呼ばれたりする事も多く、世間的には城ヶ崎美嘉とセットなのだろう。 改めて、今回の成功はやはり、美嘉のおかげなのだと感じさせられる。 63:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/16(土) 12:06:32.88 :sXivYPE/0 「アタシのおかげ? いやいや、何言ってんの。二人が頑張ったからだよ」 今度は、美嘉が私に対して意地の悪い表情を浮かべた。 「奏ちゃんが仕組んだイタズラのせいでもあるだろうしね★」 「あー奏ちゃ~ん、その節はどーもー♪」 周子が頬杖をつき、今度はこっちを見る。 「勝手に動画を撮った奇特なファンにも、感謝をしなくちゃね」 矛先を躱しつつ、私はカップを口元に寄せて誤魔化す。 「もー奏ちゃんったら照れちゃって。あっ――ゴメン、そろそろアタシ行くね?」 ティーン誌のグラビア撮影のお仕事があるのだそう。 美嘉が慌てて席を立つ。 「また、一緒にお仕事出来たらいいねっ★」 「次はあたしがドタキャンするんで、奏ちゃんと美嘉ちゃんよろしくね」 「もーやめようよー。アハハ、それじゃバイバーイ♪」 64:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/16(土) 12:09:13.93 :sXivYPE/0 鞄を肩に掛け、颯爽と事務所の本棟へと向かう美嘉の後ろ姿を、周子はジッと見つめる。 「うーむ、やっぱりな」 「何が?」 右手の親指と人差し指を顎に掛け、周子は目を光らせる。 「バスト80はダウトやな。あたしよりでかいもん絶対」 「ぶっ」 「何で逆サバ読むんかなぁ。ってあれ、奏ちゃん大丈夫?」 「急に変な事言わないで」 周子は時々こうして変な事を話すから、ついていけないわ。 笑いながら、周子は私の背中をさすった。 「ごめんごめん。心配しないで、たぶん奏ちゃんの方がでかいから」 「そうじゃないわよ」 周子と不毛な小競り合いを繰り広げていた時、プロデューサーからの電話が鳴った。 65:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/16(土) 12:11:12.39 :sXivYPE/0 「新ユニット?」 事務室へと呼ばれ、彼の口から聞かされたのは、8月末頃に開催されるサマーフェスの事だった。 「たぶん知ってると思うけど、ウチの所属アイドル総出で行う一大イベントだ。 で、城ヶ崎さんのプロデューサーさんから今、提案を受けているんだけどさ――」 「ひょっとして、美嘉と私達が、正式にトリオユニットを組むということ?」 「お、そうそう。よく分かったな」 そこまで話されれば、普通誰でも分かると思うのだけれど――。 「鋭いなー奏ちゃん! 何で分かったん?」 そうでもないのかしら。 いや――周子の場合、今の発言は嫌味とも考えられるわね。 「いっそ本当にユニットになった方が、君達の話題性をさらに引き立てる上でも良いだろう。 そう、あの人とも話してきた所なんだ」 「へぇー、とうとう美嘉ちゃんとかー」 “とうとう”、“満を持して”、“待望の”――。 しばしば関連性を取り沙汰された私達だけに、宣伝文句にも困らないだろう。 話題をさらうタイミングとしては絶好ね。 そして、何よりサマーフェスは――。 「トップアイドルへ至る切符の、事務所内での選抜戦――だったわよね?」 66:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/16(土) 12:25:46.40 :sXivYPE/0 「さすが、速水さんはよく研究しているな」 サマーフェスは、346プロが配信する公式のテレビチャンネルだけでなく、大手動画投稿サイト内にも特設ページが設けられ、一部始終が生放送される。 実際に現地でフェスを観賞する人達だけでなく、テレビやパソコンで視聴する人達も、データ放送や動画サイトの機能により、気に入ったアイドルに投票する事ができるのだ。 フェスの参加者や、公式チャンネル登録者による票の方が、ポイントは高いそうだけど――まぁ、それはそれとして。 投票する制度があるのは、もちろん、勝敗を明らかにするため。 年に一度、その年の最も輝かしいアイドルを決める一大フェス、『アイドル・アメイジング』。 その大会への出場者を決める、346プロ内での選抜戦が、サマーフェスということ。 「つまり、事実上の決勝戦って事?」 「えっ?」 気を引き締め直した私を尻目に、周子が思いもよらぬ一言を口にする。 「だって、ウチって一応最大手の芸能事務所なんでしょ? 同じ事務所で何組までしか出られんのか知らないけど、このサマーフェスがウチらにとって一番競争激しいんじゃないの?」 67:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/16(土) 12:28:05.17 :sXivYPE/0 「ぶっちゃけ俺もそう思うけどね」 「ぷ、プロデューサー!?」 そういう気の抜いた事、言って良いの? 「あぁ悪い悪い。もちろん、油断しちゃダメだぞ。 例えば、高垣楓さん。あの人のように、毎年ウチの代表候補に名を連ねる実力者もいるしな」 モデル出身の美貌に加え、美麗な歌声によるステージパフォーマンスの評価も随一。 楓さんは、私の到達目標の一つでもある。そして、アイドル・アメイジングへの切符は一枚だけ。 サマーフェスで、彼女に勝つのは容易な事ではないけれど、目指すからには避けられない。 「ただ、他の事務所にだって、彗星のごとく現れる大型新人アイドルってのも、無い訳じゃないらしいからな。 勝って兜の何とやらで、一つ一つの目標に誠実に取り組む事が大事だとは思うぞ」 「でも、ぶっちゃけちゃうと?」 「まぁサマーフェスさえパスすりゃほぼほぼかと」 「プロデューサー! 周子も乗せちゃダメでしょう」 冗談だよ、なんて周子と笑うプロデューサー。いつの間にこんなウマが合うようになったのかしら。 大体、サマーフェスで優勝する事さえ果てしなく難しいというのに。 やはり、私はあまりこの人の事を信用できないと思う。 その疑念が生まれつつあった頃の事――。 68:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/16(土) 12:36:05.84 :sXivYPE/0 私の目の前で、ガチャンッ、と落とされた携帯。 ショートボブのブロンドに負けず劣らぬ、ギョロリと一際主張する碧眼。 およそ日本人離れした顔立ちの下は、白とベージュのニットセーターと、片手に下げたのは蛍光ピンクのハンドバック。 黒のショートパンツからスラリと伸びた足先には、どことなく道化を思わせる山吹色のブーツ。 あの状況では、仕方が無かった――頭では分かっていても、自問するしかない。 「あの――携帯、落としましたよ」 なぜ、声を掛けてしまったのか。 「えっ? あっホントだー♪ ありがとーメルシーボンボヤーしるぶぷれー☆」 「――メルシー・ボクー、ではなくて?」 忘れもしない、私と宮本フレデリカとの出会いである。 69:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/16(土) 12:38:24.40 :sXivYPE/0 「アタシあまりケータイって苦手でさー? 友達からも未だにガラケー使ってんの、チョーバカにされちゃうの☆ アハハ、面白い? アタシは面白いなー、だってねー見てよ、もうハゲ過ぎて元の色わかんないし♪」 朝、仕事や通学のため激しく行き交う駅のコンコースのど真ん中で、曰く“命の恩人”たる私に、彼女はまるで発情期を迎えたハチドリのようにまくし立てた。 「命と同じくらい大事なものなら、落とさないようもっと気をつけるべきではないかしら」 低血圧の私には、朝からこのテンションはキツい。 思わず、少し嫌みたらしく言ってしまったけれど、彼女は全く意に介する素振りも見せず、 「だよねー? 管理体制ずさんー、もっと無くさない所に入れとくべきだよねー♪ あなたのケータイはどこから? アタシは鼻から」 「ぶふっ」 「うっそーん☆ あ、そういや女の人が赤ちゃん産む時って、鼻からスイカを捻り出すのと同じくらい痛くて大変だって言うけど、昔はそうして鼻からスイカ出す人もいたのかな? 想像できないよね、だってフレちゃんやった事無いもん。うどんですら無いし。あっゴメンゴメン、さすがに今日はガッコー行かなきゃ。 鼻水出てるからちゃんとティッシュでお鼻チンした方がいいよー、フレちゃんの鼻セレブ一枚あげるね? じゃーねーアデュー♪」 名前は“フレちゃん”というらしい。 くどいほどに彼女のキャラクターを理解できた朝の数分間だった。 鼻をかみながら、私は次の日から電車を一本早める事を強く決意する。 二度と彼女に会ってはならない。 71:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/16(土) 12:40:54.58 :sXivYPE/0 そういう時に限って、再会は思いのほか早く訪れるものね。 「あ、また会ったー! 今朝はケータイありがとー、鼻水大丈夫? ちゃんとお鼻チンした?」 その日の夕方、学校帰りに立ち寄った事務所で――なぜなの。 納得のいく説明をしてほしいわね、プロデューサー? 「俺がスカウトしたんじゃなくて、チーフが「面白い子見つけた」って俺によこしたんだよ」 応接室のソファーで一人鼻唄を歌う彼女から少し離れ、背を向けながら、プロデューサーは私に小声で釈明した。 「俺はもういっぱいいっぱいだ、って言ったのに、チーフは「絶対速水さん達と相性良いはずだから」って聞かなくてさ。勝手だよなぁ」 「ところで、速水さん、鼻水がどうかしたのか?」 「どうでもいいわよ、そんな事」 応接室の様子をチラと見る。 彼女は、そこに置きっぱなしだった私のリップクリームを勝手に使っていた。 「どうするの、彼女」 「上司の意向には従わざるを得ない――ってあぁちょっと宮本さん! 契約書に落書きしちゃダメだって!」 デザイナー志望の短大生で19歳、とのこと。 とても年上とは思えない。なんて子どもっぽいのかしら。 プロデューサーの上司――チーフとかいう人、お世辞にも人を見る目があるとは思えないわね。 72:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/16(土) 12:42:42.15 :sXivYPE/0 「カナデちゃん歌すっごい上手ー! アレだっけ、毎朝腹筋してるんだっけ。ちょっとショウミーしるぶぷれー?」 「ちょ、な、何を――!」 「ワァォ、ぷにぷにー☆ 天使の耳たぶだねー、バナナで釘が打てるレベルだよー! 皆も触ろ触ろー♪」 「や、やめなさい! そもそも耳たぶなのかバナナな、あ、こら――!」 「腹筋職人☆カナデリカ」 「ミカちゃんの髪、よく見るとすんごい色だねー☆ アバンギャルドだねー、でもすごいきゅーてぃこー☆」 「コレねー、結構手入れ大変でさー。でも、フレちゃんもだいぶ明るくない?」 「あたしのは天然なんだー♪ おフランス産の超極細毛、クリアクリンだよー☆」 「な、なんか違くないそれ!?」 「あれ、タムチ○キパウダースプレーだっけ?」 「もっと違うし、何でそこを隠すの!」 73:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/16(土) 12:44:06.02 :sXivYPE/0 「シューコちゃんシューコちゃん」 「なーに、フレちゃん?」 「呼んでみただけー♪」 「ダンスレッスン中なんやけどなー♪」 「ねー、トレーナーさんねー♪」 「どうやら先ほどのゲンコツでは物足りないようだな、宮本?」 「アハハー、堪忍☆」 彼女を本気で叱責する者は誰もいなかった。 甲斐性無しのプロデューサーだけでなく、厳格なトレーナー達でさえ、である。 フレデリカの言動には、趣旨も裏表もまるで無い。 およそ理解を超えた適当さ加減に、怒りよりも呆れが伴ってしまう。 いいえ――なぜか、どうしても不快な思いになる事が出来ないのだ。 おそらく天然なのだけれど、上手に距離感を保ち、心地良いタイミングで私達に悪戯をしているようにも思える。 まるで底が知れない。 しかし、激動は立て続けに私達を襲う。 74:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/16(土) 12:45:26.64 :sXivYPE/0 フレデリカと付き合う中で、地味に困ったのが連絡手段。 彼女は携帯に頓着が無かった。 スマホユーザーでは無いどころか、唯一持っているガラケーをすぐに紛失するのだ。 無断遅刻や欠席こそ無いものの、有事に連絡を取れない状況に痺れを切らした私と美嘉は、ある日フレデリカを携帯ショップに連れて行く事にした。 周子もついて来たのは、彼女曰く「面白そうだから」。 「まーさすがに同じユニット組むんだし、LINEのIDくらい交換したいやんな」 「ラインってなーに?」 「うーん、チャットみたいなもん、かな? フレちゃんも気に入ると思うよ★」 使用料の全額を事務所の経費で落とす事は、さすがに難しかったそう。 活動に必要な備品という名目で、機器代だけでも肩代わりできた事については、プロデューサーを評価するべきかしら。 75:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/16(土) 12:47:48.49 :sXivYPE/0 「――よしっと、初期設定はこんなカンジかな★ 使い方は、フレちゃんならそのうちに慣れてくると思うよ」 「わぁい、やったーミカちゃん! あれ、ボタン無くない?」 不思議そうに手の中にあるスマホを眺める。 本当に初めてなのね。 「それがスマホっていうものよ、フレデリカ」 「この、LINEってヤツを押して――ほら、あたし達のグループに招待されとるから、承諾すると入れるよー♪」 「へぇー、ありがとー♪ いやー持つべきものは精密機械に強い現代人と和菓子屋の娘だねー」 「和菓子要素ゼロやん」 その日以降、味を占めたフレデリカから無意味なスタンプが四六時中グループに連投されるようになり、私達は別の意味で頭を悩ませる事になる。 グループ名は、仮で“リップス”としておいた。 あの日の私と周子のユニット名だ。 その足で、四人で事務所に立ち寄った時だった。 ヒョコヒョコと、プロデューサーの後について事務所に入って来る女の子が目に入った。 「ほら、事務所も見れたからもういいだろ。さっさとお家に帰りなさい」 「まぁまぁそう言わないでよ。もうちょっとだけキミの構成要素を観察~♪」 76:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/16(土) 12:52:44.06 :sXivYPE/0 迷惑そうに手を振るプロデューサーの元を離れ、思いついたかのようにロビーの中央へと走る。 そして彼女は天井を見上げ、スゥーッと深呼吸を始めた。 「う~ん、さすが芸能事務所なだけあって、ユニークな香りがいっぱいだねー。 自信と戸惑い、不安と希望。さっきのキミの言葉を借りるなら、まだ見ぬ自分との出会いを夢見る期待感ー?」 「そんな事言ってないぞ、俺」 「えー言ってたでしょー、ボイレコ録ったけど聞く?」 「い、いつの間に――!?」 「貴重な研究対象は具に観察してデータ採らないとねー、にゃははー♪」 「あ、皆。ちょっとこの子、どうにかしてくれないか?」 私達に気づいたプロデューサーが、助けを求めるようにこちらへ手を振った。 背を向けていた彼女も、クルッと私達の方へ向き直る。 「――おぉ~~。あれがキミの、えーと担当? の子達だねー♪」 紫色を帯びた、無造作にウェーブがかった長髪。 その隙間から覗かせる丸い瞳に煌く、まるで獲物を見つけた猫のような好奇の碧い輝き。 彼女がある種の快楽主義者である事を直感的に察したのは、その無防備なシャツの着こなし方から。 これは強敵ね、どう接するべきかしら。そう思っているうちに――。 前に出たのは、フレデリカだった。 「初めまして――私、宮本、フレデリカと申します」 77:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/16(土) 12:54:50.39 :sXivYPE/0 「まぁ――初めまして、宮本さん。一ノ瀬、志希です」 「一ノ瀬さん――とても、素敵な名前ですね」 「ありがとうございます。そういう、宮本さんも」 ――えっ、普段のあなたはどこへ行ったの? 「今日は、一ノ瀬さんは、どちらからいらしたのですか?」 「私、実は先日――某国より、日本に参ったばかりなのです」 「まぁ、はるばる自転車で?」 「いいえ――私の研究を悪用しようとする組織から逃れるため、秘密裏に」 「研究――それはつまり、自転車に関するものを?」 「詳しくは言えないのですが――世界を揺るがしかねない真実を闇に葬るべく、彼らも必死に私を追っているのです」 「自転車に乗って」 「えぇ――ママチャリで」 「――ブフッ!!」 「ふふ、アハハハハハハッ! さ、最後の最後でママチャリ認めちゃうんだー☆」 「そ、そっちこそ、何で自転車押し――うっふ、にゃははははー!」 宮本フレデリカと一ノ瀬志希は、予め申し合わせていたとしか思えない茶番を、私達の前で披露してみせたのだ。 78:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/16(土) 12:56:43.09 :sXivYPE/0 「しょ、初対面だよな?」 プロデューサーだけでなく、私達も開いた口が塞がらない。 「あ、シキちゃんラインやろーよライン! 知ってる、ライン?」 「おぉー、フレちゃんさてはスマホビギナーだね?」 「ワォ、何でバレちゃった?」 「画面を人差し指でぎこちなくタップしてるからー♪」 二人は既に意気投合している。 結局、フレデリカは彼女に自分の携帯を手渡し、LINEの操作を委ねた。 「んー? ひょっとして、シキちゃんもフレちゃん達とトゥギャザーしちゃうカンジ?」 そうフレデリカに聞かれると、プロデューサーはすぐに顔の前で手を振った。 「いや、この子が勝手について来たんだ。さっきから全然言う事聞いてくれなくてさ」 「つれない事言わないでよ~ミスター? 下品なナンパ集団からあたしを守ってくれたじゃん」 「俺に感謝する気があるなら、あまり俺を困らせてほしくないんだけど」 「この子の事、スカウトしたワケじゃなかったんだね――ってうるさいなもう」 グループに入った志希への、フレデリカによる歓迎スタンプの連投に、美嘉が渋々携帯を取り出す。 79:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/16(土) 13:00:19.15 :sXivYPE/0 「お、キミはなんて言うんだっけ? わっちゅあねーむ」 「えっ――速水奏よ。英語が堪能なのね、一ノ瀬さんは」 「志希ちゃんでいーよー。アッチでは英語だったからねー♪」 海外から来たばかりというのは、本当だったのね。 「ほんじゃ、あたしもシューコちゃんって呼んでよ。 せっかく来たんだし、事務室でお茶でもしてったらどうー?」 「お、いい? お邪魔しても」 「邪魔するなら帰ってやー、なんてねウソウソ。プロデューサーさん、いいでしょ?」 周子とも相性は良いようね。フレデリカとの様子を見て、察しはついたけれど。 ただ――。 「いーや、帰ってくれ。チーフに会わせたら絶対良くない事を言うから」 「チーフって誰?」 「俺の先輩、っていうか上司」 プロデューサーは、彼女の事をあまり快く思っていないようだった。 「あ、そういやあたし達もチーフさんって人、会った事無いっけ、奏ちゃん?」 ふと周子が私に問いかけた。確かに――。 「いや、あるよ?」 美嘉が不思議そうに首を傾げる。 「あれ、言わなかったっけ? まぁ行きゃ分かると思うけどね」 「んじゃー皆で挨拶しに行こっか☆ ラインも交換しないとだよね?」 「――勘弁してくれ」 フレデリカの一言に、プロデューサーはすっかり頭を抱えている。 80:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/16(土) 13:03:38.04 :sXivYPE/0 プロデューサーのデスクがあるという事務室には、彼の他に3人のプロデューサーがいた。 童顔で私よりも身長が低いコロコロとした人と、まるでヤクザのようにガラの悪い金髪の人。 そして――。 「初めまして。346プロへようこそ」 ウェーブがかった、少し長い黒髪。 芸能関係者というよりは、家庭教師でもしていそうな穏やかで優しい印象を与える顔。 この人、見たことがある――初めてのライブ会場で会った、美嘉のプロデューサーだ。 チーフプロデューサーという人は、理知的な印象を与える所作でもって私達を出迎えた。 「今日は、彼にスカウトされて来たのかい?」 「イエース、そうですそうですー♪ Nice to meet you, Mr.?」 先ほどまでだらしなく着崩していた服を丁寧に締め直していた志希は、ひょうきんなサラリーマンのように腰を曲げ、右手を差し出した。 「ほぅ、一ノ瀬さんはとても愉快な子だね」 「彼も私の気質を褒めてくれました。日本人離れした感覚は、他のアイドルには無い武器だって」 「宮本さんも、陽気で茶目っ気のある気質はフランス由来だろうしね。僕もそう思いますよ」 巧みにチーフを懐柔する志希に対し、プロデューサーは眉間に皺を寄せっぱなし。 ある意味、こんなに感情を露わにするのを見たのは初めてかしら。 「あのですね、チーフ――」 「私見ですが彼女達、非常に良いと思いますよ」 しかめっ面のプロデューサーとは対照的に、チーフはにこやかに返した。 「この5人で、ユニットを組ませてみてはいかがでしょうか?」 81:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/16(土) 13:18:26.50 :sXivYPE/0 「えっ、志希ちゃんあたしんちの隣!?」 「へぇー、そうなんだー。じゃあ今日は周子ちゃんちに泊まっちゃおっかなー♪」 「隣同士なのに泊まる意味ー♪」 「せっかくだからフレちゃんも行っていいー?」 「せっかくの意味ー♪」 まるで漫才のようなやりとりをする周子達の後ろを、私と美嘉が続いて歩く。 「急に、随分賑やかなユニットになっちゃったね」 楽しそうに眺めながら、美嘉が独り言のように漏らす。 「そうね」 気の無い返事と、あなたは言うでしょうね、きっと。 「奏ちゃんはさ――不安とか、ある?」 「えっ?」 美嘉は、笑っている――自信に満ちた“カリスマギャル”のそれとはかけ離れた、少し物憂げな表情で。 「アタシは――ちょっと、不安だな」 82:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/16(土) 13:20:42.59 :sXivYPE/0 「えぇ、そうでしょうね」 それはそうだろうと、私は思った。 周子だけでなく、こんないい加減そうな子達と一緒にユニットを組む事になるなんて。 私でさえ、どうなるものかと不安よ。 「既に確固たる地位と実力を持っている美嘉だもの。 自分にふさわしいメンバーなのかどうか、不安に思わないはずは無いわよね」 「ううん、そうじゃなくて」 「えっ?」 ハハッ、と美嘉は笑いながら、夜空を見上げた。 「アタシが、皆に置いて行かれないかが、不安なんだ」 83:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/16(土) 13:21:38.79 :sXivYPE/0 「――謙遜しているつもり?」 それとも嫌みかしら。 「本気でそう思ってるよ。あの三人にも――もちろん、奏ちゃんにも」 彼女の言葉の真意が分からない。 掘り下げようか迷ったけれど、深く追求するのはやめておくわ。 どうせ私には理解し得ないもの。 「奏ちゃんこそ、ふふ――あのコ達が自分にふさわしいか、不安?」 いつもの顔に戻った美嘉が、今度は私に問いかける。 「えぇ、そうね」 そこは隠す必要は無いでしょう。 84:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/16(土) 13:23:29.43 :sXivYPE/0 「何せ、自分とユニットを組む周子ちゃんに、発破を掛けるくらいだもんね」 「いけない事かしら」 「お、本音出たカンジ?」 ――私としたことが、つい乗せられてしまったようね。 「アハハ。うーんとね、アタシは奏ちゃんのそういうトコ、イイと思うよ。 高めるためにやんなきゃいけない事は、同じメンバーにも頑張ってもらわないとね★」 「プロデューサーにも、かしら」 私がそう言うと、美嘉は「あぁ~」とため息交じりに少し大きな声を漏らし、両手を頭の後ろで組んだ。 「そうだよねー、あの人、ちゃんとアタシ達のために働いてくれるのかなぁ」 「期待はできないわね。 ただでさえ必要以上のやる気を出さない人だけれど、あの二人の加入には最後まで後ろ向きみたいだったもの」 「あっ、やっぱ普段からやる気無いカンジなんだ」 「でもさ? 何であの人、フレデリカちゃんと志希ちゃんを入れる事に、あんな反対っぽかったんだろうね」 人差し指を口元に寄せ、美嘉は虚空を見上げる。 85:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/16(土) 13:26:09.41 :sXivYPE/0 「単に、あの二人が見るからに問題児だからでしょう」 手に負えない子達の世話なんて、誰も進んでやりたがらない。 何か、ゲームでもしているのかしら。 フレデリカが両手を合わせ、上に突き出しているのを見計らい、周子と志希も同じくそれに続いている。 何がおかしいのか分からないけれど、それで三人は大声で笑い合っているのだ。 「あ、アハハ――まぁ、アタシもさ、ほら、たぶん前のプロデューサーを困らせてた時あったし」 美嘉が、ポリポリと頬を指で掻く。 えっ――“前の”プロデューサー? 「あぁ、言わなかったっけ? アタシ、正式に担当が変わったんだ。 あの人も、今のプロデューサーさんとしっかりやれよ、って送り出してくれて」 そうだったのね。 「だから、これからはこのユニットでの活動をメインに――あれ?」 右手をギュッと振り上げていた美嘉が、はたと立ち止まる。 「そういやさ――アタシ達のユニット名、何だっけ?」 86:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/16(土) 13:28:35.44 :sXivYPE/0 「リップスじゃ駄目なのか?」 事務所1階のラウンジは、今日も朝から大勢の人が来ている。 プロデューサーと担当アイドルによるミーティング。 外部の業者さんとの軽い打合せ。 昼過ぎになると、体験コース入会前の、見学会の参加者達による意見交流が行われる事もある。 もちろん、アイドル同士の憩いの場でもあるのだけど、実際はほとんど仕事で使われる事が多い。 今日の私達のように。 「あたし的にはちょっとイヤかなー。だってさー?」 プロデューサーの言葉に異を唱える周子が携帯を操作し、私達に画面を見せる。 「ゲームの敵キャラに、こういうのおったやん」 見ると、ナメクジのような、やたらと唇の分厚いモンスターが表示されている。 「うえぇぇ、き、キモ――」 その醜悪な外見に、思わず美嘉の顔が引きつる。 「でしょー? これ連想されたらあたし達かなわんでしょうよ」 「うーん、確かにちょっと強烈なビジュアルだねー」 興味津々に画面を覗き込んだのは志希だ。 「でも、名前自体はそんなに悪くないんじゃないかなーと志希ちゃんは思いまーす♪」 87:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/16(土) 13:39:40.21 :sXivYPE/0 「おぉーっ? シキちゃんその心は?」 フレデリカが志希に熱いまなざしを寄せる。 「口ってさ、物を食べたり飲んだり、声を出したりさえできれば基本的に生きていけるじゃない? もちろん、それらの補助的な役割は果たすけど、唇が無くても極論言うとそれは達成できちゃうんだよねー」 志希がストローを口元で振り回すと、ジュースの水滴が少し飛んだ。 「あっ、ごめんね奏ちゃん」 「いいえ。それで?」 「うん。それでね、じゃあ何で唇という部位は生物に存在するのか?」 ムフッ、といやらしい笑みを浮かべる志希。 「それは、種の保存のため。もっと言うと、異性を魅了するためにあるって話だよね。 魅力的な表情や声を作り出すために精密な運動をしたり、キスして愛を確かめ合ったり、なーんてさ。 特出した進化を遂げた経緯を考えれば、唇の名を冠するこのモンスターは、ある意味“生”の象徴とも言えるのではないかにゃ?」 「な、なるほど――」 身を乗り出すように両肘をテーブルの上に乗せ、妙に納得してしまっている美嘉。 創造上の、それもゲームのキャラクターへの、どこまで本気か分からないような彼女の考察に、何をそこまで真面目に――。 と思っていたら、周子も感嘆の声を上げた。 「ほぉー、つまりアレや、“性”の象徴的な?」 「にゃははーっ♪ まぁ生物学はアタシの専門じゃないから色々違ってると思うけどねー♪」 何ソレ、と呆れたように同調した周子と志希は笑い合う。 88:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/16(土) 13:42:52.27 :sXivYPE/0 「フーンなるほどー、それだと唇がすんごいキレイなカナデちゃんは超強そうだねー☆」 「はぁっ!?」 フレデリカが突拍子も無い事を言うと、皆が一斉に私へと顔を向けた。 「いや~、奏ちゃんそう言われれば――」 「あーホンマやねー。唇のエロさ的には奏ちゃんだわー」 「なるほどにゃー。奏ちゃんから漂うストイックな香りは、まさしく生への執着」 「カナデちゃんこの間リップクリームありがとー♪」 「い、いい加減にして! ちょっと、プロデューサーも何とか言ってよ!」 堪りかねて、先ほどから黙って会話を見守っていたプロデューサーに助けを求めると――。 「じゃあ、速水さんが『リップス』のリーダーって事でいいのかな?」 「ちょっと!!」 事務的にノートにペンを走らせる彼は、どこか面倒くさそうでさえあった。 カタカナじゃなく、ローマ字表記の『LIPPS』にして、と周子が提案していたけれど、そんなのどうだっていいわよ。 私がリーダー、何で――。 89:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/16(土) 13:45:01.89 :sXivYPE/0 サマーフェス本番までは、あと約2ヶ月半。 曲のサンプルが出来上がるまでの約1ヶ月は基礎レッスンに打ち込み、その後は本格的な曲合わせと、ユニットと曲の宣伝を兼ねたイベント出演を行っていく、という事だった。 およそ三週間程度、一緒にレッスンを行ってきた中での、私の個人的な感想は――。 美嘉はもちろん、申し分無し。 自分だけでなく、周囲にも的確なアドバイスをしてユニットの下地を支えるキーマンでありエース。 ついて行くのが不安だと彼女は言っていたけれど、たぶん実力という意味では無かったでしょうね。 他の問題児達のテンションに、という意図だと捉えるべきだわ。 周子は、相変わらずのマイペース。 トレーナーや美嘉から指摘されればすぐに修正するだけの器用さは、さすがと言ったところ。 でも、決してそれ以上の力を発揮する事は無い。 まぁ、それは想定通り。 やはり問題は、この二人。 90:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/16(土) 13:47:23.67 :sXivYPE/0 「一ノ瀬っ! 何をしている、配置につきなさい!」 トレーナーが私達に檄を飛ばさない日は無いけれど、彼女へのそれは毎度際立っている。 「えー? もういいじゃん、十分頑張ったよアタシー」 「君一人の問題ではない。ユニットとしての士気が下がると言っている」 「にゃははーっ。トレーナーさんそれダジャレ? ゆーあーきでぃんぐみー」 「なっ――い、いいから早くしろっ!!」 私の見立てでは、彼女の実力は、おそらく周子のそれを遙かに上回るほどに高い。 一度見ただけの振り付けを、ほぼ止まらずに一度目で踊りきるなんて、並大抵の事ではない。 ギフテッドというのは、どうやら眉唾ものではなさそうね。 問題は、彼女のその絶望的な集中力の無さ。 興味が3分以上持続しないとは彼女自身の弁で、こうしてトレーナーを困らせる事は日常茶飯事だ。 酷い時は、無断欠勤だけでなく、休憩中どこかに行ったまま帰ってこない事もある。 そうした“失踪”は、ある種志希の特性として私達も認識しつつあった。 「プロデューサーってヒトが気になったから入ったんだけど、アイドルって大変なんだねー」 そう言いながら、キレ味鋭いステップを渋々踏んでみせる彼女には、ある種の恐怖すら感じてしまう。 91:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/16(土) 13:48:53.60 :sXivYPE/0 「わぁーっ! シキちゃんすっごい上手ー、フレちゃんにもテルミー♪」 私達の中でも一際賑やかな声――フレデリカに至っては、ある意味では志希以上に常軌を逸している。 何せ彼女は、これまで一度足りとも、トレーナーの指示通りにレッスンをやり通した事が無いのだ。 ダンスも、ボーカルも。 法則性は皆無だけれど、その時が来ると決まって彼女は――。 「宮本っ! まーたお前は、勝手にアレンジを加えるなぁ!」 「ンー? あっそっかーこっち来てこう来て、ルンッ☆ だっけ?」 「違うっ! 軸足を機転に3、4でステップ、ターンだ!」 「軸足ってご飯を持つ方?」 「~~~~っ!!」 その場のノリや感性で、勝手に内容を変えてしまう。 差し詰め、テストで100点を取るけれど授業態度は最低なのが志希であるとするなら、数学の答案用紙にカレーの作り方を書くのがフレデリカ、といった所かしら。 92:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/16(土) 13:50:20.77 :sXivYPE/0 「さすが、デザイナー志望なだけあってユニークな感性をお持ちやねーフレちゃんは」 皮肉なのか本音なのか分からない感想を周子が漏らす。 フレデリカや志希が怒られている間は休憩できるから助かる、とも以前言っていた。 「笑ってばかりもいられないわ。じきにサンプルが出来上がって、イベントも近づいてくる頃よ」 「そんなにすぐだっけ?」 「ウカウカしてると、時間って結構あっという間に過ぎちゃうからねー。経験則だけどさ」 腕組みをしながら、美嘉がトレーナーに怒られる二人を見つめる。 「まっ。失敗しなきゃあの二人も分かんないかも、ね」 「なるほど、それや」 周子が手をポンッと叩く。 「イベントで失敗して痛い目見るとか、アクシデント抱えてテンパるとか――不測の事態が起きれば、あの二人も本気になるんやない?」 そう言って、周子は親指で自分の胸元を差し、ニッと笑った。 「ほら、いつぞやのこのシューコちゃんのように」 93:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/16(土) 13:51:16.16 :sXivYPE/0 「あっ、なるほどねー★ 火事場の馬鹿力、ってヤツ? ていうか周子ちゃん、やっぱ本気じゃなかったんじゃん」 腰に手を当て、呆れたようにため息を吐く美嘉に、周子は笑いながら手を振る。 「あたしは、いざって時はちゃんとするよってだけ。まぁそれはともかく」 「今度のイベントはさ――あたし達があの二人に、ドッキリをかましてみるの、どう?」 私と美嘉の顔を交互に見ながら、周子が口元に手を添え、小声で私達に提案してみせた。 片や、ルールに従えば最強の天才。 片や、ルールという概念がすっぽり抜け落ちているある種の天才。 どちらも恐れを知らない、『LIPPS』きっての問題児。 あの二人が機能しなくては、このユニットの成功は為し得ない。 「底力を、見せてもらわないとね」 私に断る理由など無かった。もちろん、美嘉も。 94:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/16(土) 13:52:36.80 :sXivYPE/0 サンプルが出来上がり、レッスンが本格化しても私達は相変わらずだった。 私も、さすがに何度か注意しようと思ったけれど、この先に行われる“ジョーク”を思うと、余計な事はしない方が良い。 私達の計画はこうだった。 フェス本番を一ヶ月後に控える、とあるCDショップでの販促イベント当日。 そこで私達『LIPPS』の新曲、『Tulip』が披露される事になる。 志希とフレデリカには、業界関係者のみ出席するフォーマルな場だと伝えてある。 いざ会場に着くと、そこには数百人規模のファン――実際は、ほとんどが美嘉のファンでしょうけれど――が大歓声で待ち受けるのだ。 初舞台で味わう独特の緊張感は、私も経験している。 ステージの規模が想定と異なれば、それは何倍にもなるだろう。 常にリラックスした姿勢を崩さないあの二人が、その窮地に立たされた時どうなるか――。 「ま、なんだかんだ上手いことやっちゃいそうな気もするけどね」 と周子。 「さすがにビビっちゃうんじゃないかなー。失敗してもフォローしてあげなくちゃね★」 美嘉は相変わらず優しいのね。 私は、そう――底意地の悪い言い方だけれど、痛い目を見てほしいと思っている。 95:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/16(土) 13:54:05.20 :sXivYPE/0 「またそういうの、するのか?」 さすがに、プロデューサーにまで内緒にしておく訳にはいかない。 想定している“ジョーク”の内容を話すと、彼は頭をクシャクシャと掻いた。 「まぁ、それで上手くいけば良いけど、もし失敗したら俺が怒られるしなぁ。 この間のだって、結構俺、ヒヤヒヤもんだったんだぞ」 ハハハ、と困ったように笑う。 「アイドルのフォローをするのがプロデューサー、でしょう?」 進んで困らせる事をしようとしているのに、こんな事を言ったら怒られるかしら。 まぁ、この人にも少しくらい、ムキになってもらわないとね。 「だよなぁ」 ――この人は、どこまでも主体性が無い人なのね。 96:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/16(土) 13:56:16.76 :sXivYPE/0 メンバーが増えたため、当日会場へは前回より大きめの車に乗る事になった。 「うーん、美嘉ちゃん今日は少し気合い入ってるカンジかにゃー?」 三人掛けの後部座席で、真ん中に座った美嘉のうなじに、隣の志希が顔を埋めている。 「ちょ、ちょっと! あんまり顔近づけないでよ、メイク崩れちゃうじゃん」 さすがに美嘉も抵抗するが、志希は案の定応じる様子も無い。 「ンー? シキちゃん何してるの? アタシのケータイ探してくれてるカンジ?」 美嘉を挟んで志希と反対側に座るフレデリカが、自分のバッグを漁る手を止め、楽しげに首を突っ込む。 「携帯、って――フレちゃん、また携帯無くしたの?」 「にゃっはっはーそうなのだよフレちゃん。案外美嘉ちゃんの服の中に紛れてるかもねー♪」 「えっホント? やったーミカちゃん大事に懐で暖めてくれたんだねー、秀光だねー☆」 「ちょ、それを言うなら秀吉――こ、こらぁ!」 「あれ、家光だっけ?」 「秀吉っ!!」 「出光?」 「うーんハスハス、緊張しないで~リラーックス、どんとびーあふれーいど」 「まったく」 事務所を出る前に拾ったフレデリカの携帯を彼女に渡すよう、私は周子に指で促す。 「まーまー、もう少し見守ってあげようではないか」 周子はその携帯を手元でクルクル回しながら、ニヤニヤと後部座席を見やる。 美嘉は災難ね。でも、二時間後には立場が変わっているでしょう。 97:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/16(土) 13:58:05.68 :sXivYPE/0 会場となるCDショップに着くと、駐車場から私達はスタッフ専用の通路を通り、控室に案内された。 控室と言っても、テレビ局や劇場等にある楽屋のようなものではなく、お店の備品が雑多に保管された横に白机とパイプ椅子が並べられた簡素なもの。 普段はスタッフの休憩室兼倉庫となっている部屋のようだった。 「へぇー、結構扱い軽いんだねー美嘉ちゃんもいるのに」 興味深げに備品をゴソゴソと漁り出した志希を、プロデューサーがやんわりと制止する。 「まぁ、こんなもんだよ。アタシ達がどうっていうより、会場の大きさとかにもよるしさ」 パイプ椅子に腰を下ろし、美嘉は自前の化粧道具でさっそくメイク直しを始める。 さすがに慣れたものね。 「それに、今日は業界の人しかいないらしいし」 「――んふふ、そうねー」 美嘉のさりげない呟きに、周子がニヤリと笑った。 「あまりお客さん多いと、シューコちゃん緊張して声出んくなるからなー♪」 「良かったぁ、フレちゃんもっとカメラマンさんとかいっぱい来てたらどうしよーって思ってたんだー」 98:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/16(土) 14:00:24.72 :sXivYPE/0 「いや、カメラは何台か来てるよ。一応、新曲の販促イベントだからね」 プロデューサーが訂正する。まぁ、あえて言わなくても良かったと思うけど。 「どう転ぶか知らんが、責任は俺が取る。適当にな」 「ちょっとプロデューサー、始まる前から後ろ向きな事言わないでよね★」 美嘉が座りながらプロデューサーを肘で小突く。 悪い、と小さく謝ると、彼は扉を開けた。 「ちょっとスタッフさん達と話をしてくるから、その間に着替えを済ませておいてくれ」 「――ひょっとして、アイドルとプロデューサーって、そんなに関わりって無い?」 扉が閉まった後、志希が私達に問いかける。 そういえば、彼女の興味はプロデューサーにあると言っていたわね。 「いや、あの人がただ距離を置いてるだけだと思うなぁ。アタシは前の人と結構色々喋ってたし」 バックを空け、着替えの準備を始める美嘉。 「ほうほう、色々ってどんな話?」 周子の無邪気な追及に、美嘉は余計な事を言ったと、大きくため息を吐いた。 99:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/16(土) 14:01:30.88 :sXivYPE/0 会場の袖に向かうと、既に喧騒が聞こえてくる。 どうやら、私達の想定以上に観客が来ているらしい。 「ンンー? 何だか賑やかだねー」 不思議そうに首を傾げるフレデリカ。 志希も異変に気づき始めたようだ。 「ふ~む――なるほど、想定外の事態が発生した模様かにゃ?」 「シキちゃん、それ、想定できてない?」 「にゃははっ! ホントだねーフレちゃん、想定外が起きてるのを想定しちゃったら想定外じゃないよね」 「でも想定外の内容が想定できてないからセーフ?」 「どっちかっていうとアウト? まっ、アタシ達が結論づける話じゃないってコトでいい、奏ちゃん?」 「えっ――そ、そうね」 どれだけの人が待ち受けているのか。練習通りに踊れるのか。 自分の事で私は精一杯なのに、なぜこの二人はこんなにもリラックスしているの? 100:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/16(土) 14:03:05.48 :sXivYPE/0 「にゃっはっは♪ あれれーひょっとして奏ちゃん緊張してるー?」 ツンツンと、私の頬を指でつつく志希。 「どーやらすっごい人が集まってるみたいだけど、気楽に行こうよ。びーゆぁせるふ、けせらせら♪」 「けせらせら、って何?」 「あれ、美嘉ちゃん知らない? なるようになるさ、って意味~♪」 「レットイットビー的な?」 「フフンフーン フフフーン♪」 場数を踏んでいる美嘉はともかく、周子も、志希もフレデリカも、本番を目前にしてこの有様。 私だけ、遅れを取る訳にはいかないわ――! プロデューサーに促され、いよいよ私達は袖から舞台に進み出る。 大丈夫、今日のお客さんはほとんど美嘉のファン――と思っていた。 う、わ――わ、私の団扇を持っている人達がチラホラ――いや、何人も!? 読む →
2017年12月10日 01:00 ルパン三世 Gifted Cinderella 魔法のトワレ 元スレ 全てのレス 1:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/12/06(水) 22:33:09.77 :L++U7Ja8o 新宿 アルタ前 次元「――おい、ルパン」 ルパン「いよ~う次元! ひっさしぶりだなぁ!」 次元「そう思ってるのはお前さんだけだがね」 ルパン「おや? そうだったっけか?」 次元「お前に呼ばれた時は大抵ロクな目に合わないから印象が強いのさ」 ルパン「がく! そりゃないぜジゲ~ン!」 次元「それで? 一体何の用だってんだ」 ルパン「決まってるだろ? 仕事だよ、し~ご~と」 次元「仕事ねぇ……」 ルパン「そ~んなに嫌そうな顔すんなってぇ!」 ルパン「ほら、あの画面の子達みたく、ニ~ッコリ笑っていこうぜ~?」 読む →
2017年12月08日 11:00 一ノ瀬志希「キミが死んだら、その死体はあたしが欲しいな」 元スレ 全てのレス 1: ◆G4Z1KppkgXoT:2017/11/09(木) 23:39:24.53 :6z2e4cgVO 【23】 志希(あたしがキミにそうプロポーズしてから、今日で3年…) レポーター『たった今判決が出ました!無期、無期懲役です!』 レポーター『内縁の夫を殺害した元アイドル妻・一ノ瀬志希被告に、無期懲役の判決が下されました!』 志希「…………」 読む →
2017年12月07日 12:00 志希「風邪を引いた日」 元スレ 全てのレス 1: ◆hAKnaa5i0.:2017/12/07(木) 10:59:59.29 :dJbpojHw0 (志希宅) 志希「くちゅんっ!!」 志希「…」ズビッ 志希「…風邪引いちゃったなー」 志希「頭ボーっとするし…喉痛いし…寒いし…鼻がツンツンするし…」ボ-ッ 志希「...」 志希「(風邪なんていつ以来だろ…この感覚嫌だなー…)」 読む →
2017年12月04日 15:00 【モバマス】嵐の夜と方眼紙 元スレ 全てのレス 2: ◆cgcCmk1QIM:2017/12/02(土) 23:55:27.26 :HqM2UezF0 ●某所/とあるレストラン 志希「あれー、ほたるちゃんじゃん?」 ほたる「え、あっ、一ノ瀬さん!?」 志希「奇遇だねー。ほたるちゃんもこの店でお昼?」 ほたる「一ノ瀬さん、あの」 志希「あたしはこの『鰹御膳』ってのが気になって―――ん、どしたの?」 ほたる「一ノ瀬さん、どうして高知県に…!?」 志希「えー。ほたるちゃんこそどうして高知県に?」 ほたる「私は、お仕事でPさんとご一緒に…」 志希「あたしはそうねー。なんとなく?」 ほたる「なんとなく、って…一ノ瀬さんが時々失踪するって本当だったんですね…!」 志希「本当だよー?でもまあなんとなくで来ちゃったから、この鰹御膳食べたら素寒貧です」 読む →
2017年12月01日 23:10 飛鳥「どうしたものか……」志希「悩み事かね子猫ちゃん?」 元スレ 全てのレス 1: ◆R4LxbbyKhE:2017/12/01(金) 22:26:02.81 :7lb7K8zv0 【モバマス・デレステSS】です ――――12月1日、プロダクション、事務室 飛鳥「いきなり現れて誰が子猫だ天才娘。そもそも、猫キャラはキミのほうだろう」 志希「にゃーん♪ にゃはは、そんなに呆れた……あー、ちょっと怒った顔しない。ステイステイ!」 飛鳥「まったく……ところでこんなところにいて良いのかい。仕事は」 志希「抜け出してきた♪」 飛鳥「……ちょっと待っていろ、すぐプロデューサーに電話して」 志希「ちょ、冗談冗談! 今日はちゃんとお仕事終わらせて来たから~! 連絡するのはナシナシ!」 飛鳥「それじゃあなにか、暇潰しでもするために、ここに顔を見せに来たのか」 志希「そーそー。なにか面白そうなこと起きてないかなーって見回ってたら、妙に深刻そうな顔した飛鳥ちゃんを見つけたってとこ!」 飛鳥「そうか。面白いことなら今丁度アニバーサリーのイベントをやっている。そっちに行くと良い。じゃあな」 志希「飛鳥ちゃんつめたーい。で、ほんとのとこは何見てたのか見せてよ。というか見ちゃおう! そーれ!」シュッ 飛鳥「あっ、こら勝手に!」 2: ◆R4LxbbyKhE:2017/12/01(金) 22:27:23.22 :7lb7K8zv0 ※二宮飛鳥 ※一ノ瀬志希 読む →
2017年11月27日 12:00 P「付き合って2か月目くらいのlipps」 元スレ 全てのレス 1:znAUHOH90:2017/11/27(月) 02:08:30.99 :Dj29JER10 付き合いはじめて2か月くらい……というシチュ妄想です。短いですがよろしければ、どうぞ。 2:znAUHOH90:2017/11/27(月) 02:09:22.61 :Dj29JER10 フレデリカ「愛は〜ど〜こからやってくるのでしょう〜」 フレデリカ「自分の〜む〜ね〜に〜フンフフンフンフーン♪」 P「一番良いところ歌わねえのかよ」 フレデリカ「フレちゃんアレンジだよ?」 P「飽きただけやん」 フレデリカ「飽きっぽい飽きっぽいあなたのせーいかくーとー♪」 P「連想ゲームか!」 P(このどうしようもない天使には、平成昭和の狭間生まれPホイホイする曲を自動再生する機能でもついてるんだろうか。) P(……フレデリカと付き合いはじめてから2ヶ月くらい) P(職業倫理とか年の差とかお互いを取り巻く色んな人間関係とか、あらゆる色んなものを振り切って、君が好きだと叫んだあの日) P(俺が一生で一番の勇気を吐き出した瞬間の、フレデリカの太陽のような笑顔と) P(その吸い込まれそうなほど大きな瞳からこぼれ落ちた雫の美しさと) P(「おっかしーなー、すっごく嬉しいのに泣けちゃった? 天気雨? 狐の嫁入り? シューコちゃん? ワオ!」なんて言っていた君を抱き締めた時の幸せな気持ちは。) P(きっと一生忘れる事はないだろう) P(それで、晴れて彼女とREADY STEADY GOな仲になれた訳だが……それにともない嬉しい悲鳴というか、悩みも生まれた。まあ贅沢すぎる悩みかもしれないが……) フレデリカ「どしたのーダーリン? ドーナツ枯渇した法子ちゃんみたいな顔してるよー♪」ぎゅっ P「ふおっ!」 P(これえっ! 近い!近いのこの子!) 読む →
2017年11月25日 21:20 モバP「LiPPS再建計画?」 元スレ 全てのレス 2: ◆5KM6wAIMXVHW:2017/11/25(土) 14:52:19.21 :/qQ60XGi0 俺はしがない中堅プロデューサー。事務所のアイドルを何人か担当している。 そんな俺が美城常務に呼び出された。・・・何かやらかしただろうか? 緊張しながらも常務の部屋の前までやってきた。 コンコン 常務「入りたまえ。」 モバP「はい、失礼します。」 常務「今回君を呼んだのは、君に任せたい仕事があるからだ。」 モバP「はい。仕事・・・というと。」 常務「担当してもらいたいユニットがあるのだ。 LiPPSの担当をしてもらいたい、ユニットは知っているな?」 モバP「し、知ってるも何も!ウチの事務所でトップクラスの人気ユニットじゃないですか! ・・・失礼ですが、いまさら自分などが担当する意味はあまり・・・」 常務「それが大有りなのだよ。確かに彼女達は一時期はウチの事務所の顔とも言える存在にまで なったが・・・今は、活動休止寸前まで追い込まれている。」 モバP「活動休止ですか!?確かに、最近テレビで見ることが減っていましたが・・・」 常務「どうやらこのユニット、今は問題を抱えているらしい。 しかもメンバーがその問題を我々に隠しているようなのだ。おかげでこちらも困っている。」 モバP「つまり自分がLiPPSの担当になるのは・・・」 常務「そう。彼女たちが抱えている問題を解決し、LiPPSを立て直してほしい。 君ならばそれが出来ると期待している。よろしく頼む。」 モバP「・・・わかりました。とりあえず、本人たちと話をしてみます。」 常務「うむ。今別の部屋にLiPPSの4人を集めている。このまま向かってくれ。」 モバP「はい。」 モバP「・・・ん?」 モバP「『4人』・・・?」 読む →
2017年11月15日 22:40 凛「安価でプロデューサーの検索履歴を見てみる」 元スレ 全てのレス 2: ◆FFa.GfzI16:2017/11/15(水) 20:19:05.74 :akXR45NSO モバP(以後P表記)「...」カタカタ 凛「おはようプロデューサー」 幸子「おはようございます!プロデューサーさん」 P「ああ、おはよう2人とも」 凛「また、そんなに仕事詰めて...体は大丈夫?」 P「ちひろさんがスタドリを売って...いや、くれるから何とかなってるよ」 凛「へぇ...ちひろさんには後でたっぷり聞いておきたいことが」 ちひろ「な、何のことでしょうかねぇ」目逸らし P「あはは あ、ちひろさんちょっと席外しますね」 ちひろ「はーい」 読む →
2017年10月31日 18:30 城ヶ崎美嘉「本番開始前、駄弁り場」 元スレ 全てのレス 1: ◆Xz5sQ/W/66:2017/10/31(火) 15:15:17.22 :Rmn8FgqLo === P「それでは皆さん。本日のステージもどうぞよろしくお願いします」 美嘉「任せといてよプロデューサー。ドーンと大船に乗った気でいなってば!」 P「ありがとうございます。城ヶ崎さんはいつも頼もしく……助かりますね」 P「出番が近づけば呼びに来ますので、自分はこれからスタッフとの打ち合わせに――」 美嘉「うん、行ってらっしゃい! そっちも頑張ってね」 P「では、後ほど」 美嘉「じゃーね★」 ガチャ、バタン。スタスタスタ……。 美嘉「……さてと!」 美嘉「それじゃあみんな、今日のライブもプロデューサーの期待に応えられるよう頑張ろう!!」 奏「うふ」 志希「にゃは♪」 周子「はっは~ん?」 フレデリカ「トレビアーン?」 美嘉「――って、み、みんなして何なのその顔はさ」 読む →
2017年10月29日 23:35 志希「ねーねーこれ飲んでー」モバP「んぐっ?!」 元スレ 全てのレス 2: ◆ukgSfceGys:2017/10/29(日) 22:39:54.69 :llxBPK6l0 モバP(以下P)「ゴホッ……いきなり何飲ますんだよ、むせちまったじゃねーか」 志希「これはね~頭を撫でたくなるおクスリだよ~」 P「これが?」 志希「うん、即効性があるからそろそろ効いてくると思うよ」 P「この液体にそんな効果が?」 志希「そろそろ撫でたくなってきた~?」 P「えっ?いや……特にそんなことはないな」 志希「そろそろ撫でたくなってきた~?」 P「だってこれ、無味無臭だっt…」 志希「そろそろ撫でたくなってきた~?」 P「というかこれ、ただのみz…」 志希「そろそろ撫でたくなってきた~?」 P「……」 志希「そろそろ撫でたくなってきた~?」 P「……」 志希「……そろそろ……撫でたくなってきた……?」 P「……」 志希「……」 読む →
2017年10月25日 02:55 【モバマス】モバP「志希をハスハスする」 元スレ 全てのレス 1: ◆30lx83ehPU:2017/10/25(水) 00:02:16.88 :r/73a5DoO 事務所 モバP「………」スンスン 志希「…何やってるのかな?」 モバP「ソファに座ってる志希を後ろから抱きしめてる」 志希「事務所で雑誌読んでたらいきなりだもん、志希ちゃんびっくりー!にゃは♪」 モバP「…………」スンスン 志希「…で、なんで匂い嗅いでるの?」 モバP「良い匂いしそうだったらから、つい」 志希「…そっか」 モバP「引いてるところ悪いけどいつもお前がやってることだぞ」 志希「…………」 モバP「…………」スンスン 読む →
2017年10月20日 13:00 【モバマス】ヒュプノスと金木犀【P・志希】 元スレ 全てのレス 2: ◆HN95RCKor6:2017/10/15(日) 02:53:57.29 :5PtljOq40 志希が数日事務所に姿を表さなくなるのはよくあることだ。 それは軽く失踪しているのだったり、香水作りで篭っているのだったりする。 せめて連絡はしてほしいと常々言ってはいるが、どこ吹く風だ。 結局、アイドル生活に致命的なことはしないだろうという信頼(あるいは願望)のもとに黙認している。 とはいっても、こちらからの連絡に何の返事もよこさない状態が3日も続いたら、こうやって志希の元へ向かうことにしている。 読む →
2017年10月16日 22:45 志希・フレ・かな子「とんでいっちゃいたいの」 元スレ 全てのレス 1:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2017/10/16(月) 21:36:04.36 :jMCLLm200 志希・フレ「「と・と・と・とんでいっちゃいたいの~君のところに~♪ 波打ち際飛び跳ねな~がら~♪」」 P「あ~お前ら、ご機嫌な所悪いが、まだ海まで二時間はかかるからな、そんなテンションだと、海だと持たないぞ」 フレ「え~プロデューサー、もっと飛ばしてよ~。光の速さで行けば10時間くらいで付くでしょ~。あ、逆に遅くなっちゃった☆」 志希「お~すご~いフレちゃん。相対性理論の逆バージョンだ~。命名してフレデリカ理論。フレちゃんてんさ~い♪」 フレ「いやいや~志希ちゃんほどでも~」 志希・フレ「わっはっは☆」 P「あ~君たち……人の話をだね……」 かな子「ごめんなさいプロデューサーさん。二人とも、海に行けるってなってからテンションがおかしくて……」 P[別にかな子が謝ることじゃないさ。まぁ志希フレの二人がまともな事言ってる方が逆にちょっと心配になるしな……でもあんまりはしゃぎすぎるようなら、かな子がストッパーになってくれよ?」 かな子「はい。がんばります。でも、プロデューサー。海の家を利用するんですよね? 楽しみです。はやく焼きそばやかき氷を食べたいです♪」 P(海に行くってのに、初っ端の話題が食べ物か……だめだこいつ、速くなんとかしないと……いや、かな子もちょっとは痩せたけどな……) P(そう思いながら、未だにワチャワチャ騒いでる志希フレと、何を食べようかと嬉しそうに思案しているかな子を見て俺は、元気だねえと呟いた) 読む →
2017年10月03日 17:45 志希「充電期間! 『ヒザマクラシテモラーウ(膝枕をしてもらう)』だよ♪」 関連SS 一ノ瀬志希 不思議な薬 シリーズ:目次 元スレ 全てのレス 1: ◆hAKnaa5i0.:2017/10/03(火) 12:42:58.23 :RatH5JINO 【事務所・ソファ】 P「……」(仕事中) カタカタカタカタ…… カタカタ……カチカチッ…… 志希「……」 フラフラ…… トコトコ…… 志希「ぱたーり」 ぽすっ P「……」 志希「……」 読む →
2017年10月03日 00:45 【デレマス】タクシー運転手「お客さんはアイドルとプロデューサー その2」 関連SS 【デレマス】タクシー運転手「お客さんはアイドルとプロデューサー」 【デレマス】タクシー運転手「お客さんはアイドルとプロデューサー その2」 【デレマス】タクシー運転手「お客さんはアイドルとプロデューサー その3」 元スレ 全てのレス 2: ◆RSTRDcqbEQ:2017/10/01(日) 20:40:53.79 :Q6x1myAE0 昨日までの雨が嘘みたいに晴れわたった空 気温もちょうど良くお出かけ日和な土曜日 俺は朝番で朝から仕事をしていた 本日最初のお客さんは男女の一組だ 「速水、今日はまずドラマの撮影、そのあとLiPPSとして雑誌の取材を受けてもらうぞ」「ええ、わかったわ」 読む →
2017年09月29日 07:10 一ノ瀬志希「全て私が好きにする」 元スレ 全てのレス 2: ◆U.8lOt6xMsuG:2017/09/25(月) 00:59:08.22 :KWEhQLlx0 「プロデューサー!はぁい、いつもの志希ちゃん謹製コーヒーだよ~♪」 彼女が研究用に使っている部屋で、彼女のソファに座り、彼女の差し出したコーヒーカップを受け取る。カップの中は黒色の液体に満たされていて、それからほのかに立つ湯気に混じった香りが少しだけ心を落ち着かせた。 「ああ、ありがとう」 礼を言いながら、俺はその液体を口に含み転がす。明らかにカフェインとは違った苦みを感じたが、この場違いな苦みにはもう慣れきっている。特段気にすること無く、残りも飲み干した。 志希は自らが差し出した「もの」を、俺が飲む様を満足そうに、鼻息混じりに頬杖ついて眺めている。飲み干したカップをテーブルに置くと、俺に抱きついて頭を撫でてきた。 「んふふ~♪毎度の事ながらいい飲みっぷりだね~♪」 頭を撫でながら俺の首筋の体臭を嗅ぐ志希。流石に気恥ずかしいが、無理にどかすこともないし、この暖かく柔らかい感触を自分で拒否する程愚かでも無い。 志希の体の後ろまで腕を回して、抱き締めた。こうすると、志希は「ん~♪」と言い、身をよじらせて喜ぶ。その反応が可愛らしくて、更に強く抱き締めてしま移送になるが、力を込めすぎると嫌がられるので、このままの力加減を保つ。 しばらく志希に臭いを嗅がせ(彼女曰くハスハス)ていると、段々と頭が重くなって、体が倦怠感に支配される。抱き締めたいという思いとは裏腹に、腕はだらんとして志希の体から離れてしまう。 しかし、志希は抱き付いていた腕を離した俺に不満を示すどころか、むしろ満足そうに笑みを浮かべ俺に向き合う。 「効いてきた?」 「……あ、あぁ……」 「にゃふふ♪そう♪」 志希の投げかけた疑問に、全くもってちゃんとしていない返答をする。志希はその返答になっていない返答を聞くと、口角を上げ、一度ぎゅーっと強く体に抱きつき、 「じゃ、行こっか♪」 とだけ俺に告げる。志希はソファーから立ち上がり、俺の体を支えながら、奥の薄暗い寝室にあるベッドまで、慣れた手つきで運んだ。 読む →
2017年09月24日 13:05 フレデリカ「ありすちゃーん!」ありす「なんですかフレデリカお姉ちゃん」 元スレ 全てのレス 1: ◆R4LxbbyKhE:2017/09/24(日) 08:24:56.23 :/LO9fMVM0 【モバマスSS】です ――――プロダクション、事務室 フレデリカ「いやー用ってほど、じゃ…………え?」 ありす「だったらくっつかないで下さい。タブレットが見づらいです」 フレデリカ「え、や、その……ありすちゃん?」ユサユサ ありす「揺らさないで下さい。もう、なんですかフレデリカお姉ちゃん」 フレデリカ「え、えと……あ……う……」カァァ/// ありす「……どうしていきなり照れているんですか」 フレデリカ「だ、だってそんな、ありすちゃんが不意打ちでそんな……フレちゃん困っちゃう……///」 ありす「いつにもまして意味が分からないんですが……大丈夫ですかフレデリカお姉ちゃん」クビカシゲ フレデリカ「はうっ! ありすちゃんの愛情ひょーげんが強すぎて耐えれないカモ……///」 ありす「だから、意味が」 2: ◆R4LxbbyKhE:2017/09/24(日) 08:25:38.03 :/LO9fMVM0 ※宮本フレデリカ ※橘ありす 読む →
2017年09月21日 13:00 志希「出来たよ!時限爆弾!」飛鳥「!?」 元スレ 全てのレス 1: ◆9CUtNS6CZQ:2017/09/21(木) 07:26:32.18 :fvLjQzWV0 某日・志希ラボ前 飛鳥「・・・!?」バッ 飛鳥(・・・)スッ・・・ フレデリカ『さっすがシキちゃん!やることでっかーい!エッフェル塔くらいかなー?』 志希『ノンノンフレちゃん、マカオタワーくらいかも?』 フレデリカ『な、なんと!・・・って、見たことないからどっちにしろわかんないや』 志希『シキちゃんも行ったことありませ~ん♪』 飛鳥「・・・」 飛鳥(すごいことを聴いてしまったぞ・・・) 読む →